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2016年9月22日木曜日

学部別の浪人生率の分布

 今年の初頭に書いた「大学受験の50年史」という記事が,昨日からよく読まれています。大学の入学者と入学志願者のデータから,各時期の受験競争の度合いを可視化したグラフがウケているようです。「自分の頃はこんなだったんだ」という思いを抱かれていることでしょう。

 今回は,このネタの延長のお話をしようと思います。

 上記記事のグラフから分かるように,以前に比して,大学受験競争はかなり緩和されています。試験の不合格率はピークの1990年では44.5%と半分近くでしたが,直近の2015年ではたったの6.7%です。あと数年もすれば,入学者と志願者の数がほぼ一致する,実態としての「大学全入時代」が到来するかもしれません。

 18歳人口は減っていますが,進学率の高まりにより,入学者の絶対数は増えています。1990年では49万人ほどでしたが,2014年では59万人です。

 変わったのは,入学者の絶対数だけではありません。この内訳(現役・浪人割合)も大きく変わっている。下図は,1990年と2014年の入学者の組成図です。各カテゴリーの入学者数を,正方形の面積で表現しています。2015年以降の『学校基本調査』では,大学入学者の現役・浪人割合を集計していませんので,最近の状況は2014年の断面でみています。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528


 先ほど書いたように,この四半世紀で大学入学者は49万人から59万人に増えていますので,トータルの正方形は大きくなっています。

 しかし,その組成が変わっている。色付きは浪人経由者(1浪,2浪,多浪=3浪以上)ですが,正方形の面積で示される絶対量も,入学者全体に占める相対量も減っています。1990年では浪人生の割合は35.9%でしたが,2014年では14.0%です。今後,色付きの領分はますます小さくなるでしょう。

 浪人生の比重も,大学受験の変容を可視化する際の注目ポイントになります。その減少は,競争が緩和されていることの表現に他なりません。

 しかるに,大学入学者は一枚岩の存在にあらず。いろいろな学部がありますし,設置主体(国立,公立,私立)の違いもあるでしょう。ちょっと思いを馳せれば分かりますが,現在でも,競争が激しい学部はあります。たとえば,安い費用で医者になれる国立の医学部などは,今でも激戦であると思われます。

 最近の入学者の組成を,細かい学部別にみてみましょう。私は,2014年春の入学者の浪人経由者比率(以下,浪人生率)を,569学部について明らかにしてみました。この年の春に入学者がいた学部です。

 なお同じ学部でも,設置主体によって難易度は異なりますので,国立・公立・私立は別個に計算しました。上記の569学部の中には,文学部でしたら,国・公・私立の文学部が別個に含まれています。

 下に掲げるのは,569学部の入学性の浪人生率の分布です。5%刻みのヒストグラムにしてみました。


 広く分布していますねえ。569学部の平均値は12.2%ですが,浪人生比率が6割や7割を超える難関学部もあります。マックスは75.1%です。

 しかしこうした学部は数の上ではごく少数で,569学部のうち309学部(54.3%)が,浪人生率1割未満となっています。裏返すと,現役率9割超の「楽勝」学部ということになりましょうか。色分けをみると,その多くが私立なり。それに比して国立は難関のようで,上のほうに多く分布しています。

 分布の素性を知っていただいたところで,浪人生率が高い難関学部と,その逆の楽勝学部の顔ぶれをご覧に入れましょう。まずは前者です。浪人生率が3割を超える,41の学部です。


 浪人生率が75%(4分の3)にもなる最難関学部は,国立の美術学部です。具体的にいうと東京芸大ですが,ここの入試の難しさはよく知られていること。東大以上でしょう。

 その次は私立の医学部で,ほか歯学部など,上位には医療系の学部が食い込んでいます。入学生の半分以上が浪人経由者です。国立の医学部が意外に低いのは,医学科とは別の看護学科などの比重が高いためかもしれません。

 以上は,大学受験競争が緩くなっている今でも,熾烈な競争を極めている学部です。しかるに上記のヒストグラムで分かるように,この手の学部は数の上では少数派。昨今のマジョリティは,ゆるゆるのフリーパス状態の学部です。

 その顔ぶれを見ていただきましょう。以下に掲げるのは,入学者の浪人生率が1%未満の学部,つまりほぼ全てが現役生という学部です(その数,29学部)。


 見事に全部私立で,今流行りの「2文字組み合わせ」の学部名が並んでいます。青字は,入学者の全員が現役生という学部です。

 いずれも,定員割れが著しい,偏差値の低い私大と思われます。入試はほぼフリーパス。面接で志願者が合意すれば合格という「アグリーメント入試」,あれどの学部でやってるんでしたっけ・・・。

 大学入試競争は緩和されてきていますが,全体から下って,細かい部分(学部)ごとにみると,多様な様相がみえてくる。今回お見せした,学部別の浪人生率の分布は,その「見える化」です。全体だけをみて,事を語るなかれ。

 公的統計資料による,最近の大学入試状況の解剖作業でした。