用いるのは,ここのところ毎回使っている,国際教員調査(TALIS 2013)です。ローデータをゲットしましたので,任意の設問間のクロスも自由自在。いろいろなことを明らかにできる「お宝」です。ローデータは,下記サイトにてダウンロードできます。
本調査では,対象の中学校教員に,自分が担当している特定の1クラス(Target Class)を想定してもらい,当該クラスにおける授業実践について深く尋ねています。調査日直近の木曜日の午前11時以降に,最初に教えたクラスとされています。
設問の中に,当該クラスの生徒のうち,社会経済的に不利な家庭環境の生徒は何%いるかを問うものがあります。適切な住環境,栄養,ないしは医療的ケアを欠いた家庭の生徒です。俗にいう,貧困家庭の生徒といってよいでしょう。
日本の中学校教員の回答分布は,以下のようです(無回答・無効回答は除外)。各教員が大雑把に見積もった結果です。
①:全くいない(None) … 1,018人
②:1%~10% … 1,712人
③:11%~30% … 579人
④:31%~60% … 113人
⑤:60%以上 … 30人
①をA群,②をB群,③をC群,④と⑤は合わせてD群といたしましょう。D群に行くほど,貧困家庭の多いクラスを受け持っている教員ということになります。貧困家庭の生徒が3割以上いると答えたD群は,量的には少ないですね(143人)。
さて各群の教員は,同じクラスにおいて,学業不振児や問題児(行動に問題がある生徒)はどれほどいると答えているか。下の図は,群ごとの回答分布をとったものです。
左側をみると,D群の教員の半分は,同じクラスに学業不振の生徒が3割以上いると答えています(黒色)。図の模様がおおむね右下がりになっていることから,貧困児と学業不振児の割合の相関関係が見て取れます。
右側の問題行動いついても,貧困の量との関連を認めてよいでしょう。A群の教員の半数は「全くいない」と答えていますが,C群やD群では白色は少なく,その代わりグレーやブラックの比重が多いのです。
貧困と学業不振・問題行動の因果経路の説明は省きますが,こうした社会的規定性があることを常に疑い,それを可視化する努力を怠ってはなりますまい。
と同時に,事態の打開策を探るという視点でいうなら,次のような問題を立てることも必要です。D群の白色のクラスでは,どういう実践が行われているか?
貧困家庭の生徒が3割以上いるクラスにもかかわらず,学業不振児や問題児が一人もいない。こういうクラスですが,そこではどういう教育実践が行われているか。このような問題です。おそらく,「下」に手厚い実践がなされているのではないでしょうか。
上記のデータでは,D群の教員は143人しかいません。白色の部分に限定したらサンプルがごくわずかになってしまいますので,この問題を追及できませんが,重要な課題です。いや,量的に少ないというなら,いっそ一人一人を対象としたインタビュー調査も可能でしょう。私に権限があれば,そういうことをするな…。こんなふうに思います。