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2014年12月31日水曜日

2014年の総括

 大みそかですが,今日は暖かいですね。昼に買い物に行ったのですが,コートは要らないくらいでした。明日も晴天。気持ちのよい新年のスタートになりそうです。

 さて,今年(2014年)の活動の総括をしようと思います。大学非常勤講師は,前期は「調査統計法2」(武蔵野大学,水曜5限),「リカレント教育論」(武蔵野学院大学,金曜2限)を担当しました。後期は,杏林大学教職課程にて「教育社会学」(月5限)を持っています。

 文筆のほうは,教員採用試験の参考書・問題集の改訂作業をしました。最新の出題傾向や読者さんの声をふまえ,よりよいものになるよう努めています。今年は新刊として,国家公務員試験・教育学の過去問集の執筆も手掛けました。マイナーな科目ですので,類書はまだないと聞いています。本科目を選択予定のみなさん,どうぞお手にとってください。

 また3つのメディアにて,連載をスタートしました。①実務教育出版社『受験ジャーナル』,②日本教育新聞,③日経BP社『日経デュアル』です。来年も続きますので,どうぞご覧ください。③はWeb誌ですので,右上のリンク先からすぐに飛べます。

 あと一点,今月の半ばに初の電子書籍を刊行しました。『平均年収の真実-31の統計をもとに年収と格差社会を図解-』(インプレス社)です。本ブログから格差に関わる31の記事を取り出し,編集していただきました。最近は,こういう媒体もあるのですよね。これを機に,キンドルを始めたところです。読書生活の楽しみが増えました。

 次にブログですが,今年は本記事を入れて183本の記事を書きました。だいたい1日おきのペースです。来年は200を超えたらいいなと思います。

 さて,このブログは2010年12月に開設して以来,4年ちょっとになりますが,これまでの総PV数は291万6916です(本日の15:00時点)。4年間の日数(1460日)で割ると,1日あたり2000ほどになります。開設時からの記事総数は877本ですが,PV数の多い上位10の記事を掲げます。*本日15:00時点の集計結果です。


 トップは今年の2月に書いた「職業別の生涯未婚率」です。『就業構造基本調査』のデータから出したものですが,他にデータがないのか,この記事はウケました。赤字は今年に書いた記事ですが,3つが殿堂入りしたことになります。

 この数がどれほどかによって,その年の「ガンバリ度」が可視化されるのですが,来年は半分くらい赤字になるよう頑張りたいと思います。これまでの財産の上にあぐらをかかない,常に知識を更新していく。こういう気構えを忘れないでいたい。

 私は,ブログとツイッターを併用して自分の作品を発信していますが,今年は嫌なことにも遭遇しました。心ない者によって図表を剽窃され,つまらない諍いを経験しました。ツイッター上でかなり広まったようなので,ご存じの方も多いでしょう。

 私のブログやツイの図表は,出典明記の上で使っていただく分には構いません。「無断転載厳禁。転載を希望の際は必ず事前に許諾を求めてください」と書いているブロガーが多いですが,私は,そこまでは申しません。無断転載は結構(営利目的の場合は別)。ただ,著作権法の規定にのっとって,出典の明示をしていただきたいまでです。

 おっと,愚痴っぽいことを書いてしまいましたが,年の締りがこうではいけませんよね。明るい気持ちで年を越しましょう。それではみなさま,よい年をお迎えください。来年も,本ブログをどうぞよろしくお願い申し上げます。


 今年最後の夕空。富士山の型もうっすら出ています。

                                            2014年12月31日
                                               舞田 敏彦

2014年12月30日火曜日

2014年12月の教員不祥事報道

 今年もあと2日ですが,いかがお過ごしでしょうか。月末の教員不祥事報道の整理ですが,明日は今年の総括記事を書く予定ですので,今日やってしまいます。まあ年末休みですし,今日・明日に新たな報道がされることはないでしょう(たぶん)。

 今月,私がネット上で把握した不祥事報道は27件です。年末ですが,紙上を賑わせてくれました。2013年1月から収集作業を続けていますが,これで2年(24か月)分のデータがたまったことになります。そろそろ,数量分析に耐える数になってきました。来年度の調査法で,学生さんに分析してもらおうかなと思っています。

 来年も,作業を継続していくつもりです。某県の教育委員会の方から,「業務の参考にしている」というメールもいただきました。私個人でやっている零細業務ですが,組織の人は忙しくてこんな作業をしているヒマはないのでしょうね。うれしく思います。

<2014年12月の教員不祥事報道>
盗撮の中学教諭停職 暴言の小学教諭も処分 静岡県教委
 (12/3,静岡新聞,静岡,盗撮:中男24,暴言:小女45)
不正乗車の中学講師を停職処分(12/5,京都新聞,滋賀,中,女,35)
ホテルで女子高生とわいせつ行為 容疑の高校教諭逮捕
 (12/5,埼玉新聞,埼玉,高,男,29)
ペン型カメラで着替え盗撮、小学校講師を懲戒免(12/7,読売,茨城,小,男,32)
窃盗容疑で小学校教諭逮捕=靴下など38点―高知県警
 (12/8,時事通信,高知,小,男,55)
修学旅行で女生徒を盗撮容疑、青森の高校教諭逮捕(12/14,朝日,青森,高,男,26)
女子生徒に「体も頭も弱い」 中学教諭を懲戒処分(12/16,朝日,福岡,中,男,57)
教科書10冊で、生徒の頭を10回たたいた教諭(12/16,読売,宮崎,中,女,51)
原則禁じた私物SDに生徒資料入れ紛失した教諭(12/16,読売,大分,特,女,40代)
特別支援学校教諭が公然わいせつ 整体店で下半身露出、懲戒免職
 (12/17,山形,山形新聞,特,男,50代)
愛知の教諭2人懲戒免職 わいせつや酒気帯び運転 
 (12/18,朝日,愛知,わいせつ:小男33,酒気帯び運転:中男33)
女性宅に窓から侵入 容疑の中学教諭逮捕(12/18,産経,奈良,中,男,26)
県立高講師を懲戒免職 女子生徒3人にわいせつ行為
 (12/18,静岡新聞,静岡,高,男,30代)
中学バレー部元顧問、体罰で3カ月の減給 長野(12/19,産経,長野,中,男,55)
教諭4人を体罰で処分 大阪府教委(12/20,産経,大阪,高男49,高男40,特女26,高男49)
自校の生徒にみだらな行為、教諭2人を懲戒免職(12/23,朝日,埼玉,高男25,26)
修学旅行引率中、昼にビール…高校3教諭戒告(12/23,読売,千葉,男34,34,56)
特別支援学級の児童に体罰、口止めも 茨城の担任教諭(12/24,朝日,小,女)
ひき逃げ容疑で高校教諭逮捕 1.5キロ引きずったか(12/24,朝日,山形,高,男,60)
5年間にわたり児童の頬や尻たたき髪引っ張る 女性教諭「指導的措置」
 (12/24,産経,茨城,小,女,48)
女子生徒に「抱かせろ…」メール 30歳都立高校教師(12/24,テレビ朝日,東京,高,男,30)
女児にわいせつ行為、男性教諭を懲戒免職 道教委、処分8件
 (12/25,北海道新聞,北海道,わいせつ:小男40代,飲酒運転:中男25,不適切メール:中男38)
生徒の成績情報をメールで誤送信 所沢高校の教諭
 (12/25,埼玉新聞,埼玉,高,男,50代)
運動部顧問教諭、賞状破り捨てる 村山地区の中学校、県教委が戒告処分
 (12/26,山形新聞,山形,中,男,50代)
電車内で暴行容疑、中学校の副校長逮捕(12/26,神戸新聞,兵庫,中,男,57)
高校教諭、中学生に受験指導 兵庫県教委が処分(12/26,神戸新聞,兵庫,高,男,53)
保護者に購入させたテスト答案、一度も返却せず(12/28,読売,東京,小,男,40)

