戦後間もない頃に生まれた団塊世代の方々は,1960年代後半から70年代の初頭あたりに入職され,多くは,最近になって定年を迎えられたことと思います。
品のない問いですが,おおよそ40年間働く中で,どれほどの収入(income)が得られたのでしょうか。それは人によってさまざまでしょうが,学歴という観点からするとどうでしょう。この世代の場合,高卒がマジョリティーでしょうが,高卒と大卒では,現役時代に稼いだお金の額がどれほど異なるでしょうか。数字でもって,総決算してみようと思います。
ひとまず,1946~1950年生まれ世代の男性の軌跡をたどってみます。この世代は,1970年には,20~24歳となります。厚生省(現在は厚生労働省)の『賃金構造基本調査』(1970年版)によると,この年の20~24歳男性の平均月収額(決まって支給される給与月額)は,高卒では4.6万円,大卒では4.8万円です。5年後の1975年には25~29歳となりますが,この年の当該年齢男性の場合,高卒は12.6万円,大卒は13.1万円という具合です。
こうしたデータをつなぎ合わせると,加齢に伴う月収額の変化を明らかにすることができます。上記の官庁統計では,中卒,高卒,高専・短大卒,および大卒という,4つの学歴カテゴリーが設けられています。この4グループについて,変化の様相をたどってみます。
なお,この4グループの組成を1975年(25~29歳)の時点でみると,中卒が21.8%,高卒が48.4%,高専・短大卒が3.2%,大卒が26.6%,となっています。高卒がおよそ半分を占めますが,この世代の場合,中卒が2割ほどいます。大卒は4人に1人です。
どのグループでも,加齢に伴い,平均月収額がアップしています。しかるに注意すべきことは,年齢を重ねるにつれ,給与の学歴差が大きくなることです。高卒に対する大卒の倍率を出すと,25~29時点では1.07ですが,40~44歳時点では1.34となり,定年直前の55~59歳時点では1.48にまで上がります。中卒に対する倍率は1.69にもなります。
これは月収額ですが,年収額に換算するとどうでしょう。上表の月収額を12倍した値に,年間賞与(ボーナス)や特別給与の額を加算することで,4グループの各時点の平均年収額を推し量ってみます。下表をご覧ください。
一応,それらしい数字が出てきました。私は今35歳ですが,この世代の30代後半の年収額をみると,高卒は445万円,大卒は558万円です。50代後半では,順に,578万円,858万円です。両時点について,大卒/高卒の倍率をとると,1.25,1.48となります。ここでも,加齢に伴う学歴差の拡大がみられます。
表に記載されている8つの時点の年収額を総計すると,高卒は3,496万円,大卒は4,711万円です。その差は1,215万円。これは8つの時点(8年間)の差の総額です。この額を5倍することで,現役時代(40年間)に発生した,高卒と大卒の収入差の総額を推し量ります。その額,6,075万円なり。
団塊世代の男性の場合,高卒と大卒では,現役時代にかけて約6千万円の収入差が出たことになります。ちなみに,中卒と高卒の差は2,174万円,中卒と大卒の差は8,249万円です。中卒と大卒では,8千万以上の格差です。退職金の額なども計算に入れれば,生涯賃金の差はとてつもないものになるでしょう。
先に記したように,この世代の男性労働者の学歴構成は,中卒2.0,高卒5.0,高専・短大0.5,大卒2.5,という具合です。現在と違って高卒が半数を占め,5人に1人が中卒でした。それだけに,学歴主義の壁にぶつかり,悔しい思いをした方も多いのではないでしょうか。
私より少し上の団塊ジュニア世代は,親世代のこうした怨念により,「勉強せよ,勉強せよ」と尻に鞭を打たれた世代であるのかもしれません。私自身,身に覚えがないではありません。
しかるに,最近の世代では,賃金の学歴差というのは縮小しているのではないでしょうか。学歴主義から実力主義への転換もいわれています。大学を出ても5人に1人が無職というご時世です。むろん,完全にマイノリティーと化した中卒を基準にすればこの限りではないと思いますが,高卒と大卒ではどうなのでしょう。後の検討課題にしようと存じます。