大みそかの夜ですが,いかがお過ごしでしょうか。今年もあと数時間となりましたが,年を越す前に,今年やったことを総括しておこうと思います。
まず本業?の大学非常勤講師ですが,今年度の担当授業は前期2コマ,後期5コマでした。前者は,「調査統計法2」(武蔵野大学,水5)と「リカレント教育論」(武蔵野学院大学,金2)です。後者は,「不平等の社会学」(武蔵大学,月2),「教育社会学」(杏林大学,火5・6),「調査統計法1」(武蔵野大学,水5),「ボランティア論」(武蔵野学院大学,金2)です。
今年から練馬の武蔵大学にお邪魔しているのですが,この大学の情報処理センターはスゴイ。全部のパソコンにSPSSが入っており,国際成人力調査(PIAAC)のローデーターのDL作業に使わせていただきました。感謝!
いくつかの大学に行っているのですが,ICT環境一つとっても,大学によってずいぶん違うな,という印象です。でも,武蔵の情報処理センター,ガラガラでしたな。勿体ない。学生さんはこういう施設(図書館も)をフルに活用し,学費の元をバッチリ取るべし。
研究ほうは,7月に『教育の使命と実態-データからみた教育社会学試論-』という著書を武蔵野大学出版会より出しました。私にとって,3冊目の単著です。①子ども,②家庭,③学校,④教員,⑤青年,および⑥社会という切り口を設け,教育の「見えざる」諸相をデータで明らかにしています。割引販売もいたしておりますので,ご希望の方はご連絡ください。
http://www.ajup-net.com/bd/isbn978-4-903281-23-0.html
あと一つの業である文筆は,これまで出してきた教員採用試験の参考書(実務教育出版社)の内容改訂を行いました。看板の『教職教養らくらくマスター』については,さらに有用な書籍になったと自負しております。教員志望の学生さんのお役に立てれば幸いです。
なお今年より,同社の『受験ジャーナル』という雑誌にて,「データで見る世相」という連載原稿を執筆しております。見開き2ページのスペースにて,特定の主題についてデータを交えた記事を書かせていただいてます。下の写真は,初回のもの。こんな感じっす。
さて,このブログについても,2013年のまとめをしておきましょう。毎日ツイッターにて,前日のブログPV数を記録しているのですが,そのデータを接合して,1月1日から昨日(12月30日)までのPV数の推移をグラフにしてみました。
1日あたりだいたい1,500くらいで推移していますが,突出した日も含めた364日の平均値を出すと,1日あたり2,913です。来年は,この数値がもっと増えればよいな,と思っております。
ちなみに,1日のPV数が10,000を越えたのは7回です。マックスは9月12日の30,051です。この日に公開した,「都道府県別の大学進学率」という記事をみてくださる方が多かったようです。「大学進学率」という言葉でググると,この記事が2番目に出てきます。
http://tmaita77.blogspot.jp/2013/09/blog-post_12.html
早いもので,2010年12月17日に本ブログを開設してから3年が経過しました。執筆した記事は,合計で694です(本記事も含む)。はて,どの記事が多く見られているのか。下の表は,PV数の上位10位の記事を整理したものです。
トップは,昨年の8月末に書いた,博士課程院生の進路の記事ですが,先ほどの「都道府県別の大学進学率」がその次に来ており,もう少しで抜く勢いです。こないだ,PIAACのデータを使って書いた「成人の知的好奇心の国際比較」もランクインしていますな。
赤字は今年に書いた記事です。これまでストックした記事の上にあぐらをかくことなく,常に情報を更新していこうと思っております。来年の総括の記事では,上表の全ての記事が赤字になるよう,がんばります。
長くなりましたので,この辺りで。来年も,本ブログをよろしくお願い申し上げます。では皆様,よいお年をお迎えください。
舞田 敏彦 拝
ページ
▼
2013年12月30日月曜日
2013年12月の教員不祥事報道
師走ですが,今月も,私がキャッチした限りで37件の教員不祥事報道がありました。わいせつや体罰といった「お決まり」のものに加えて,個人情報紛失のような事案も見受けられます。持ち帰り仕事をせざるを得ない,教員らの多忙に由来するともいえるでしょう。
今月は明日が残っていますが,明日の記事ではこの1年間の総括をする予定なので,不祥事報道の整理は1日早めた次第です。
<2013年12月の教員不祥事報道>
・体罰教諭「首絞めたの思い出した」…学校再謝罪(12/1,読売,山形,中,男,40代)
・免停中の中学教諭、オートバイを酒気帯び運転(12/2,読売,福岡,中,男,50)
・電車で盗撮後男性客殴った小学校教頭、在宅起訴(12/3,兵庫,読売,小,男,54)
・教え子の着替え盗撮の疑い 小学教諭を書類送検(12/3,朝日,福岡,小,男,37)
・警告無視、元交際相手につきまとった教諭逮捕(12/5,読売,北海道,小,男,30)
・高3女子とわいせつな行為、中学校教諭を懲戒免 (12/5,読売,北海道,中,男,23)
・中学教諭を書類送検=少女にみだらな行為(12/7,時事通信,岐阜,中,男,44)
・都教委も仰天、AV女優だったエリート先生(12/8,イザ!,東京,小,女,27)
・<脅迫文>学校に送付 授業視察を中止 小学校教諭逮捕
(12/11,毎日,愛知,小,男,22)
・児童28人分情報入りUSB、女性担任が紛失(12/11,読売,東京,小,女)
・生徒会長選挙で教師が落選運動 埼玉東部の市立中、謝罪
(12/13,朝日,埼玉,中,男女1名)
・暴言の中学教諭を減給(12/17,愛知,毎日,中,男,26)
・同上(愛知,窃盗容疑:小男41,威力業務妨害容疑:中男27)
・音楽講師に美術担当指示 高知の中学校長(12/18,高知,共同通信,中,男,57)
・蛇口41個開き、校舎水浸しに 教諭を懲戒免職処分 (12/18,朝日,大阪,中,男,27)
・生徒の胸ぐらつかみ、首絞めた容疑 教諭を書類送検 (12/18,朝日,大阪,中,男,34)
・講師ら3人を減給 北九州市教委 体罰加えけが、保護者を中傷
(12/18,福岡,体罰:中男25,体罰:中男41,保護者を中傷:小男58)
・信楽中女子バスケ顧問、体罰で懲戒処分(12/19,京都,京都新聞,中,男,47)
・児童情報のUSB盗難…教諭、自宅でかばんごと (12/19,読売,岡山,小,女,50代)
・無免許運転11年、小学校教諭処分 母親に打ち明け発覚(12/19,朝日,福島,小,40)
・同上(福島,体罰:中男48)
・指導中もみあい中3けが…講師を書類送検(12/19,大阪,読売,中,男,33)
・講師が他校生徒にわいせつ行為、懲戒免職(12/19,静岡,静岡新聞,特,男,30代)
・教諭5人を懲戒処分 教育長「県民裏切りおわび」 わいせつ、酒気帯び、体罰
(12/20,千葉,千葉日報,わいせつ:高男36)
・椅子投げ女子生徒けが=男性教諭を懲戒処分―(12/21,佐賀,時事通信,中,男,50代)
・西脇工監督が体罰=高校駅伝強豪、部員たたく(12/22,兵庫,時事通信,高,男,50)
・小型カメラでスカート内盗撮、主任教諭を懲戒免(12/22,読売,東京,中,男,47)
・校長がUSB紛失…全校生徒ら1029人分情報(12/24,読売,大阪,高,男)
・無断欠勤続けた教諭を停職6カ月に(12/25,神奈川,神奈川新聞,小,男,33)
・同僚に睡眠薬の講師免職(12/25,大阪,時事通信,小,女,60)
・小学校の女性講師、休日にバイトでオイルマッサージ(12/25,大阪,産経,小,女,30)
・全裸にスニーカーとリュックサック 公然わいせつ容疑で中学校教諭逮捕
(12/25,産経,神奈川,中,男,35)
・中学野球部男性顧問、生徒に体罰 さいたま市教委が減給処分
(12/26,埼玉,埼玉新聞,中,男,36)
・児童の修学旅行費、部活動費…なんと校長が着服
(12/26,読売,熊本,小,男30代,男50代)
・生徒平手打ち、店員に暴力…中高教諭3人減給
(12/27,石川,読売,体罰:高男30代,中男50代,暴力:中50代)
・音楽講師が無免許で英語指導 静岡市の中学校
(12/27,静岡,静岡新聞,無免許指導:中女20代,指示:中男50代)
・中間テストの回答、改ざんして加点…教諭を処分(12/28,岐阜,読売,中,男,29)
今月は明日が残っていますが,明日の記事ではこの1年間の総括をする予定なので,不祥事報道の整理は1日早めた次第です。
<2013年12月の教員不祥事報道>
・体罰教諭「首絞めたの思い出した」…学校再謝罪(12/1,読売,山形,中,男,40代)
・免停中の中学教諭、オートバイを酒気帯び運転(12/2,読売,福岡,中,男,50)
・電車で盗撮後男性客殴った小学校教頭、在宅起訴(12/3,兵庫,読売,小,男,54)
・教え子の着替え盗撮の疑い 小学教諭を書類送検(12/3,朝日,福岡,小,男,37)
・警告無視、元交際相手につきまとった教諭逮捕(12/5,読売,北海道,小,男,30)
・高3女子とわいせつな行為、中学校教諭を懲戒免 (12/5,読売,北海道,中,男,23)
・中学教諭を書類送検=少女にみだらな行為(12/7,時事通信,岐阜,中,男,44)
・都教委も仰天、AV女優だったエリート先生(12/8,イザ!,東京,小,女,27)
・<脅迫文>学校に送付 授業視察を中止 小学校教諭逮捕
(12/11,毎日,愛知,小,男,22)
・児童28人分情報入りUSB、女性担任が紛失(12/11,読売,東京,小,女)
・生徒会長選挙で教師が落選運動 埼玉東部の市立中、謝罪
(12/13,朝日,埼玉,中,男女1名)
・暴言の中学教諭を減給(12/17,愛知,毎日,中,男,26)
・同上(愛知,窃盗容疑:小男41,威力業務妨害容疑:中男27)
・音楽講師に美術担当指示 高知の中学校長(12/18,高知,共同通信,中,男,57)
・蛇口41個開き、校舎水浸しに 教諭を懲戒免職処分 (12/18,朝日,大阪,中,男,27)
・生徒の胸ぐらつかみ、首絞めた容疑 教諭を書類送検 (12/18,朝日,大阪,中,男,34)
・講師ら3人を減給 北九州市教委 体罰加えけが、保護者を中傷
(12/18,福岡,体罰:中男25,体罰:中男41,保護者を中傷:小男58)
