最近,駅前のペットショップによく足を運びます。新しく入荷されたという,生後2カ月のダックスフンドの子犬が可愛くて仕方ないのです。私のようなオッサンが,小学生くらいの子どもに交じって,ショーケースの子犬を眺めるのは,やや珍妙な光景ですが。
ところで,犬とはいえ,生後2カ月といえば,まだ赤ん坊です。母犬に甘え,兄弟犬と遊びたい盛りでしょう。それなのに,無理やり引き離して,ショーケースという四角い空間に閉じ込め,人間の好奇の目にさらすというのは,子犬にすれば,ストレス以外の何ものでもないと思います。生後間もないうちに母犬から引き離された子犬は,成長した後,吠える,かみつくなど,幾多の問題行動を起こしやすい,といわれています。ちなみに,外国では,日本のような陳列式のペットショップはありません。
前回の記事で,近年,小学校に上がって間もない児童の暴力行為が激増している,という話をしました。このことは,乳幼児の状況変化と何らかの関連があるものと思います。先ほどの子犬の伝でうと,人間の世界でも,生後間もない乳幼児が,血のつながった肉親から乖離されて育てられる,というケースが増えています。幼稚園や保育所に預けられる子どもの増加です。
今から50年前の1960年では,0~5歳の子どものうち,幼稚園や保育所に預けられる子どもは約120万人で,全体の13%ほどでした。それが2009年の最新データをみると,幼稚園児・保育所在所児の数は351万人にも膨れ上がり,0~5歳人口全体の54%を占めるに至っています。
では,幼稚園児や保育所在所児のシェアを,年齢別に細かく観察してみましょう。幼稚園児数は,文部省『日本の教育統計』(1966年)と文科省『平成22年版・文部科学統計要覧』から得ました。保育所在所児数は,厚労省の『社会福祉施設調査』から知りました。
一見して,緑色(幼稚園児)と赤色(保育所児)の領分の拡大が明らかです。3歳児をとると,両者の比重は6%から76%へと激増しています。より低年齢の1歳児でみても,今日では,約2割(5人に1人)が保育所に預けられています。0歳保育の対象者は5%,20人に1人です。いずれも,昔では考えられなかったことです。
お前は,幼稚園や保育所をなくせというのか,と言われそうですが,そういうことではありません。共働き世帯が増えるなか,保育所などの整備が急務であり,目下,まだまだそれが不十分である,という認識を持っております。しかるに,小1プロブレムのような,低年齢の児童の不適応・問題行動は,上図のような状況変化と関連しているとはいえないでしょうか。
私は,乳幼児心理学のような分野についてはまったくの素人ですが,早いうちから子どもを肉親から引き離すことが,子どもの人格にどう影響するかという問題に対しては,どういった答えが用意されているのでしょうか。
私とて,分離不安,母性はく奪,ホスピタリズム(施設病)というレベルのことは存じておりますが,こうした原理論よりももっと,現代のわが国の実情に即した考え方というのは,出されていないのでしょうか。今後,乳幼児の生活の「施設化」はますます進行していきます。こういう状況のなか,まずもって重視されるべき研究課題ではないかと存じます。