http://www.sbcr.jp/products/4797394573.html
AIによって雇用が奪われるとか悲観的な見通しが多いのですが,人間が労働から解放され,己の好きなことをして過ごせるのなら,素晴らしいことではありませんか。
しかし現状は,そういうユートピアからは程遠く,社会を回すには人々が働かないといけないのですが,その量は時代や国によって違います。ここでは労働量ということにしましょう。
労働量は,働いている人の数(a)と労働時間(b)の掛け算で決まります。これを人口(c)で除せば,どれほどの労働量で社会を回しているかの指標になるでしょう。タイトルの問いへの答えです。
各国の就業者数と週の平均就業時間は,ILOの統計から知ることができます。人口は,国連の人口推計サイトに出ています。これらの資料から上記の3要素(a~c)を拾って,数値を計算してみました。下表は,2015年の主要国のデータです。
日本は就業者が約6500万人で,週の平均就業時間は39時間です。就業時間が短い印象を受けるでしょうが,これは女性や高齢者も含めた全就業者のものだからです。
両者の積の労働量(a×b)で,1億2800万人ほどの人口(c)を養っているわけです。人口当たりの労働量は,19.68となります。均して言うと,日本は,国民1人が週19.68時間働くことで,社会を回していることになります。
上記の国際統計資料から,79か国について,a~cの3要素を揃えることができます。同じやり方で人口あたりの労働量を計算し,高い順に配列したランキングにすると,以下の表のようになります。
トップは中東のカタールで,マカオ,シンガポール,タイ,ベトナムといったアジア諸国が続きます。社会を動かすのに,(相対的に)多くの労働を充てている国です。
対極の右下は,人口当たりの労働量が少ない社会で,発展途上国が多くなっています。南アフリカなど,失業率がべらぼうに高い国がほとんどで,働こうにも仕事がないのでしょう。
人口あたりの労働量は,少なければいいというものではありません。右下の国々の多くは,物質的に貧しい暮らしを強いられています。ギリシャのように,財政破たんしている国もあります。
そこで,豊かさという点も加味した二次元での評価をしてみましょう。一国の豊かさの代表指標は,国民1人あたりのGDP額です。2015年のGDP(米ドル)を同年の人口で除して出しました。GDPの出所は,国連の下記リンク先資料です。
https://unstats.un.org/unsd/snaama/Introduction.asp
「労働量×豊かさ」のマトリクスでみると,それぞれの社会の性格が見えてきます。少ない労働で豊かさを享受している社会,たくさん働いているのに貧しい社会…。下図は,横軸に人口当たりの労働量(上表),縦軸に国民1人あたりのGDP額をとった座標上に,79の国を配置したものです。点線は,79か国の平均値をさします。
左下は「少労働・貧しい」社会で,発展途上国が大半です。お隣の右下は,「多労働で貧しい」,ちょっと残念なタイプ。タイやベトナムが該当。
右上は「多労働・豊かな」社会,言うなれば人海戦術で豊かさを得ているタイプでしょうか。日本を含むアジア諸国が多くなっています。
最後の左上は,少労働で豊かという,ベストなタイプです。予想通りといいますか,北欧の諸国が多くなっています。社会のICT化進んでおり,人間と機械の分業が進んでいるためでしょう。デンマークは,ICT教育の最先進国です。
時代の流れとともに,右下(多労働・貧困)から左上(少労働・豊か)に移行する社会がほとんどで,日本もこのような軌跡を歩んでいます。しかし現時点では,20世紀型の人海戦術依存を脱し切れておらず,少子高齢化が相まって,労働力不足という問題に直面しています。
そんな中,冒頭で紹介した『10年後の仕事図鑑』は,希望を与えてくれるものです。人間と機械の分業(共存)が進み,人間が過重労働から解放され,好きなことをして生きていけるユートピアの到来可能性にわくわくします。多くの人が,古代ローマでいう有閑階級になれるわけです。
今朝のNHKニュースで,米国では,客が商品を持って出るだけで代金がクレジットカード払いされる「無人スーパー」が導入されている,という話がありました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180410/k10011396841000.html
私は近くのドラッグスーパーで買い物をするのですが,未精算の商品を持ち出したらブザーが鳴る防犯ゲートがついているのに,何でセルフレジにしないのだろう,という疑問をいつも持っています。夕方,ウォーキングのついでに寄ると,有人の3つのレジはいつも長蛇の列です。
宅配だって,玄関置きで十分。私の場合,ネットで取り寄せる荷物の9割は玄関置きでよい代物です。格安の「玄関置き便」をぜひ設けてほしいです。
どれほどの労働量で社会を回しているか,豊かさと絡めるとどうか? データでラフな見当をつけてみると,日本はまだ,その移行の途上であることが知られます。