・信楽中女子バスケ顧問、体罰で懲戒処分(12/19,京都,京都新聞,中,男,47)
・児童情報のUSB盗難…教諭、自宅でかばんごと (12/19,読売,岡山,小,女,50代)
・無免許運転11年、小学校教諭処分 母親に打ち明け発覚(12/19,朝日,福島,小,40)
・同上(福島,体罰:中男48)
・指導中もみあい中3けが…講師を書類送検(12/19,大阪,読売,中,男,33)
・講師が他校生徒にわいせつ行為、懲戒免職(12/19,静岡,静岡新聞,特,男,30代)
・教諭5人を懲戒処分 教育長「県民裏切りおわび」 わいせつ、酒気帯び、体罰
(12/20,千葉,千葉日報,わいせつ:高男36)
・椅子投げ女子生徒けが=男性教諭を懲戒処分―(12/21,佐賀,時事通信,中,男,50代)
・西脇工監督が体罰=高校駅伝強豪、部員たたく(12/22,兵庫,時事通信,高,男,50)
・小型カメラでスカート内盗撮、主任教諭を懲戒免(12/22,読売,東京,中,男,47)
・校長がUSB紛失…全校生徒ら1029人分情報(12/24,読売,大阪,高,男)
・無断欠勤続けた教諭を停職6カ月に(12/25,神奈川,神奈川新聞,小,男,33)
・同僚に睡眠薬の講師免職(12/25,大阪,時事通信,小,女,60)
・小学校の女性講師、休日にバイトでオイルマッサージ(12/25,大阪,産経,小,女,30)
・全裸にスニーカーとリュックサック 公然わいせつ容疑で中学校教諭逮捕
(12/25,産経,神奈川,中,男,35)
・中学野球部男性顧問、生徒に体罰 さいたま市教委が減給処分
(12/26,埼玉,埼玉新聞,中,男,36)
・児童の修学旅行費、部活動費…なんと校長が着服
(12/26,読売,熊本,小,男30代,男50代)
・生徒平手打ち、店員に暴力…中高教諭3人減給
(12/27,石川,読売,体罰:高男30代,中男50代,暴力:中50代)
・音楽講師が無免許で英語指導 静岡市の中学校
(12/27,静岡,静岡新聞,無免許指導:中女20代,指示:中男50代)
・中間テストの回答、改ざんして加点…教諭を処分(12/28,岐阜,読売,中,男,29)
2013年12月29日日曜日
青年期の自殺の国際比較
前回は,25~34歳の自殺量の国際比較をしたのですが,それより1段下の15~24歳の状況にも関心が持たれます。シューカツ失敗自殺に象徴されるように,わが国では,学校から社会への移行期の危機が強まっているといわれます(たとえば22歳)。
今回は,15~24歳の自殺の国際比較をしてみようと思います。この層は,子どもと大人の狭間にあり,社会において果たす役割を見つけることを期待される青年層です。以下では,青年ということにいたしましょう。
自殺量の指標ですが,まずは,自殺者がベース人口のどれほどに相当するかという,自殺率を出しましょう。それとあと一つ,死因全体に占める自殺の比重も計算してみます。最近の日本では,青年層の死因の半分が自殺などといわれますが,他国ではどうなのかに興味を持ちます。
私は,WHOの“Mortality Database”にあたって,計算に必要な数値を79か国分収集しました。手始めに,わが国を含む主要6か国のデータをみていただきましょう。カッコ内は,統計の年次です。
http://apps.who.int/healthinfo/statistics/mortality/whodpms/
ほう。死因中の自殺比,自殺率とも,日本がトップですね。その次は,お隣の韓国。この東アジアの2国と欧米4か国の間に断絶があります。
前回みたように,25~34歳では韓国の自殺率が最も高いのですが,1段下の青年層では,わが国のほうが高いのだなあ。あと,死因に占める自殺の比重が高いのは,やっぱり日本の特徴なのですな。
今みたのは6か国ですが,比較の対象を79か国に広げてみましょう。上記の2指標をもとに2次元のマトリクスを構成し,その上に79の社会を散りばめてみました。点線は,79か国の平均値を表します。ほとんどの国が2008年のデータですが,上表の韓国と米国のように,年次が前後にズレている国も若干あります。ご了承ください。
やっぱり世界は広し。縦軸の自殺率でみると,わが国よりも値が高い社会が7つあります。カザフスタンやロシアなど,旧共産圏の青年の自殺率が高いのはよく聞くところですが,北欧のフィンランドが入っているのがちと意外。でも後述のように,この社会では,以前に比したら青年の自殺率はグンと下がっているのですが。
次に,横軸の死因中の自殺比でみると,こちらはわが国がトップです。青年の死因の4割超が自殺であるのは,世界を見渡しても日本だけなり。まあこのことは,病気や事故で命を落とす青年が少ないことと表裏ですが,わが国の青年の「内向性」が垣間見れるような気がします。「自己責任!」が美徳とされる社会ですから。
最後に,20年前の1990年に比して,各国の位置がどう動いたかを観察してみましょう。色をつけた8か国について,1990年のデータをつくり,上図の最近のドットと線でつないでみました。下の図にて,8つの社会の位置変化を見てとることができます。矢印のしっぽは1990年,先端は上図と同じ位置を表します。
この20年間で右上に大きく動いているのは,日韓の2国だけです。米英とフィンランドはその逆。フィンランドなんかは,90年代以降にかけて青年の自殺率が半減しているではありませんか。役割模索期の青年にとっての「失われた20年」は,万国共通のものではないのですね。
なお,フィンランドの自殺率低下の事情については,下記の記事にて紹介されています。
http://xbrand.yahoo.co.jp/category/lifestyle/4917/4.html
われわれは,今,自分が目にしていることを「普遍的」であるかのように思いがちですが,そういうことはなく,時代比較や国際比較をすることで,「今,ここ」という呪縛から己を解き放つことができます。そのためのデータを提供することも,社会学の重要な役目なのではないか,と考えております。
今回は,15~24歳の自殺の国際比較をしてみようと思います。この層は,子どもと大人の狭間にあり,社会において果たす役割を見つけることを期待される青年層です。以下では,青年ということにいたしましょう。
自殺量の指標ですが,まずは,自殺者がベース人口のどれほどに相当するかという,自殺率を出しましょう。それとあと一つ,死因全体に占める自殺の比重も計算してみます。最近の日本では,青年層の死因の半分が自殺などといわれますが,他国ではどうなのかに興味を持ちます。
私は,WHOの“Mortality Database”にあたって,計算に必要な数値を79か国分収集しました。手始めに,わが国を含む主要6か国のデータをみていただきましょう。カッコ内は,統計の年次です。
http://apps.who.int/healthinfo/statistics/mortality/whodpms/
ほう。死因中の自殺比,自殺率とも,日本がトップですね。その次は,お隣の韓国。この東アジアの2国と欧米4か国の間に断絶があります。
前回みたように,25~34歳では韓国の自殺率が最も高いのですが,1段下の青年層では,わが国のほうが高いのだなあ。あと,死因に占める自殺の比重が高いのは,やっぱり日本の特徴なのですな。
今みたのは6か国ですが,比較の対象を79か国に広げてみましょう。上記の2指標をもとに2次元のマトリクスを構成し,その上に79の社会を散りばめてみました。点線は,79か国の平均値を表します。ほとんどの国が2008年のデータですが,上表の韓国と米国のように,年次が前後にズレている国も若干あります。ご了承ください。
やっぱり世界は広し。縦軸の自殺率でみると,わが国よりも値が高い社会が7つあります。カザフスタンやロシアなど,旧共産圏の青年の自殺率が高いのはよく聞くところですが,北欧のフィンランドが入っているのがちと意外。でも後述のように,この社会では,以前に比したら青年の自殺率はグンと下がっているのですが。
次に,横軸の死因中の自殺比でみると,こちらはわが国がトップです。青年の死因の4割超が自殺であるのは,世界を見渡しても日本だけなり。まあこのことは,病気や事故で命を落とす青年が少ないことと表裏ですが,わが国の青年の「内向性」が垣間見れるような気がします。「自己責任!」が美徳とされる社会ですから。
最後に,20年前の1990年に比して,各国の位置がどう動いたかを観察してみましょう。色をつけた8か国について,1990年のデータをつくり,上図の最近のドットと線でつないでみました。下の図にて,8つの社会の位置変化を見てとることができます。矢印のしっぽは1990年,先端は上図と同じ位置を表します。
この20年間で右上に大きく動いているのは,日韓の2国だけです。米英とフィンランドはその逆。フィンランドなんかは,90年代以降にかけて青年の自殺率が半減しているではありませんか。役割模索期の青年にとっての「失われた20年」は,万国共通のものではないのですね。
なお,フィンランドの自殺率低下の事情については,下記の記事にて紹介されています。
http://xbrand.yahoo.co.jp/category/lifestyle/4917/4.html
われわれは,今,自分が目にしていることを「普遍的」であるかのように思いがちですが,そういうことはなく,時代比較や国際比較をすることで,「今,ここ」という呪縛から己を解き放つことができます。そのためのデータを提供することも,社会学の重要な役目なのではないか,と考えております。
2013年12月26日木曜日
90年代以降の若者の自殺(国際比較)
以前は,WHOの“ World Health Statistic annual ”という資料に,各国の年齢層別の自殺者数が載っていたのですが,近年のものにはそれがないので,どうしたことかと思っていました。
どうやら最近では,死因の国際統計は,WHOホームページの“Mortality Database”で提供されているようです。下記サイトで条件を指定することにより,目的の情報を得ることができます。自殺は,“Intentional self-harm”です。
http://apps.who.int/healthinfo/statistics/mortality/whodpms/
私はここから,1990年以降の25~34歳の自殺者数を,主要国の分だけ取り出してみました。日韓米英独仏の6か国です。6つの社会の若者の自殺者数は,下表のように推移してきています。
