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2018年1月19日金曜日

教員と民間の労働時間差

 日本人の働き過ぎはよく知られていますが,教員はその中でもとくに酷い。

 「大変なのは教員だけではない」という声を聞きますが,データでみても,教員の労働時間は他の職業に比して格段に長くなっています。過重労働と言われる医師や自動車運転手をも凌駕しています。

 日本では,民間より教員の労働時間が(はるかに)長いのですが,他国ではどうなのでしょう。教員と民間の労働時間差の国際比較はまだやってませんでしたので,それをしてみようと思います。労働時間の絶対量だけでなく,同じ社会の一般労働者との比較を行うことで,日本の教員の特異性がもっとはっきりします。

 私は,各国の30~40代男性について,全就業者と中学校教員の就業時間を明らかにしました。働き盛りの男性に絞った比較です。以下の2つの指標を計算しました。

 1)週間の平均就業時間
 2)週60時間以上就業している者の割合

 全就業者のデータは,ISSPの「国民性調査」(2013年)から計算しました。中学校教員は,OECDの国際教員調査「TALIS 2013」より明らかにしました。両調査では,有業者に週間就業時間を答えてもらっていますが,その分布をもとに,上記の2つの指標を算出した次第です。

 日本のデータを示すと,週間の平均就業時間は全就業者が50.5時間,中学校教員が56.5時間です。週60時間以上の長時間就業者比率は,順に26.1%,54.3%です。

 年齢と性別を揃えた比較ですが,違いますねえ。週60時間超の長時間就業率は,教員は民間の倍以上です。日本の30~40代男性教員の半分以上が,週60時間以上働いていると。

 このように,日本では明らかに「民間 < 教員」なのですが,傾向は国ごとに違っています。データを計算できた,21か国の一覧表をみていただきましょう。


 日本の教員は,平均就業時間も長時間就業率もダントツでトップですが,ここでの主眼は民間との差です。

 右端の倍率をみてほしいのですが,教員が民間を上回る国(1.0以上)は,平均就業時間は3か国,長時間就業率は5か国だけです。多くの社会において,教員の労働時間はフツーの労働者より短くなっています。

 お隣の韓国は注目されますね。全就業者では,わが国と肩を並べる過労大国ですが,教員の労働時間はかなり短くなっています。週間就業時間は35.7時間,長時間労働率は11.1%です。

 韓国の生徒の教員志望率は世界で最も高いそうですが,分かるような気がします。儒教社会ゆえ,教員の社会的地位も高いですからね。前にみたところによると,教員給与の対民間比も高くなっています。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/04/post-4996.php

 上表の下段の長時間就業率をグラフにしておきましょう。横軸に全就業者,縦軸に中学校教員をとった座標上に,21か国をプロットしてみました。


 斜線は均等線で,このラインより上にあるのは,教員の長時間就業率が民間より高い国です。日本を含め5か国ですが,日本は民間との開きが格段に大きくなっています。

 日本の教員は,労働時間の絶対量が多いと共に,同じ社会の労働者全体と比しても酷いこと,そのような社会は国際的にみて稀有であること,を押さえておくべきでしょう。

 労働から離れた自由な思索・研鑽の時間を持つことは,高度専門職のメルクマールといいますが,民間より教員の労働時間が短い他国では,それが日本よりは実現されているのでしょうか。

 聖職者,労働者,高度専門職…。日本では未だに,複数の教師像が並存し,こんがらがっています。

 抽象的な話はさておき,日本の教員は民間に比して労働時間は長く,給与も低い(上記リンク差のニューズウィーク記事参照)。しかも,その差は際立っている。教員の労働条件が,世界で最も悪い国といっても言い過ぎではないように思えます。

 社会全体の「働き方改革」が目指されていますが,とりわけ教員の「働き方改革」は,待ったなしです。その成果は,今年に実施される,OECDの国際教員調査「TALIS 2018」のデータで可視化されることでしょう。