2014年12月29日月曜日

育児危機

 水戸黄門ソングに「人生楽ありゃ苦もあるさ~」とありますが,育児も然り。楽しい,生きがいになる,自分も成長できる・・・。こうした「明」ばかりが強調されるきらいがありますが,当然「」の部分もあります。

 後者を「可視化」できる資料がないものか,前から探査していたのですが,公的なものとして,東京都の『東京の子供と家庭』(2012年度版)という資料があることを知りました。20歳未満の子どもがいる父母に対し,育児に関する意識を尋ねています。

 具体的には,子育てに関する24の項目を提示し,各々がどれほどあるかを4段階の程度尺度で問うています。私は,ネガティブな側面の14項目を取り出し,それらに対する母親の反応を観察してみました。

 手始めに,「子どもを叩きたくなることがある」に対する反応分布をみてみましょう。シリアス度が高い項目ですが,どういう図柄になるか。子どもの発達段階による変異も押さえます。下図は,末子の年齢段階別に,母親の回答分布をグラフにしたものです。*無回答は除外。


 子が0歳(乳児)の段階では「全くない」が半分以上ですが,年齢を上がるにつれ肯定率が高まってきます。「よくある」+「時々ある」の比率をとると,1~2歳では42.8%,3~5歳では53.6%とピークになります。

 子どもの自我が芽生え,第1次反抗期を迎える頃と一致していますね。それまで従順だったわが子がいきなり抵抗し出すことによる,戸惑いの表れでしょうか。この段階では,半分以上の母親が,子どもを叩きたいという衝動にかられるようです。

 では,他の項目はどうなのでしょう。14の危機兆候について,「よくある」+「時々ある」の比率をグラフにしてみました。


 どうでしょう。一番上にあるのは,「子育てでイライラすることがある」の折れ線ですが,子どもの年齢を問わず,7~8割以上の母親が肯定しています。全般的に子育てにはイライラが伴うもの。そのピークは3~5歳,「子を叩きたくなる」と同じです。

 14本の折れ線の型は多様ですが,3~5歳と16~17歳にピークがあるものが多いようです。正確にカウントすると,前者にピークがあるのは4項目,後者にピークがあるのは6項目なり。14項目中10項目のピークが,このいずれかの段階にあるわけです。

 3~5歳は第1次反抗期(ないしはその残余期),16~17歳は親からの自立を志向する青年期のただ中。これらの時期に,育児危機が集中するというのは分かります。

 各項目のピーク年齢を整理すると,それぞれの発達段階の特徴が出てきます。下表は,肯定率のピーク年齢ごとに,14の項目を仕分けたものです。


 3~5歳の幼児期にピークがあるのは,イライラ,孤独志向,叩きたい,世話に嫌気の4つです。それまで言うことを聞いていたわが子が反抗し出す,生活習慣をなかなか身に付けてくれない・・・。こういうことに伴う,焦りや苛立ちを共通の根としているように思います。

 6~8歳の児童期では,いじめや発育の心配がピークです。学校に上がり,本格的な集団生活が始まる時期ですものね。また,学力テストや健康診断などの客観データも得られるようになり,よその子との比較にも晒されるようになりますので,発育に関わる心配も出てくるのでしょう。

 9~11歳にピークがある項目はありませんが,12~15歳の思春期になると,教育や将来への心配が頭をもたげてきます。中学校卒業の15歳は,重要な進路の分岐点ですが,これを迎えるにあたっての不安の表れとみられます。

 そして16~17歳の青年期に達すると,残りの6項目が一気にピークなります。その内容をみると,「子育てに我慢を強いられている」,「自分がかわいそう」,「子育てに周囲の理解がない」,「子どもがかわいくない」,「子どもなんていないほうがよかった」など,虚無感を漂わせるものがほとんどです。これまで懸命に育児に励んできたのに,子どもは次第に素気なくなってくる。親離れしていく子に対し,なかなか子離れできない母親の葛藤・・・。さらに,育児に伴って失ったもの(キャリア断絶など)を自覚する機会も多くなるでしょう。

 大都市の東京のデータですが,子どもの発達段階による育児危機をメニュー化してみると,こんな感じです。子育て中の親御さんに見ていただき,ご自身の悩みを相対視するのに使っていただけたらと思います。「自分だけじゃないのだ」と。また,これから先出てくるであろう危機を予見し,備えていただくのもよいでしょう。

 上表に盛られている育児危機のメニューは,育児経験がある先輩に聞けばわかることですが,個人によってブレがある体験だけでなく,客観的な数字に教えを請うのもいいかと思います。そのための素材を分かりやすい形で提供すること。こういう仕事を継続していきたいと考えています。

2014年12月28日日曜日

職業別の有効求人倍率

 厚労省『一般職業紹介状況』の2014年11月分が公開されたようです。各地のハロワ等が受け付けた求人数,求職数(新規学卒者は除く)などが掲載されている基本資料です。

 新聞では,老若男女,全産業,全地域をひっくるめた値が報じられていますが,この原資料をみると,細かいカテゴリーごとの数値を知ることができます。私が関心を持つのは,職業別のデータです。今の社会で求められているのはどういう職業かを可視化できる,と思うからです。

 私は,職業別の有効求人倍率を計算してみました。2014年11月時点において,全国のハロワ等で貼り出されている有効求人数を,求職している人間の数(有効求職数)で除した値です。簡単にいうと,求職者1人につき求人(仕事)がいくつあるか,という指標です。

 人手不足が深刻な介護サービス職でいうと,2014年11月時点の有効求人数(常用)は98613,有効求職数は49845ですから,有効求人倍率は1.98となります。求職者1人につき2つの仕事があるわけです。常用ではないパートになると,この値は3.65にもなります。人件費の安い非正規が求められているのでしょう。

 58の職業について,常用労働者とパート労働者の有効求人倍率を出し,グラフにしてみました。横軸に常用労働者,縦軸にパート労働者の値をとった座標上に,それぞれの職業をプロットした図です。


 日頃の印象が「見える」化されていますね。お医者さんの求人倍率は,常用が7.76,パートが5.58と高くなっています。医師不足が深刻な地方では,値はもっと高いことでしょう。

 あと需要が多いのは,建設関係とサービス関係ですが,前者は正社員希求型,後者はパート希求型というようにグルーピングできます。*斜線より下にあるのは「常用>パート」であり,上に位置するのはその逆です。

 解体工事や測量技師などについては,有資格の正社員が欲しいところですが,該当する人がなかなか見つからない。こうしたミスマッチにより,求人倍率が跳ね上がっているものとみられます。一方,左上のサービス職やドライバーの場合,求められる技能水準もさほど高くなく,安価なパートが望まれているのですが,待遇の悪さのため,人が集まらない。こういう構図でしょう。