日本をみると,この20年間で若者の自殺者は2,160人から3,550へと増えています。倍率にすると1.6倍です。お隣の韓国は3倍近くなり。今,この国の若者は大変だそうですが,それは自殺者数にも表れています。
http://dametv.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-5fec.html
しかるに,他の4か国では,若者の自殺者は減少をみています。ドイツに至っては,1,922人から912人へと半減以下です。若者にとっての「失われた20年」は,国際的にみて普遍なものではないのですね。
念のため,25~34歳人口で除した自殺率の推移も掲げておきましょう。計算に使うベースの人口も,上記のWHOデータベースにて得ることができます。いやはや便利。
ベース人口を考慮した自殺率でみても,この20年間で上昇傾向にあるのは日韓だけです。「若者の危機」がいわれて久しいですが,それは社会によって一様ではないことが知られます。「若者が大変なのはどこの国も同じだ」と政治家が口にするのを見たことがありますが,そういう弁明が果たして正しいのかどうか・・・。
はて,世界的にみてイレギュラーなのは日韓の2国なのか,それとも欧米の4国なのか。この点を知るには,比較の対象をもっと広げる必要があります。より多くの社会について,90年代初頭と最近の自殺率を出し,両者のマトリクス上に各々を散りばめた布置図をつくれば,事態はクリアーになるでしょう。後々の課題にしようと思います。
どうやら最近では,死因の国際統計は,WHOホームページの“Mortality Database”で提供されているようです。下記サイトで条件を指定することにより,目的の情報を得ることができます。自殺は,“Intentional self-harm”です。
http://apps.who.int/healthinfo/statistics/mortality/whodpms/
私はここから,1990年以降の25~34歳の自殺者数を,主要国の分だけ取り出してみました。日韓米英独仏の6か国です。6つの社会の若者の自殺者数は,下表のように推移してきています。
日本をみると,この20年間で若者の自殺者は2,160人から3,550へと増えています。倍率にすると1.6倍です。お隣の韓国は3倍近くなり。今,この国の若者は大変だそうですが,それは自殺者数にも表れています。
http://dametv.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-5fec.html
しかるに,他の4か国では,若者の自殺者は減少をみています。ドイツに至っては,1,922人から912人へと半減以下です。若者にとっての「失われた20年」は,国際的にみて普遍なものではないのですね。
念のため,25~34歳人口で除した自殺率の推移も掲げておきましょう。計算に使うベースの人口も,上記のWHOデータベースにて得ることができます。いやはや便利。
ベース人口を考慮した自殺率でみても,この20年間で上昇傾向にあるのは日韓だけです。「若者の危機」がいわれて久しいですが,それは社会によって一様ではないことが知られます。「若者が大変なのはどこの国も同じだ」と政治家が口にするのを見たことがありますが,そういう弁明が果たして正しいのかどうか・・・。
はて,世界的にみてイレギュラーなのは日韓の2国なのか,それとも欧米の4国なのか。この点を知るには,比較の対象をもっと広げる必要があります。より多くの社会について,90年代初頭と最近の自殺率を出し,両者のマトリクス上に各々を散りばめた布置図をつくれば,事態はクリアーになるでしょう。後々の課題にしようと思います。
2013年12月24日火曜日
いじめがよく把握されている県はどこか
文部科学省は毎年,いじめの認知件数を公表していますが,この数値がいじめの実態を反映したものでないことはよく知られています。当局の取り締まりの強度によって,数が大きく左右されますものね。
この点は,上の図からも分かります。各県の中学校のいじめ認知件数は,いじめを容認する生徒の割合と相関していません。東京や神奈川は,いじめを容認する生徒が多いにもかかわらず,当局が認知した件数は少ない。これらの県では,闇に葬られた,いわゆる「暗数」が多いものと思われます。私の郷里の鹿児島などは,その逆です。
私はここにて,横軸のいじめ容認率から各県のいじめの「期待度数」を出し,それを統計上の認知件数と照合することで,いじめ把握度という指標を計算してみようと思います。各県がいじめの把握にどれほど本腰を入れているかを測る,ガンバリ尺度です。
首都の東京を例に,計算の過程を説明します。2012年度の『全国学力・学習状況調査』の生徒質問紙調査によると,東京の公立中学校3年生のいじめ容認率は8.7%です。同年5月の公立中学校3年生の生徒は231,211人(『学校基本調査』)。よって,いじめを容認している中学校3年生の実数は,20,115人と見積もられます。
この数をもって,いじめの期待度数とし,統計上の認知件数と比べてみるのです。2012年度の『児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』によると,同年度中に都の中学校で認知されたいじめ件数は4,660件なり。先ほど割り出した期待度数の,おおよそ23%に相当します(4,660/20,115 ≒ 0.23)。
大都市の東京では,当局が掬ったいじめ件数は,期待される水準の5分の1というところです。いじめは「見えにくい」現象ですので,これでも「よし」とすべきでしょうか・・・。
それを知る目安を得るには,他県との比較が必要です。私はこのやり方で,47都道府県の中学校のいじめ把握度を計算しました。下の表は,その一覧です。最高値には黄色,最低値には青色のマークを付しました。上位5位の数字は赤色にしています。
最初の図からも分かることですが,鹿児島はスゴイですねえ。この県では,期待度数の3倍以上のいじめが認知されています。ほか,数値が1.0を越えるのは山梨です。2011年10月の大津市いじめ自殺事件以降,全国的にいじめの取り締まりが強化されていますが,この2県はとくに本腰を入れたのだろうと思います。
しかし,これら2県は全体の中ではイレギュラーなケースです。いじめ把握度の全国値は0.28であり,0.2(2割)を下回る県もちらほら見られます。福島と佐賀は0.1未満。この2県では,かなりの数の「暗数」が潜んでいる可能性が・・・。
さて,各県のいじめ把握度を地図化してみましょう。0.2未満,0.2以上0.3未満,0.3以上0.4未満,および0.4以上という4つの階級を設け,各県を塗り分けてみました。
相対評価ですが,0.4を越える県,つまり期待度数の4割以上を拾っている県は,「がんばっている」県と評してよいでしょう。濃い青色がそれですが,全国的に散らばっており,地域性のようなものはなさそうです。各県の政策の有様が影響していると思われます。トップの鹿児島県は,「いじめ対策必携」なる資料を全教職員に配布している模様です。
http://www.pref.kagoshima.jp/ba04/kyoiku-bunka/school/shidou/hikkei.html
いじめの量を測る指標としては,児童生徒のいじめ容認率のような指標がいいでしょう。各県のいじめ認知のガンバリ度を計測するには,いじめの期待度数といじめ認知件数を照合して出す,いじめ把握度がよいでしょう。これらの指標も定期的に公表し,各県の状況診断に与してみてはどうでしょう。
ここにて,私が申したいことです。
この点は,上の図からも分かります。各県の中学校のいじめ認知件数は,いじめを容認する生徒の割合と相関していません。東京や神奈川は,いじめを容認する生徒が多いにもかかわらず,当局が認知した件数は少ない。これらの県では,闇に葬られた,いわゆる「暗数」が多いものと思われます。私の郷里の鹿児島などは,その逆です。
私はここにて,横軸のいじめ容認率から各県のいじめの「期待度数」を出し,それを統計上の認知件数と照合することで,いじめ把握度という指標を計算してみようと思います。各県がいじめの把握にどれほど本腰を入れているかを測る,ガンバリ尺度です。
首都の東京を例に,計算の過程を説明します。2012年度の『全国学力・学習状況調査』の生徒質問紙調査によると,東京の公立中学校3年生のいじめ容認率は8.7%です。同年5月の公立中学校3年生の生徒は231,211人(『学校基本調査』)。よって,いじめを容認している中学校3年生の実数は,20,115人と見積もられます。
この数をもって,いじめの期待度数とし,統計上の認知件数と比べてみるのです。2012年度の『児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』によると,同年度中に都の中学校で認知されたいじめ件数は4,660件なり。先ほど割り出した期待度数の,おおよそ23%に相当します(4,660/20,115 ≒ 0.23)。
大都市の東京では,当局が掬ったいじめ件数は,期待される水準の5分の1というところです。いじめは「見えにくい」現象ですので,これでも「よし」とすべきでしょうか・・・。
それを知る目安を得るには,他県との比較が必要です。私はこのやり方で,47都道府県の中学校のいじめ把握度を計算しました。下の表は,その一覧です。最高値には黄色,最低値には青色のマークを付しました。上位5位の数字は赤色にしています。
最初の図からも分かることですが,鹿児島はスゴイですねえ。この県では,期待度数の3倍以上のいじめが認知されています。ほか,数値が1.0を越えるのは山梨です。2011年10月の大津市いじめ自殺事件以降,全国的にいじめの取り締まりが強化されていますが,この2県はとくに本腰を入れたのだろうと思います。
しかし,これら2県は全体の中ではイレギュラーなケースです。いじめ把握度の全国値は0.28であり,0.2(2割)を下回る県もちらほら見られます。福島と佐賀は0.1未満。この2県では,かなりの数の「暗数」が潜んでいる可能性が・・・。
さて,各県のいじめ把握度を地図化してみましょう。0.2未満,0.2以上0.3未満,0.3以上0.4未満,および0.4以上という4つの階級を設け,各県を塗り分けてみました。
