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2012年8月22日水曜日

パラサイト・シングル率

 表題の言葉をご存知でしょうか。「パラサイト」とは,寄生を意味します。「シングル」は独身者です。両者を合わせた熟語を訳すと,「寄生する独身者」となります。

 何に寄生するかというと,親に対してです。自立が期待される年齢になっても親と同居し続ける独身者。山田昌弘教授は,現代日本において,このような人種が増えていることを明らかにしてみせました。1999年に刊行された『パラサイト・シングルの時代』は大ベストセラーとなり,以後,『国勢調査』において,親と子の同居・非同居に関する集計がなされるようになっています。
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480058188/

 山田教授は,現代日本で進行する未婚化の原因を,このパラサイト・シングルの増加に求めています。親と同居していれば,家賃や食費など,生活の基礎経費は浮きます。よって,給料のほとんどを自分の小遣いに充てることができます。統計でみても,未婚の親同局者は,結婚して離家している既婚者に比べて,経済的ゆとり度や精神的ゆとり度が高いとのこと(上記文献,77頁)。

 このようなリッチな生活にどっぷりつかっていると,結婚して離家しようという欲求は当然下がってきます。言いかえると,結婚することに対する要求水準が高まってきます。とくに女性の場合,結婚相手の男性が,現在の(優雅な)パラサイト生活と同水準の生活を保障してくれるか,ということに関心がいきます。

 しかるに,このご時世です。そのような「白馬の王子様」にはなかなか巡り会えません。以前,電車の週刊誌のつり広告で,「20代の女性が結婚相手に求める年収は600万円」というフレーズを目にしたことがありますが,冗談ではありません。若い男性で,そんなに稼いでいる人間はほんの一握りでしょう。しからば結婚は見送りということで,いつまでも実家に居座り続けるパラサイト・シングルが増殖することになります。

 なるほど。現在進行している未婚化は,個々人のこうした行為の集積の結果であるといえなくもありません。

 ひるがえって昔はどうであったかというと,状況は違っていました。たとえば,私の好きな『三丁目の夕日』は1950年代後半の物語ですが,当時は多くの家庭の生活水準が低く,かつ兄弟数も多かったので,よほど裕福な家でない限り,実家の一室をわが物にするなどはできませんでした。また,「あそこの**ちゃん,まだ結婚しないの?」というような近隣の目も厳しかった頃です。

 しかし,もっと大きかったのは,結婚して離家したとしても,生活水準の上昇が望めたことです。高度経済成長への離陸期にあった当時,時期による凹凸はあったにせよ,総じて,(男性)労働者の給与が右肩上がりに上がっていました。

 このような状況の中,多くの若者が積極的に家を出て,結婚に踏み切っていたとみられます。ですが,現在ではそのような条件は完全に失われているとみるべきでしょう。その結果が,山田教授のいうようなパラサイト・シングルの増加となって表れています。

 さて,現代日本では,どれくらいパラサイト・シングルがいるのでしょう。先に述べたように,最近の『国勢調査』では,親と子の同居・非同居の集計がなされています。最新の2010年の調査結果によると,20~49歳の未婚親同居者は1,275万人です。ほう,東京都の人口に匹敵するくらいの数ですね。同年齢人口に対する比率は26.2%なり。若年から中年の4人に1人以上が,パラサイト・シングルであるとみられます。

 もっと細かいデータもみてみましょう。下表は,最近10年間の変化と性別比較も織り交ぜたものです。『国勢調査』の結果をもとに作成したものです。


 男女とも,パラサイト・シングルの実数は減じていますが,人口あたりの比率はやや増えています。性別でみると,男性のほうが出現率が高いのですね。これは意外です。

 しかるに,年齢別にみると様相は違います。下図は,2000年と2010年について,パラサイト・シングル率年齢曲線を描いたものです。男女で図を分けています。


 当然ですが,パラサイト・シングルは加齢とともに少なくなっていきます。近年の変化に注目すると,20代の頭と30代以上の中年層で,出現率が上がっています。20代の頭は短大や大学の卒業年齢ですが,昨今の不況により就職が叶わず,実家に居続ける者が増えているためでしょう。

 しかし,30以上の中年層で率が上がっているのが気がかりです。伸び幅が最も大きいのは30代後半男性で,14.6%から21.2%へと増えています。むーん。私の年齢層です。

 2010年の30~40代の中年パラサイト・シングルは約575万人。定職があるならまだいいですが,それがなく,何から何まで親に依存している「無職中年パラサイト・シングル」がその多くを占めるとしたら,空恐ろしい思いがします。

 親が元気なうちはいいですが,やがて介護が必要になった時,亡くなった時に,どういう事態になるか。もう身辺の世話をしてくれる人はいません(逆に世話を求められます)。家を継ぐとしたら,相続税を払わねばなりません。山田教授の比喩を借りると,今つかっている心地よい「ぬるま湯」が冷めて「水風呂」になる時期は確実にやってきます(上記文献,184頁)。

 わが国で進行する未婚化を食い止めるため,今述べたような悲劇的な結末を迎える中高年が増えるのを防ぐためになすべきことを,山田教授はいくつか提言されています。その中の一つに,「親同居税」の創設というものがあります(191頁)。親との同居を,自室の提供や家事の提供というような「贈与」を受けることとみなし,税を払わせようというものです。提案額はおよそ10万円なり。

 税額はどうであれ,この制度が施行されれば,離家して結婚に踏み切る若者は増えてくるでしょう。そうならずとも,いい年をして実家に住まわせてもらっているのは「贈与」を受けていることなのだと,自覚する者が増えてくるのは確かだと思います。

 金持ちにも貧乏人にも一律に課される消費税の増額よりも,こういう面での課税を考えてみてはどうかという気もします。むろん,同居の理由が,親の介護をしているとか,家業を手伝っているとかいう場合は別です。

 パラサイト・シングルは未婚化や少子化の元凶であるばかりでなく,昨今の経済不況にも関与しているとか。詳細については,山田教授の上記文献をご覧ください。刊行されてからだいぶ経っていますので,お近くの図書館に所蔵されているかと思います。