 今の世の中で足りない仕事については,大よそのイメージを持っていましたが,それには下位タイプがあることが知られます。データはありませんが,性や年齢で区切ってみたら,もっといろいろな型が出てくるでしょう。

 ちなみに,一般事務などはお呼びでないようです。社会が求めるのはグレー・ブルーカラー,学校教育で量産されるのはホワイトカラー志望者。これも「ミスマッチ」といえるでしょうか・・・。

 社会の需要は時代に応じて激しく変わるものであり,それに対応して教育システムをいじくっていたら大変なことになりますが,社会がどういう人材を求めているかを等閑視してよい,ということにはなりますまい。高等学校における専門学科の拡充,職業教育に特化した高等教育機関の創設などが提言されていますが,学校と職業の断絶の問題が認識されてきるのでしょうか。

 教育と職業。教育の社会的機能を究明する,教育社会学のメインテーマの一つです。

2014年12月26日金曜日

体験格差

 昨日,子ども時代の体験の多寡が将来の年収に影響するという趣旨の記事を見かけました。引用されているデータは,国立青少年教育振興機構の『子どもの体験活動の実態に関する調査研究』(2010年)です。
http://news.livedoor.com/article/detail/9599645/
http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/62/

 調査の原資料をみてみると,なるほど,子ども期の体験の量は成人後の年収だけでなく,資質や能力の面をも規定していることが知られます。

 「何事も経験」といいますが,各種の体験は子どもの人格形成に好ましい影響を及ぼすであろうことは,疑い得ないところです。豊かな体験は,見せかけではない,生きた学力(文科省がいう「確かな学力」)の源泉にもなり,高い教育達成をもたらし,ひいては将来の成功にもつながる。こういう経路も想起されます。

 言わずもがな,子ども期の体験の量は人によって違いますが,それが当人の意向や自発性とは別の外的な条件によって規定される場合,単なる差ではなく,「格差」という問題事象であることになります。体験の中には,お金のかかるものもあります。また,保護者の文化的な嗜好によって,アクセスの可能性(頻度)が大きく制約されるものもあるでしょう。

 私は育ちが悪いと自認していますが,子どもの頃,美術館や音楽会などに連れて行ってもらったことはありません。家族での海外旅行経験もゼロ。大学に入り,教育社会学を勉強するようになって,「ああ,こういうことだったんだな」と,自分の子ども期を理解しました。

 はて,子どもの体験量の差は,家庭環境と関連しているのか。この問題を解いてみたいと思い,総務省『社会生活基本調査』(2011年)の公表統計を眺めたところ,ズバリ関連するデータがありました。小学生の各種行動の実施率を,家庭の年収別に集計した表です。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/index.htm

 いくつかの行動を取り出してグラフをつくってみたところ,きれいな「右上がり」の折れ線ができるものが多々ありました。目ぼしい15の行動のグラフをご覧に入れましょう。以下に掲げるのは,家庭の年収別にみた,小学生の過去1年間の体験率です。


 学校の授業や宿題とは別の自発的な学習,スポーツ(学校の授業は除く),芸術鑑賞(テレビやDVDは除く),読書,海外旅行の実施率ですが,富裕層の子弟ほど率が高いことが分かります。この図で描かれているのは,家庭環境と結びついた体験格差の一断面です。

 海外旅行経験の階層差は経済力の反映でしょうが,学習・読書・芸術鑑賞のそれは保護者の文化嗜好の差によるでしょうね。成人の趣味・嗜好が職業によって異なることは,9月7日の記事でもみたところです。

 あと,スポーツ実施率の階層差にも注目。水泳の実施率は,Ⅰの層では46.6%ですが,マックスのⅥの層では66.4%にもなります。費用のかかるスポーツクラブ等への加入率の差によるかのかもしれません。1月23日の記事では,子どもの体力格差現象を明らかにしたのですが,そこでの知見とも合致します。

 学力や体力だけでなく,体験という側面においても,社会階層と結びついた格差が存在することが示唆されます。「①高い社会階層 → ②豊かな体験 → ③確かな学力 → ④高い教育・地位達成」というループも存在していそうです。

 ①と③の狭間には,通塾などの教育投資や教育熱心な養育態度などが挿入されがちですが,ペーパーで測られる学力の規定因子としては,確かにそれらが強いでしょう。しかし最近は,行動力や問題解決力などをも包含する「確かな学力」が重視されています。こういう意味の学力の育成には,上記のような「豊かな体験」がモノをいう度合いが高いのではないでしょうか。

 これから先,社会階層と学力の関連を橋渡しする媒介要因として,今回取り上げたような体験格差の側面に注意する必要があるように思います。今後,大学入試も人物重視の方向に切り替えられるそうですが,面接で評される仕草や立ち振る舞いというのは,幼少期からどういう体験を積んできたかに規定されるもの。ペーパーの学力よりもはるかに,です。

 最近,貧困家庭の子弟の通塾を援助する実践が行われていますが,全ての子どもに対し,さまざまな体験の機会を意図的に提供すること。こちらのほうにも重点をおくべきではないかと,個人的には思います。

2014年12月25日木曜日

kindleライフのスタート

 電子書籍を刊行したのをきっかけに,キンドルのリーダーを購入しました。本体(paper white)とカバーのセットで13780円なり。昨日届き,早速自著を転送してみました。


 wi-fi接続が上手くいかないので,パソコンからUSB経由で転送しました。写真は表紙ですが,目次をタップすることで,好きな章や項に飛ぶことができます。またページや位置Noを指定し,そこを瞬時に開くこともできます。

 文字や図表も拡大・縮小可能です。目の悪い私にすれば,これはありがたい。以下は,例の面積図による年収分布図ですが,拡大することではっきりと見て取れます。


 読書を途中で中断した場合でも,同じ本を再度開くと,中断した箇所のページが出てきます。しおりの機能も付いているわけです。紙の本と同様,気になった箇所にメモをしたり,ハイライトで強調したりすることも可能。検索機能で,後から呼び出すこともできます。

 この小型リーダーの中に,千冊ほどの本を保存できるそうです。本がたまるにつれゴチャゴチャしてきますが,書名やキーワードですぐに目当ての本を掘り出せます。コレクション機能を使うことで,ジャンルごとの仕分けも可能。これも便利ですねえ。

 なお電子書籍の値段は,紙の本に比して安くなっています。青空文庫に入っている昔の名作などは無料。ダウンロードして読み放題です。値段もですが,場所いらずなのもいいですよね。*最近,本を買うと置き場所に困っていたところです。

 これから電子書籍が普及していけば,読書生活もよりスマートなものになるでしょう。来年はこの恩恵を積極的に活用し,自身の生活に革新を起こしたいと思っております。といっても,紙の本の魅力が捨てがたいのも事実。それを一掃するということではありません。

2014年12月23日火曜日

中学校の補助スタッフの不足感

 日本の教員が多忙をきわめていることは周知のところですが,その要因の一つとして,雑務を請け負ってくれる補助スタッフの不足があるといわれます。

 わが国の教員が世界一働いていることを教えてくれた,OECDの国際教員調査「TALIS 2013」では,対象の中学校の校長に対し,「補助スタッフの不足が教育活動の支障になっているか」と尋ねています。この設問への回答を国別に出し,グラフにしてみました。
http://www.oecd.org/edu/school/talis-2013-results.htm