相対評価ですが,0.4を越える県,つまり期待度数の4割以上を拾っている県は,「がんばっている」県と評してよいでしょう。濃い青色がそれですが,全国的に散らばっており,地域性のようなものはなさそうです。各県の政策の有様が影響していると思われます。トップの鹿児島県は,「いじめ対策必携」なる資料を全教職員に配布している模様です。
http://www.pref.kagoshima.jp/ba04/kyoiku-bunka/school/shidou/hikkei.html
いじめの量を測る指標としては,児童生徒のいじめ容認率のような指標がいいでしょう。各県のいじめ認知のガンバリ度を計測するには,いじめの期待度数といじめ認知件数を照合して出す,いじめ把握度がよいでしょう。これらの指標も定期的に公表し,各県の状況診断に与してみてはどうでしょう。
ここにて,私が申したいことです。
2013年12月22日日曜日
小・中学生の学力と大卒者の正規就職率の相関
こういうデータが出たのですが,偶然(見かけ)の相関でしょうか…。
大卒者の正規就職率は,他の教科の平均正答率とも強く相関しています。公立中学校3年年生の国語Aとは+0.743,国語Bとは+0.534,数学Bとは+0.694の相関です。公立小学校6年生の国語Aとは+0.499,国語Bとは+0.469,算数Aとは+0.516,算数Bとは+0.466の相関なり。
沖縄を「外れ値」として除外すると係数値は下がりますが,統計的に有意な+の相関関係は保たれます。*上図でいうと,+0.745から+0.563に下がります。
大卒者の正規就職率と関連する指標といったら,地域の求人倍率などが思い浮かびますが,そうした労働市場の指標よりも強く,子どもの学力と関連しているのですな。
『全国学力・学習状況調査』で試される学力というのは,受験向きの学力とは違った,いわゆる「確かな学力」です。その定義は,「知識や技能はもちろんのこと,これに加えて,学ぶ意欲や自分で課題を見付け,自ら学び,主体的に判断し,行動し,よりよく問題解決する資質や能力等まで含めたもの」とされています(文科省)。
なるほど。こうした学力の多寡が,就職に影響する経路というのは,考えられなくもないです。全国学力調査の正答率に依拠して生徒を分け,各群の成人後の状況を追跡するなどの調査研究が求められるかもしれませんね。
教育の効果というのは,こうした長期的な視点からも観察・計測されるべきでしょう。
大卒者の正規就職率は,他の教科の平均正答率とも強く相関しています。公立中学校3年年生の国語Aとは+0.743,国語Bとは+0.534,数学Bとは+0.694の相関です。公立小学校6年生の国語Aとは+0.499,国語Bとは+0.469,算数Aとは+0.516,算数Bとは+0.466の相関なり。
沖縄を「外れ値」として除外すると係数値は下がりますが,統計的に有意な+の相関関係は保たれます。*上図でいうと,+0.745から+0.563に下がります。
大卒者の正規就職率と関連する指標といったら,地域の求人倍率などが思い浮かびますが,そうした労働市場の指標よりも強く,子どもの学力と関連しているのですな。
『全国学力・学習状況調査』で試される学力というのは,受験向きの学力とは違った,いわゆる「確かな学力」です。その定義は,「知識や技能はもちろんのこと,これに加えて,学ぶ意欲や自分で課題を見付け,自ら学び,主体的に判断し,行動し,よりよく問題解決する資質や能力等まで含めたもの」とされています(文科省)。
なるほど。こうした学力の多寡が,就職に影響する経路というのは,考えられなくもないです。全国学力調査の正答率に依拠して生徒を分け,各群の成人後の状況を追跡するなどの調査研究が求められるかもしれませんね。
教育の効果というのは,こうした長期的な視点からも観察・計測されるべきでしょう。
2013年12月21日土曜日
20代のワーキングプア率地図
1990年代以降,日本社会に暗雲がたちこめてきたといいますが,そうした闇の広がりを可視化した統計図をつくっています。
昨日,ツイッターで発信した「20代のワーキングプア率地図の変化」は,そのうちの一つです。各県の20代の有業者のうち,年収が200万円未満のワープアが何%占めるか計算し,それを地図化したものですが,見てくださる方が多いようです。ブログにも転載しておこうと思います。
ご覧に入れるのは,1992年と2012年の地図です。双方とも,総務省『就業構造基本調査』の統計をもとに作成したものであることを申し添えます。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm
地域を問わず,就労しつつも最低限の生活を得るに足りるだけの収入しか得られない「ワープア」が,若者の間で増えていることが見てとれます。ワープア率4割超という黒色が広がってきていますね。90年代以降の「失われた20年」の状況を思えば,さもありなんです。
パートやバイトとかも含めているからだろう,といわれるかもしれませんが,雇用の非正規化が進んでいる現在,こうした不安定就労で生計を立てている者も少なくないはずです(とくに若者では)。これらの層をオミットしては,事態を見誤ることになるでしょう。
ツイッター上の反応をみると,「全国が総ブラック化するのは時間の問題」といったコメントが散見されます。派遣法が改正され,全ての職種で「ハケン」が使えるようになりましたが,確かにそうした危惧が持たれるところです。今度,『就業構造基本調査』が実施されるのは2017年ですが,そのデータで同じ地図を描いたら,どういう模様になっているか・・・。
さて,各県の数値を知りたいという要望が数件ありましたので,上記の地図の元データを提示いたします。計算の過程についてイメージを持っていただくため,分子と分母の数値も掲げます。これらの単位は千人です。
算出された県別のワープア率ですが,最高値には黄色,最低値には青色のマークをしました。また,上位5位の数値は赤色にしています。資料としてご覧ください。
今年もあと数日ですが,急に冷え込んできました。年末でお忙しいとは思いますが,皆様,体調を崩されませぬよう。
昨日,ツイッターで発信した「20代のワーキングプア率地図の変化」は,そのうちの一つです。各県の20代の有業者のうち,年収が200万円未満のワープアが何%占めるか計算し,それを地図化したものですが,見てくださる方が多いようです。ブログにも転載しておこうと思います。
ご覧に入れるのは,1992年と2012年の地図です。双方とも,総務省『就業構造基本調査』の統計をもとに作成したものであることを申し添えます。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm
地域を問わず,就労しつつも最低限の生活を得るに足りるだけの収入しか得られない「ワープア」が,若者の間で増えていることが見てとれます。ワープア率4割超という黒色が広がってきていますね。90年代以降の「失われた20年」の状況を思えば,さもありなんです。
パートやバイトとかも含めているからだろう,といわれるかもしれませんが,雇用の非正規化が進んでいる現在,こうした不安定就労で生計を立てている者も少なくないはずです(とくに若者では)。これらの層をオミットしては,事態を見誤ることになるでしょう。
ツイッター上の反応をみると,「全国が総ブラック化するのは時間の問題」といったコメントが散見されます。派遣法が改正され,全ての職種で「ハケン」が使えるようになりましたが,確かにそうした危惧が持たれるところです。今度,『就業構造基本調査』が実施されるのは2017年ですが,そのデータで同じ地図を描いたら,どういう模様になっているか・・・。
さて,各県の数値を知りたいという要望が数件ありましたので,上記の地図の元データを提示いたします。計算の過程についてイメージを持っていただくため,分子と分母の数値も掲げます。これらの単位は千人です。
算出された県別のワープア率ですが,最高値には黄色,最低値には青色のマークをしました。また,上位5位の数値は赤色にしています。資料としてご覧ください。
今年もあと数日ですが,急に冷え込んできました。年末でお忙しいとは思いますが,皆様,体調を崩されませぬよう。
2013年12月19日木曜日
殺人被害率の国際比較
私は講義で,犯罪や自殺など「そっち系」の話をよくするのですが,「世界で一番ヤバい国はどこですか」と学生さんに聞かれることが多いです。ここでいう「ヤバい」というのは,治安が悪いという意味でしょう。
治安の良し悪しを測る指標としてまず思いつくのは犯罪率ですが,どの社会においても,犯罪の多くはコソ泥であり,ちょっと物騒な国では強盗というところです。これらの場合,実際に起きていても当局に認知されない「暗数」や,統計のとり方の基準というような問題が付きまといます。後者についていうと,窃盗と強盗の線引きとかは,ビミョーな要素を含んでいます。
しかるに,こうした問題の度合いが低い罪種が一つあります。それは殺人(homicide)です。殺人の場合,実際に起きた事件の大半が警察に認知されるとみてよいでしょう。血まみれの死体が転がっているわけですから。
私は,UNODC(国連薬物犯罪事務所)の原統計にあたって,179か国の男女の殺人被害率を収集しました。ベース人口10万人あたりの殺人被害者数です。下記サイトの“Homicide by sex”という箇所をクリックすれば,エクセルファイルの表が出てきます。
http://www.unodc.org/unodc/en/data-and-analysis/homicide.html
これによると,2009年の日本の殺人被害率は,男女とも0.4です。10万人あたりの殺人被害者数は0.4人という意味です。低いですねえ。海を隔てたアメリカは,男性が6.6,女性が1.9と記録されています(2010年)。
では,179か国の殺人被害率をみていただきましょう。ベタな一覧表ではなく,横軸に女性,縦軸に男性の被害率をとった座標上に,179の社会を位置づけた布置図をご覧いただきます(点線は平均値)。各国の統計の年次は,2008~2010年のいずれかとなっています。先ほどみたように,わが国の被害率は2009年のものです。
『犯罪白書』とかで主要国の殺人発生率の比較がなされ,アメリカがべらぼうに高いみたいなことが強調されるのですが,全世界のマトリクスでみたら全然低い部類じゃん。ドイツはわが国のすぐ隣。英仏は,ドイツと位置がほぼ同じなので色づけしていません。
