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2012年4月1日日曜日

教員の離職率(2009年度)②

今回は,2009年度の教員の離職率を,性別・年齢層別に出してみようと思います。ここでいう離職率とは,「病気」もしくは,メジャーな理由に括られない「その他」の理由で離職した教員の数を,本務教員数で除した値です。教員の脱学校兆候を測る指標として考案したものであります。

 分子の離職者数の出所は,2010年の文科省『学校教員統計調査』です。この資料から,2009年度の離職者数を把握することができます。分母の本務教員数は,同省『学校基本調査』から採取したもので,同年5月1日時点の数字です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016172

 なお,年齢層別の離職率の計算に際して分母とした使った年齢層別の教員数は,2010年10月1日時点の数値です。年齢層別の教員数が分かるのは,『学校教員統計調査』の実施年に限られますので,このような措置をとったことをお許しください。まあ,1年程度のラグなら問題はないと思われます。

 あと一点,2009年度の「その他」の理由による離職者数は,原資料でいう「家庭の事情」,「職務上の問題」,「その他」の3カテゴリーの合算値です。2006年度までの離職者数調査では,これら3つは「その他」のカテゴリー下に一括されていました。過去のデータとの整合性を保つための措置です。

 まずは,公立小学校教員の性別・年齢層別の離職率を計算してみましょう。単位は‰です。本務教員千人あたり離職者が何人か,という意味です。


 性別でみると,男性よりも女性の離職率が高くなっています。ほぼ倍の差があります。女性教員の場合,結婚退職が多いのではないかといわれるかもしれませんが,育児休業制度などが充実している教育公務員の場合,それは少ないのではないでしょうか。

 昨年の5月8日の記事でみたように,両性の離職率の時系列曲線は近似しています。このことは,男性教員と女性教員の離職の原因が似通ったものであることを示唆しています。

 次に,下段の年齢層別の離職率をみると,20代の若年教員の離職率がダントツで高いようです。25.1‰=2.5%ですから,20代では,40人に1人の割合で離職者が出たことになります。

 なお,離職率が最も低いのは40代の中堅教員です。3月22日の記事でみたところによると,精神疾患による休職率は40代で最も高いのですが,これはどういうことでしょう。40代は,子どもと老親という,上下の扶養家族に挟まれた「サンドイッチ世代」です。それだけになかなか離職に踏み切ることができず,休職という対応をとる教員が多いのではないでしょうか。20代は,このような縛りがないので離職率が高い,ということも考えられます。

 年齢層別の離職率と休職率は対照的なのですが,もしかすると,両者はトレードオフの関係にあるのかもしれません。

 続いて,公立中学校と公立高校の属性別離職率も観察してみましょう。結果を,折れ線グラフの形に凝縮してみました。


 男性よりも女性の離職率が高いのは,どの学校でも同じです。高校教員の離職率が相対的に低いのは,前回でも明らかにした通りです。

 年齢層別でみても,曲線の型は小・中・高とも共通しています。20代で最も高く,40代で最も低い型です。しかし,傾斜の度合いは,学校種によって違っています。とくに目をひくのは,中学校の20代の離職率が格段に高いことです。35.3‰,およそ28人に1人です。高校でも,20代の離職率は小学校を上回っています。中等教育機関の若年教員の危機がうかがわれます。

 一方,40代の中堅期を過ぎると,離職率は小学校で最も高くなります。小学校では女性教員が多いのですが,老親の介護という理由で教壇を去る中高年の女性教員も多かったりして。

 もう少し分析を深めてみましょう。前回の記事にて,最近3年間で,小・中学校教員の離職率が大きく伸びていることを突き止めたのですが,それはどの属性で顕著なのでしょう。小・中学校教員の性別・年齢層別の離職率を,2006年度と2009年度で比べてみました。


 この3年間の離職率の増加倍率が高いのは,小学校では,女性および高齢層です。50代では,7.4‰から11.4‰と,1.55倍に増えています。うーん,やはり高齢女性教員の介護退職の増加という事情があるのかもなあ。

 中学校で離職率の伸びが比較的大きいのは,男性,若年層です。中学校の20代の離職率は,この3年間で10ポイント近くも増えています。教員の年齢構成からすると,中学校は,小学校に比して若年教員の比重が小さいのですが,量的に少ない彼らに圧力が大きくかかるのでしょうか。難しい年頃の中学生を指導するにあたっては,やはり経験がモノをいうのでしょうか。

 いろいろ想像をめぐらすことができますが,離職率の地域差分析をしてみることで,事態の深層に接近できるかもしれません。離職率が高いのはどういう地域か。この点を明らかにしてみるのも有益かと存じます。