ページ

2016年3月22日火曜日

犯罪認知度の国際比較

 犯罪の原因とは大きく,逸脱主体と統制機関に関わるものに分けられます。前者は,生物学的・心理学的・社会学的要因に分かれます。「バイオ・サイコ・ソシオ」とカタカナにすると,覚えやすい。

 後者の統制機関とは,警察や世論などです。ある行為に犯罪というラベルを付与し,警察統計に計上する活動です。この有様によっても,犯罪量は大きく左右されます。統計上の犯罪量は,こちらに大きく依存しているともいえるでしょう。

 当局の統計によると,2013年中に刑法犯で検挙された人員は26万2486人です。法に触れることをして御用となった人間(14歳以上)の数ですが,実際の量はこれだけではありますまい。逮捕を免れている,あるいは事件そのものが発覚していない暗数が相当多いものとみられます。

 2010~14年に実施された『世界価値観調査』によると,日本の18歳以上の国民のうち,「この1年間で犯罪被害に遭ったことがある」と答えた者の比率は3.5%です。2013年の人口(1億2717万人)にこの比率を乗じると,年間の犯罪被害者数は443万人ほどと見積もられます。

 警察統計上の年間の犯罪検挙者数は26万人ちょっと。推定される年間の犯罪被害者数は443万人。うーん,両者は著しく乖離していますねえ。後者に占める前者の割合は,5.9%でしかありません。

 統計上の犯罪者数と推定犯罪被害者数を照合した結果ですが,やはり,統計に表れていない膨大な暗数がありそうです。前者が後者に占める比率は,警察統計によって犯罪がどれほど掬われているか,いうなれば警察のガンバリ度の尺度とも読めるでしょう。この値の国際データを作ってみましたので,紹介いたします。

 各国の犯罪検挙者数とベース人口は,国連薬物犯罪事務所の統計によります。国民の1年間の犯罪被害率は,上記の『世界価値観調査』(2010-14)によるものです。


 統計上の犯罪者数を推定被害者数で除した値(右端)が犯罪認知度ですが,日本は低いほうです。データを計算できた,24か国の順位は18位。

 ドイツやオランダは高いですねえ。半分超です。大国アメリカも4割を超えています。

 日本の統計の犯罪認知度は高くないことを知りましたが,日本の警察の検挙率は世界一。よって,事件そのものが発覚していない(届けられていない)という問題が大きいと思われます。万引きも説諭で済ます,羞恥心から性犯罪を届け出ないなど。わが国のカルチャーからして,頷けることです。海外では,軽微な犯罪もガンガン通報され,警察に捜査してもらうと。

 日本では事件の認知にバイアスがかかるのですが,その度合いは加害者の属性によっても異なります。よくいわれるのは,加害者が家族ないしは親戚である場合,通報が控えられるケースが多いことです。

 このことは,強姦の加害者の内訳を,警察統計と被害経験女性の申告で比較してみると,よくわかります。


 家族・親戚の割合は,警察の検挙統計では5.6%しか占めませんが,被害女性の申告では28.2%をも占めています。家族の絆(名誉)を重んじる日本では,家族間の犯罪は公になりにくいようです。

 三世代同居を推奨し,介護や保育を家族で担ってもらおうという目論見があるようです。家族というのは,政府にしたら,諸々の闇を封じ込めるのに使える,実に都合のよい「装置」です。情緒・情愛依存の病理。

 ちなみにわが国では,少年と成人の犯罪率に「異常」ともいえる乖離があります。大人は自分たちのことを棚上げして,少年ばかりを厳しくとり締まっている。少年の犯罪化,成人の非犯罪化の進行。恩師・松本良夫先生の言葉を借りると,「少年犯罪『多』ではなく,成人犯罪『少』」の病理。

 犯罪統計を,逸脱者の実際量ではなく,統制機関の姿勢の指標と考えると,当該社会の病理が見えてきます。今しがた述べた,犯罪認知の世代差にまつわる問題については,次回公表の日経デュアル記事で詳しくお話いたします。どうぞ,お楽しみに。