さて右上には,わが国よりも殺人被害率が数十倍高い社会が位置しています。ホンジュラス,エルサルバドル,ジャマイカは中米国,コートジボワールは西アフリカの国です。ウワサにはよく聞きますが,数値の上でもはっきり表れました。
先週,冒頭の質問を学生さんに投げかけられました。「ツイッターかブログにデータをアップするから見てちょうだい」と言っておきましたが,見てくれるかしらん。授業に際しては,こういうツールも駆使しないといけませんね。あまり大学に行かない,私のような身の者にとっては。
治安の良し悪しを測る指標としてまず思いつくのは犯罪率ですが,どの社会においても,犯罪の多くはコソ泥であり,ちょっと物騒な国では強盗というところです。これらの場合,実際に起きていても当局に認知されない「暗数」や,統計のとり方の基準というような問題が付きまといます。後者についていうと,窃盗と強盗の線引きとかは,ビミョーな要素を含んでいます。
しかるに,こうした問題の度合いが低い罪種が一つあります。それは殺人(homicide)です。殺人の場合,実際に起きた事件の大半が警察に認知されるとみてよいでしょう。血まみれの死体が転がっているわけですから。
私は,UNODC(国連薬物犯罪事務所)の原統計にあたって,179か国の男女の殺人被害率を収集しました。ベース人口10万人あたりの殺人被害者数です。下記サイトの“Homicide by sex”という箇所をクリックすれば,エクセルファイルの表が出てきます。
http://www.unodc.org/unodc/en/data-and-analysis/homicide.html
これによると,2009年の日本の殺人被害率は,男女とも0.4です。10万人あたりの殺人被害者数は0.4人という意味です。低いですねえ。海を隔てたアメリカは,男性が6.6,女性が1.9と記録されています(2010年)。
では,179か国の殺人被害率をみていただきましょう。ベタな一覧表ではなく,横軸に女性,縦軸に男性の被害率をとった座標上に,179の社会を位置づけた布置図をご覧いただきます(点線は平均値)。各国の統計の年次は,2008~2010年のいずれかとなっています。先ほどみたように,わが国の被害率は2009年のものです。
『犯罪白書』とかで主要国の殺人発生率の比較がなされ,アメリカがべらぼうに高いみたいなことが強調されるのですが,全世界のマトリクスでみたら全然低い部類じゃん。ドイツはわが国のすぐ隣。英仏は,ドイツと位置がほぼ同じなので色づけしていません。
さて右上には,わが国よりも殺人被害率が数十倍高い社会が位置しています。ホンジュラス,エルサルバドル,ジャマイカは中米国,コートジボワールは西アフリカの国です。ウワサにはよく聞きますが,数値の上でもはっきり表れました。
先週,冒頭の質問を学生さんに投げかけられました。「ツイッターかブログにデータをアップするから見てちょうだい」と言っておきましたが,見てくれるかしらん。授業に際しては,こういうツールも駆使しないといけませんね。あまり大学に行かない,私のような身の者にとっては。
2013年12月15日日曜日
成人の通学率の国際比較
OECDの国際成人力調査(PIAAC)の質問紙調査には,興味深い設問が多く盛られています。今回は,次の設問への回答結果を国ごとに比べてみようと思います。
現在,何らかの学位や卒業資格の取得のために学習しているか(B_Q02a)
生涯学習という言葉が使われるようになって久しいですが,学校は,子どもや青年の占有物ではありません。成人(adults)にも門戸は開かれるべきであり,人生のどの段階にあっても,必要を感じたならば「学び」に立ち返れるシステムの構築が求められます。
いわゆるリカレント教育ですが,社会の変化速度の高まりによる再学習への要請,職場における人間疎外状況の強まりなど,それを求める背景要因はいくつだって挙げるlことができるでしょう。
成人といっても幅広い年齢層を含みますが,ここでは働き盛りの層の肯定率を拾ってみます。下の図は,横軸に25~34歳,縦軸に35~44歳の肯定率をとった座標上に,22の社会を位置づけたものです。上記の設問に「はい」と答えた者の割合です(無回答・無効回答は集計から除外)。点線は,22か国の平均値を意味します。
ここで提示する統計は,PIAACのローデータを独自に集計して作成したものです。データファイルは,下記サイトでダウンロードすることができます。
http://www.oecd.org/site/piaac/publicdataandanalysis.htm
日本は,最も左下にあります。成人の通学率が最も低い社会です。対極には,フィンランドが位置していますね。この社会では,25~34歳の4人に1人,35~44歳でも10人に1人が広義の学生です。
ほか,右上のゾーンには,デンマークやスウェーデンなど,北欧の国が点在しています。生涯学習の先進国として,社会教育のテキストで紹介されることの多い国々ですが,さもありなんです。
手元に,天野郁夫教授の筆になる『学習社会への挑戦』日本経済新聞社(1984年)という本があります。それによると,スウェーデンでは,4年以上の労働経験を持つ25歳以上の成人に,資格を問わず大学進学の道を開く「25・4」の制度があるそうです。形を変えつつも,現在でもこういう制度が存続しているのでしょう。
なお右上にはアメリカも混じっていますが,この競争社会では,成人した後も組織的な学習を絶えず強いられる,ということなのかもしれません。いみじくも天野教授は,スウェーデンの生涯学習を「公共政策型」,アメリカのそれを「市場型」というように整理しています。
上図において対極の位置関係にある,日本とフィンランドの様相をもう少し細かく観察してみましょう。私は,上記の問いへの肯定率を5歳刻みの年齢層別に出し,折れ線を描いてみました。日芬の2本の通学率カーブをご覧ください。
年齢を上がるに伴い通学率が下がってくるのは同じですが,日本の場合,10代後半から20代前半にかけての傾斜が急になっています。20代後半以降では,学校に通っている者は5%もいません。対してフィンランドでは,曲線の傾斜が緩やかです。両国の成人学生の量の差は,緑色のゾーンで示されています。
わが国の状況をどうみるかですが,組織的な教育機関(学校)での学び直しに対する要求があるものの,幾多の阻害条件により,それが満たされていない,ということであると思います。前に,生涯学習の世論調査をもとに,大学等で学びたいと考えている成人の推定量を出し,実際の通学人口と照合してみたところ,後者を前者で除した希望実現率はたったの4%でした。25人に1人です。
http://tmaita77.blogspot.jp/2012/10/blog-post_27.html
まあ,教育有給休暇どころか,仕事を終えた後に夜間の学校に通いたいと言っただけで渋面をつくられるような国ですから,頷けるというものでしょう。日本も高度化を遂げた社会であり,再学習への要求はあるものの,それが叶えられていない。上図に描かれた,20代後半以降のフラットな型は,こういう事態を表現したものと読むべきだと思います。
なお,上図のような極端な「L字型」は,教育を受ける(受けられる)時期が人生の初期に集中していることを示唆します。このことは,成人のみならず子どもにとっても不幸です。目的もないのに,付和雷同的に上級学校への進学を強制される。「後からは戻れないのだから,今のうちに行かないと・・・」です。わが国のカーブも,もう少しフィンランド型に近づけば,子どもの世界に風穴が開けられる,というものでしょう。
子どもの問題を考えるにしても,そこだけを切り取ってばかりいていけないのだな,と感じさせられます。
現在,何らかの学位や卒業資格の取得のために学習しているか(B_Q02a)
生涯学習という言葉が使われるようになって久しいですが,学校は,子どもや青年の占有物ではありません。成人(adults)にも門戸は開かれるべきであり,人生のどの段階にあっても,必要を感じたならば「学び」に立ち返れるシステムの構築が求められます。
いわゆるリカレント教育ですが,社会の変化速度の高まりによる再学習への要請,職場における人間疎外状況の強まりなど,それを求める背景要因はいくつだって挙げるlことができるでしょう。
成人といっても幅広い年齢層を含みますが,ここでは働き盛りの層の肯定率を拾ってみます。下の図は,横軸に25~34歳,縦軸に35~44歳の肯定率をとった座標上に,22の社会を位置づけたものです。上記の設問に「はい」と答えた者の割合です(無回答・無効回答は集計から除外)。点線は,22か国の平均値を意味します。
ここで提示する統計は,PIAACのローデータを独自に集計して作成したものです。データファイルは,下記サイトでダウンロードすることができます。
http://www.oecd.org/site/piaac/publicdataandanalysis.htm
日本は,最も左下にあります。成人の通学率が最も低い社会です。対極には,フィンランドが位置していますね。この社会では,25~34歳の4人に1人,35~44歳でも10人に1人が広義の学生です。
ほか,右上のゾーンには,デンマークやスウェーデンなど,北欧の国が点在しています。生涯学習の先進国として,社会教育のテキストで紹介されることの多い国々ですが,さもありなんです。
手元に,天野郁夫教授の筆になる『学習社会への挑戦』日本経済新聞社(1984年)という本があります。それによると,スウェーデンでは,4年以上の労働経験を持つ25歳以上の成人に,資格を問わず大学進学の道を開く「25・4」の制度があるそうです。形を変えつつも,現在でもこういう制度が存続しているのでしょう。
なお右上にはアメリカも混じっていますが,この競争社会では,成人した後も組織的な学習を絶えず強いられる,ということなのかもしれません。いみじくも天野教授は,スウェーデンの生涯学習を「公共政策型」,アメリカのそれを「市場型」というように整理しています。
上図において対極の位置関係にある,日本とフィンランドの様相をもう少し細かく観察してみましょう。私は,上記の問いへの肯定率を5歳刻みの年齢層別に出し,折れ線を描いてみました。日芬の2本の通学率カーブをご覧ください。
