前回の続きです。今回は,いじめの摘発度を都道府県別に出してみようと思います。いじめの摘発度とは,当局が認知したいじめの数と,いじめを容認する児童・生徒の数を照らし合わせて算出するものです。
いじめを容認する児童・生徒の数は,子どもの間で実際に起こるいじめの数を近似(相似)的に表す尺度とみなすことができます。当局が認知したいじめの件数が,この数のどれほどを掬っているのかに注目します。当局のいじめ摘発(認知)活動を評価するための指標として,独自に考案したものです。
前回は,小学校6年生と中学校3年生のいじめの摘発度を出しましたが,いじめの認知件数の学年別データを,県別に得ることはできません。ここでは,小学校全体,中学校全体のいじめの摘発度を計算することとします。
2009年度の文科省『全国学力・学習状況調査』の結果によると,「いじめはどんな理由があってもいけないことと思うか」という問いに対し,最も強い否定の回答(「そう思わない」)を選んだ者の比率は,公立小学校6年生で1.3%,公立中学校3年生で2.3%です。
文科省『学校基本調査』から分かる,同年5月1日時点の小学生数は7,063,606人,中学生数は3,600,323人です。この数に,先ほどの比率を乗じて,いじめを容認する児童・生徒の数を推し量ります。その数,小学校では91,827人,中学校では82,807人です。これらの数値をもって,実際に起きたいじめの数(真数)の相似尺度とみなします。
2009年度の文科省『児童・生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』によると,同年度間に認知されたいじめの数は,小学校で34,776件,中学校で32,111件です。この公的な認知件数を,先ほど明らかにした,いじめの真数尺度で除すと,小学校は0.38,中学校は0.39となります。この数字が,いじめの摘発度となります。
分母に充てる数(いじめを容認する児童・生徒数)は,あくまでいじめの真数の相似的な尺度ですので,ここでいう摘発度の絶対水準を問題にしてもあまり意味はありません。ですが,各県の数値を比較することで,各県のいじめ摘発活動のがんばり具合を可視化することは可能かと思います。
では,同じ手続きに依拠して,47都道府県のいじめの摘発度を算出してみましょう。下表をご覧ください。
いじめの摘発度は,小・中学校とも,熊本県で最も高くなっています。1.0を超えるということは,いじめを容認している児童・生徒数(いじめの真数尺度)よりも,当局が認知したいじめの数のほうが多い,ということです。小学校では4.25にもなります。驚異的な高さです。
いじめの摘発度が1.0を超えるのは,小学校では5県,中学校では3県です(赤字)。これらの県では,いじめの摘発にかなり本腰を入れているのでしょう。熊本では,「公立学校のすべての児童生徒を対象に無記名の『いじめアンケート』を行っており,結果を踏まえて教師が『いじめ』認知件数をカウントしている」そうです。
http://mainichi.jp/life/edu/juniorhighschool/archive/news/2011/08/20110805ddlk43100496000c.html
その一方で,いじめの摘発度がかなり低い県もあります。小学校の下位5位は,低い順に,和歌山,佐賀,福島,鳥取,福岡,です。中学校は,和歌山,福島,佐賀,京都,および滋賀です。ほとんど県で,摘発度が0.1を下回っています。分子の認知件数が,分母の仮真数の1割をも拾っていない,ということです。
中学校のいじめの摘発度を地図化してみましょう。下図は,0.2の区分で各県を塗り分けたものです。
いじめの摘発度が高い県は,中部地方に多いようです。九州は,高い県(熊本,大分)と低い県(福岡,佐賀,宮崎)とに分極化しています。それと,あと一点気になるのは,近畿地方のゾーンが白く染まっていることです。近畿の府県では,いじめの摘発度が低い傾向にあります。潜在しているいじめが多いものと思われます。
ここで明らかにした,いじめの摘発度の地域差は,アンケートや綿密なカウンセリングといった取組の頻度と関連していることは,間違いないでしょう。しかるに,そうした取組がどれほど実施可能かは,外的な教育条件の整備状況に規定される側面も否定できません。
条件整備のような支援もなしに,労力を要する取組を現場に求めるだけというのは,お上の責任放棄であると思います。自県のTP比やスクールカウンセラー配置率といった条件指標を勘案の上で,上記の試算データをご活用いただければと存じます。