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2018年4月6日金曜日

出世の条件の国際比較

 近代以前の社会では,生まれがモノをいう属性主義でしたが,近代以降では個人の能力が重要となる業績主義に移行しています。「何であるか」ではなく,「何ができるか」の重視です。

 明治期になって,それまでの身分制が否定され,業績主義の重要性が説かれました。貧しい家に生まれようが,学校に行って勉強を頑張れば立身出世できる,国民は皆学校に行くべきという「国民皆就学」が要請されました(1872年,学制序文)。

 しかしこれは形式上の空論で,戦前期の学校体系は,中等段階以降,性質を異にする複数の学校に分岐する「分岐型」で,「旧制中学→旧制高校→帝国大学」のコースを進めるのは,ごく一部の子どもだけでした。長期の間,多額の学費を負担できる富裕層,性別は男子限定です。

 こうした弊が取っ払われたのは,戦後になってからです。「小・中・高・大」の単線型が敷かれ,上級学校への進学を阻む制度的な障壁は無くなりました。教育の機会均等が法で定められ,国による奨学義務も規定されました。

 これで抜け目は無くなり,業績主義の純粋型になったかというと,現実はさにあらず。親の地位と当人の現在地位の相関が強いことは,各種の社会調査で示されています。教育費の負担能力の違いのような「見えやすい」格差,文化資本の密輸のような「見えにくい」格差が作動しているためです。

 制度上,教育の機会均等が実現しているかのように見えますので,「当人の能力の問題ではないか」と言いくるめられることが多いだけに,昔に比して厄介な事態になっているとすらいえます。

 国民は,出世のための条件として,どういうものが重要と考えているのでしょう。生まれ,当人のがんばり,コネ,あるいは自身では如何ともし難い属性…?。ISSPが2009年に実施した「社会的不平等に関する意識調査」では,この点をズバリ尋ねています。
http://www.issp.org/data-download/by-year/

 11の事項を提示し,どれほど重要と思うかを5段階で答えてもらっています。最初のQ1です。


 ①と②は出自,③~⑤は当人の実力,⑥~⑧はコネ,⑨~⑪は属性と括ることができるでしょう。

 調査対象者が,これら4つのどれほど重要と考えているかを点数化します。出自は,①と②の回答を合成します。「1」という回答には5点,「2」には4点,「3」には3点,「4」には2点,「5」には1点のスコアを付与します。

 この場合,出自を重要と考えているレベルは,2~10点のスコアで測られます。両方とも「1」と答えた者は10点,双方とも「5」の者は2点です。同じ方式によると,実力,コネ,属性の重要認識レベルは,3~15点の点数で計測されます。

 日本でいうと,出自の2項目(①と②)に有効回答を寄せたのは1220人ですが,この1220人のスコア平均を出すと5.28点となります。同じ要領で他の3つの平均点を計算すると,実力は10.50点,コネは6.33点,属性は4.93点です。

 はて,この数値は調査対象国(41か国)の中でどこに位置づくのか。出自・実力・コネ・属性の4つについて,重要度認識の平均点の国際ランキングを作ってみました。まずは,最初の2つの順位表をみていただきましょう。


 日本は,出自の重要度認識は下から6番目,実力は最下位となっています。後者はいささか不名誉ですが,控えめな回答をした人が多かったのでしょうか。出自も,他国と比して重要とは考えられていませんが,見えざる不平等への認識が足りないことの表れかもしれません。

 出自のトップが中国というのは,何となく頷けますね。

 次に,コネと属性の重要度認識のランキングです。



 日本は,コネは下から5番目,属性は下から2番目なり。属性とは,当人では如何ともし難い人種・宗教・性別ですが,性別に限定したら,日本の順位はかなり上がるかもしれません。客観的なジェンダー不平等指数が下位にありますので。

 コネですが,上位は軒並み旧共産圏の国々です。個人の自由な経済活動を統制する硬直的な社会ですので,こうなるのでしょうか。属性の首位が南アフリカというのは,さもありなん。

 最後に,視覚的なグラフを一枚載せておきましょう。横軸に出自,縦軸にコネの重要度平均スコアをとった座標上に,41か国を配置した散布図です。点線は,41か国の平均値をさします。


 国民の主観的な意見によりますが,左下は公正な社会,右上はその逆です。

 しかるに,これが現実と一致しているかは,甚だ疑わしい。これまで国際散布図を数多く作ってきましたが,日本と北欧諸国が近接するケースはとても珍しいです。日本では,現実の不平等(不正)を国民があまり認識していないのではないか。

 今回のデータは,現実の不平等指標(ジニ係数,社会の開放係数,ジェンダー不平等指数…)と絡めてみる必要がありそうです。

 それと,国民の間での分裂も危惧されます。昨日の朝日新聞に,「教育格差,容認の考えを持つのはどんな保護者?」という記事が出ていますが,経済的に豊かな家庭の子ほど,よりよい教育を受けられるのは当然と考える親は,富裕層・高学歴層・都市部居住者で多いそうです。
https://www.asahi.com/articles/ASL3X77LVL3XUTIL05R.html?iref=comtop_list_edu_n03

 ここで紹介したデータは,18歳以上の国民全体のデータですが,社会階層で群分けしてデータを計算し直したら,富裕層と貧困層の断絶現象が浮かび上がってくるかもしれませんね。*ISSPはサンプルが少ないので,それは難しいのですが…。

 社会を動かす為政者の多くは,高い階層の出身者ですが,現実の不平等,はては不正に容認の考えを持っているのだとしたら怖い。今回の文書改竄の発覚を目にし,こうした思いをますます強くします。