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2016年4月10日日曜日

数学得意率と数学得点の相関

 国際学力調査としては,OECDが3年おきに実施している「PISA」が有名ですが,IEA(国際教育到達度評価学会)が5年おきに実施している「TIMSS」もよく知られています。各国の数学と理科の学力を計測する調査です。対象は,小学校4年生と中学校2年生です。
http://www.nier.go.jp/timss/2011/index.html

 日本の児童・生徒の理系学力は高い水準にあります。これは当局の報告書でもいわれていますが,教科の得意度と絡めてみると,「はて?」という傾向が出てきます。中2の数学に着目して,それを紹介しましょう。

 上記調査では,「数学が得意だ」という項目に,自分がどれほど当てはまるかを訊いています。「とてもそう思う」ないしは「そう思う」と答えた生徒の率を,数学得意率としましょう。下記サイトにて,リモート集計ができます。
http://nces.ed.gov/surveys/international/ide/

 この指標を横軸,数学の平均点をとった座標上に,調査対象の42か国を配置すると下図のようになります。最新の「TIMSS 201」のデータをもとに作った図です。


 数学が得意な生徒が多い国ほど数学学力が高いと思いきや,現実は逆になっています。相関係数は,-0.7158にもなります。

 右下の発展途上国は,数学学力は低いが,数学得意率が際立って高い。日本をはじめとしたアジア諸国はその逆。教科の内容や,要求される到達水準の差によるでしょうが。右下の社会の生徒のほうが幸福度は高そうですね。

 私の中学校の数学教師が,こんな愚痴をこぼしていました。「本当は,教科書の後ろの問題ができれば十分なんだよ。社会生活を送れるんだよ。でも,高校入試で選り分けないといけない,それには奇問難問を出さないといけない。「できない子」が強制的に生み出される。困ったもんだよ」と。

 「みんな100点では困る,順位をつけないといけない」。こうした相対テストを日本の生徒は何度も受けさせられるのですが,それでは「出来の絶対水準」とは無関係に,自尊心(自信)を剥奪される生徒が多くなるのも,無理からぬことです。

 近年では,相対評価はあまりよくないということで,絶対評価や個人内評価が重視されるようになっています。後者は,前と比べてどうかというように,当該個人内部の基準(過去,他教科・・・)に依拠する評価方式です。

 他人との比較にばかり晒されている日本の生徒さん,自分の指導に自信をなくしている先生方に上記の図を見ていただきたいのですが,あと一つの図を掲げておきましょう。数学得意度と数学得点のクロス集計結果です。

 左は日本,右は国際平均の図です。横幅によって,得意群・不得意群の比重も表現しています。


 日本は不得意群が大半なのですが,その多くが,国際標準でみた高い水準に到達しています。他国の得意群よりも,はるかに高いアチーブメントです。

 理系学力が高い生徒の育てること,理系教科に得意感(親近感)を持つ生徒を育てること。国の科学力を強化するに際してはどっちも大事ですが,現実には相反することが多いようです。しかし日本は,後者があまりに弱い。理系学力を鍛えても,それを活かして理系職を望む生徒が少ない(とくに女子)。何とももったいないことです。

 過密カリキュラムをちょっと緩めること,入試で度の過ぎた奇問難問を出すのを禁じ,科学に対する意欲・態度の面をもっと重視すること・・・。今進んでいる大学入試改革は,この方向に動いていますが,良いことだと思います。人員増員といった条件整備と並行して,ぜひとも具現してほしいものです。

 国際比較をいろいろしているのですが,国内しか見渡せないことって,ホント不幸だと感じます。自分の置かれた状況を相対視できない。その檻から自らを解き放ち,改革の筋道(可能性)を示してくれる。国際比較の意義というのは,こういうことです。