小学校5年生と中学校2年生の体力を計測するものですが,対象の児童・生徒や学校に対する質問紙調査も含まれています。今年度の目玉は,中学校調査において,部活に関する事項を尋ねていることです。
運動部に属している生徒に対し,週間の平均部活時間を訊いています。また学校に対しては,部活の休養日を週にどれほど設けているかを問うています。
公立中学校のデータをみると,男子の週間の平均部活時間は952.3分,女子は967.0分です。女子のほうが長いのですね。部活の休養日を設けていない学校の割合は,22.0%となっています。およそ2割。この点は,新聞でも大きく報じられました。
これは全国の数値ですが,何と何と,都道府県別の数値も公表されています。これは前例のないことです。スゴイ。下に掲げるのは,都道府県別の一覧表です。
運動部の平均活動時間は,男女とも最長は千葉,最短は岐阜となっています。男子でいうと,千葉は1099分ですが,岐阜は657分。違うものですねえ。
部活の休養日を設けていない学校の割合は,マックスの大阪では67.5%ですが,山形と福井では皆無となっています。
上表の3つは,部活のブラック度を測る指標として使えるでしょう。これらを合成して,各県の部活のブラック度を計測する単一尺度を作ってみましょう。
それぞれは値の水準が違うので,単純に足したり均したりはできません。そこで,47都道府県中の最高値が1.0,最低値が0.0となるような相対スコアに換算します。計算式は,以下です。
相対スコア=(当該県の値-全県の最低値)/(全県の最高値-最低値)
たとえば,東京の男子の平均活動時間(788.78分)をスコアにすると,(788.78-657.17)/(1098.92-657.17)=0.298,となります。女子の活動時間のスコアは0.390,休養日の設けていない学校の比率のそれは0.946,となります(表の左欄)。
東京の公立中学校の部活ブラック度は,これら3つのスコアの平均をとって,0.545という数値で測られる次第です。
同じやり方で,47都道府県の部活ブラック度スコアを出し,ランキングにすると下表のようになります。運動部の平均時間と休養日不定の学校比率から試算した,部活のブラック度の尺度です。
トップは奈良,2位は愛媛,3位は神奈川となっています。上位には,大都市の近郊県が多い印象です。中部や東北には,部活が比較的ホワイトな県が多くなっています。
中学校の部活のブラック度を可視化した数値ですが,実はこれが,正社員の長時間労働率と有意に相関している。私は前に,プレジデント・オンラインの連載にて,正社員のブラック就業率を出したことがあります。年間300日・週60時間以上働いている者の比率です。電通で過労自殺した女性社員に匹敵するレベルで働いている,過労死予備軍です。
横軸に上表の部活ブラック度スコア,縦軸に正社員の長時間就業率をとった座標上に,47都道府県を配置してみました。下図をご覧ください。
攪乱が結構ありますが,2つの指標の間にはプラスの相関関係が見受けられます。相関係数は+0.3765で,47というケース数の場合,1%水準で有意と判断されます。
「ブラック部活は,ブラック就労に続く学校」と,どなたかがツイッターでつぶやかれていましたが,地域単位のデータにて,それを匂わせる傾向が出てきました。他の要因を介した疑似相関の可能性も大ですが,あまり完璧を求めず,興味深いファクトが出てきたらどんどん公開しようというのが,私の考えです。
部活は、規律ある集団行動の精神を生徒に体得させるなど、好ましい教育効果を持っています。日本企業の高いパフォーマンスを支える人材を供給する機能も果たしています。
しかし,滅私奉公も厭わない人間を大量生産しているともいえます。ブラック企業は,体育会系の学生を好んで採るといいますし。
活動を節度あるものにする必要があるのは,言うまでもありません。わが国に長らく蔓延っている,職域の病理を治療するためにもです。