 該当する設問は,校長調査の設問31の項目(i)です。4つの選択肢を提示し,1つを選んでもらう形式です。32か国の中学校校長の回答分布を図示すると,下図のようになります。


 日本は,肯定の回答が多くなっています。最も強い「とても当てはまる」の率は4位ですが,「いくらか当てはまる」までを含めると32か国中トップです。7割以上の校長が,補助スタッフの不足感を露わにしています。

 補助スタッフの不足感を点数化してみましょう。「まったく当てはまらない」を1点,「あまり当てはまらない」を2点,「いくらか当てはまる」を3点,「とても当てはまる」を4点とした場合,各国の平均点がいくらになるかを計算してみました。日本の場合,以下のようになります。

 {(1点×2.6)+(2点×25.0)+(3点×46.9)+(4点×25.5)}/100.0 ≒ 2.95点

 4点満点中,平均点はおよそ3点。かなり高いですね。このスコアを32か国分計算し,値が高い順に並べたランキング図にしてみました。


 日本の2.95点は,32か国の中で最も高いことが分かります。先進国の中ではダントツでトップです。

 中学校校長の主観的な回答ですが,これが真実をついているであろうことは,教員の勤務時間の構造からもうかがえます。日本の教員は勤務時間が世界一なのですが,その中身を解剖すると,ほとんどが授業以外の雑務です。6月26日の記事でみたように,日本の中学校教員の勤務時間に占める,授業時間の比重はわずか32.8%であり,世界で最下位となっています。

 各種の雑務を担ってくれる補助スタッフの不足は,教員をして,己の専門力量を発揮する授業に集中せしめるのを阻害する条件になっていることでしょう。教員の職務を授業だけに限定しろとはいいませんが,教員があたかも「何でも屋」のような状況になっていることは,明らかに問題です。

 文科省もこの問題を認識し,「チーム学校」なる外部人材組織を学校に導入する方針だそうです。この施策が効をなすかどうかは未知数ですが,教員の多忙問題に当局が本腰を入れ始めたことの表れとして,注目されるところです。その成果は,次回の同調査によって可視化されることになるでしょう。

2014年12月20日土曜日

東大生の出身地域の偏り

 『東京大学学生生活実態調査』は,最高学府の学生の出自を教えてくれる定番の資料として,研究者の間でよく知られています。
http://www.u-tokyo.ac.jp/stu05/h05_j.html

 実家の年収分布に注目されることが多いのですが,出身地域の分布はどうなのでしょう。実家の所在地を尋ねた設問への回答をグラフにしてみました。2012年の学部生調査のデータです。一般群との差を「見える化」すべく,同年春の高卒者の住所地分布も添えています。


 何もいいますまい。東京ないしは関東圏への集中度が高くなっています。東京出身者の比重は一般群では9.4%ですが,東大生男子では25.5%,女子では31.4%にもなります。女子の場合,東京居住者からの東大生輩出確率は,通常期待される水準の3倍以上です。

 前に,東大・京大合格者出現率を県別に出したところ,著しい都道府県差がありました。そこでの知見と符合しています。
http://tmaita77.blogspot.jp/2013/05/blog-post_16.html

 最高学府への到達チャンスの地域格差という個人にとっての問題と同時に,わが国を牽引するエリート候補の出身地域の偏りが,国内の不均衡な地域発展を助長しかねないという,社会にとっての問題も提起されるでしょう。

 拡大して,国会の廊下に貼っていただきたい図の一つです。

2014年12月18日木曜日

電子書籍が出ました。

 12月も半ば,すっかり寒くなりましたが,いかがお過ごしでしょうか。私は変わらずヒマですが,みなさま,さぞお忙しいことと拝察いたします。

 このほど,インプレス社より拙著『平均年収の真実-31の統計から年収と格差社会を読み解く-』が公刊されました。電子書籍です。


 本ブログから「格差」に関する31の記事を取り出し,編集していただきました。一部ですが,本ブログの書籍化ということになります。古いデータは,適宜最新のものに更新しています。企画を提案いただいたインプレス社の永山菜見子さん,編集を担当いただいた後藤隆行さんに感謝の意を表します。

 最近は,こういう媒体もあるのですよね。アマゾンのKindleショップで即ダウンロードして読めると。小型のリーダーに大量の書籍を保存し,いつでも呼び出すことができます。私の部屋の本棚はグチャグチャで,「こないだ買ったよな」という本も探すのに一苦労なのですが,電子書籍リーダーなら一発検索で出てきます。

 文字や図版も縮小・拡大が可能ですので,見づらいということはないようです。私の場合,細かい統計図表をたくさん載せますので,こういう形式のほうがいいのかもなあ。

 電子書籍がもっと普及すれば,本棚など要らなくなるかもしれません。部屋の一角を占拠していた本棚が,手のひらサイズのリーダーの中に収まることになります。まあ,本の背表紙に囲まれていると落ち着くという人もいますし,それは寂しいことではありますが,スゴイ技術革新といえましょう。

 私も,Kindleのリーダーを買おうかと思案しているところです。私にとって来年は,電子書籍の年になるかもしれません。

 おっと先走ってしまいましたが,まだ今年は終わっていません。まだ2週間ほど残っています。やるべきことをちゃんとして,気持ちよく新年を迎えたいものです。厳冬の候,風邪などひかれませぬよう。

2014年12月16日火曜日

教員の職業満足度の国際比較

 現在は教職危機の時代といわれますが,その度合いは,離職率のような統計指標によって教えられます。本ブログでは,日本の教員の離職率について度々分析してきました。*たとえば以下の記事。
http://tmaita77.blogspot.jp/2013/11/blog-post_17.html

 しかるに,前から国際比較をしてみたいと思っていました。教員の危機状況は社会によってどう違うか,国際的な布置構造の中で日本はどういう位置にあるか。オーソドックスな問いですが,これに答えてくるデータを目にしたことはありません。

 こういう側面を可視化するには,離職率のような行動の指標がベストなのですが,あいにく国際統計は存在しません。ですが,教職という自らの仕事についてどう思っているかという意識は国別に知ることができます。

 わが国の教員が世界一働いている(働かされている)ことを暴露してくれた,OECDの国際教員調査「TALIS 2013」ですが,本調査には職業満足度を問う設問も盛られています。対象となった各国の中学校教員に対し,以下の10の項目が提示されています。教員質問紙調査のQ46です。
http://www.oecd.org/edu/school/talis-2013-results.htm


 いずれも職業満足度(Job Satisfaction)に関わる項目ですが,これらへの反応を合成することで,各国の教員の職業満足度を計測する総合スコアを出してみようと思います。

 上表の選択肢の番号は,職業満足度を測る点数として使えます。「1」は1点,・・・「4」は4点です。網掛けをした3項目(③,④,⑥)はネガティブ項目ですので,スコアを反転させます。「1」を選んだ場合は4点,・・・「4」を選んだ場合は1点を与えます。

