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2011年12月29日木曜日

生活習慣病の社会的規定性

「死」というのは,人間にとって避けられない宿命なのですが,多くの方が,病気や外因によることなく,自然に逝きたいと願っていることでしょう。しかるに,12月13日の記事でみたように,全死因に占める自然死(老衰)の比率はほんのわずかです。

 死因の多くを占めるのは生活習慣病です。がん,心疾患,および脳卒中といった3大生活習慣病が全体の約6割を占めています。死亡者5人のうち3人は,これらの病で命を落としていることになります。

 このように恐ろしい生活習慣病ですが,この病を患い,さらには命をも落とす確率が社会的属性によって違っているとしたらどうでしょう。病気というのは,生理現象(自然現象)と捉えられがちですが,社会現象としての側面も持っています。近年,「健康問題の社会学」という学問領域も開拓されつつあるところです。

 ある現象の社会的な側面は,当該の現象の量(magnitude)の地域差によって可視的に表現されます。私は,東京都内の49市区でみて,3大生活習慣病による死亡率がどれほど異なるかを観察してみることにしました。

 東京都福祉保健局『人口動態統計』(2009年版)には,同年における,3大生活習慣病による死亡者数が,都内の地域別に掲載されています。私が住んでいる多摩市の場合,544人です。この年の同市の人口はおよそ15万人ですから,この死因による死亡率は,1万人あたり36.2人と算出されます。
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kiban/chosa_tokei/eisei/jinkou/

 都内49市区についてこの指標を計算し,5.0の区分で各地域を塗り分けた地図をつくりました。「生活習慣病マップ」とでも命名しておきましょう。


 いかがでしょう。死亡率が50を超えるブラックゾーンは,都内の北東部と北西部に固まっています。その一方で,中央部は白く染まっています。高率地域と低率地域が固まっていることが知られます。

 生活習慣病による死亡が偶然の要素によるのであれば,上図のような,分極化した模様(segregated colour)が観察されることはありますまい。当該の現象の社会的規定性がうかがれます。

 都内の北東部が黒く染まっているのですが,これらの下町地域は,貧困層が比較的多い地域です。生活習慣病による死亡率は,住民の貧困の度合いのような要因と結びついているように思われます。

 私は,2009年度の生活保護世帯数(月平均)を全世帯数で除した生活保護世帯率を地域別に出し,3大生活習慣病による死亡率との相関関係を明らかにしました。下図は,両指標の相関図です。赤色のドットは23区をさします。


 予想通り,正の相関です。相関係数は,49市区データでは0.615ですが,赤色の23区のデータのみから出すと0.823にもなります。大変高い値です。貧困という社会的な要因と,生活習慣病とのつながりが明白です。

 生活習慣病とは,生活習慣の乱れに起因する側面が強い病気の総称ですが,生活習慣の乱れというのは,個々人の社会的な地位によってかなり異なる,という見方もできます。

 1月12日の記事では,小・中学生の肥満児出現率が貧困指標と強く相関していることを明らかにしましたが,このことの解釈として,貧困家庭の保護者は,安価なジャンクフードばかりを子どもに食べさせているのではないか,という仮説を提示しました。

 ここでのデータも,貧困層における食生活の乱れという点から解釈できないこともありません。ほか,運動不足,家にこもりがち,定期的な健康診断を受けないなど,さまざまな事態を想起できます。

 いずれにせよ,格差社会化の進行は,「いのち」の格差にまで連動する恐れがあることがうかがわれます。この仮説に信憑性を持たせるには,過去のデータとの比較が有益でしょう。貧困と生活習慣病の関連は,過去に比して強まってきているのかどうか。このような時系列比較が,今後の課題として残されています。