そのうち,計算方法の詳細を記した論文になるとのことですので,それを待つことにいたしましょう。
しかし,県によって所得水準や物価も違いますので,県別の貧困率は,読み方に注意がいるかなとも思います。それもいいですが,生活保護を受けている子どもがどれほどいるか,という指標はどうでしょう。
生活保護の認定基準は,地域の物価等を勘案して決められています。東京と沖縄は同じではありません。生活苦の状態にある子どもの量を測るには,こうした公的扶助の受給率に注目するのも,一つの手かと思います(これとても,各県の保護行政の影響は免れませんが)。
分子となる,子どもの生活保護受給者数は,厚労省『被保護者調査』から知ることができます。最新の2014年調査によると,同年7月末時点における,15歳未満の生活保護受給者は20万1631人です。生活保護世帯で暮らす,15歳未満の子どもは全国で20万人超。
これを,同年10月時点の15歳未満人口(1623万人)で除すと,1.24%という比率になります。これが,最新の子どもの生活保護受給者率です。この値は,今世紀初頭の2000年では0.69%でした。今世紀以降,子どもの生保受給率は1.8倍に増えています。子どもの貧困化が「見える化」されます。
では,この指標を都道府県別に出してみましょう。下表は,数値が高い順に47都道府県を並べたランキング表です。
子どもの生活保護受給率を県別に出すと,3.05%から0.08%までのレインヂがあります。トップは北海道で,33人に1人。北海道の次は,大阪,京都と続いています。
マップにすると,下のようになります。3つの階級幅を設け,ラフに塗り分けたものです。大雑把にみて,西高東低となっています。
いろいろな教育地図をつくっている私ですが,上記の生活保護受給率地図の模様は,少年の非行発生率のそれに似ていると感じました。
相関をとってみましょう。2014年の非行少年出現率は,同年中に警察に検挙・補導された犯罪少年・触法少年(主要刑法犯による)の数を,同年10月時点の10代人口で除して出します。分子には10歳未満の少年も含まれますが,それはごく少数ですので,ベースを10代としてよいでしょう。
2014年の非行少年出現率の全国値は,6万207人/1172万人=0.51%となります。分子の出所は,警察庁『2014年における少年の保護及び補導の概況』です。
各県の非行少年出現率は,子どもの生活保護受給者率とプラスの相関関係にあります。後者が高い県ほど,前者も高い傾向。相関係数は+0.5122であり,1%水準で有意です。
貧困と逸脱の可視化ですが,いろいろな経路が考えられます。子どもですので,生活困窮による盗みといった,生活型の非行は稀でしょう。それよりも,周囲と比した相対貧困による剥奪感,自我の傷つきによる生活態度の不安定化要素が大きいかと思います。
思春期にもなれば,やれスマホだとか,仲間との交際にもカネがかかるようになりますが,それが叶わないとつまはじきにされる・・・。いじめ被害や不登校の発生率は,家庭の経済水準と相関していることは,前に明らかにした通りです。
都道府県レベルのマクロ統計でしか,この手の問題を検討できないことに,もどかしさを覚えます。子どもの貧困が社会問題化している状況です。『全国学力・学習状況調査』において,家庭環境の変数を若干盛り込み,個人単位での分析ができるようになればと思います。
そこから生み出された実証データが,子どもの貧困対策を押し進めるエビデンスになることでしょう。