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2018年6月4日月曜日

年齢別の在学者数

 昨日の朝日新聞にビックリ仰天の記事が出ています。福岡県那珂川町に,93歳の小学生がいるそうです。
https://www.asahi.com/articles/ASL5P5VTKL5PTIPE020.html

 90歳の高校生,大学生といった記事は目にしたことがありますが,小学校で学んでいるというケースは初耳です。現在93歳ということは,1925年生まれと推測されますが,戦前期,尋常小学校への就学の機会も逃したのでしょう。

 それを今から取り戻そうと,曾孫世代の児童らと学んでおられます。いくつになっても学ぼうという姿勢は,子どもたちにとっても刺激になると,校長先生も喜び顔です。

 この那珂川町という自治体は,町民聴講制度なるものを設け,地域の学校を住民に開放しているそうです。学校を生涯学習の場にしようという試み,それは未来形の学校を先取りしています。これから子どもは減りますが,大人(高齢者)は増えてきますからね。その中には,向学心を持っている人も少なくありません。上記の記事で紹介されている,93歳の小学生はその典型です。

 これは福岡県の田舎町のケースですが,統計でみて,このような人はどれほどいるのでしょう。基幹統計の『国勢調査』では,西暦の下一桁が「0」の年(大調査の年)に,国民の在学状況を調べています。設けられているカテゴリーは,以下の4つです。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/database?page=1&toukei=00200521&result_page=1

 1.小・中学校
 2.高校
 3.短大・高専
 4.大学・大学院

 やや区分が粗いですが,これらの学校に在学している人の数を年齢別に知ることができます。以下の表は,小・中学校と高校の在学者の年齢分布です。最新の2010年に加え,時代変化を見るため,20年遡った1990年のデータを見てみます。


 黄色マークは伝統的な在学年齢で,小・中学校は6~15歳,高校は15~18歳です。当然ですがこのゾーンの在学者が大半を占めます。しかし少子化により,この伝統的な年齢層の児童・生徒は大幅に減じています。

 代わって増えているのは,それとは別の「非伝統的」な年齢層の在学者です。赤字はこの20年間で増えている数字ですが,小・中学校では18~22歳,25~27歳,そして30歳以上の児童・生徒が増えています。夜間中学校の生徒が多いと思われますが,上記のお爺さんのように,小学校で学ぶ大人もいるでしょう。

 高校を見ると,13~14歳の生徒が出てきています(10人)。飛び入学を果たした生徒さんでしょうか。しかし法規上,飛び入学が認められるのは大学だけだったような気が…。

 それはさておき,高校でも伝統的な年齢層の生徒は減り,大人の生徒が増えています。子どもの頃,義務教育は終えたものの,高校進学は叶わなかったという大人は,一定より上の世代では数多くいます。1950年代の半ばまで,高校進学率は半分にも達していませんでしたから。今から高校生活を謳歌しようと,高校の門をくぐる高齢者のニュースはよく耳にします。

 次に,短大・高専と大学・大学院の在学者の年齢統計を見てみましょう。これらの高等教育機関では,成人学生はより多くなっています。


 短大・高専は90年代以降,学生数が大きく減じています。伝統的な年齢層の学生(15~20歳)は,122万人から58万人へと半減以下です。短大が苦境に立たされているためでしょう。しかし,それ以外の非伝統的な年齢層の学生は増えています(16万人→17万人)。学生全体に占める比率も,11.7%から22.7%へと倍増です。
 
 短大は,4年制大学よりも地理的分散の度合いが高い利点を生かし,今後は地域の生涯学習のセンターとしての機能を前面に出すべきでしょう。非伝統的年齢層の学生数の伸び率は,大学・大学院よりも,短大・高専のほうが大きくなっています。

 最後に大学・大学院ですが,90年では皆無だった,15~17歳のうら若き学生が出てきています。高校から大学への飛び入学は法でも認められています。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shikaku/07111318.htm

 18歳人口ベースの大学進学率が上がっているので,大学・大学院は,伝統的な年齢層の学生も増えています。それよりも上の学生も増えており,30歳以上の学生はこの20年間で3倍の伸びです。社会人に門戸を開く大学も増え,仕事と教育の間を往来する「リカレント教育」も,以前に比したら普及してきました。ただし,欧米に比べたらまだまだですけど…。

 以上,在学者の年齢統計をラフに見てきましたが,たまに新聞で目にする「90歳の高校生!」という類の記事が,ごく一部のマイノリティをつまんだものではない,ということが伺われます。学校は子どもや若者の占有物ではなく,そこで学ぶ大人(高齢者)は増え,その傾向は止まることはないでしょう。いろいろな世代の人間が学校に出入りし,机を並べて学ぶのはいいことです。

 今回見た統計では,マックスの年齢階級が「30歳以上」と括られてしまっていますが,2020年の『国勢調査』で同じ統計表を出す際は,改めてほしいと願います。中高年,高齢層といった多様なステージの学生数を把握できないからです。

 非伝統的な学生が学校に求めるものは,ステージによって異なります。学校がそれに応える準備をするためにも,細かい年齢統計が必要になるのは言うまでもありません。