前回は,両親の状態によって,非行少年の出現率がどう異なるのかを明らかにしました。2010年の非行少年の数を世帯数で除した出現率は,両親ありの者<父なしの者<母なしの者,という傾向がみられました。なお,この差は,凶悪犯や粗暴犯のような,シリアス度の高い罪種ほど顕著であることも知りました。
今回は,両親の状態による非行者出現率の差が,子どもの性別や発達段階に応じてどう違うのかをみてみようと思います。父ないしは母がいないことが非行を促進する度合いが高いのは,男子でしょうか,それとも女子でしょうか。また,年少者と年長者ではどうでしょう。
まずは,2010年中に検挙・補導された非行少年の両親の状態がどういうものかを観察することから始めましょう。前回同様,「両親ありの者」,「父なし母ありの者」,および「母なし父ありの者」という3カテゴリーでみることにします。
下の表は,非行少年の性別や在学学校種ごとに,これら3カテゴリーの構成比を計算したものです。統計のソースは,警察庁『犯罪統計書-平成22年の犯罪-』です。厳密には,この3グループの他に,「両親なしの者」,「両親の状態が不明な者」がいるのですが,これらはほんの微々たる量ですので,計算から除外することとします。
どの属性でみても,通常家庭の者が最も多くなっていますが,このグループの比率は,男子よりも女子,年長者よりも年少者で小さいようです。逆にいえば,女子や年少の非行少年では,母子家庭ないしは父子家庭の者が相対的に多いことになります。
上記の構成比のデータを,母集団のそれと照らし合わせてみましょう。前回みたように,2010年における,子ども(20歳未満)がいる世帯の構成は,両親ありの世帯が90.3%,母子世帯が8.1%,父子世帯が1.5%,です(総務省『国勢調査報告』)。
非行少年の出身家庭の構成は,社会全体の世帯構成から大きく隔たっています。上表にみるように,男子の非行少年では父子家庭の者が6.7%を占めますが,社会全体では,父子家庭は全体の1.5%しか占めません。
つまり,男子でいうと,父子家庭からは,通常期待されるよりも4.39倍多く非行少年が出ていることになります(6.7/1.5≒4.39)。非行少年中の構成比を,子どもがいる世帯(母集団)中の構成比で除した値を,非行少年輩出率と呼ぶこととします。
両親の状態による非行少年輩出率の差が,男子と女子,年少者と年長者でどう違うかが,ここでの関心事です。
性別でいうと,両親の状態による非行少年輩出率の差は,男子よりも女子で大きいようです。女子では,通常家庭の値は0.67ですが,母子家庭になると4.00に跳ね上がります。男子の増加幅は,これよりも緩やかです(0.72→3.48)。でも,父子家庭になると,非行者輩出率は男女でほぼ等しくなります。
次に学校段階別でみると,通常家庭と母子家庭の断絶は,小・中学生で大きいことが知られます。高校以降は,直線の傾斜が相対的に緩やかです。大学生になると,非行少年の出る確率は,両親の状態とあまり関係しなくなります。大学生(18,19歳)は半ば大人で,親の庇護から離れている者が多いからでしょう。
大局的にいうと,非行少年の出る確率が両親の状態に規定される度合いが高いのは,男子よりも女子,年長者よりも年少者であるようです。
自我が未熟な年少少年において,家庭環境の影響が大きいことは首肯できます。男女の違いについては,解釈がなかなか難しいのですが,女子は母子家庭,男子は父子家庭であることのダメージが相対的に大きいことからして,異性の親がいないことのインパクトがうかがれます。
異性の親をめぐる競争相手として,同性の親を激しく嫌悪するエディプス・コンプレックスを指摘したのはフロイトですが,それを引きずってしまうのでしょうか。家庭環境と非行の関連が性によってどう異なるかという問題について,何か説明はないものかと,いろいろ探査したのですが,これがないのです。未開拓なテーマなのかしらん。
次回は,家庭環境と非行の関連が,性と年齢を組み合わせた属性によってどう異なるかを明らかにしようと思います。