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2018年2月17日土曜日

体験活動の効果

 子どもの育ちにとって,各種の体験は大きな意義を持っています。自然や動植物への慈しみの念は,自然体験を通して育まれますし,弱者への思いやりは,そういう人を手助けする活動を通して身につきます。

 勉強にしても,教科書に書いてある抽象的なことを理解するのは,自分が持っている原体験に引き寄せてです。教科書の内容は,社会生活に必要な3Rや,生活上の諸問題を解決するための知恵を体系的にまとめたものです。その原点は,先人が実生活の中で遭遇した体験です。それに通じるものを持っている子とそうでない子では,勉強の呑み込みにも差が出てくるでしょう。

 今回は,体験活動の効果をデータで明らかにしてみようと思います。各種の体験の多寡によって子どもをグループ分けし,道徳行為,自己イメージ,勉強の得意度がどう違うかを分析してみます。

 この手の分析は白書等でもなされていますが,ここでやる分析の特徴は,子どもの家庭環境の要因を統制することです。

 用いるのは,国立青少年教育振興機構の『青少年の体験活動等に関する意識調査』(2014年度)の個票データです。小学生調査の問3で,各種の体験の頻度を問うています。
http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/107/


 家事,他人の世話,自然体験に関わる17項目です。これらの頻度の回答を合成し,体験活動の多寡を測る単一の尺度を作ります。

 「1」という回答には3点,「2」には2点,「3」には1点のスコアを付与します。この場合,対象児童の体験活動のレベルは,17~51点のスコアで計測されます。全部「1」と答えたバリバリの体験っ子は51点で,全部「3」の子は17点です。

 本調査の小学生調査の対象は4~6年生ですが,発達段階の影響を除くため4年生に絞ります。また,家庭環境の影響を除くため,年収が400万以上600万未満の家庭の児童に限定します。小4児童でみた場合,家庭の年収のボリュームゾーンはこの階層です。

 このように,家庭の経済力を揃えた比較をするのが,ここでの分析のウリです。「体験格差」という言葉があるように,子どもの体験の量は,家庭環境と強く関連していますので。家庭環境の要因を統制しても,体験活動の効果が認められるかどうか…。

 年収400万以上600万未満の家庭の小4児童のうち,上記の17項目全てに回答したのは654人です。この654人の体験活動スコアの分布を図示すると,以下のようになります。


 中ほどが厚いノーマル分布です。この分布をもとに,体験活動のレベルを「低」「中」「高」の3群に分けましょう。20点台を低,30点台を中,40点以上を高とすると,「2:6:2」となり,きれいな配分になるかと思います。

 フツーの家庭の小4児童654人を,このやり方で3つの群に分け,道徳行為,自己イメージ,勉強の得意度がどう違うかを比べてみます。まずは道徳行為です。7項目について,最も強い肯定の回答をした児童の割合を拾ってみました。


 赤字は3群の中で最も高い数値ですが,どれも体験活動「高群」の肯定率がマックスです。席を譲ること,悪いことを止めさせることの肯定率は,低群と高群では大きく違っています。

 京王線車内で,障害者に優先席を譲るのを拒否した若者がいたそうですが,おそらくは他人のケアをした経験がないのでしょう。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180215-00207709-toyo-bus_all

 次に,自己イメージと勉強の得意度です。関連する15項目を取り出し,肯定率を群ごとに計算しました。


 友達も多さ,勉強・体力への自信,自尊心とも,体験活動のレベルとリニアな相関関係にありますね。体力への自信は,低群と高群では5倍以上違っています。家に籠っている子と,外を駆けずり回っている子ですから,当然ですが。体験活動が多い子は,行動範囲が広いためか,学校外の友人も多いようです。

 自尊心とも関連していますね。お手伝いや他人の世話で,集団生活に貢献した経験,崇高なものに触れた経験が基盤になっていることは,想像に難くありません。

 勉強が得意の割合も,低が10.9%,中が13.9%,高が16.5%と,リニアな傾向があります。教科ごとにバラしても同様です(下段)。実生活での体験の多寡は,教科書の抽象的な内容を吸収(定着)させるための接着剤のようなものです。

 以上,体験活動の効果をデータで垣間見てみました。今回のデータは,発達段階(年齢)と家庭環境の要因を統制した比較によります。フツーの家庭の小4児童に限ったデータです。体験活動の効果を,ある程度支持するデータとみてよいでしょう。

 あと一か月ちょっとすれば春休みですが,お子さんには,いろいろな所に出かけ,お子さんに「体験」を積ませたいものです。

 当局もその重要性を認識し,昨年の学校教育法施行令改正により,各自治体が学校の休業日を独自に設定できることになりました。長期休暇の一部を割り振り,土日と接合させることで,学期中にもまとまった休暇(キッズウィーク)を設定できるという寸法です。そのねらいは,親子の体験活動を奨励すること。
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1396748.htm

 これが機能するには,親も有給休暇をとれるようにしないといけません。自治体が定めた体験活動休業日には,子持ちの従業員の休暇取得を促すなど,企業には配慮が求められます。この取組の集積で,社会全体のワーク・ライフ・バランスが促進されることになればしめたものです。

 「体験が人を育てる」。昔から言われている格言ですが,この言は理屈抜きに正しいのです。