ページ

2012年1月5日木曜日

両親の状態と非行①

非行の原因として,家庭環境の問題が大きいことは,よく指摘されるところです。少年非行のテキストを開くと必ず,「家庭環境と非行」という類の章(chapter)が設けられています。

 家庭環境と非行の関連は,多様な側面から考察しなければならないのですが,ここでは,両親の状態がどうかという,外的な形態面に焦点を当てようと思います。両親がいる者と,父母のいずれかがいない者とで,非行を犯す確率がどれほど違うか,という問題を立ててみます。

 警察庁が毎年発刊している『犯罪統計書』には,警察に検挙・補導された少年の数が,両親の状態別に掲載されています。*14歳以上の犯罪少年の場合は「検挙」,14歳未満の触法少年の場合は「補導」といいます。

 2010年の資料によると,同年中に検挙・補導された非行少年は103,573人です。両親の状態の構成をみると,①「両親あり」の者が65,791人,②「母あり父なし」の者が29,843人,③「父あり母なし」の者が6,893人,④「両親なし」の者が835人,⑤「不明」の者が211人,となっています。
http://www.npa.go.jp/archive/toukei/keiki/h22/h22hanzaitoukei.htm

 ①が全体の63.5%と多くを占めています。しかし,少年全体(母集団)でみても「両親あり」という者が大半でしょうから,当然といえば当然です。各グループから非行少年が出る確率を明らかにするには,それぞれのグループの非行者数を母数で除した出現率を計算する必要があります。

 2010年の『国勢調査報告』によると,20歳未満の子どもがいる母子世帯(他の世帯員がいる世帯を含む)は1,081,699世帯だそうです。20歳未満の子どもがいる父子世帯は204,192世帯です。これらは,②と③の母数として使えます。①については,20歳未満の子どもがいる全世帯数(13,306,961世帯)からこれらを差し引いて得られる,12,021,070世帯を母数として充てることとします。

 ④の「両親なし」のグループについても,非行者出現率を出したいのですが,このグループの母数は明らかにしようがないので,見送ることとします。では,①から③の各グループについて,非行者数を母数(世帯数)で除した,非行者出現率を計算してみましょう。


 結果は,上表のようになりました。通常家庭<母子家庭<父子家庭,という構造になっています。母子家庭は通常家庭の5.0倍,父子家庭は6.2倍です。両親の状態により,非行を犯す確率が異なるであろうことは予想されることですが,これほどの差があるとは。また,父がいないことよりも,母がいないことのほうのダメージが大きいことも,私にとっては発見です。

 次に,罪種ごとの数字を出してみましょう。一口に非行といっても,いろいろな罪種があります。グループ間の差が大きいのは,どの罪種でしょうか。昨年の10月30日の記事では,どういうタイプの高校に行っているか,高校に行っているか否かの差をみたのですが,凶悪犯のようなシリアスな罪種ほど,グループ間の差が大きい傾向が観察されました。両親の状態別にみても,こういう傾向がみられるかしらん。

 下表は,各グループの罪種ごとの検挙・補導人員数を,上表の母数で除した出現率を整理したものです。


 非行の多くは万引きのようなコソ泥ですので,出現率の絶対水準は,窃盗犯で高くなっています。その次が粗暴犯(暴行,傷害,脅迫,恐喝)です。グループ間の差の構造は,どの罪種でみても,先ほどみた全体のものと同じになっています。通常家庭<母子家庭<父子家庭,です。

 では,差の規模はどうでしょう。マジョリティーの窃盗犯の場合,通常家庭からの出現率を1.0とした指数を出すと,母子家庭は4.9,父子家庭は6.1です。他の罪種についても同じ処理をし,結果を図示すると,下図のようになります。


 各グループの値を結んだ線の傾斜がきついほど,差が大きいことを意味します。図をみると,両親の状態の影響は,粗暴犯や凶悪犯で相対的に大きいようです。粗暴犯は,通常家庭と母子(父子)家庭の断絶が明確です。凶悪犯(殺人,強盗,強姦,放火)の出現率は,通常→母子→父子,というように直線的に増える傾向です。父子家庭から凶悪犯少年が出る確率は,通常家庭の8.2倍にもなります。

 巷でよくいわれることではありますが,非行少年の出現率は,罪種を問わず,家庭環境(両親の状態)と関連しているようです。

 ところで,今回みた3グループの世帯数の構成は,通常家庭が90.3%,母子家庭が8.1%,父子家庭が1.5%,です。父子家庭は相当のマイノリティーです。わが国では,夫婦が離婚した場合,母親が子を引き取るケースが圧倒的に多いので,このような構造になっています。しかるに,量的には少ないこの父子家庭から,非行少年が出る確率が最も高くなっています。

 親の一方がいないといっても,母がいないことと父がいないことでは,非行に対するインパクトが異なることがうかがわれます。この点について,何か説明はないものかと,手元の犯罪社会学や非行関連の文献にあたってみたのですが,残念ながら言及はありませんでした。

 もう少し,細かい数字をいじってから考えるほうがよいでしょうか。次回は,両親の状態と非行の関連の様相が,子どもの性別や発達段階によってどう異なるかをみてみようと思います。