年齢を上がるに伴い通学率が下がってくるのは同じですが,日本の場合,10代後半から20代前半にかけての傾斜が急になっています。20代後半以降では,学校に通っている者は5%もいません。対してフィンランドでは,曲線の傾斜が緩やかです。両国の成人学生の量の差は,緑色のゾーンで示されています。
わが国の状況をどうみるかですが,組織的な教育機関(学校)での学び直しに対する要求があるものの,幾多の阻害条件により,それが満たされていない,ということであると思います。前に,生涯学習の世論調査をもとに,大学等で学びたいと考えている成人の推定量を出し,実際の通学人口と照合してみたところ,後者を前者で除した希望実現率はたったの4%でした。25人に1人です。
http://tmaita77.blogspot.jp/2012/10/blog-post_27.html
まあ,教育有給休暇どころか,仕事を終えた後に夜間の学校に通いたいと言っただけで渋面をつくられるような国ですから,頷けるというものでしょう。日本も高度化を遂げた社会であり,再学習への要求はあるものの,それが叶えられていない。上図に描かれた,20代後半以降のフラットな型は,こういう事態を表現したものと読むべきだと思います。
なお,上図のような極端な「L字型」は,教育を受ける(受けられる)時期が人生の初期に集中していることを示唆します。このことは,成人のみならず子どもにとっても不幸です。目的もないのに,付和雷同的に上級学校への進学を強制される。「後からは戻れないのだから,今のうちに行かないと・・・」です。わが国のカーブも,もう少しフィンランド型に近づけば,子どもの世界に風穴が開けられる,というものでしょう。
子どもの問題を考えるにしても,そこだけを切り取ってばかりいていけないのだな,と感じさせられます。
2013年12月8日日曜日
成人の知的好奇心の国際比較
昨年に実施された,OECDの国際成人力調査(PIAAC)の結果が公表されています。学力調査の成人版であり,わが国の平均点がトップだったことが話題を読んでいます。曰く,「おとなの学力,世界1」。
http://www.nier.go.jp/04_kenkyu_annai/div03-shogai-piaac-pamph.html
ところでこの調査では,学習に対する意欲や日々の学習行動についても尋ねており,私としてはこちらのほうに関心を持ちます。変動の激しい社会では,新しいことを積極的に吸収していく意欲・態度が求められるのは,言うまでもありますまい。
こういう関心を持って調査票を眺めたところ,ズバリ該当する設問がありました。属性調査(Background Questionnaire)のI_Q04dにおいて,以下のセンテンスに自分はどれほど当てはまるかと問うています。
I like learning new things (私は新しいことを学ぶのが好きだ)
私は,本調査のローデータ(未加工データ)を使って,この設問への回答結果を国ごとに明らかにしました。最初に,わが国を含む主要国の回答分布をみていただきましょう。対象は,各国の16~65歳の国民です。( )内の数字はサンプル数です。無回答・無効回答は集計から除外しています。
なお,ローデータは下記サイトにてダウンロード可能です。SASとSPSSのファイルで提供されています。私は,エクセルのほうが使い勝手がいいので,SPSSでDLしたのをエクセル形式に変換しました。この作業に際しては,非常勤で教えに行っている武蔵大学の情報処理センターのパソコンを使わせていただきました。記して,感謝申します。
http://www.oecd.org/site/piaac/publicdataandanalysis.htm
日本の成人の知的好奇心は,他国と比して高くないようです。「とてもよく当てはまる」と「よく当てはまる」を強調しましたが,欧米4国と日韓の間に断絶があります。両者の合算値は日韓では4割ほどですが,他の4国では6割を超え,米仏では8割にも達します。
読解力や数学的思考力はトップですが,知的好奇心の面では芳しくないようですね。アメリカなんかはその逆。どっちがいいのやら・・・。
知的好奇心と学力のマトリクス上に,調査対象となった各国を散りばめてみましょう。後者は,国際差が大きい数的思考力の平均点を用います。下図は,双方が分かる21か国の布置図です。点線は,平均水準を意味します。
日本は,数学力はトップですが知的好奇心は下から2番目なので,左上に位置しています。対極には,先ほどみた米仏や南欧の国がありますね。
今から10年,20年先のことなんて分からない。インターネットをも超えるテクノロジーが出現するかもしれない。こういう変動社会において,躍進する可能性を秘めているのはどちらか。現在のみならず「未来」の視点も据えるなら,日本の位置に対する評価も変わってくるでしょう。
むろん,新しい知識というのは既存の知識の上に積み上げられるものであり,知的好奇心は,そうした土台を伴っていることが望まれます。上図の右上にあるのは,それが比較的具現されている社会です。ほう,いずれも北欧国ですね。スウェーデンとかは,生涯学習の先進国としてよく紹介されますが,さもありなんです。
あと一つ,面白い図を紹介しましょう。「新しいことを知りたい」という知的好奇心は年齢によって異なりますが,年齢ごとの好奇心分布をスウェーデンと日本で比較したものです。ローデータを使うことで,こういう細かい統計を作成することも可能です。
両国とも,若年層のほうが知的好奇心が高く,年齢を上がるにつれてそれは萎んでいきます。これは生理的な側面も含んでいますが。2つのグラフをみてどうでしょう。日本の20歳の好奇心は,スウェーデンの65歳とほぼ同じではありませんか。
凝視すると,左右のグラフはつながっているようにも見えますよね。ある方がツイッター上で「スウェーデン人の死後の世界が日本人なんだ」とつぶやいておられました。言葉が穏やかでないですが,言い得て妙かなとも思います。
加齢による知的好奇心の変化というのは,脳の構造変化のような生理要因にのみ由来するのではなく,社会現象としての側面も持っているのですなあ。
「大人の学力,世界1」という目出度い結果が出ているのですが,それは,子ども期にかけて試験という外圧で刷り込まれたものなのかもしれません。しかるに,変動の激しい社会では,人生の初期に学校で学んだ知識は直ちに陳腐化してしまいます。こういう時代では,学校を離れた後も,新しいことを自分で吸収していく意欲・態度が重要となります。
学校教育では,あらゆる学習の基盤となる基礎知識を教え込むと同時に,こうした「学ぶ意欲」を涵養することが求められますが,わが国の場合,後者が弱いのではないか,という懸念が持たれます。それどころか,長期の学校生活を経る過程において,それが摘み取られているという皮肉な事実があるかもしれません。学ぶ意欲の追跡調査なども実施されて然るべきではないでしょうか。
私は,武蔵野大学で調査統計法という授業を担当していますが,どうせ使わない,すぐ忘れるような「教科書的」内容をねじ込むのではなく,統計を活用して世の中の問題を「斬る」意欲・態度を身につけてもらうことに主眼を置いています。
授業評価の質問紙にて,「この授業の内容をもっと自分で深めてみたいという気になったか」という設問がありますが,私が一番注目するのはココです。Yesという回答比率が少しでも高くなるよう,日々奮闘しているつもりです。
http://www.nier.go.jp/04_kenkyu_annai/div03-shogai-piaac-pamph.html
ところでこの調査では,学習に対する意欲や日々の学習行動についても尋ねており,私としてはこちらのほうに関心を持ちます。変動の激しい社会では,新しいことを積極的に吸収していく意欲・態度が求められるのは,言うまでもありますまい。
こういう関心を持って調査票を眺めたところ,ズバリ該当する設問がありました。属性調査(Background Questionnaire)のI_Q04dにおいて,以下のセンテンスに自分はどれほど当てはまるかと問うています。
I like learning new things (私は新しいことを学ぶのが好きだ)
私は,本調査のローデータ(未加工データ)を使って,この設問への回答結果を国ごとに明らかにしました。最初に,わが国を含む主要国の回答分布をみていただきましょう。対象は,各国の16~65歳の国民です。( )内の数字はサンプル数です。無回答・無効回答は集計から除外しています。
なお,ローデータは下記サイトにてダウンロード可能です。SASとSPSSのファイルで提供されています。私は,エクセルのほうが使い勝手がいいので,SPSSでDLしたのをエクセル形式に変換しました。この作業に際しては,非常勤で教えに行っている武蔵大学の情報処理センターのパソコンを使わせていただきました。記して,感謝申します。
http://www.oecd.org/site/piaac/publicdataandanalysis.htm
日本の成人の知的好奇心は,他国と比して高くないようです。「とてもよく当てはまる」と「よく当てはまる」を強調しましたが,欧米4国と日韓の間に断絶があります。両者の合算値は日韓では4割ほどですが,他の4国では6割を超え,米仏では8割にも達します。
読解力や数学的思考力はトップですが,知的好奇心の面では芳しくないようですね。アメリカなんかはその逆。どっちがいいのやら・・・。
知的好奇心と学力のマトリクス上に,調査対象となった各国を散りばめてみましょう。後者は,国際差が大きい数的思考力の平均点を用います。下図は,双方が分かる21か国の布置図です。点線は,平均水準を意味します。
日本は,数学力はトップですが知的好奇心は下から2番目なので,左上に位置しています。対極には,先ほどみた米仏や南欧の国がありますね。
今から10年,20年先のことなんて分からない。インターネットをも超えるテクノロジーが出現するかもしれない。こういう変動社会において,躍進する可能性を秘めているのはどちらか。現在のみならず「未来」の視点も据えるなら,日本の位置に対する評価も変わってくるでしょう。
むろん,新しい知識というのは既存の知識の上に積み上げられるものであり,知的好奇心は,そうした土台を伴っていることが望まれます。上図の右上にあるのは,それが比較的具現されている社会です。ほう,いずれも北欧国ですね。スウェーデンとかは,生涯学習の先進国としてよく紹介されますが,さもありなんです。
