まず,子どもの預けやすさですが,内閣府「地域における女性の活躍に関する意識調査」(2015年)の中に,該当する設問があります。高校生以下の子がいる成人男女(20~60代)に対し,「お住まいの地域では,子どもを保育所や学童保育,親族などに預けやすいと思うか」と尋ねています(Q15)。これに対し,「預けやすい」と答えた者の割合を使うことにしましょう。
女性の有業率は,子育て期の30~40代女性のうち,働いている者(有業者)が何%かに着目します。資料は,2012年の総務省「就業構造基本調査」です。
横軸に子どもの預けやすさ,縦軸に女性の有業率をとった座標上に,47都道府県をプロットすると,下図のようになります。
非常に強い正の相関関係がみられます。相関係数は+0.7923にもなります。正の相関が出るとは予想していましたが,ここまで強い相関になるとはちょっと驚きです。ちなみに,30~40代女性の正規職員率とは+0.6539という相関です。
子を預けやすい県ほど,子育て期の女性の有業率が高い,という傾向です。まあこれは分かり切ったことですが,もう少し深めてみましょう。横軸の預けやすさを,保育所(学童保育)への預けやすさと,親族への預けやすさに分解し,どちらが女性の有業率と強く相関しているかを検討してみます。抽象度を上げていうと,「公」と「私」のどちらの効果が強いかです。
上記の内閣府調査では,先の設問に「預けやすい」と答えた者に対し,その理由を複数選択で聞いています(Q15-1)。「近くに保育所や学童保育があるから」と「近くの親族に預かってもらえるから」という理由の選択率を,上図の「預けやすい」率に乗じれば,子がいる対象者全体のうち,保育時(学童保育)に子を預けやすいと思っている者,子を親族に預けやすいと思っている者が何%かを出すことができます。
たとえば東京都でいうと,「子どもを保育所や学童保育,親族などに預けやすい」と思っている者は34.8%で,このうち,その理由として「近くに保育所や学童保育があるから」を選んだ者は82.5%,「近くの親族に預かってもらえるから」を選んだ者は35.0%です。よって保育所(学童保育)に預けやすいと考えている者は,子がいる対象者全体ベースでみると,34.8×0.825=28.7%,親族に預けやすいと考えている者は,34.8×0.350=12.2%となります。
私はこのやり方で,保育所(学童)への預けやすさ率,親族への預けやすさ率を県別に計算しました。下表は,その一覧です。最高値には黄色,最低値には青色のマークをつけ,上位5位の数字は赤色にしました。
これら2つの「預けやすさ」指標と,子育て期の女性の有業率・正社員率との相関係数を出してみました。
親族への預けやすさよりも,保育所への預けやすさのほうが,女性の有業率・正社員率と強く相関しているようです。正社員率との相関では,係数の差が大きくなっています。
都道府県単位の単相関分析の結果ですが,親族への預けやすさよりも保育所への預けやすさのほうが,女性の有業率アップに寄与するのではないかとみられます。受け皿の効果の大きさは,「私」より「公」なのですね。昔は違ったのでしょうが,核家族化が進んだ現在では,こういう状況になっているのでしょう。
育児にせよ介護にせよ,わが国では「家族依存型」の伝統が強いのですが,家族構造の変化により,それを賄うのが難しくなってきています。舵を切らねばならない時期に来ているのは明白で,その必要性も認識されているのですが,目下,それに向けた過渡期の段階です。今の保育所不足,待機児童問題は,こうした変動期の危機が反映されたものといえるでしょう。