 この場合,対象となった中学校教員各人の職業満足度は,10~40点のスコアで測られることになります。全項目とも1点の超不満足教員は10点,全項目とも4点のスーパー満足教員は40点となる次第です。いずれかの項目に無回答がある教員は,スコアの正確な計算ができないので,分析から除外します。

 私はこのやり方で,32か国9万7046人の中学校教員の職業満足度スコアを計算しました。ローデータが手元にありますので,こういう操作も自由自在です。ありがたや。

 手始めに,日本の3383人とアメリカの1821人のスコア分布をみていただきましょう。下図は,百分比の折れ線による分布曲線です。


 両国ともノーマルカーブに近い型ですが,アメリカのほうが高い側に分布しています。30点以上の者の比率をとると,日本は35.5%ですが,アメリカでは59.9%もいます。

 この分布を単一の代表値(平均値)で読みとると,日本は27.9点,アメリカは30.9点となります。中学校教員のトータルな職業満足度は,海を隔てた米国のほうが高いようです。

 私は同じ分布データを32か国について作成し,各々の平均値を出してみました。この値でもって,各国の中学校教員の職業満足度(裏返すと職業危機度)を比べてみましょう。下の図は,値が高い順に並べたランキング図です。


 どうでしょう。日本は下から2位という位置です。27.8~33.2というレインヂの相対位置による判定ですが,日本は世界の中で教員の職業満足度がかなり低い社会であることが知られます。先ほどサシで比較したアメリカが中央よりちょっと上くらいで,トップは中米のメキシコです。

 まあ,日本人はこの手の調査に対してはニュートラルな回答をする傾向がありますので,いくらか割り引いて考える必要がありますが,統一的な手続きで割り出した,教職危機の国際統計とみていただければと思います。しかし,最近のわが国の教員が置かれた状況からして,「さもありなん」という印象を持たれた方も少なくないでしょう。

 次なる関心は,このスコアが低いのはどの層かです。男性か女性か,若年か年輩か,都市か農村か・・・。絡めてみたい属性変数は多々あります。その結果によって,どういう政策をとるべきかも変わってきます。幸い,日本の有効サンプルは3383もありますので,こうした属性別のスコア平均を出すことも十分可能です。

 何度も言いますが,自由に操作できるローデータが手元にあるって素晴らしい。余談ですが,文科省の『全国学力・学習状況調査』のローデータが,広く一般に公開される日を夢にまでみます。

2014年12月14日日曜日

年齢層別の投票者数

 今日は衆院選の投票日です。間接民主制の社会では,国民は選挙を通して政治に参与するわけですが,投票所に足を運ぶ人間の組成に,少なからぬ偏りがあることはよく知られています。

 私はいつも,近くの小学校の体育館に投票に行くのですが,そこで目にするのは白髪の高齢者ばかり・・・。ははあ,これでは若者の意向(要望)は政治に反映されないな,と感じるところです。20歳になったら選挙権が与えられるのですが,学生さんと思しき若者を見かけたことはありません。

 選挙のたびにこういう印象を持っていたのですが,今日が投票日ということにかんがみ,統計にて,投票者の年齢構成を明らかにしてみようと思います。

 総務省の『国政選挙の年代別投票率』というネット資料にて,各年齢層の投票率を知ることができます。これをベース人口に乗じれば,投票者の実数が出てきます。私は,前回(2012年)の衆院選の投票者数を割り出してみました。時代変化をみるため,1967(昭和42)年の数も出してみました。上記の資料に掲載されている,一番古い年次です。計算表を以下に掲げます。
http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/sonota/nendaibetu/


 投票者数は,ベース人口の年齢構成と各層の投票率という2つの要素から算出されるのですが,昔と今では様相がガラッと変わっています。45年前は若者が多いピラミッド型でしたが,最近ではその逆の構造ができています。

 人口の高齢化が進んだことに加えて,若年層の投票率が激減しているためです。20代の投票率は,1967年では66.7%でしたが,2012年では37.9%にまで落ちています。

 これは投票者の実数ですが,これを年齢層別の内訳図の形にすると,各層の勢力図の図柄になります。下図をご覧ください。


 50歳以上の高齢層の比重が増してきています。1967年では3割弱でしたが,現在ではおよそ6割です。投票人口の高齢化は,人口のそれを上回るスピードで進行していることが知られます。投票率の年齢差が拡大しているためです。

 投票所の体育館でいつも目にする集団の組成が,統計にて可視化されました。さもありなんという感じです。こういう状況では,社会を最前線で動かす若年層の意向が政治に反映されにくくなると思われますが,彼らは政府に対する要望を数多く持っています。高齢層よりもです。

 内閣府の『国民生活に関する世論調査』では,政府に対する要望を複数回答でチョイスしてもらっていますが,20代と70歳以上の選択率を比較すると,下図のようになります。最新の2014年調査のデータをもとに作図したものです。
http://survey.gov-online.go.jp/index-ko.html


 斜線は均等線であり,この線よりも下に位置するのは,高齢層より若年層の選択率(要望率)が高い項目です。ほう,ほとんどの項目が「高齢層<若年層」ではありませんか。とりわけ,景気対策や労働問題対策にて,世代の差が大きくなっています。

 自殺対策の要望率の差にも注目。自殺というと高齢層の問題ととられがちですが,それへの対策を求めているのは若者のほうです。昨年の10月24日の記事でみたように,近年では人口全体の自殺率は減っていますが,若者の自殺率だけは増えているのです。シューカツ失敗自殺,ブラック企業問題・・・この現象を解釈する材料は無数にあります。

 しかるに,投票人口の組成が先ほどの図のようでは,こうした要望が政治に反映されにくくなります。要望を抱いているだけではダメです。投票に行きましょう。私は午後に投票に行くつもりですが,その場にて,大学で見かけるような若者の姿が多く見られることを祈っています。

 最近では,大学のキャンパス内に投票所が設置されたり,ネット選挙の導入が検討されたりと,若者の投票率を何とか上げようという取組がなされています。意義あることだと思います。繰り返します,投票に行きましょう。

2014年12月11日木曜日

都道府県別の道徳偏差値

 教育の役割は,社会生活に必要な能力を子どもに授けることですが,その能力は一般に「知・徳・体」の3側面から捉えられます。当局の答申や政策文書でも,嫌というほど目にする標語です。

 教育評価の一環として,これらの要素を随時数値化する必要があるわけですが,知と体については,全国学力テストや体力テストにて毎年計測されています。しかるに,あと一つのについては,それを測った客観資料は存在しません。

 そもそも道徳の評価に際しては,「数値などによる評価は行わないものとする」とされていますので(学習指導要領),当然といえばそうですが,この面の資質・能力を定量化することができないわけではありません。今回は,このタブーの領域に足を踏み入れてみようと思います。

 用いるのは,2014年度の文科省『全国学力・学習状況調査』のデータです。本調査は教科の学力だけでなく,対象の児童・生徒(小6,中3)に対する質問紙調査によって,彼らの生活意識も把握しています。
http://www.nier.go.jp/14chousakekkahoukoku/index.html

 私は,以下の5つの問いに対する,公立小学校6年生の回答に注目しました。

 ①学校のきまりを守っているか
 ②友達との約束を守っているか
 ③人の気持ちが分かる人間になりたいか
 ④いじめは,どんな理由があってもいけないことだと思うか
 ⑤人の役に立つ人間になりたいか

