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2012年3月16日金曜日

私大の定員充足率の変化

ようやく春らしくなってきました。みなさま,いかがお過ごしでしょうか。暖かくなるにつれて,浮足立ってくる人が多いと思いますが,焦りが押し寄せてくる人種もいます。一部を除く私立大学の関係者は,後者に該当するのではないでしょうか。

 偏差値の低い私立大学のサイトをみると,「まだ間に合う!AO入試出願者募集中」,「電話一本で資料を速達郵送(無料)」,「その日のうちに合否判定」といったフレーズが,でかでかとトップページに掲げられています。桜が咲き,入学式の当日を迎えるまでに,何とか定員を満たそうとシャカリキになっている様が見受けられます。

 定員を満たさないと,お上から叱られたり,補助金を減らされたりと,いろいろ大変であるそうな。しかし,このご時世です。少子化により,主要な顧客である18歳人口はどんどん減ってきています。その一方で,大学の数は増えています。こういう状況では,定員割れを起こす大学が出てくるのは不可避です。はて,私大や短大の定員充足状況は如何。定員割れを起こしている大学の量は?。メディア経由の情報ではなく,原資料に当たって確認してみようと思います。

 日本私立学校振興・共済事業団は,毎年,全国の私立大学・短大の入学定員充足状況を調査しています。2011年度(同年春入学者)の状況が明らかにされているのは,大学は572校,短大は338校です。文科省『学校基本調査』から分かる,同年5月1日時点の私立大学は599校,短大は363校ですから,母集団の9割以上が掬われていることになります。公的な事業団による調査であるためか,回答率が高いことが特徴です。

 同事業団の『平成23年度 私立大学・短期大学等入学志願動向』という資料から,1989年度以降の入学定員充足率を知ることができます。入学定員充足率とは,入学者が定員の何%に当たるか,とういう指標です。この値が100%を下回る場合,定員割れを起こしていることになります。
http://www.shigaku.go.jp/files/nyuugakushigan_2011.pdf

 全国の私立大学と私立短大の定員充足率の推移をたどってみましょう。下表をご覧ください。


 大学・短大ともに,定員充足率が下がってきています。大学の場合,入学者は増えているのですが,それを上回るペースで定員が増えていることが原因です。少子化にもかかわらず,大学や学部の新設が相次いでいるのは,周知のところです。大学の定員充足率は,1990年度が123.6%,2000年度が113.7%,2011年度が106.4%と,落ちてきています。

 次に短大をみると,こちらは状況が深刻です。大学と違って定員は減少していますが,それ以上の速さで入学者が減じています。短大の入学者は,18歳人口がピークであった1992年度は23万8千人でしたが,2011年度は6万5千人ほどです。4分の1近くまで萎んだことになります。

 短大の定員充足率は,1990年度は130.5%と大学を凌駕していましたが,1999年度には100%を割り,2011年度では90%を下っています。短大の場合,ここ10年ほど,定員割れの状態が続いています。受験者の4大志向の高まりもあるのでしょう。短大の閉鎖や4大への鞍替えがなされるのも,故なきことではありません。

 以上は全体の動向ですが,個々の大学ごとにみれば,様相は多様でしょう。充足率が120%を超える「ウハウハ」の大学もあれば,入学者が定員の8割にも届いていない大学もあると思われます。2011年度の定員充足率の分布をとってみました。私立大学572校,私立短大338校の分布です。


 大学では「110%~119%」,短大では「100%~109%」の階級が最も多くなっています。定員割れを起こしているのは,大学は223校,短大は225校です。全体に占める比率は,39.0%,66.6%となります。大学では4割,短大では7割弱が定員割れの状態です。短大は,全体の3割が充足率80%未満であることも付記しておきます。

 最後に,上表のような充足率分布がどう変化してきたのかをみておきましょう。階級を細かくするとグラフがぐちゃぐちゃになるので,「120%以上」,「100%以上120%未満」,「80%以上100%未満」,「80%未満」,という4つの階級区分の構成割合の変化を観察します。


 左側が短大,右側が大学です。いかがでしょう。120%超(青色)の比重が時代とともに減り,代わって,緑色,さらには怪しい紫色の領分が大きくなってきます。私立短大で,定員割れの学校の比率が半分を超えたのは,1999年度のことです。私立大学で,その比率が初めて3割を超えたのは2001年度のことです。

 今後の動向は如何。グラフを下に延ばしたら,どういう模様になるでしょうか。短大については,緑色や紫色の面積が大きくなっていくことと思います。大学では,もしかすると,学校間格差の拡大により,青色と紫色の比重が増え,中層部が薄い構造になってくるかもしれません。

 明治大学では,2012年度の一般入試の志願者数が11万2,342人に達し,日本一だったそうです。11万人・・・すごい。その一方で,定員の半分も学生を集めることができない大学もあり。確実にいえるのは,大学淘汰の時代になってくることです。いや,もうなってます。
http://www.asahi.com/edu/center-exam/TKY201202090488.html

 最後に,短大について一言。短大は,4大に比べれば大都市への集中度が低く,立地の地域間分散の度合いが高い教育機関です。こういう条件を活かして,米国のコミュニティ・カレッジのごとく,地域の生涯学習のセンターとしての役割を強めていく戦略も考えられます。この点については,天野郁夫教授がどこかで言われていたような気がします。『学習社会への挑戦』(日本経済新聞社,1984年)だったかな。

 いずれにせよ,余暇社会・生涯学習社会という時代状況にマッチした,柔軟な制度転換がなされなければならないことは間違いありますまい。