1月24日の記事でみたように,東大生の親の職業には,かなりの偏りがあります。具体的にいうと,管理職層や専門・技術職層への偏りが顕著です。このことは,最高学府への進学機会が出身階層によってかなり規定されていることを示唆しています。
今回は,東大生の出身地域をみてみようと思います。出身地域は,出身階層に劣らず,個々人のライフ・チャンスを規定する重要な因子です。東大への進学ということでいえば,それを有利ならしめる有名私立校や予備校などが,都市部に偏在していることは,まぎれもない事実です。
そうである以上,東大生の多くは,都市的な地域の出身者でないでしょうか。私は地方出身者ですが,こういう地域格差の問題については,以前より関心を持ってきました。ちなみに,私の博論の題目は,『高等教育就学機会の地域間格差に関する実証的研究』です。
https://ir.u-gakugei.ac.jp/handle/2309/58567
東京大学が毎年実施している『学生生活実態調査』から,東大生の出身家庭の所在地(以下,出身地域)を知ることができます。2010年調査のデータをもとに,東大生の出身地域の分布をみると,東京が27.0%,関東(東京を除く6県)が31.5%を占めています。東大生のおよそ6割が,関東地方の出身者ということになります。
http://www.u-tokyo.ac.jp/stu05/h05_j.html
これは,人口の分布とかなり隔たっているものと思われます。2010年の総務省『国勢調査』から分かる人口分布と,東大生の出身地域の分布を照合してみましょう。
人口の分布と,東大生の出身地域の分布はかなりズレています。東京の場合,人口中では10.3%しか占めませんが,東大生の出身地域という点でいうと,全体の27.0%をも占有しています。東北のシェアは,人口中では7.3%ですが,東大生の中ではほんの2.9%です。
上表のaをbで除すことで,各地方から東大生が出る確率の近似値を計算することができます。東大生輩出率と呼びましょう。この値が1.0を超える,つまり通常期待されるよりも高い確率で東大生を出しているのは,東京と関東だけです。東京の輩出率は2.63にもなります。反対に,人口分布を勘案した場合,北海道や東北からの東大生輩出率はすこぶる低いと判断されます。
次に,都市規模という観点を据えてみます。2010年の東大の上記調査から,東大生の出身地域の規模をみると,大都市(人口100万以上)が43.8%,中都市(10万以上100万未満)が41.6%,小都市(10万未満)が11.7%,郡部(町村)が2.8%,となっています。
この分布が,人口の分布とどれほど異なるかをみてみましょう。
東大生の43.8%は大都市の出身者ですが,人口統計でいうと,大都市の居住者は22.5%にすぎません。つまり,大都市からは,通常期待されるよりも1.95倍多く東大生が出ている計算になります。逆に,郡部から東大生が出る確率は,期待値の3分の1以下です。ここでも,東大生の出身地域の偏りが明らかです。
むーん。1月24日の記事の知見も総合して考えると,東大生の出自は,富裕層や都市地域出身者に明らかに偏しています。エリート予備軍の組成が,社会全体の縮図から程遠いというのは,いかがなものでしょう。
今回みたのは,東大生の出自ですが,社会の指導者層についても同様の調査をしてみたいものです。麻生誠教授の『エリートと教育』(福村出版,1967年)は,『人事興信録』をもとに,エリートの社会的構成を明らかにした古典的研究ですが,現在でも,同じことができるのかしらん。いや,個人情報云々がうるさくなっているから,そういう資料はもうないのだろうなあ。