 用意されている回答の程度尺度は4つですが,「当てはまる」という最も強い肯定の回答をした児童の比率を拾ってみました。東京でいうと,①は36.2%,②は65.3%,③は74.0%,④は80.3%,⑤は71.3%です。

 これは大都市・東京の数値ですが,他の県はどうでしょう。5つの設問に対する強い肯定の比率を全県について出し,一覧表にしました。黄色は最高値,青色は最低値です。赤色は上位5位であることを意味します。


 ほう,秋田はスゴイですね。全項目とも上位5位に入っており,②~⑤の4つは全国でトップです。子どもの学力がトップの県ですが,徳力もそうだとは。

 ほか,新潟と宮崎が赤字4つ,山梨が赤字3つであり,子どもの道徳意識が相対的に高い県であることがうかがえます。

 では,これら5つの肯定率を合成して,小6児童の道徳意識を図る単一の尺度を構成してみましょう。前回と同様,各県の値を,全分布の中の相対位置を表す偏差値に換算します。平均値が50,標準偏差が10となるような値であり,以下の式で求められます。Xは当該のデータ,μは平均値,σは標準偏差です。

 偏差値=10(X-μ)/σ+50

 東京の①の肯定率を偏差値にすると,10(36.2-41.4)/4.41+50 ≒ 38.2となります。②は39.1,③は46.9,④は35.9,⑤は42.2です。全項目とも平均水準の50をかなり下回っていますが,大都市という地域性の故でしょうか。

 それはさておき,これら5つの偏差値の平均をとると40.5となります。この値をして,子どもの道徳偏差値といたしましょう。学力偏差値ならぬ,道徳偏差値です。

 このやり方で,各県の公立小学校6年生の道徳偏差値を出し,値が高い順に配列したランキング表を作成しました。以下に掲げます。


 最初の表からも予想できますが,トップはダントツで秋田です。道徳偏差値72.4! 2位は山梨,3位は九州の宮崎となっています。

 私の郷里の鹿児島は,ちょうど中間の24位です。もっと上かと思いましたが,こんなとこかなあ。中学の頃はメチャクチャ厳しくて,挨拶を怠っただけで酷い目にあわされたものですが・・・。

 首都の東京は40位であり,神奈川や大阪といった他の大都市県はワースト5位に入っています。やはり都市化度と関連があるみたいで,2010年の人口集中地区居住率との相関係数を出すと-0.501であり,有意な負の相関となっています。都市県ほど,子どもの道徳意識が低い傾向です。

 ちょっと気になるのが,ワースト2位が宮城と福島であることです。2011年の大震災の被災県ですが,このことの影響があるのでしょうか。震災が子どもの健康に影響していることは,昨年の3月29日の記事などでみたところですが,それが子どもの公徳心にも影を落としているとしたら,ただならぬ事態です。

 最後に,計算した都道府県別の道徳偏差値をマップにしておきましょう。50未満,50以上55未満,55以上60未満,60以上の4階級を設け,各県を塗り分けてみました。


 東北の日本海沿岸で色が濃く,都市部で色が薄いのは,学力地図の模様とちょっとばかし似ています。

 さてこれで,各県の学力,体力,そして道徳力を数値化する術を得ました。これらを総動員した,子どもの能力の総合診断という試みもできます。後々,ぜひ手がけてみたい課題です。

 時系列の変化を出すのも面白い。『全国学力・学習状況調査』は2007年から実施されていますが,各県の道徳偏差値は2007年と2014年で比較するとどう変わったか。2008年に改訂された現行の学習指導要領では,道徳教育の強化が目玉にされましたが,その成果を県別に数値化できることにもなります。

 今回は,子どもの徳力の数値化という,タブーとされるかもしれない作業をしてみました。最新の2014年のデータから試算した,都道府県別の値はこうなったというご報告をしておこうと思います。

2014年12月9日火曜日

子どもの不健康偏差値

 「健康第一」「生きるための資本はカラダ」といいますけれど,子どもの学力云々がよく言われる割には,こうしたプライマリーな部分への関心は乏しいように思われます。

 学校保健安全法の規定により,学校では毎学年定期に健康診断を実施することが義務づけられていますが,東京都はその結果を地域別に公表しているようです。毎年度刊行されている,『東京都の学校保健統計』という資料です。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/buka/gakumu/kenkou/karada/shcp.html

 私は,最新の2013年度のデータを使って,都内49市区の子どものトータルな健康度を比較しようと考えました。東京の場合,中学校になると私立校に流れる生徒が多くなりますので,公立小学校のデータを用いることとします。

 原資料にはさまざまな疾患の罹患率が地域別に掲載されていますが,私は,以下の6つの指標に着目することとしました。

 ①肥満率
 ②近視率
 ③耳疾患率
 ④心疾患率
 ⑤喘息率
 ⑥虫歯率

 いずれも,健康診断を受診した児童全体に占める割合です。①は,学校医によって肥満傾向と判断された児童の比率です。②は,裸眼視力が0.3未満の者の率です。④は心電図検査で異常が見つかった者の率であり,⑥は未処置の虫歯がある児童の率をいいます。③と⑤は,何らかの耳疾患ないしは喘息を患っている者の率を指します。

 都内49市区の公立小学生について,これら6つの指標を計算してみました。下表はその一覧です。最高値は黄色,最低値は青色のマークを付しています,上位5位の数値は赤色にしました。肥満率と心疾患率は,単位が‰(千人あたり)であることに注意してください。


 どの疾患かによって上位の顔ぶれは違いますが,西部の武蔵村山市は,赤字が3つあります。肥満率は49.1‰であり,ダントツでトップです。

 目が悪い子どもの率(近視率)は,都心部で高いようです。トップは中央区の12.6%,その次は文京区の12.0%なり。中学受験をする子どもが多いためでしょうか。

 これら6つの合成して,子どもの不健康度を測るメジャー(measure)をつくるのですが,それぞれの値を偏差値に換算します。よく知られているように,全分布の中の相対位置を表す測度です。テクニカルにいうと,平均値が50,標準偏差が10になるように,ぞれぞれのデータを換算します。

 当該のデータをX,平均値をμ,標準偏差をσとすると,偏差値は以下の式で求められます。

 偏差値=10(X-μ)/σ+50

 私が住んでいる多摩市の肥満率を偏差値にすると,10(2.0-14.1)/8.5+50 ≒ 35.9となります。かなり低いですね。近視率は49.0,耳疾患率は30.0,心疾患率は36.5,喘息率は60.2,虫歯率は53.6となる次第です。これら6つの偏差値を平均すると44.2となります。この値をして,子どもの不健康偏差値といたしましょう。あまりいいネーミングではありませんが・・・。

 私はこのやり方で,都内49市区の公立小学生の不健康偏差値を計算し,値が高い順に並べたランキング表をつくってみました。以下に掲げます。


 不健康偏差値のトップは武蔵村山市の62.3です。2位は立川市,3位は福生市,4位は東大和市と,西の市部が上位を占めています。5位になって,副都心の新宿区が出てきます。

 性質の異なる疾患指標を合成してつくった総合尺度ですので,どういう特性の地域で値が高いか,すなわちその社会的規定性については明らかではありませんが,資料としてご覧いただければと思います。

