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2021年1月21日木曜日

年収が増えた職業,減った職業

  社会は,その成員が一定の役割を果たすことで成り立っています。具体的にいうと,職業に就いて仕事をすることです。

 職業は無数にありますが,その重要度,遂行の困難性,また当該職業に就くのに必要な金銭的・時間的コストなどに基づき,収入に傾斜がつけられています。お給料が高い仕事もあれば,そうでない仕事もあると。「どうでもいいクソ仕事(ブルシットジョブ)」の給料が高く,社会に必要不可欠なエッセンシャルワークの給料が低いという理不尽な現実もありますが,それは置いておきます。

 職業別の収入は色々な官庁統計で明らかにできますが,最も細かい職業分類のデータを得るなら,厚労省の『賃金構造基本統計』です。10人以上の事業所に勤める一般労働者の月収,年間賞与額を129の職業別に知れます。

 先日,2010年と2019年の推定年収の比較をもとに,年収が上がった職業と下がった職業のリストを作成しました。ツイッターで発信したらウケましたので,より詳しい情報も添えて,ブログにも載せておくことにします。

 上記の資料から年収を出す場合,「きまって支給する月収」を12倍した額に,年間賞与額を足して算出します。2019年の保育士だと,月収は24.45万円,年間賞与額は70.06万円ですので,推定年収は363.5万円となる次第です。

 私はこのやり方で,129の職業の推定年収を,2010年と2019年のデータで計算しました。2019年の年収が2010年の何倍になったか。この倍率が上位20位の職業を掲げると,以下のようです。


 年収が増えた職業のリストです。この10年ほどの伸び率の首位は,パイロットです。1136万円から1695万円へと,およそ1.5倍の増加です。ただでさえ年収が多い職業ですが,近年の伸びも大きく,他の職業を引き離しています。今年はコロナの影響で,高級業界が大打撃を被ってますので,落ち込んでいると思われますが…。

 全体的にみて,現業系,ガテン系の仕事の給料が上がっています。建築や解体の需要の高まりで,これらの仕事の職人が重宝されるようになっているのでしょう。高齢者の足としてのニーズが増しているのか,タクシー運転手の給料も増えています。

 出版不況の時代ですが,記者の稼ぎも増えているのですね。一見信じがたいですが,弱小出版社が淘汰されて,稼ぎのいい大手だけが生き残っているためでしょうか。『国勢調査』の詳細職業集計によると,記者・編集者の数は,2010年の8万5050人から,2015年の7万8730人へと減っています。

 次に,右端の増加率が低い20の職業です。いずれも1.0未満,すなわちこの10年ほどで稼ぎが減じた職業です。


 大学経営が厳しさを増しているためか,大学教授と講師の年収はちょっと下がっています。ここでは示しませんが,規模別にみると差があって,従業員数が少ない小規模大学ほど,教授の年収の減少率が高くなっています。大学格差も進行しているようです。
https://twitter.com/tmaita77/status/1350272444913774592

 今やコンビニより多いといわれる歯科医師も,需要以上の量産のツケか,年収が下がっています。

 注目は一番下で,この10年間の年収の減りが最も大きい3つの職業は,見事に「士業」で占められています。公認会計士,社会保険労務士,そして弁護士です。弁護士は1271万円から729万円,4割以上の減です。何とも笑えない現実で,ツイッターでこれをみた弁護士さんからは落胆の声も聞かれました。

 以上は,「2019年/2010年」の倍率が上位20位,下位20位の職業ですが,他も含めた129職業の布置図も掲げておきます。横軸に2019年の年収,縦軸に「2019年/2010年」の倍率をとった二次元座標に,各職業のドットを配置した図です。


 縦軸によると,この10年間で年収が増えた職業が大半です(1.0以上)。エッセンシャルワークでありながら薄給といわれる保育士や介護福祉士も若干増えています。2019年の年収は保育士が363万円,福祉施設介助員が347万円。「こんなに高い?」と思われるかもしれませんが,公立の園や施設を含むからでしょう。

 悲しいかな,弁護士は縦軸の上では最も下にあります。2010年から19年にかけて年収は4割減,最も収入が減った職業です。ツイッターで現役の弁護士さんが口をそろえて言ってますが,背景には,弁護士が増えすぎていることがあるようです。あちこちに法科大学院ができていますしね。

 日弁連HPの統計資料から,弁護士の数の長期推移を描くと以下のようになります。


 1990年代初頭の大学院重点化政策により,行き場のない博士が増えたのは知られていますが,法曹の世界では,2002年に「法曹3000人計画」というのが策定されたそうです。このおかげで弁護士をはじめとした法曹が増え始め,質の低下や就職難が起きていると。

 なるほど,グラフをみると2002年以後,増加の速度が上がっているように見えます。この記事では2010年と2019年の年収比較をしたのですが,この期間にかけて,弁護士は2万8789人から4万1118人と,1.5倍ほどに増えています。こうした量的変化が稼ぎに影響していることは,想像に容易いです。

 ただ今の時代,弁護士さんの力を必要としている人は多いはずで,たとえば生活保護の申請同行などは,これから爆発的に需要が増えるでしょう。ネット誹謗中傷が社会問題化していますが,発信者情報開示請求なんかも然り。こういう業務を安価でやってくれる弁護士さんが増えてくれると,市民としても助かります。

 あとは高齢化の進行による,終活関連の業務です(財産管理,遺言,相続…)。東京の大手法律事務所から,弁護士が一人もいない過疎地に転居し,この手の業務をこなし,住民から愛されている若手弁護士のニュースがあります。
https://www.ktv.jp/news/feature/20201216-2/ 

 「一人ぼっちの人の力になりたい」。いいこと言いますね。私もぼっちですが,こうやって寄り添ってくれる弁護士さんの存在は心強いです。こういう思いの人は,田舎にはたくさんいるでしょう。

 しかし弁護士は都会に多く,田舎には少ないのが現実。『国勢調査』から,各都道府県に住んでいる法曹の数が分かりますが,全国値を100とした%にして,高い順に並べると以下のようになります。


 法曹の3割近くは東京の居住者で,赤字の上位5位の都府県で全体の56%が占められています。人口当たりの数にすると,東京は10万人あたり62人ですが,高知はたった3人です。うーん,住民の高齢化率を考えると,上述の「終活」関連業務は地方のほうがニーズありそうな感じもしますが…。

 住んでみるところを変えるだけで,自身の存在意義の感じ方が大きく変わるかもしれません。過疎地に移住した,上記の若手弁護士さんが好例です。コロナ禍の今,弁護士さんも東京脱出,地方移住の波に乗ってみてはいかがでしょうか。