あと一つ,面白い図を紹介しましょう。「新しいことを知りたい」という知的好奇心は年齢によって異なりますが,年齢ごとの好奇心分布をスウェーデンと日本で比較したものです。ローデータを使うことで,こういう細かい統計を作成することも可能です。
両国とも,若年層のほうが知的好奇心が高く,年齢を上がるにつれてそれは萎んでいきます。これは生理的な側面も含んでいますが。2つのグラフをみてどうでしょう。日本の20歳の好奇心は,スウェーデンの65歳とほぼ同じではありませんか。
凝視すると,左右のグラフはつながっているようにも見えますよね。ある方がツイッター上で「スウェーデン人の死後の世界が日本人なんだ」とつぶやいておられました。言葉が穏やかでないですが,言い得て妙かなとも思います。
加齢による知的好奇心の変化というのは,脳の構造変化のような生理要因にのみ由来するのではなく,社会現象としての側面も持っているのですなあ。
「大人の学力,世界1」という目出度い結果が出ているのですが,それは,子ども期にかけて試験という外圧で刷り込まれたものなのかもしれません。しかるに,変動の激しい社会では,人生の初期に学校で学んだ知識は直ちに陳腐化してしまいます。こういう時代では,学校を離れた後も,新しいことを自分で吸収していく意欲・態度が重要となります。
学校教育では,あらゆる学習の基盤となる基礎知識を教え込むと同時に,こうした「学ぶ意欲」を涵養することが求められますが,わが国の場合,後者が弱いのではないか,という懸念が持たれます。それどころか,長期の学校生活を経る過程において,それが摘み取られているという皮肉な事実があるかもしれません。学ぶ意欲の追跡調査なども実施されて然るべきではないでしょうか。
私は,武蔵野大学で調査統計法という授業を担当していますが,どうせ使わない,すぐ忘れるような「教科書的」内容をねじ込むのではなく,統計を活用して世の中の問題を「斬る」意欲・態度を身につけてもらうことに主眼を置いています。
授業評価の質問紙にて,「この授業の内容をもっと自分で深めてみたいという気になったか」という設問がありますが,私が一番注目するのはココです。Yesという回答比率が少しでも高くなるよう,日々奮闘しているつもりです。
2013年12月5日木曜日
女性タレントの浪費
総務省の『就業構造基本調査』は5年間隔で実施されていますが,この調査の時系列結果をつなぎ合わせることで,加齢に伴う就業者の増減を知ることができます。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm
私は,結婚・出産期にかけて,女性の正規職員(正社員)の数がどう変化するかに興味を持ちました。昔に比べたら改善されているのでしょうが,わが国はまだまだ,仕事か家庭かの二者択一を女性に強いる社会であるといわれます。そうであるなら,この時期において,女性正社員の減少が観察されるはずですが,実情はどうなのでしょう。
2007年の25~29歳は,5年後の2012年には30~34歳になります。私は,この2カテゴリーの正規職員数(男女)を調べ,両者を照合してみました。下表をご覧ください。
20代後半から30代前半にかけて,男性正社員は増えていますが,女性は減っていますね。女性は162万人から132万人へと,およそ2割の減です。なるほど,巷でいわれていること,さもありなんです。
しかし,2割減とはねえ。人員削減で,どの企業も正社員の数をうんと減らしていると思いますが,働き盛りの女性にここまで抜けられて,痛手にはならないのでしょうか。
これは正規職員全体の傾向ですが,次に,職業別のデータをみてみましょう。結婚・出産期にかけて女性正社員の減少が著しい,女性がフルタイム就業を継続しづらいのはどの職業か。アンケートで意識を尋ねるのもいいですが,官庁統計から分かる「ヒトの動き」に着目するのも一つの手です。
私は,上表と同じ増減倍率を68の職業について計算しました。2012年の30代前半の正社員数が,2007年の20代後半の何倍になったかです。
下の表は,男女の一覧表です。0.8未満,すなわち2割以上減の場合は黄色のマークをしています。「**」は,20代後半時点の正社員がほぼ皆無なので,倍率が算出できなかったことを示唆します。「0.00」は,20代後半の時点では存在した正社員が,30代前半ではいなくなった,ということです。
予想通りといいますか,男性より女性で多くのマークがついていますね。女性の場合,27の職業で減少率が2割を越えています。
とりわけ注目したいのは医師(歯科医師,獣医師は含まない)で,女性の正規雇用の医師は,20代後半では11,500人だったのが,30代前半では6,200人にまで減っています。ほぼ半減です。離職して自ら開業する開業医が増えるのかなと思いましたが,ツイッター上で教示いただいたところによると,そうではないようです。
こちらもツイッターで教えていただいたことですが,「大学病院や医局はマタハラ,パワハラのジャングル」だそうです。「妊娠出産育児を少しでも考える女性医師は辞めるしか」なく,「そういう女性は初めから医師を目指さない」とのこと。これはヒドイ。
https://twitter.com/ftetsuo1/status/406990822228250624
ちなみに,青色で囲っているのは専門・技術職ですが,このゾーンに黄色のマークが結構ついているではないですか。これはもう,女性の才能(talent)の浪費という問題にも通じるでしょうなあ。「ヒト」しか資源のない日本にとって,とうてい看過し得ぬことです。
「ヒトの動き」というのは,正直です。ブラックの指標として,結婚・出産期にかけての正社員増加倍率というものも考えられてよいでしょう。願はくは,これを企業別に出したいのですが,『四季報』とかで,各企業の年齢層別正社員数を載せてくれないかしらん。こちらは,離職率などと違って回答を嫌がられることはないでしょう。
『帝国データバンク会社年鑑』とかに載っているかな。今度,国会図書館に行ったときに調べてみようと思います。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm
私は,結婚・出産期にかけて,女性の正規職員(正社員)の数がどう変化するかに興味を持ちました。昔に比べたら改善されているのでしょうが,わが国はまだまだ,仕事か家庭かの二者択一を女性に強いる社会であるといわれます。そうであるなら,この時期において,女性正社員の減少が観察されるはずですが,実情はどうなのでしょう。
2007年の25~29歳は,5年後の2012年には30~34歳になります。私は,この2カテゴリーの正規職員数(男女)を調べ,両者を照合してみました。下表をご覧ください。
20代後半から30代前半にかけて,男性正社員は増えていますが,女性は減っていますね。女性は162万人から132万人へと,およそ2割の減です。なるほど,巷でいわれていること,さもありなんです。
しかし,2割減とはねえ。人員削減で,どの企業も正社員の数をうんと減らしていると思いますが,働き盛りの女性にここまで抜けられて,痛手にはならないのでしょうか。
これは正規職員全体の傾向ですが,次に,職業別のデータをみてみましょう。結婚・出産期にかけて女性正社員の減少が著しい,女性がフルタイム就業を継続しづらいのはどの職業か。アンケートで意識を尋ねるのもいいですが,官庁統計から分かる「ヒトの動き」に着目するのも一つの手です。
私は,上表と同じ増減倍率を68の職業について計算しました。2012年の30代前半の正社員数が,2007年の20代後半の何倍になったかです。
下の表は,男女の一覧表です。0.8未満,すなわち2割以上減の場合は黄色のマークをしています。「**」は,20代後半時点の正社員がほぼ皆無なので,倍率が算出できなかったことを示唆します。「0.00」は,20代後半の時点では存在した正社員が,30代前半ではいなくなった,ということです。
予想通りといいますか,男性より女性で多くのマークがついていますね。女性の場合,27の職業で減少率が2割を越えています。
とりわけ注目したいのは医師(歯科医師,獣医師は含まない)で,女性の正規雇用の医師は,20代後半では11,500人だったのが,30代前半では6,200人にまで減っています。ほぼ半減です。離職して自ら開業する開業医が増えるのかなと思いましたが,ツイッター上で教示いただいたところによると,そうではないようです。
こちらもツイッターで教えていただいたことですが,「大学病院や医局はマタハラ,パワハラのジャングル」だそうです。「妊娠出産育児を少しでも考える女性医師は辞めるしか」なく,「そういう女性は初めから医師を目指さない」とのこと。これはヒドイ。
https://twitter.com/ftetsuo1/status/406990822228250624
ちなみに,青色で囲っているのは専門・技術職ですが,このゾーンに黄色のマークが結構ついているではないですか。これはもう,女性の才能(talent)の浪費という問題にも通じるでしょうなあ。「ヒト」しか資源のない日本にとって,とうてい看過し得ぬことです。
「ヒトの動き」というのは,正直です。ブラックの指標として,結婚・出産期にかけての正社員増加倍率というものも考えられてよいでしょう。願はくは,これを企業別に出したいのですが,『四季報』とかで,各企業の年齢層別正社員数を載せてくれないかしらん。こちらは,離職率などと違って回答を嫌がられることはないでしょう。
『帝国データバンク会社年鑑』とかに載っているかな。今度,国会図書館に行ったときに調べてみようと思います。
2013年12月1日日曜日
15歳生徒の数学嗜好の国際比較
今年の初頭に出た,西内啓さんの『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社)がベストセラーになっています。副題の「データ社会を生き抜く武器と教養」という文言にひかれた方も多いことでしょう。
http://www.diamond.co.jp/book/9784478022214.html
「統計は未来を占う羅針盤」といわれますが,不確実性の度合いを高めていく世の中にあって,統計学の素養を身につけておくことは重要といえます。また「データ社会」という表現も言い得て妙で,スイカ等のICカードの普及により,人間の行動の多くが「データ化」されています。それを集積したのがいわゆる「ビッグ・データ」であり,これを分析しマーケティング等に活かす「データ・サイエンティスト」という職業への需要も高まっているそうです。