 ただ,合成する前の指標ごとにみれば,各地域の社会経済指標と強く関連している様も見受けられます。たとえば,8月9日の記事で明らかにしたように,子どもの肥満率や虫歯率は,地域の貧困指標と正の相関関係にあります。食生活や生活習慣の乱れに起因する部分もあるでしょう。

 また,5月23日の日経デュアル記事でみたように,近視の子どもの率は,早期受験の多い地域ほど高くなっています。これなどは,貧困とは逆の富裕地区の病理であるといえましょう。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=2693

 上記の総合指標は,これらが相殺されてできたものなので,社会的性格がぼけてしまっていますが,学力や体力と同様,子どもの健康や疾病も,社会的規定を被っていることは押さえておくべきかと思います。

 文科省の『学校保健統計」のデータを使うことで,都道府県別の不健康偏差値も出すことができます。調査法の時間で,学生さんにやっていただくかな。来年度より,武蔵野大学は4学期制になる関係上,1回の授業は180分! どっぷり作業をしていただくつもりです。

2014年12月7日日曜日

都道府県別の高校生のバイト率

 昨日,「奨学高校生の36%がバイト経験 あしなが育英会調査」という記事を見かけました。共同通信社の配信記事です。
http://www.47news.jp/CN/201412/CN2014120601001444.html

 奨学金を借りている高校生の36%がバイト経験ありで,そのうちの4割以上が,稼いだお金を交通費や学費に充てているとのこと。この結果から,「奨学生の経済状態は予想以上に厳しい」と指摘されています(樽川准教授)。

 この率が高いかどうかは,一般の高校生のデータがないので判断できないとされていますが,官庁統計から高校生全体のバイト率を出すことができます。私も,高校生のバイト率がどれほどかには関心を持っていたところです。「家が苦しかったんで,高校の頃からバイトしてました」という学生さんにもよく会いますし。ここにて,試算の結果をご覧いただきましょう。

 資料は,2012年度の総務省『就業構造基本調査』です。これによると,同年10月時点の15~19歳の高校在学者(高校生)は374万人であり,このうち仕事を持っている有業者は21万人となっています。後者の大半は,パートないしはバイトとみてよいでしょう。よって,高校生のバイト率は5.5%と算出されます。18人に1人です。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 奨学高校生のバイト率36%は,一般の高校生徒比べると格段に高いですね。奨学生の経済状態は厳しいという指摘は,的を射ています。

 5.5%という数字は全国の高校生のバイト率ですが,ジェンダーの差も気になります。また,地域による違いも知りたいところです。私は同じやり方にて,47都道府県の高校生男女のバイト率を計算してみました。下表は,全国と東京の計算表です。


 やはりといいますか,大都市の東京のほうが,高校生のバイト率は高くなっています。九州からこっちに出てきたとき,高校生がマックやコンビニでバイトしているのを見て驚いた記憶があるなあ。

 ジェンダーの差をみると,全国でも東京でも,バイトする生徒は男子よりも女子で多いようです。私としては,これは意外です。昨日,このデータをツイッターで発信したところ,「男子は部活をする者が多いから」「女子は服飾費や交際費にお金がかかるから」というコメントが寄せられましたが,そういうことでしょうか。

 さて,計算の過程についてイメージを持っていただいたところで,全県の高校生男女のバイト率を見ていただきましょう。下表はその一覧表であり,最高値には黄色,最低値には青色のマークをしました。上位5位の数値は赤色にしています。


 マックスは東京ではなく,神奈川の9.4%です。この県では,高校生の11人に1人がバイトしています。埼玉も高いですね。総じて,高校生のバイト率は都市部で高いようですが,南北両端の北海道と沖縄も上位にランクインしています。この道県では,学費稼ぎのバイトも少なくないのでは・・・。男子のバイト率の1位は北海道です。

 郷里の鹿児島は,率が低いなあ。高校生は原則バイト禁止という,お達しが出ていたとは記憶していますが。

 なお,ほとんどの県で「男子<女子」の傾向です。トップの神奈川は,男子が6.3%,女子が12.9%と,倍以上のジェンダー差です。表には載せていませんが,横浜市に限るとこの差はもっと大きくなります(男子6.7%,女子15.5%)。交際費や遊興費稼ぎか,学費稼ぎか・・・。事情に詳しい方がおられたら,お教えいただけるとありがたいです。

 最後に,男女計のバイト率を地図にしておきましょう。毎度のことですが,こういう「シメ」をしないと気分が悪いのです。4つの階級を設けて,47都道府県を塗り分けてみました。


 読みとれる傾向は,高校生のバイトは都市部で多い,ということです。首都圏や大阪が濃い色で染まっています。北海道で率が高いのは,自営の家事手伝いが多いためか,それとも学費稼ぎのバイトが多いのか・・・。北海道をフィールドにした,子どもの貧困の本が出ていたけど,何ていう本だったかなあ。

 上記の県別のバイト率は,都市性と貧困の要因が相殺しますので,貧困指標との相関は出ないでしょうが,北海道内の市町村別,東京都内の区市別でみれば,何らかの関連がみられるかもしれません。

 こういうデータが,子どもや青年の教育権・学習権を保障する政策のエビデンスになります。それを,誰もが利用できる既存統計から浮かび上がらせることは,重要な仕事であるといえるでしょう。

2014年12月4日木曜日

未婚ジニ係数

 年収と未婚の関連が強いことは,このブログで繰り返し書いてきました。男性の場合,年収が低い者ほど,未婚率は高い傾向にあります。稼ぎのない男は結婚できない,ということです。女性にあっては,その逆です。

 わが国に根強いジェンダー観念を考えるとさもありなんですが,年収と未婚の関連の強度を数値化してみたくなりました。お馴染みのジニ係数は,こういう用途にも使えます。

 私は,2012年の『就業構造基本調査』のデータを使って,20~50代の男性有業者について,有配偶者と未婚者の年収分布を明らかにしました。下表は,両者を照らし合わせたものです。有配偶者の数値は,全体から未婚者を差し引いて出しています。よって離別者や死別者も含まれますが,数の上では少数ですので,有配偶者とみなしてもよいでしょう。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm


 年収が判明する有配偶の男性有業者は1855万人,未婚の男性有業者は953万人です。中央には,全体を1.0とした相対度数分布が示されていますが,言わずもがな,有配偶者は高い側,未婚者は低い層に多く分布しています。年収200万未満のワープアの比率をとると,前者では7%ですが,後者では25%,4人に1人にもなります(赤字)。

 やはり,有配偶者と未婚者には,年収のズレがありますねえ。このズレの程度を「見える化」すべく,ジニ係数を出してみようと思います。そのためには,ローレンツ曲線を描くのでしたよね。横軸に有配偶者,縦軸に未婚者の累積相対度数をとった座標上に,16の年収階層をプロットし,線でつないだグラフです。


 両群の年収のズレの程度は,曲線の底の深さから知ることができます。底が深いほど,有配偶者と未婚者の年収格差が大きい,つまり,「稼ぎがない男は結婚できない」の度合いが高いことを意味します。

 年収と未婚の関連の強度を表すジニ係数は,上図の色つきの面積を2倍することで求められます。算出された値は,0.500ジャストです。ジニ係数は0.0~1.0までの値をとる測度で,一般に0.4を超えると値が大きいと判断されますが,この水準を超えています。ニッポンは,男性の年収と未婚の関連が強い社会であることが,数値から知られます。

