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2021年9月1日水曜日

家庭の通信環境の不足

  久々の更新になります。9月になり,急に涼しくなりました。今後の週間予報をみても,30度を超える真夏日にバックすることはなさそうです(横須賀市)。初秋です。

 今年4月実施の『全国学力・学習状況調査』の結果が公表されました。去年はコロナの影響で中止でしたが,今年は実施されたようです。詳細な資料は,国立教育政策研究所のホームページで見れます。

 例年通り,新聞では平均正答率の都道府県順位に注目されてますが,私はあまり興味を持ちません。教科の学力調査の他に,児童生徒や学校を対象とした質問紙調査も実施されていて,こちらのほうに興味深い設問が盛られています。昨年4月以降,コロナ禍にどう対処したか,どういう教育活動を行ったかなどです。感染症拡大のような異常事態が起き,学校はどうなったか,どういう課題が浮き出てきたか。大事なのは,この経験データ(fact)をちゃんと総括することです。

 周知のとおり,昨年は全国の学校が臨時休校を迫られました。それに伴い,オンライン授業などが導入されたのですが,なかなか一筋縄ではいかなかったようです。円滑な実施を妨げたのは,十分な通信環境がない家庭が少なくないこと。これを受け,今年の質問紙調査(学校対象)では,2020年4月以降のコロナに伴う臨時休校中,家庭でのICT学習に際して,課題となったことを問うています。

 ①家庭の端末(PC等)が不足,②家庭の周辺機器(ウェブカメラ等)が不足,③家庭の通信環境(無線LAN等)が不足,ということが,オンライン教育の足かせになった学校はどれほどか。小学校の回答分布を図示すると,以下のようになります。


 公立,国立,私立に分けて分布を示しました。量的に圧倒的に多い公立をみると,支障として「当てはまる」と答えた学校の率(赤色)は,家庭の端末の不足が48.0%,家庭の周辺機器の不足が52.0%,家庭の通信環境の不足が41.5%,となっています。

 なるほど,メディアで報じられた通り,PCがない,ウェブカメラがない,Wi-fiがない家庭が多く,困り果てたという学校が多いようです。義務教育の公立小学校には,社会の全ての階層の子どもが通っていますが,赤色が半分近くまで垂れている様に,子どもの貧困の広がりが出ているようです。

 しかし,ごく限られた階層(約1%)の子弟が通う国私立小となると,様相は違っていて,家庭の端末・機器・通信環境の不足がネックになったという学校は,公立と比して少なくなっています。身もふたもないですが,通っている児童の階層構成の違いが出ていますね。ホンマもんのICT格差です。とはいえ,私立といえど,「当てはまる」ないしは「やや当てはまる」と答えた学校の率は小さくはないですが。

 いわずもがな,小学生の99%は公立の児童ですので,深めたいのは公立校のデータです。上図は全国の結果ですが,地域による違いもあります。家庭の端末不足,機器不足,通信環境不足が支障になった学校のパーセンテージを,47都道府県別に出してみると,これがまた一様でない。以下に載せるのは,「当てはまる」と答えた公立小学校の割合の一覧です。高い順に並べています。


 どうでしょう。端末の不足がネックになった学校の率は66.3%~33.9%,機器の不足は70.8%~38.9%,通信環境の不足は65.8%~23.3%のレインヂがあります。

 50%超の数字には色をつけましたが,情報機器の不足で困ったという学校が半分を超える県は35県にもなります。Webカメラとかは高価ですからね。これがないという家庭は少なくないでしょう。経済的に余裕のない家庭は,たやすく持てるものではありますまい。

 児童の家庭のリソース不足がネックになった学校の率は,地方で高く,都市県で低い傾向もあります。3つの肯定率とも,各県の県民所得と有意なマイナスの相関係数が出ます。県単位のデータから演繹するのは難しいですが,子どもの貧困が影を落としている可能性もあるでしょう。東京都内の区別のデータが出せれば,もっとはっきりしたことが言えそうですが,私の手では叶いません。個票データが手元にあるお偉いさん,ぜひ分析してみてください。貧困世帯へのICT支援の必要性を支持する,揺るぎないエビデンスになります。

 地方の郡部では,ウェブカメラ等の機器の普及率も低そうです。しかし,こうした機器を必要としているのは,田舎の子どもたちです。空間を越えた遠隔教育の行う上で必須のアイテムです。前から言ってますが,とくにへき地にあっては必須の学用品と捉え,用意できない家庭には,就学援助の範疇で支給ないしは貸与すべきかと思います。文科省も認識してきるようで,援助費目として「オンライン学習費」が加えられてはいますが。

 コロナ禍によって,教育の情報化を進める上での課題がくっきりと浮かび上がりました。家庭のリソース不足はその最たるもの。「1人1台端末」のGIGAスクール構想など手は打たれていますが,令和の時代の学校教育を国際水準にキャッチアップさせていくには,人為的な支テコ入れをもっとしないとなりますまい。