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2013年9月2日月曜日

若年正社員のブラック企業勤務者率

 今や,現代日本の流行語にもなっている「ブラック企業」。「労働者を酷使・選別し,使い捨てにする企業」のことですが(コトバンク),「酷使・選別・使い捨て」の対象にされるのは,新たに入社してくる若年社員であるといわれます。

 未来の日本を背負って立つ若年労働力を使い潰すブラック企業は,社会全体にとって大きな問題を孕んでいるといえるでしょう。今野晴貴さんによる「日本を食い潰す妖怪」という形容は,実に的を射たものなり(『ブラック企業』文春新書,2012年)。

 今月から厚労省がこの「妖怪」退治に乗り出すそうですが,徹底した摘発を行っていただきたいと思います。

 さて,このように問題視されているブラック企業ですが,数でみてどれほど存在するのでしょうか。あいにく,この点に関する統計はないようです。まあ,企業に社員の労働時間を尋ねても,正直に答えるわけありませんものね。

 記録の提出を求めても,記録そのものが改ざんされている可能性もあります。昨日のNHKニュースでは,「店の営業時間は午後8時までなのに,従業員全員が午後6時半に帰宅したようにタイムカードを打刻させられ,サービス残業をしている」という証言が紹介されていました。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130901/k10014201311000.html

 しからば手はないかというと,そうではありません。労働者の側の申告に基づいて作成された統計を使えばいいのであり,総務省『就業構造基本調査』の年間就業日数・週間就業時間の統計は,これに該当します。会社の就業規則上の数値などではなく,各人が実際にどれほど働いたかを赤裸々に知ることができます。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 私は,20代正社員の「年間就業日数×週間就業時間」のクロス表から,年間300日以上かつ週75時間以上働いている者の数を取り出しました。年間300日ということは月あたり25日,週6日就業です。その6日間で75時間働くとなると,1日12~13時間就業となります。

 要するに,「週6日,1日12時間以上」働いている者です。完全な労基法違反。昨日の読売新聞Web版に,「社長から『プライベートはないものと思え』と言われ,毎日,深夜までの勤務を強いられた。週末の出勤も多く・・・」という経験者の談話が載っていましたが,このレベルの過重勤務を強いられている者の統計量とみなせるでしょう。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130901-OYT1T00034.htm?from=tw

 ここでは,上記の基準以上働いている正社員をして,ブラック企業勤務者とみなすことにします。就業日数(時間)という観点だけからした,ラフな抽出です。

 2012年の『就業構造基本調査』の結果によると,20代の正規雇用就業者は617.1万人。このうち,年間300日以上かつ週75時間以上働いているブラック企業勤務者は6.7万人ほど。よって,20代正社員のブラック企業勤務者率は10.8‰となります。千人あたり10.8人,だいたい100人に1人です。

 20代の若年正社員100人に1人がブラック企業勤務者。予想よりもちょっと少ないかなという印象ですが,高めのラインを設定しましたので,まあこんなところでしょうか。

 これは全国値ですが,地域別の実態も観察してみましょう。上記の意味でのブラック企業勤務者が20代正社員のうちどれほどいるかを,都道府県別に計算しました。下表は結果の一覧です。黄色は最高値,青色は最低値です。上位5位の順位は赤字にしました。


 若年正社員中のブラック企業勤務者率は,県によって相当違っています。最高は埼玉の21.5‰であり,47人に1人です。最低は岩手で1.9‰,こちらは526人に1人です。

 これは両端ですが,埼玉の他にも2ケタの数字はちらほらあり,地域的に固まっているようにも思えます。こうした地域構造を可視化するには地図化が一番。2‰の区分に依拠して,47都道府県を塗り分けてみました。10‰超はブラックにしています。色のごとく,ブラック県です。


 ブラック県は点在していますが,北関東,近畿,そして九州というように,その塊のゾーンも見出すことができます。うーむ。わが郷里の九州にて,若年正社員のブラック化が進んでいるのが気にかかる。

 上述のように,厚労省が今月からブラック企業摘発に乗り出すのですが,大阪が重点的なターゲットとされているそうです。失業率が高い当府では労働者の立場が弱く,やりたい放題のブラック企業が蔓延っている度合いが高いであろう,という想定とのこと。

 しかるに上図によると,重点をおくべき地域は他にもあります。年間300日以上&週75時間以上就業という,スーパー過重勤務者の出現率地図です。摘発の資源配分の傾斜づけに,今回のデータが参考になればと思います。

 ここでは,就業日数・時間に依拠してブラック企業勤務者をラフに取り出しましたが,収入という観点も加えるとより精緻度が高まるでしょう。スーパー長時間就業&超薄給。これこそ,真正のブラック企業勤務者です。

 収入もかけあわせた3重クロス表はないでしょうが,何とかひねり出せないものか。トライしてみます。ブラック企業の可視化作業です。