前期の担当授業は終わりましたが,今年は受講生の中に4年生が結構いました。リクスーで出てくる子がほとんどでしたが,ずっと普段着だった子も数名。
大学院に行くのかなと思い,卒業後の進路志望を尋ねたところ,一人の男子学生は「センモン行きます」と明言してくれました。ここでいう「センモン」とは,専修学校の専門課程のことです。一般には,専門学校といわれています。
専修学校は学校教育法第1条に規定されている正規の学校ではありませんが,大学等と並ぶ中等後教育機関の一つであり,実践的な職業教育を施す学校です。専修学校には,中卒者を対象とする①高等課程,高卒者を対象とする②専門課程,入学資格を問わない③一般課程がありますが,学生の大半は②に在籍しています。
上記の学生は,デザインの勉強を本格的にやりたいとのこと。「でも,大学でやったことがもったいなくね?」と揺さぶりをかけてみると,「いやあ,大学の自由な時間の中でやりたいことを見つけられたんだから,別にいいっすよ。それに大卒の学歴もつくし」という答え。なるほど。そういう考え方もありますか。
全国の大学のキャンパスにも,こういう学生さんが結構いるのかもなあ。文科省の『学校基本調査』をみると,専修学校専門課程の入学者のうち,大卒学歴を持つ者(大学卒業者)がどれほどいるかが載っています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm
私が大学を出た1999年春から現在までの推移を跡づけてみました。もっと前まで遡りたいのですが,ネット上でみれるのはこの年までのようです。
高卒者の大学進学率の高まりもあって,入学者全体は減じてきていますが,大学を出てから入ってきた者は,おおむね増加の傾向にあります。1999年では11,068人だったのが,2012年では17,705人にまで増えています。
その結果,入学者に占める大卒者の割合はアップしており,現在では6.7%,およそ15人に1人が大卒者です。これから先,この数値がさらに高まり,「専門学校は,大学での『自分探し』を経た青年に,実践的な職業技術を授ける学校だ」などといわれるようになるかもしれません。
これは極端な予測ですが,大卒者の進路統計にも当たってみましょう。最近は,『学校基本調査』の進路カテゴリーが細かくなっており,「専修学校・外国の学校等入学者」というものが設けられています。このうちのほとんどは専修学校専門課程への入学者でしょう。
2012年春の大卒者は558,692人。このうち,上記カテゴリーに割り振られているのは11,173人です。よって,大卒者の専修学校等入学率は2.0%と算出されます。なお,この値は設置主体や専攻によって変異します。下表にて,その様をみていただきましょう。
国公立よりも私立大学で率が高くなっています。専攻別にみると,芸術系,人文科学系,および学際系(その他)において率が高し。む-ん,分かる気がする。先ほど紹介したのは,私立の人文系の学生さんです。「自由な時間の中」で,デザインをやりたいという志望を固めた学生さんです。
ちなみに,上表の専攻系列の下にある小専攻ごとにみると,もっと高い率が観察されます。私立芸術系の音楽(7.4%),学際系の教養学(7.0%),人文科学系の哲学(5.5%)など。教養学や哲学専攻では,思索にふける時間が多く得られるでしょうしなあ。
あと一点,地域差もみてみましょう。各県の大卒者のうち,専修学校等に入学した者が何%いるかを出し,地図をつくってみました。
首都圏,近畿,および九州で率が高くなっています。地域性がくっきりと出ていますね。都市部では専修学校が多いからでしょうが,九州で「再入学率」が高いのはどうしてでしょう。なかなか就職が無く,需要のある分野の技能を身につけようと,看護専門学校等に行く大卒者が多いのかしらん。
スタジオジブリの『耳をせませば』(1995年)の中で,主人公の雫が「お姉ちゃん,進路決まった?」と尋ねたところ,姉は「それを探すために大学に行っているの」と答えています。この言は,今の大学生の心の内を的確に言い表していると思います。
今回のデータをもって,大学教育の機能不全の証左とみるか。それとも,大学は自己アイデンティティの模索の場でもあることにかんがみ,大学の「小・中・高校化」とでもとれるような,締め付け一辺倒の政策だけではいけない,という主張につなげるか。考え方はいろいろでしょう。
役割模索期としての青年期が,いたずらに長くなることを歓迎するのではありませんが,私は,どちらかといえば後者に近い考えを持っています。