2007年の文科省『学校教員統計調査』によると,大学の本務教員は167,971人,兼務教員は179,592人だそうです。ちょうど半々くらいです。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001017860&cycode=0
しからば,双方に支払われる人件費も半々かといえば,決してそうではありません。前者のほうが圧倒的に多いことは,大学関係者なら,誰だって知っています。頭数では半々であるにもかかわらず,富の9割を前者がとり,後者にいくのは残りのたった1割だけではないか,という推測もあります。『高学歴ワーキング・プア』著者の水月昭道さんは,「大学には,超格差社会が形成されている」と述べています。
http://blog.goo.ne.jp/drikiru/s/%CA%AC%A4%B1%A4%C6%A4%A4%A4%EB
下の表は,2007年10月1日時点における,大学教員の数を職種別に示したものです。その右側には,それぞれの職種の平均月給額を掲げました。資料は,文科省『学校教員統計調査』です。非常勤講師(兼務教員)の平均月給は,関西圏・首都圏大学非常勤講師組合『大学非常勤講師の実態と声2007』の15頁に掲載されている,大学非常勤講師給の平均年額(200万円)を12で除した値をあてています。
2007年のある月に,それぞれの職種の人間に支払われた富(income)の総量は,aとbの積で示されます。これによると,教授職には約383億8千万円,非常勤講師には約293億3千万円の富があてがわれたことになります。はて,この値は,それぞれの職の人間が頭数において占める比重に見合ったものなのでしょうか。下の表の左欄に,人数(a)と富量(a×b)の相対度数を出してみました。
これによると,非常勤講師は数の上では51.7%を占めていますが,受け取った富は,全体の27.9%です。その一方で,教授以上の職階は,頭数では19.9%しか占めませんが,富全体の36.6%をせしめています。大学のおける富の配分は,その職種構成に見合ったものとはいえないようです。
もっとも,これをケシカランというかどうかは,程度の問題だろう,といわれるかもしれません。職階によって,給与に傾斜がつけられるのは当然のことではないか,と。しかるに,それも度が過ぎると,問題であるといえます。私は,判断の目安を得るために,表の右欄に出した累積度数を使って,ジニ係数を算出することを試みました。
ジニ係数とは,ある社会における富の格差の度合いを測る指標です。0.0~1.0までの値をとります。この数字が0.4を超えた場合,社会が不安定化する恐れがあり,格差の是正を要する,という危険信号と読むことができるそうです。
統計学の素養がある方なら,上記の弓なりの図は目にしたことがおありかと存じます。図中の弓曲線は,頭数と富量の累積度数に基づいて各職階をプロットし,結んだものです。仮に,頭数の組成と富の組成が全く等しい,すなわち完全平等な状態ならば,すべての職階が対角線(均等線)上に位置づくことになります。逆に,頭数と富量の組成のズレが大きい場合(=格差が大きい場合),均等線から隔たった弓曲線が描かれることになります。
ここで出そうとしているジニ係数とは,均等線と弓曲線で囲まれた部分の面積を2倍したものです。上図の場合,色つきの部分の面積は0.14となります。よって,ジニ係数はそれを2倍して0.28と算出されます。この値は,特段に高いものとは判断されません。
しかるに,この値は,月給の平均額だけを頼りに出したものです。本務教員の場合,定期的な給与のほかに,賞与や研究費が支給されることも忘れるべきではないでしょう。また,冒頭の表に記載されている,非常勤講師の平均給与月額が16万7千円というのは,高すぎるのではないかしら。この額を得るには,週6~7コマほど教えなければいけませんが,人員削減・雇い止めの嵐が吹き荒れているなか,これだけのコマをゲットしている輩は,そうはいないと思います。もしかすると,非常勤組合の調査の回答者は,比較的多くのコマ数を確保している語学系の教員に偏しているのかもしれません。
冒頭の表の数字を少し変えてみましょう。今,非常勤講師の平均月給を10万円とし,助手以上の本務教員の平均月給を1.5倍にします。この統計を使って,再度ジニ係数を出すと,0.43となります。
0.43といったら,危険水準とみなされます。社会が不安定化する恐れがあり,格差を是正すべきという警告と読めます。いくぶんか,私の主観的な思い入れを混入させて出した値ですが,0.28よりも0.43のほうに現実感(リアリティ)を感じるのは,私だけではないと思います。