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2013年9月20日金曜日

いのちの格差

 「人生X年」の指標となる平均寿命。これは厚労省の生命表に載っていますが,市区町村別の生命表も作成・公表されていることを知りました。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/ckts10/

 最新の2010年の市区町村別生命表をもとに,首都圏243市区町村の男性の平均寿命地図をつくってみました。展示いたします。


 243市区町村の最高値は82.1歳,最低値は77.1歳です。同じ首都圏でも,男性の平均寿命には5.0歳の開きがあることになります。これはレインヂですが,上の地図から,平均寿命には少なからぬ地域差があることが分かりますね。

 まあ,死というのは突発的に来るものでもありますから,個々の偶然が集積された,単なる「差」であるだけなのかもしれません。しかるに,色が濃い地域が都内の都心・南部,そして横浜市の北部というように,特定のゾーンに固まっていることからして,そうではないような気もします。

 近年,「いのちの格差」という現象がいわれるようになりました。人々の富の格差が,いのちの格差にまで連動してしまうことです。ズバリ,この現象の名を銘打った書物も公刊されています(患者の権利オンブズマン編『いのちの格差社会』明石書店,2009年)。
http://www.akashi.co.jp/book/b66074.html

 しからば,各地域の平均寿命の長さは,住民の富裕度(貧困度)と相関すると思われますが,実態はどうなのでしょう。都内の49市区について,代表的な貧困指標である生活保護世帯率を計算し,各々の平均寿命との相関をとってみました。

 生活保護世帯率とは,被保護世帯数を一般世帯数で除した値です。2011年の『東京都統計年鑑』から2010年の数値を採取して,地域別の率を明らかにしました。千世帯あたり何世帯かという単位(‰)で表記します。
http://www.toukei.metro.tokyo.jp/tnenkan/tn-index.htm


 ほう。生活保護世帯率が高い地域ほど,男性の平均寿命が短い傾向が明瞭です。相関係数は-0.7082であり,1%水準で有意です。住民の貧困度が高い地域ほどいのちが短い。2010年の都内49市区の統計ですが,こういう事実は確かに観察されます。

 経済的な理由で受療できないのか,受療に対する意識が低いのか,あるいは健康的な食生活をしていない(できない)のか。それとも個々人のレベルを越えて,地域全体に,健康を軽視するようなクライメイトが蔓延することが大きいのか。いろいろな事情が想起されます。

 上図のような事態を,単なる「差」として放置していいのか。それとも,医療制度改革や各種の啓発活動等で是正すべき「格差」とみるべきなのか。議論はあるでしょうが,各地域の平均寿命が社会経済指標と強く相関していることからして,後者の見方をとるのが妥当であると考えます。

 富の多寡によって「生」までもが規定される社会,「いのちの格差社会」です。現代日本社会に,こういう一面があることを押さえておくべきかと思います。