前々回の記事では,年齢層別の生活保護受給率を計算しました。そこで分かったのは,高齢層の受給率が高いことです。最も高い70代では27.3‰という値でした。千人あたり27.3人。つまり,37人に1人が保護を受けていることになります。
7月13日の記事では,老後の生活設計のことで悩む国民が増えていることを,世論調査のデータから明らかにしました。なるほど,そうした悩みは杞憂というわけではなさそうです。
老後の生活の頼みは年金ですが,それだけでは足りず,仕事を探しても年齢を理由に断られる・・・。こういう人も多いのではないでしょうか。今はまだしも,2050年には,65歳以上の高齢者が4割という社会になります。その時,どういう状況になっていることか。
他の年齢層に比して高い水準にある,高齢者の生活保護受給率ですが,県別の値を出すとどうでしょう。全国統計では20‰(2%)台というところですが,細かい地域別にみると,もっとスゴイ値が出てくるかもしれません。
私は,65歳以上の生活保護受給率を都道府県別に計算してみました。60歳以上ないしは70歳以上にしようかとも思いましたが,人口統計の上で高齢者と括られるのは65歳以上ですので,ひとまず,この基準に従うことにします。
2010年の厚労省『全国被保護者全国一斉調査』から,同年7月1日時点における,65歳以上の被保護人員数を県別に知ることができます。この値を,『国勢調査』から分かる各県の65歳以上人口で除して,65歳以上の生活保護受給率を県別に出しました。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/74-16.html
下表は,結果の一覧です。政令指定都市の分は,当該都市が所在する県の分に含めています。たとえば,横浜市や川崎市の数は,神奈川県の分に組み入れています。
最下段の全国値は25.3‰ですが,県別にみると,これをはるかに凌駕するスゴイ値が散見されます。最高は大阪の54.6‰です。百分率にすると5.46%,すなわち18人に1人が生活保護受給者という計算になります。
その次は沖縄の47.8‰です。「ゆいまーる」の沖縄ですが,高齢者の生活保護受給率は高いのですね。ほか,40‰(4%)を超えるのは,北海道,東京,および福岡となっています。これだけからすると都市地域で率が高いように思えますが,全県のデータを勘案すると,そう単純な構造でもなさそうです。
さて,高齢者の生活保護受給率1位の大阪ですが,府内の内部でみると,府庁所在地の大阪市の率が最も高いといわれています。上記の厚労省資料から分かる,同市の65歳以上の被保護人員は58,480人です。ベースの65歳以上人口は598,835人。よって,生活保護受給率は97.7‰(9.77%)となります。全国値の4倍近くです。この市では,高齢者10人に1人が生活保護を受けていることになります。これはおそらく,全国で最も「スゴイ」値でしょう。
大阪市は,生活保護の現状について大変な危機意識を持っており,不正受給・貧困ビジネスの撲滅や受給者の就労支援強化といった構えを明言しています。なるほど。べらぼうに高い数値の裏には,不正受給や貧困ビジネスのような問題があるようです。
http://www.city.osaka.lg.jp/fukushi/page/0000086801.html
なお,上記サイトでは,「生活保護の制度疲労」ということがいわれており,1950年に創設された現行の制度が現代の時代状況にそぐわなくなっていることを,図でもって解説しています。相互扶助の慣行が強かった創設当時では,生活保護は「最後のセーフティネット」でしたが,現在では「たった一つのセーフティネット」と化しているとのこと。言い得て妙であると思います。
これから先,「10人に1人」という状況が全国に波及していくかもしれません。しかし,その時が,社会の抜本的変革の時であるともいえます。「私の未来社会設計」という懸賞でも設けて,2050年の社会を描いた小説を公募するなどしてみてはどうでしょう。もしかすると,奇抜なアイディアが出てくるかもしれません。自殺幇助を合法化する自殺自由法が制定された社会を描いた,戸梶圭太さんの『自殺自由法』(中公文庫,2007年)は,ちょっとスパイスが効き過ぎた作品ですが。