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2017年2月8日水曜日

都内23区の生活保護世帯率

 小田原市の「生活保護なめんな」ジャンパーが話題になっていますが,生活保護を受給する世帯は増えてきています。東京の台東区では,区の年間予算の4分の1を,生活保護費が占めるとのこと。
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20170206-00050895-gendaibiz-bus_all

 現在では,生活保護世帯の割合はどれくらいなんでしょう。2015年年度の厚労省『被保護者調査』によると,同年7月時点の被保護世帯は160万2,551世帯。同年10月の一般世帯は,5,333万1797世帯(『国勢調査』)。よって生活保護世帯の率は,前者を後者で除してちょうど3.0%となります(33世帯に1世帯)。

 全国の数値はこうですが,値は地域によって違っています。都道府県別の生活保護世帯率は前に何度か出したことがありますが,それよりも下った市区町村レベルの地域差は,まだ明らかにしていませんでした。

 今回は,東京都内23区の生活保護世帯率を計算してみようと思います。大都市という基底的特性を同じくしながらも,値は区によって違うと思われます。この作業は,大都市内部における貧困の地域分布を明らかにすることと同義です。

 東京都の『福祉・衛生統計年報』によると,2015年度の足立区の生活保護世帯数は1万8,864世帯となっています。年度内の月平均です。2015年の『国勢調査』から分かる,同年10月時点の一般世帯数は31万434世帯。よって,この区の生活保護世帯率は6.08%と算出されます。

 全国値(3.0%)の倍以上ですね。同じやり方で23区の生活保護世帯率を計算し,一覧表にしました。過去からの変化もみるため,1990年の数値も添えています。


 どの区も,25年前に比して増えていますね。90年代以降における,社会状況の悪化の影響がはっきりと出ています。

 2015年のデータをみると,最低の1.18%から最高の7.45%までのレインヂがあります。台東区では,13世帯に1世帯が生活保護世帯であると。区の予算の4分の1が,生活保護費で占められるというのも頷けます。

 上表のデータを地図にしましょう。3%未満,3%台,4%台,5%以上,という4つの階級幅を設け,23区を塗り分けたマップにすると,下図のようになります。


 マップにすると,インパクトがありますねえ。全体的に色が濃くなっています。「失われた25年」の可視化に他なりません。

 濃いゾーンが地理的に固まっていることにも注目。以前に比して,貧困が特定のエリアに凝縮(集中)する傾向が強まっているともとれます。2015年の生活保護世帯率が5%を超えるのは,台東区,墨田区,荒川区,足立区,葛飾区,です。

 これらの区では,高齢者が多いからではないか,というギモンもあるでしょう。生活保護の受給率が高いのは,高齢世帯ですからね。しかし,そうとばかりはいえないようです。

 2015年の厚労省『被保護者調査』から,世帯主の年齢層別の生活保護世帯率を出すと,19歳以下が0.61%,20~24歳が0.55%,25~29歳が0.83%,・・・80歳以上が4.42%,です。

 この比率を,一般世帯の世帯主の年齢構成で重みづけして,23区の生活保護世帯率の期待値を出してみましょう。足立区でいうと,一般世帯の世帯主の年齢構成は,19歳以下が0.35%,20~24歳が2.81%,25~29歳が5.35%,・・・80歳以上が8.87%,となっています(『国勢調査』,2015年)。

 よって,年齢構成を考慮した,足立区の生活保護世帯率の期待値は,以下のようにして算出されます。

 {(0.61×0.35)+(0.55×2.81)+・・・(4.42×8.87)}/100.00 = 2.99%

 実際の値(6.08%)は,これを大きく上回っているではありませんか。足立区の生活保護世帯率は,住民の年齢構成から期待される水準よりも,だいぶ高い。すなわち,地域独自の要因が効いている,ということです。おそらくは,若年世帯の生活保護世帯率も他地域に比して高いことでしょう。

 他の区についても,生活保護世帯率の実測値を,年齢構成から出される期待値と照合してみましょう。


 都内23区は,住民の年齢構成はさして違わないので,期待値はどの区もほぼ同じですね。にもかかわらず,生活保護世帯率の実測値は,大きく違っている。

 貧困の分布には,地域的な偏りがあるようです。ご覧のように,実測値が期待値を2ポイント以上上回っているのは,ほとんどが城東の区です(アミかけ)。

 大都市の東京特別区では,どの区でも,この四半世紀にかけて生活保護世帯率が上がっていること,貧困の集積化が進んでいることを知りました。

 しかし,この事実をネガティブな面だけで捉えるのは誤りでしょう。生活保護世帯率が上昇しているのは,貧困状態の人が増えているためですが,貧困を公的に救済しようという気運が高まっていることの表れでもあります。

 ある方が「貧困の進行だけでなく,貧困の発見という面もあるのではないか」とおっしゃっていましたが,実に言い得て妙だと思います。
https://twitter.com/kurokawashigeru/status/829140589828378624

 わが国の生活保護の捕捉率が低いのはよく知られていますが,「貧困の発見」をもっと進める余地はまだまだあるでしょう。「生活保護なめんな」ジャンパーを着て,弱者を威嚇している場合ではありません。

 私は,親戚づきあいが「ゼロ」の人間ですので,堂々と申請に行けるかな。

「援助してくれる親戚はいませんか?」
「いません」
「こちらで調べて連絡しますが,いいですか?」
「どうぞ,ご自由に」・・・。

 付き合いの多い人は,2番目の問いに青ざめるのでしょうが,私はさにあらず。一抹の不安もありませぬ。

 しかるに,貧困が特定エリアに集積する現象は,看過し得ないように思います。子ども世代の教育格差に転移する恐れもあるからです。資源の傾斜配分などが考えられる時期もくるかもしれません。

 今月から来月にかけて,1)著書執筆,2)裁判,3)引っ越しと,いろいろ立て込んでまして,ブログの更新頻度が落ちると思われますが,ご寛恕いただけますと幸いです。