育児雑誌などで,「子育てしやすい街」とかいう特集をよく見かけます。公園面積,保育所数,児童館数などの指標を集め,それらを総合してランキング化するというものです。先日,コンビニで立ち読みした週刊誌でも,そんな記事があったなあ。
しかるに,人の動きに注目するのも一つの手です。高きから低きに水が流れるのと同様,より住みよい地域に人間が移るのも道理です。私は,東京都内の49市区について,最近5年間の人口変化を観察しました。注目したのは,乳幼児期(0~4歳)から児童期(5~9歳)にかけての人口増減です。
どういう指標を計算したのか,私が住んでいる多摩市を例に説明しましょう。東京都の『住民基本台帳による東京都の世帯と人口』という資料の2008年版によると,同年元旦の多摩市の0~4歳人口は5,981人です。この世代は,5年後の2013年には5~9歳になりますが,この年の元旦の5~9歳人口は5,960人。
http://www.toukei.metro.tokyo.jp/juukiy/jy-index.htm
5年間で21人の減です。幼児には病気や事故がつきものですが,不幸にして亡くなったのでしょうか。それとも,子が小学校に上がるのを機に別の所に移ろう,という家庭があったのか。おそらくは,大半が後者のような人口移動でしょう。
私は,この値を都内の49市区別に計算しました。2008年の0~4歳人口と2013年の5~9歳人口の差分をもって,「子育てに選ばれる」度合いのバロメーターにしようというわけです。プラスの増分が大きい市区ほど,子育てに選ばれる地域である,という見方をとります。
下表は,その一覧です。増加率が5.0%を越える場合,黄色のマークをしています。
トップはぶっちぎりで千代田区です。この区では,乳幼児期では1,509人でしたが,児童期になると1,940人にまで膨れ上がっています。実に28.6%の増加です。
子が小学校に上がったら,母親のフルタイム就業が困難になる「小1の壁」はよく知られていますが,「学童保育がしっかりした所に越したい」という考えを持っている家庭も多いことでしょう。
千代田区の学童保育についてちょいと調べたところ,学童保育の設置率は高いほうであり,「夜7時まで小学生1~6年生を預けられる23区で最も恵まれた区」というお墨付きもあります。当区の児童期における人口増は,こういう部分によるのかもしれません。
http://www.gakudonavi.com/index.php?FrontPage
しかるに,49市区全体でみた場合,児童人口あたりの学童保育定員数と上表の増加率は無相関でした。子育て期の家庭を引き付ける地域の要因としては,他にもいろいろある,ということでしょう。上表のデータをみて,「こういうことではないか」という意見がありましたら,お寄せいただけると幸いです。
ちなみに,乳幼児期から児童期の人口増加率を地図化すると,下図のようになります。白色は,増加率がマイナス,つまり人口が減っている市区です。
今回は,0~4歳と5~9歳というラフな区分の比較をしましたが,①乳児(0~2歳),②幼児(3~5歳),③児童(6~8歳)というように区切って,3年スパンの変化を追ってみたらどうでしょう。
①~②の増減は保育所,②~③のそれは学童保育の問題状況と関連しているかもしれません。千代田区について,ちょっと吟味してみましょう。
2010年の乳児人口(0~2歳) ・・・ 1,080人
2010年の幼児人口(3~5歳) ・・・ 953人
2013年の幼児人口(3~5歳) ・・・ 1,217人
2013年の児童人口(6~8歳) ・・・ 1,121人
乳児期から幼児期の増加率=(1,217-1,080)/1,080 = 12.7%
幼児期から児童期の増加率=(1,211-953)/953 = 17.6%
2010年~2013年の間でみると, 幼児期から児童期にかけての増加率のほうが高いですね。やっぱり決め手は学童保育の充実でしょうか。この時期に限定した人口増加率は,各市区の学童保育供給量と相関しているかもしれません。
話が細かくなりましたが,人の動きというのは正直です。人口統計から明らかにできることは無尽蔵。今回の分析は,各市区の子育て環境診断を念頭にやってみたものです。