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2015年3月6日金曜日

乳児の父親の家事・育児実施度

 暇をみては官庁統計をサーチして回っているのですが,厚労省が「21世紀出生児縦断調査」を実施しているようです。今世紀の初頭に生まれた子どもを追跡する調査であり,2001年と2010年の出生児とその父母が調査対象となっています。

 公表されている統計表をみると,父母の子育て観,悩み,子どもの学校での様子,習い事の有無など,いろいろ尋ねています。しかもその結果が,父母の学歴別,収入別,都道府県別に集計されているのもうれしい。貴重な調査資料です。

 やりたいことがわんさと出てきますが,私は2010年出生児調査のデータを使って,0歳児の父親の家事・育児実施度を都道府県別に明らかにしてみました。2010年5月に生まれた子どもの父親を対象に,同年12月に実施された調査の結果です。よって,生後7か月の乳児のパパということになります。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/27-22.html

 全面的な世話を要する乳児がいる家庭において,父親はどれほど家事・育児をしているか。まあ,この手のデータは白書とかでも目にしますが,ここでの主眼は都道府県比較です。複数の行動の実施率を合成した指数を県別に出し,ランキングにしてみようと思います。

 上記の厚労省調査では12の行動を提示し,それぞれの実施頻度を尋ねています。選択肢は,「いつもする」「時々する」「ほとんどしない」「全くしない」の4つです。私は,前二者の回答割合に注目しました。下の表は,全国値と47都道府県の両端の値を整理したものです。比率の計算にあたっては,無回答(不詳)は分母からのぞいていることを申し添えます。*元データの表は,下記サイトの表50です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001109922


 メジャーな家事・育児行動ですが,「入浴させる」や「家の中で相手をする」は実施率が高いですね。その一方,食事作りや洗濯などは,実施率は3割未満と低くなっています。

 しかるに,県別にみると値はかなり違っており,両端の県で倍以上の差がある項目も見受けられます(食後の後片付け,洗濯など)。ちなみに最上位は沖縄,最下位は佐賀が多くなっています。

 さて,12の行動の実施率を合成して,各県のパパの家事・育児実施度を測る単一の尺度をつくるのですが,それぞれは値の水準が異なるので,単純に足したり均したりすることはできません。そこで,47都道府県中の相対順位に基づいて,各行動の実施率を10段階のスコアにします。

 1~5位を10点,6~10位を9点,11~15位を8点,16~20位を7点,21~25位を6点,26~30位を5点,31~35位を4点,36~40位を3点,41~45位を2点,46~47位を1点としましょう。

 私はこの基準に依拠して,各県の12の行動実施率を相対スコアにしました。東京と郷里の鹿児島のスコアをチャート図にすると,下図のようです。


 全体的にみて,東京のほうが図形が大きくなっています。食事作りや食後の片づけは,差が大きいなあ。そういえば,郷里の中学校の家庭科教師が,「男子は厨房に立つべからず」なんて,堂々と生徒の前で言い放っていたっけ。しかし,寝かすや相手をするなどのスキンシップ系は,鹿児島のほうが高いようです。

 上図の12のスコアを平均すると,東京が7.83,鹿児島が6.17となります。軍配は東京にあり。この指標を家事・育児実施度指数とし,これでもって,各県のパパの頑張り度を可視化することにいたしましょう。下表は,この指数をランキングにしたものです。


 トップは沖縄の8.917です。あくまで自己評定による結果ですが,赤ちゃんのパパの家事・育児実施度全国1位。在日アメリカ人が多い県でもありますが,こういう文化の影響もあるのでしょうか。2位は秋田,3位は山梨,そして4・5位は首都圏の神奈川と東京です。

 スコアが7.0を超えるのは,宮崎を除いてすべて東日本の県です。反対に,スコアが低いのは多くが西日本の県。「東高西低」という構造がありそうです。この点を確認するため,上表の指数をマップにしてみましょう。4つの階級を設けて,グラデーションで塗り分けてみました。


 確かに,大よそ東高西低になっています。近畿圏は色が薄くなっていますが,前に日経デュアル誌の記事でみたところによると,この地方では児童虐待の発生率が高い傾向にありました。「家事をしない夫→妻のイライラ→虐待」というような因果経路が存在しないかどうか・・・。ちと不安に感じます。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=2612

 「21世紀出生児縦断調査」は,字のごとく子どもの成長過程を追跡していく調査です。今回は第1回の0歳児調査のデータを使いましたが,これから詳細結果が公表される第2回(1歳),第3回(2歳),第4回(3歳)・・・のデータでは,どういう図柄になるでしょう。この点も,重要な観測ポイントです。

 「21世紀出生児縦断調査」のサイトを,お気に入りバーに入れました。2001年出生児調査の場合,第12回調査までのデータが公開されており,0歳から12歳までの変化の過程を詳細にたどることができます。保護者の育児観,子どもの学校の様子,習い事,はてはその階層差の変化などを仔細に明らかにできます。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/27-9.html

 この調査データの分析結果も,随時報告していこうと思っております。