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2020年12月21日月曜日

ストレスの年齢曲線

  今年も残り僅かになってきました。本当に大変な年でしたが,その様を可視化する経験的事実(データ)も溜まってきています。先日,厚労省による今年11月の自殺統計が公表されたところです。

 自殺統計というと,警察庁のものが使われることが多いですが,月別の速報値となると,国民全体,トータルの男女別という,ラフな数値しか知れません。これでも,前年に比して悲惨な状況になっているのを実証するには十分ですが,願わくは年齢層別の数も知りたい。厚労省の細かい集計データは,それを可能にしてくれます。

 厚労省の月別自殺統計によると,1月から11月までの自殺者数は,昨年(2019年)は1万7074人でしたが,今年(2020年)は1万7794人となっています。720人の増加で,増加率にすると4%です。

 「ん?思ったより増えてないな」と思われるかもしれませんが,これは全体で見た場合で,性別・年齢層別にみると違った数値が出てきます。以下の表をご覧ください。


 まず男性と女性の総数をみると,男性は前年より減っているではないですか。増えているのは女性です(1万1833人→1万1779人)。年齢層別にみると,男性で増えているのは若者と高齢層だけですが,女性は全ての年齢層で自殺者が増加しています。とくに若年女性において,増加倍率が高くなっています。

 コロナ禍が社会のどの層にダメージを与えているかが浮き彫りになりますね。ちょうど一昨日,「女性の自殺が急増 非正規,DV被害,産後うつ…弱い人にシワ寄せの現実」(アエラ)という記事を見かけましたが,自殺統計にそれがハッキリ出ているように思えます。

 コロナ禍による雇止めの標的は,言わずもがな非正規雇用です。非正規の多くは女性。コロナで切られているのは非正規女性で,とくに若年女性において生活苦が広がっています。独り身の人は大変でしょう。家族がいればいいかというとそうでもなく,巣ごもり生活により,家庭においてDV被害を受けるケースも増えていると聞きます。上記の記事タイトルにある「非正規,DV被害」とは,こういうことでしょう。

 これらはさんざん言われていますが,あと一つの「産後うつ」というのは,私にとっては新鮮でした。この点について,アエラ記事では「感染を恐れて里帰り出産や産後の親のサポートを控え,人に会う機会も減らしている状況がある」とし,コロナでサポートが減ったことで,産後うつのリスクが高まっているとしても不思議ではない,という見解が書かれています(筑波大学,松島みどり准教授)。出産も大変になっているわけです。

 若年女性の自殺増加の背景に,こうした問題があるとは,不勉強な私にとっては初耳でした。

 出産期の女性のストレスが高いことは,統計で「見える化」できます。心理的なストレス尺度として有名なのは,K6スコアです。アメリカのKesslerが考案したもので,6つの設問への回答をもとに,対象者のストレスレベルを0~24点のスコアで測ります。

 ありがたいことに,昨年の厚労省『国民生活基礎調査』において,12歳以上の国民の点数分布が公表されています。3年に1度の大規模調査では,国民のメンタル面も調べるみたいです。健康に関わる統計表一覧の表24です。同調査から推計される,12歳以上の国民(1億220万人)の点数分布は,以下のようになります。


 国民の4割が,最低の0点ですね。6つのストレス設問の全部に「まったくない」と回答した人たちです。5点以上は28.2%,10点以上は10.0%という具合です。上記の分布から平均点を計算すると,3.24点となります。

 原資料の結果表には,性別・年齢層別の点数分布も出ています。これをもとに,各年齢層のK6スコアの平均点を算出し,折れ線グラフにすると以下のようになります。


 どの年齢層も「男性<女性」で,20代後半女性が最も高くなっています。結婚・出産期で,結婚退職,姓変更,出産,産後うつなどが怒涛のように押し寄せるためでしょう。40代後半でペコっと上がるのは,更年期のゆえでしょうか。

 上述のように,コロナ禍によって,女性の産後うつのリスクが殊に高くなっています。親からのサポートも減っていますからね。それを補うのは「公」の役割で,助産師や保健師による訪問サポートなどの拡充も求められるところです。

 なおストレス曲線は,70代以降上昇に転じることにも要注意です。おそらく孤独のゆえかと思いますが,コロナで対面での接触が制限されている今,高齢層の孤独,それに伴う心の病みは一層深くなりつつあります。若者のようにSNSなんてしてないでしょうから,リアルな接触が制限されるとなると,まさに孤独です。最初の表をみると,高齢層にあっては,男女問わず自殺が前年より増えています。

 これを機に,デジタルコミュニケーションを始めてみるのもいいかもしれません。「フォロワー*万人のツイッターおばあちゃん」なんていう記事を見かけますが,活き活きしているではないですか。高齢者の皆さんも,ICT機器を手に取っていただきたいと思います。それをサポートする事業へのニーズも,今後は増すのではないでしょうか。