私は2008年に,『47都道府県の子どもたち』という本を武蔵野大学出版会より出しました。発育,能力,および逸脱という視点を設け,各県の子どものすがたを多角的・総合的に診断しようという試みです。
http://www.ajup-net.com/bd/isbn978-4-903281-10-0.html
本書で用いているのは主に2007年のデータですが,そろそろデータを更新したいという欲が出てきました。現在では,2012年のデータを軒並み揃えることができます。これから4回かけて,2012年の県別の子ども診断をしてみようと思います。名づけて「47都道府県の子どもたち2012」プロジェクトです。子どもとは,義務教育段階の小・中学生をさすこととします。
初回の今回は,子どもの発育状況に焦点を当てましょう。「健康第一」とは周知のフレーズですが,子どもの学力云々がよく言われる割には,こうしたプライマリーな部分への関心は小さいようにも思えます。しかるに近年,各種の病気を患う子どもが増えてきていることは,よく指摘されるところです。
私は,子ども期の代表的な疾患である喘息と虫歯の罹患率を県別に計算してみました。また,体格を歪みを表す指標として,肥満傾向児の比率も出してみました。この3つの指標でもって,47都道府県の子どもの発育状況を診てみようと思います。
文科省の『学校保健統計調査』(2012年度)には,小・中学生の喘息罹患率,未処置の虫歯がある者の率,そして肥満傾向児率が県別・学年別に掲載されています。この数値を,『学校基本調査』(同年)から分かる各県の各学年の全児童・生徒数に乗じて,学年別の罹患者数の実数を出しました。この実数の合算値を,各県の小・中学生数で除して率を計算した次第です。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa05/hoken/1268826.htm
下表の左欄は,算出された率(%)の県別一覧です。なお,3指標を同列評価するための相対スコアも出してみました。1~5位を10点,6~10位を9点,11~15位を8点,16~20位を7点,21~25位を6点,26~30位を5点,31~35位を4点,36~40位を3点,41~45位を2点,46~47位を1点,としたものです。右欄に掲げているのは,このやり方で換算した相対スコアです。
まず実数をみると,喘息率は1.3%(青森)~6.3%(新潟),虫歯率は16.9%(新潟)~40.3%(沖縄),肥満率は3.1%(京都)~6.6%(福島),というレインヂが観察されます。沖縄では,小・中学生の4割以上が虫歯っ子ですか。
次に,各県の順位に依拠した相対スコアをみてみましょう。10点(1~5位)は赤色にしましたが,地域性が出ていますね。喘息は首都圏,虫歯は南九州,肥満は北海道・東北ではありませんか。
大気汚染が相対的に進んでいる都市部で子どもの喘息が多いのは,頷けること。南九州で虫歯が多いのは,親族関係が比較的濃厚で,祖父母等が子どもに甘いお菓子を与える頻度が高い,ということでしょうか。北国で肥満率が高いのは,雪に閉ざされた冬場の運動不足という要因がよくいわれます。
表の右端は,3指標のスコアの平均値(average)です。この数値でもって,子どもの発育の歪みを総合評価することにいたしましょう。この指標を地図化すると,下図のようになります。5点以下,5点以上6点未満,6点以上7点未満,および7点以上という4階級を設け,各県を塗り分けてみました。
子どもの発育問題が相対的に色濃いのは,北関東や南東北です。宮城や福島といった震災の被災地も含まれます。スコア平均のトップは福島の9.3点です。長期の避難生活や外出制限によるところが大きいと思われます。
地図をみると,中部や近畿圏は色が薄くなっていますが,次回以降でみる能力や逸脱という点ではどうでしょう。本プロジェクトのウリは,各県の子どものすがたを多角的・総合的に診ることです。
次回は,逸脱という観点を据えてみます。非行やいじめといった,標準からズレた(逸脱した)行いの頻度が観察されることになります。この視点による地図は,上図のものとはまた違っていることでしょう。お楽しみに。