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2011年9月16日金曜日

気分障害患者の出現率

 現代は,「うつ」の時代であるといわれます。けだるく,何もやる気がおきない,「うつ病」を患う人間の数も増えているとか。管理化,孤独化が進行している現代社会において,この種の精神疾患を患う人間が増えていることに,違和感を抱かないのは,私だけではないでしょう。

 うつ病を患う人間は,数字でみると,どれほどいるのでしょうか。厚労省の『患者調査』は,医療機関に入院している患者数,ならびに外来の受療者数を,傷病の種類別に明らかにしています。うつ病は,傷病の分類カテゴリーの「気分障害」に属するようです。ひとまず,このカテゴリーの患者数を把握してみましょう。

 最新の2008年調査によると,同年の9月の調査日において,気分障害(躁うつ病を含む)で入院している患者はおよそ28,700人,外来での受療患者はおよそ80,100人だそうです(推計値)。合算すると,約10万9千人です。人口あたりの比率にすると,1万人あたり8.5人となります。 1,176人に1人です。

 なお,1996年の気分障害の患者数(入院+外来)は約6万人で,人口あたりの率は1万人あたり4.7人でした。気分障害(躁うつ病)患者の量的規模は,確実に増えているようです。

 ところで,気分障害患者は,どの年齢層で多いのでしょうか。私のみるところ,中高年層で多いような気がします。バリバリの働き盛りですが,「過労→うつ→自殺」というようなサイクルの存在も,よく指摘されるところです。

 1996年と2008年について,気分障害の患者数(入院+外来)を年齢層別に明らかにし,各層の人口で除した出現率を計算しました。15歳未満については,患者数がほぼ皆無ですので,計算は控えました。


 患者数を人口で除した出現率は,表の右端に掲げています。これによると,両年次とも,高齢層ほど出現率が高くなっています。退職による生きがい喪失や,配偶者との死別による孤立感などが大きいのでしょうか。

 ですが,1996年から2008年までの増加倍率という点でみると,若年層ほど大きいようです。私が属する35~44歳の層だと,この期間中に,気分障害患者の出現率が2.5倍(4.2→10.3)になっています。20~24歳では,増加倍率は3.2倍です。

 最近における増加率という点でいうと,働き盛りの年齢層において,よからぬ事態になっているようです。近年における職場環境の歪みについては,よく指摘されています。この点については,上記の年齢層別の統計を,男性と女性に分けてみると,よく分かります。


 2008年について,細かい5歳刻みの患者出現率を,性別に出してみました。この図によると,率のピークが男性と女性で違っていることが知られます。男性のピークは45~49歳,女性のそれは75~79歳です。職場に出て働くことの多い男性では,中年層において,気分障害(うつ病)患者が出る確率が最も高いのです。

 1996年では,男性も女性と同様,おおむね高齢層ほど気分障害の出現率が高い,という構造になっていました。上図のような,中年層に山がある型になったのは,最近のことです。

 気分障害(うつ病)は,高齢期における生きがい喪失や孤立感の問題であると同時に,職場環境の歪みに起因する問題としての性格も強めてきているようです。

 うつ病は,自殺の原因としてよく挙げられますが,近年の自殺率増加は,主に中高年の男性の自殺増によるものです。「過労or失業→うつ→自殺」という負のサイクルが,濃厚になってきていることがうかがえます。ワークシェアリングなどにより,このサイクルを断ち切る実践が強く求められるところです。