2010年卒の学生では,この比率は22.9%だったとのこと。売り手市場が強まり,地域を自由に選べるようになったためか,大都市での就業を望む学生が増えていることが,数値でも表れています。
はて,国の人口統計によっても,このような現象は可視化されるでしょうか。私は,10代後半から20代後半にかけての人口変化が世代によってどう変わってきたかを,都道府県別に調べてみました。総務省「人口推計年報」に掲載されている,県別の年齢階級人口の時系列データを使った次第です。
私の世代を例に,計算の方法を説明します。私は1976年生まれですが,慣例の5歳刻みの世代にすると,70年代後半(75~79年)生まれ世代となります。この世代は,1994年に15~19歳になり,10年後の2004年に25~29歳となります。
この2つの数字を照らし合わせることで,進学・就職といったイベントを含む青年期にかけての人口変化を表現することができます。下の表は,東京と私の郷里の鹿児島のケースです。aとbの人口は,単位は千人であることを申し添えます。
大都市の東京は,10代後半では76万人でしたが,10年後の20代後半では102万人にまで膨れ上がっています。34.1%もの増です。対して,わが郷里の鹿児島は,13万人から10万人へと変じています。こちらは22.7%の減です。私も,流出組の一人なのですが・・・。
以上は私の世代のデータですが,こうした人口移動のボリュームは前の世代に比して増えているのか,より最近の世代ではどうか。ここでの関心は,このようなことです。私は10年間隔の4つの世代について,同じデータをつくってみました。
1950年代後半,60年代後半,70年代後半,80年代後半の4世代です。順に,Ⅰ~Ⅳの時計数字で表すことにしましょう。各世代の10代後半から20代後半の人口増加率を,都道府県別に出してみました。計算のやり方は,最初の表と同じです。
下の表は,算出された人口増加率(10代後半~20代後半)の一覧表です。
先ほど比べた東京と鹿児島に注目すると,東京は,最近の世代ほど,青年期の人口増加率が高まっています。とくに第Ⅱ世代と第Ⅲ世代の断絶が大きく,6.8%から34.1%へと激増しています。東京も,60年代後半生まれ世代までは,青年期の人口増加率は1ケタだったのですね。それが最近では,1.3倍以上に膨張すると。外国人人口の流入増によるのでしょうか。
一方の鹿児島をみると,こちらは世代を下るにつれ,減少率が大きくなっていきます。50年代後半生まれの世代ではまだ1ケタでしたが,80年代後半生まれ世代では,流出の割合が3割近くにもなっています。
これは私が馴染みのある2都県のケースですが,表を全体的にみると,都市部で流入が増え,地方で流出が強まっているようにみえます。人口増加率の地域差の規模を表す標準偏差(最下段)も,年々大きくなってきています。青年期における,地方から都市への人口移動(吸引)は,時代とともに強まっているようです。
表にて色をつけた,目ぼしい5都県の傾向(trend)をグラフしておきましょう。
右上がりの大都市3都県と,右下がりの地方2県のコントラストが明瞭です。おおむね都市県は前者,地方圏は後者のような型になるかと思います。
ここで観察したのは,10代後半から20代後半にかけての人口増加率の世代変化ですが,この時期は,個人のライフコースからみれば,進学や就職といった大きなイベントを含みます。冒頭の新聞記事で紹介されている調査データでは,シューカツに励んでいる学生の非Uターン志向が強まっていることが報告されていますが,それはマクロな人口統計にも表れています。
ネットの普及により,都市と地方の情報アクセス格差は小さくなっていますが,国際化の進展に伴い,その拠点としての「Tokyo」の魅力が増しているのかもしれません。2020年にはオリンピックも開かれます。
エンリコ・モレッティの『年収は住むところで決まる』(プレジデント社)では,発展していくイノベーション都市と,衰退していく地方製造都市とに分化していくことが予言されていますが,海を隔てたわが国でも,静かに進行しつつある地殻変動といえるでしょう。大切なのは,こうした変化をいち早く察知し,早急な対策を立てることです。