 ひとまず,この値を未婚ジニ係数と呼ぶことにしましょう。この指標を使うことで,さまざまな社会について,年収と未婚の関連強度を比較することができます。私は,47の都道府県について,同じやり方で20~50代男性の未婚ジニ係数を計算し,値が高い順に並べたランキング表をつくってみました。


 ほう。男性の年収と未婚の関連強度は,県によってずいぶん違っています。未婚ジニ係数は,奈良の0.607から沖縄の0.414まで,幅広く分布しているではありませんか。

 上位は,「稼ぎがない男は結婚できない」の度合いが高い県ですが,近畿の都市県が多くなっています。都市部では,子どもの教育費がかかる(早期受験…),子どもがいる女性がフルタイムで働きにくい(核家族化,保育所不足…),などの条件がありますしねえ。だから,稼ぎのあるオトコじゃないと困ると。こういうことでしょうか。

 下位の群には,南端の沖縄のほか,東北の農村県が多くなっています。共働き率が高い県ですが,女性もバッチリ働ける,夫婦共に生計を立てればいい,という考えが相対的に強いためではないでしょうか。

 全国レベルのデータにてよくいわれる,男性の年収と未婚の関連強度が,地域によって異なることが分かりました。「オトコが養う」のジェンダー意識は農村部のほうが強いといいますが,その逆の面があるかもしれません。

 最後に,上表の県別の未婚ジニ係数を地図にしておきましょう。


 色が濃いのは,20~50代男性の年収と未婚の関連が強い県,稼ぎがない男は結婚しにくい県です。首都圏や近畿の都市部で多くなっています(東京と大阪は別)。

 都道府県差(地域差)を明らかにすることは,それぞれの部分社会における取組を促し,その集積として社会全体がよくなることを願ってのことです。実務教育出版社の『受験ジャーナル』の連載「データでみる都道府県の今」は,こういう考えのもとで書いています。
http://jitsumu.hondana.jp/book/b182871.html

 どうぞ,ご覧ください。

2014年12月2日火曜日

学生の年齢ジニ係数

 私はよくバスを使いますが,平日の昼間となると,バスの車内は,人口の年齢構成変化を実によく反映しています。ほとんどが高齢者です。先週の木曜に箱根に行ったときは,平日にもかかわらず行きのロマンスカーは満席。乗客の多くは,職をリタイヤしたばかりと思われる初老の男女でした。

 少子高齢化が進んでいる以上,あらゆる場所で高齢者を多く見かけるようになるのは当然ですが,そうでない所もあります。それは学校です。私は10年ほど大学の講師をしていますが,キャンパス内はピチピチの青年男女ばかり。社会全体の年齢構成を全く反映していません。

 「そんなの当たり前じゃん」と思われるかもしれませんが,学校は子どもや青年の占有物ではありません。制度上では,あらゆる年齢層に門戸が開かれています。いみじくも,現代は生涯学習の時代です。大学のような高等教育機関の教室には,白髪の交じった中年や老年の学生がもっといてもいいのではないか,いやいるべきだと思ってしまいます。

 私は,この日本という社会において,人口全体の年齢構成と学生のそれがどれほどズレているか,またそのズレの程度が,他の社会に比してどうなのかを知りたくなりました。OECDの国際成人学力調査PAICC2012のデータを使って,この疑問に答えてみようと思います。

 この調査は,16~65歳の成人の学力を調査したデータですが,対象者の基本属性を尋ねています。年齢はもちろん,今学校に通って勉強しているか否かも問うています。設問のワーディングは,「現在,何らかの学位や卒業資格の取得のために学習しているか」です。
http://www.oecd.org/site/piaac/publicdataandanalysis.htm

 この設問に「Yes」と答えた者を学生とみなすと,調査対象者5278人のうち,学生は575人となります。この両群の年齢構成を照らし合わせると,下表のようになります。


 調査対象者全体(=人口)では60歳以上が最も多くなっていますが,学生はその逆で,下の年齢層ほど多くなっています。中央の相対度数の欄をみると,人口全体の15%でしかない25歳未満の若者が,学生の中では85%をも占めています。すさまじい乖離です。

 この点は,右欄の累積相対度数をグラフにすることで視覚化されます。横軸に人口,縦軸に学生の累積相対度数をとった座標上に,10の年齢階層をプロットし線でつないだ図です。いわゆるローレンツ曲線ですが,学生の年齢ローレンツ曲線と呼ぶことにしましょう。


 曲線の底が深いほど,人口と学生の年齢構成のズレが大きいことを示唆します。日本は底が深いですねえ。それもそのはず。先ほどみたように,人口の15%にすぎない25歳未満の若者が,学生の中では85%をも占めているのですから。

 比較の対象としてイギリスの曲線も添えましたが,日本よりは底がかなり浅くなっています。人口と学生の年齢構成の差が比較的小さい,すなわち成人層にも教育の機会が開かれていることを意味します。

 学生が特定の年齢層(若者)にどれほど偏っているかを測る尺度を出してみましょう。言わずもがな,それはジニ係数です。上図でいうと,ローレンツ曲線と対角線で囲まれた面積を2倍することで求められます。算出された値は,日本が0.766,イギリスが0.467です。

 ジニ係数は0.0から1.0までの値をとる測度ですが,0.766というのは,甚だ大きな値であると判断されます。日本は,人口と学生の年齢構成のズレが格段に大きい社会,換言すると,教育の機会が人生の初期に集中する度合いが高い社会です。

 私は,PAICC2012の調査対象国について,この値を計算してみました。下図は,値が高い順に並べたランキングの図です。アメリカとドイツは,対象者の年齢を尋ねていないようなので,係数を出すことは叶いませんでした。


 日本がトップかと思いきや,上がいました。フランスです。1965年に生涯教育の概念を提唱したポール・ラングランの祖国なのですが,成人学生が殊のほか少ない社会なのですね。知らなかった。

 日本はその次で,3位はお隣の韓国です。両国とも受験競争が激しい社会ですが,教育の機会が人生の初期に集中している,後からやり直しができない・・・。こういう構造上の要因もあったりして。

 下のほうにあるのは,人口と学生の年齢構成のズレが小さい社会,学校で学ぶ機会が成人にも相対的に開かれている社会です。最小はポーランドであり,その次が先ほどサシで比べたイギリスです。さすが,大学開放(university extension)の本場ですね。近辺には,生涯学習の先進国といわれる北欧の社会があります。

 大学のキャンパスに成人がほとんどいないという肌感覚がデータ化され,その度合いが国際的にみても高いことを知りました。これは,学校と外部社会を隔てるが高いことと同義です。駅やデパートには壁がなく誰でも入れるので,そこを歩く人間の組成は社会全体のそれに近くなりますが,学校はさにあらず。日本にあっては,特にそうです。

 生涯学習政策の推進,リカレント教育普及のための努力がこの壁を低めることになります。今回出した学生の年齢ジニ係数は,その成果を教えてくれる指標ですが,これを国内の都道府県別に出すのもいいかもしれませんね。『国勢調査』のデータでそれは可能です。沖縄などは,係数の値が比較的低そうだな。面白い結果が出ましたら,ご報告します。