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2011年7月2日土曜日

国民の高学歴化

 6月29日に,2010年の『国勢調査』の抽出速報結果が公表されました。私としては,「待ってました」という思いです。総務省統計局のサイトには,ホカホカの統計表がアップされています。さあ,どのデータから分析したものやら…
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001032402&cycode=0

 10年に一度の大規模調査である2010年調査の目玉は,国民の最終学歴について調べていることでしょう。まずは,上記サイトの第12表「在学か否かの別・最終卒業学校の種類」という表を開いてみましょう。

 最終学歴は,15歳以上の国民全員について調査されています。私は,大学・大学院卒業者が全体のどれほどいるかを計算しました。15歳以上の国民およそ1億1,002万人のうち,最終学歴が大学もしくは大学院という者は約1,799万人です。よって,大学・大学院卒業者の比率は,16.3%となります。10年前の2000年調査では,この数字は13.5%でした。率が上昇しています。

 もっと長期的なスパンでみると,この高学歴人口率がどれほど伸びているか,いいかえると,国民の高学歴化がいかにドラスティックに進行しているかが明確になります。下表は,上記の意味での高学歴人口率を,1960年と2010年とで比較したものです。ちょうど半世紀間の変化を見てとることができます。


 まず最下段の全体の数字からみると,2010年の値は先ほどみたように16.3%です。ですが,半世紀前の1960年ではわずか2.5%です。高学歴者は,国民の40人に1人しかいませんでした。それが今日では,およそ6人に1人という水準にまでなっています。大学進学率が上昇していることを考えると,さもありなんという感じです。

 次に性別の値をみると,男女とも伸びていますが,とくに女性の伸びが注目されます。0.4%から9.8%へと,25倍の伸びです。1960年では,大学出の女性というのは,250人に1人しかいませんでした。戦前では,複線型の教育制度により,女性には大学進学の道が開かれていなかったとと関連していると思われます。地域別では,郡部の値が大きく上昇しています。

 最後に,年齢層別の傾向もみてみましょう。高学歴化は,時代現象であると同時に,年齢現象でもあります。若年層ほど高学歴化の進行が著しいには予想がつくことではありますが,実態はどうなのでしょう。久々に,例の社会地図の登場です。


 上図は,5~10歳刻みの高学歴人口率の時代変化を俯瞰したものです。率の値は,ゾーンの色分けで示されています。どの年齢層でも,高学歴化が進んでいます。2010年では,45~54歳の層にまで,20%超のゾーンが垂れてきています。20代後半から30代前半では,4人に1人(25%)以上が大学・大学院卒業者です。

 わが国では,昔に比べて,国民の高学歴化が進んできています。このことは,知識基盤社会の到来のための基本的な条件といえます。しかるに,莫大な公的・私的投資で育成した高学歴層の就職難や,進学の社会的強制という現象に象徴される,「教育過剰」の問題も含んでいることも忘れてはならないでしょう。

 あと一点,このような状況変化に最も困惑しているのは,学校の教員なのではないでしょうか。このブログでは,教員の離職率,精神疾患休職率,さらには自殺率といった統計指標を分析しましたが,こうした病理兆候の遠因として,国民の高学歴化により,教員の(知識人としての)威厳がどんどん低下している,ということが考えられると思います。学校に理不尽な要求を突きつけるモンスター・ペアレントの出現というのも,今日的な時代状況の所産であるといえましょう。

 現在,教員養成の期間を6年に延ばし,教員志望者には修士の学位を取らせようという案が出ています。教員の学歴水準を一段高くし,威厳の基盤を確保しようという意図からでしょう。品のない考えのように聞こえるかもしれませんが,私としては,妙案だと思っています。