またもや「言わずとも知れた」テーマですが,この点についても,公的調査の統計をもとにデータをつくっておこうと思います。
わが国の大学の学費はバカ高なのですが,そうである以上,大学まで行きたいと考える子どもの率は,家庭の経済状況によって異なるでしょう。中学生にもなれば,家庭の状況を薄々察して,「自分はここまでかな」という見切りをつける生徒も少なくないと思われます。
用いるのは,内閣府の『小・中学生の意識に関する調査』(2013年度)です。児童・生徒とその親を対象とした調査であり,今回の主題に関するデータをつくることができます。ローデータが手元にありますので,自前のデータ操作も可能です。
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/thinking/h25/junior/pdf_index.html
分析の対象は,中学生618人です。家庭の経済状況,最終学歴展望など,必要な設問全ての有効回答が揃っている生徒です。まずこの618人を,家庭の経済的ゆとり度によってグループ分けすることから始めましょう。「あなたのご家庭の生活は経済的にどの程度のゆとりがありますか」という問いに対する,母親の回答分布は以下のようになっています。
①:かなりゆとりがある ・・・ 6人
②:多少はゆとりがある ・・・ 182人
③:あまりゆとりがない ・・・ 236人
④:ほとんどゆとりがない ・・・ 194人
①と②を足して「富裕層」,③を「中間層」,④を「貧困層」としましょう。こうすると,富裕層が188人,中間層が236人,貧困層が194人となり,人数的にもバランスがよくなります。
本題に入る前に,この3群によって,学校の授業の理解度がどう違うかをみてみましょう。「学校の授業がよく分かっている」という項目に対する,自己評定の分布です。カッコ内はサンプル数を表します。
「あてはまる」という強い肯定の比率は,家庭に経済的ゆとりがある群ほど高くなっています。中学校にもなれば授業内容も高度化し,塾や家庭教師をつけられる生徒,落ち着いて勉強できる環境がある生徒が有利になるといいますが,それをうかがわせるデータです。
また,家庭と学校の文化的距離という「文化的再生産」の視点からも解釈できるでしょう。学校で教えられる抽象的な教授内容に親和的なのは,蔵書などの文化財が多くある(とみられる)富裕層の子弟であると思われます。
では,本題です。3つの階層群によって,最終学歴展望がどれほど異なるか。「あなたは,将来どの学校まで行きたいと思いますか」に対する,生徒の回答分布を比べてみます。傾向のジェンダー差がみられますので,男子と女子で分けたグラフをみていただきましょう。
大学までの志望者を強調しましたが,中学生の大学進学志望率も,家庭の経済状況ときれいに相関しています。しかしその程度は,男子よりも女子で高いようです。女子の場合,階層が下がるにつれて10ポイント以上,ガクン,ガクンと落ちていきます。
経済的ゆとりがない家庭では,進学は男子優先,女子は行かせられない。どこぞの昔話のようですが,現代日本でも,こういう実情があることを思わせる図柄です。学力にそれほど大きな男女差があるとは思えませんし・・・。
中学生にもなれば,生徒自身もそうした家庭のクライメイトを感じ取っている。こういうことでしょうか。
昨年の9月13日の記事では,県別・性別の大学進学率を出したのですが,進学率のジェンダー差が大きい県もみられました。北海道では,男子45.8%,女子32.7%であり,その差は1.4倍にもなります(2013年春)。おそらくは,上図のような傾向がより一層顕著なことでしょう。
先の記事では,「地方に埋もれた才能の浪費」という問題を指摘しましたが,「女子の才能の浪費」という古くて新しい問題も付け加えておきましょう。
学業成績とのクロスもとれればこの問題がもっとクリアーになるのですが,それは叶いません。女子の場合,大学進学志望率の最大の規定因は成績(能力)ではなく,家庭の経済状況であったりして。この問題を吟味できるデータがないかしらん。
さて,お盆休みも今日で終わり。明日からまた通常の一週間ですね。私は生活に変化なしですが,がんばりましょう。