こうした状況変化を見越してのことか,最近は文系の学部でも,統計学を必修にしている所が少なくありません。私が教えに行っている武蔵野大学環境学部も然り。「調査統計法1」という科目が必修であり,今年度は私が担当しています。
ところで,当の学生さんたちが「統計学をモノにしたい」という意欲をどれほど持っているかというと,それが高い子もいればそうでない子もいます。私がみる限り,数的には後者のほうが多いな,という印象です。中高でよほど痛い目に遭ったのか,すっかり数学アレルギーを呈している子も・・・。これは,学習を進めるにあたって大きな痛手となります。
まあ,私の頃も数学は嫌われていましたし,他の社会でも概ねそうでしょうが,データでみるとどうなのか。今回は,大学に入ってくる前の高校生の数学嗜好を,国ごとに比べてみようと思います。国際データのなかで,わが国がどこに位置づくのかが見ものです。
OECDの国際学力調査のPISA2003では,対象の15歳生徒の数学嗜好を尋ねています。8つの項目を提示し,各々にどれほど当てはまるかを答えてもらう形式です。設問を掲げます。生徒質問紙調査のQ30です。
いずれの項目においても,左寄りの回答ほど数学嗜好が強いことを意味します。これら8項目への回答を合成して,対象生徒の数学嗜好を測る一元尺度をつくってみましょう。
「1」という回答には4点,「2」には3点,「3」には2点,「4」には1点という点数を与えます。この場合,回答した生徒の数学嗜好の強さは,8~32点のスコアで計測されることになります。全部1に丸をつけるバリバリの数学好きは32点,全部4を選ぶ超数学嫌いは8点となる次第です。
私は,OECDサイトからローデータ(未加工データ)を入手して,このやり方にて,41か国・25万8,035人の生徒の数学嗜好スコアを計算しました。いずれかの項目に無回答ないしは無効回答がある生徒は,分析対象から除外しています。
http://pisa2003.acer.edu.au/
手始めに,日本とアメリカの男子生徒のスコア分布をみていただきましょう。日本は2,257人,アメリカは2,638人のスコア分布です。
最頻値(モード)をみると,日本は8点の超数学嫌いが最も多く,アメリカでは24点が最多です。24点とは,8項目全てに「そう思う」と答えるレベルです。分布を全体的にみても,日本は低いほう,米国は高いほうに偏していることが分かります。
これだけからも,男子生徒の数学嗜好は日本よりアメリカで高いことが明らかですが,その程度を簡易に表すため,スコアの平均点を出すと,日本は18.2点,アメリカは21.5点となります。これにて,「日<米」という事実が可視化されました。
それでは,PISA2003の対象の41か国について,この数学嗜好スコアの平均点を算出してみましょう。ジェンダー差もみるため,各国の平均点を男女別に出しました。下図には,横軸に男子,縦軸に女子の平均点をとった座標上に,41の社会を位置づけたものです。
日本は,男女とも最下位です。15歳生徒といったら高校生ですが,わが国は,高校生の数学嗜好が世界で最も低いようです。言いかえると,数学ギライが最も多い社会なり。
先ほどサシで比較したアメリカは中間辺りであり,生徒の数学嗜好がもっと強い社会もみられます。図の右上には,北アフリカのチュニジアをはじめ,発展途上国が多く位置していますね。国力増強のため,理数教育に力が入れられているのか。それとも,理系人材が重宝されるのか。いろいろな事情が想起されます。
なお斜線は均等線であり,この線より下に位置する場合,女子よりも男子の数学嗜好が強いことを意味しますが,予想通りというべきか,多くの国がこのラインより下にあります。ただタイだけは例外で,この熱帯国では男子より女子が数学好きです。人間はやっぱり,社会によって有様を変えられる社会的生き物なのだな,と思わされます。
さて,以上のデータをどうみたものでしょう。ご存知の通り,わが国の生徒の数学的リテラシーは国際的にみて高い水準にありますが,悲しいかな,それに「意欲・態度」というものが備わっていないようです。
それは,試験や大学受験という外圧がなくなった途端,メリメリと剥がれ落ちてしまう「偽」の学力であるともいえます。その昔,ある教育学者が「学力の剥落」という現象を指摘したことがありますが,日本ではそれが頻繁に起きているのではないかと危惧されます。
今回のデータから,目の前の学生さんのレディネスというのが,どういうものかが分かりました。最強の学問である統計学の素養を身につけてもらうには,統計学の有用性を感じることのできる教材をふんだんに使う必要がありそうです。
度数分布表から平均値を求めるやり方を扱ったときは,都内の地域別の平均年収を計算させましたが,あれなんかはウケてたな。このように,抽象的な内容の「有用性」を分からせる教材を用意するのも,教師のウデの見せどころですよね。がんばりませう。
http://www.diamond.co.jp/book/9784478022214.html
「統計は未来を占う羅針盤」といわれますが,不確実性の度合いを高めていく世の中にあって,統計学の素養を身につけておくことは重要といえます。また「データ社会」という表現も言い得て妙で,スイカ等のICカードの普及により,人間の行動の多くが「データ化」されています。それを集積したのがいわゆる「ビッグ・データ」であり,これを分析しマーケティング等に活かす「データ・サイエンティスト」という職業への需要も高まっているそうです。
こうした状況変化を見越してのことか,最近は文系の学部でも,統計学を必修にしている所が少なくありません。私が教えに行っている武蔵野大学環境学部も然り。「調査統計法1」という科目が必修であり,今年度は私が担当しています。
ところで,当の学生さんたちが「統計学をモノにしたい」という意欲をどれほど持っているかというと,それが高い子もいればそうでない子もいます。私がみる限り,数的には後者のほうが多いな,という印象です。中高でよほど痛い目に遭ったのか,すっかり数学アレルギーを呈している子も・・・。これは,学習を進めるにあたって大きな痛手となります。
まあ,私の頃も数学は嫌われていましたし,他の社会でも概ねそうでしょうが,データでみるとどうなのか。今回は,大学に入ってくる前の高校生の数学嗜好を,国ごとに比べてみようと思います。国際データのなかで,わが国がどこに位置づくのかが見ものです。
OECDの国際学力調査のPISA2003では,対象の15歳生徒の数学嗜好を尋ねています。8つの項目を提示し,各々にどれほど当てはまるかを答えてもらう形式です。設問を掲げます。生徒質問紙調査のQ30です。
いずれの項目においても,左寄りの回答ほど数学嗜好が強いことを意味します。これら8項目への回答を合成して,対象生徒の数学嗜好を測る一元尺度をつくってみましょう。
「1」という回答には4点,「2」には3点,「3」には2点,「4」には1点という点数を与えます。この場合,回答した生徒の数学嗜好の強さは,8~32点のスコアで計測されることになります。全部1に丸をつけるバリバリの数学好きは32点,全部4を選ぶ超数学嫌いは8点となる次第です。
私は,OECDサイトからローデータ(未加工データ)を入手して,このやり方にて,41か国・25万8,035人の生徒の数学嗜好スコアを計算しました。いずれかの項目に無回答ないしは無効回答がある生徒は,分析対象から除外しています。
http://pisa2003.acer.edu.au/
手始めに,日本とアメリカの男子生徒のスコア分布をみていただきましょう。日本は2,257人,アメリカは2,638人のスコア分布です。
最頻値(モード)をみると,日本は8点の超数学嫌いが最も多く,アメリカでは24点が最多です。24点とは,8項目全てに「そう思う」と答えるレベルです。分布を全体的にみても,日本は低いほう,米国は高いほうに偏していることが分かります。
これだけからも,男子生徒の数学嗜好は日本よりアメリカで高いことが明らかですが,その程度を簡易に表すため,スコアの平均点を出すと,日本は18.2点,アメリカは21.5点となります。これにて,「日<米」という事実が可視化されました。
それでは,PISA2003の対象の41か国について,この数学嗜好スコアの平均点を算出してみましょう。ジェンダー差もみるため,各国の平均点を男女別に出しました。下図には,横軸に男子,縦軸に女子の平均点をとった座標上に,41の社会を位置づけたものです。
日本は,男女とも最下位です。15歳生徒といったら高校生ですが,わが国は,高校生の数学嗜好が世界で最も低いようです。言いかえると,数学ギライが最も多い社会なり。
先ほどサシで比較したアメリカは中間辺りであり,生徒の数学嗜好がもっと強い社会もみられます。図の右上には,北アフリカのチュニジアをはじめ,発展途上国が多く位置していますね。国力増強のため,理数教育に力が入れられているのか。それとも,理系人材が重宝されるのか。いろいろな事情が想起されます。
なお斜線は均等線であり,この線より下に位置する場合,女子よりも男子の数学嗜好が強いことを意味しますが,予想通りというべきか,多くの国がこのラインより下にあります。ただタイだけは例外で,この熱帯国では男子より女子が数学好きです。人間はやっぱり,社会によって有様を変えられる社会的生き物なのだな,と思わされます。
さて,以上のデータをどうみたものでしょう。ご存知の通り,わが国の生徒の数学的リテラシーは国際的にみて高い水準にありますが,悲しいかな,それに「意欲・態度」というものが備わっていないようです。
それは,試験や大学受験という外圧がなくなった途端,メリメリと剥がれ落ちてしまう「偽」の学力であるともいえます。その昔,ある教育学者が「学力の剥落」という現象を指摘したことがありますが,日本ではそれが頻繁に起きているのではないかと危惧されます。
今回のデータから,目の前の学生さんのレディネスというのが,どういうものかが分かりました。最強の学問である統計学の素養を身につけてもらうには,統計学の有用性を感じることのできる教材をふんだんに使う必要がありそうです。
度数分布表から平均値を求めるやり方を扱ったときは,都内の地域別の平均年収を計算させましたが,あれなんかはウケてたな。このように,抽象的な内容の「有用性」を分からせる教材を用意するのも,教師のウデの見せどころですよね。がんばりませう。