ページ

2018年8月20日月曜日

女性の自殺率の国際比較

 日本女性学習財団の機関紙『ウィラーン』で連載を持たせていただいています。「学びのスイッチ・データをジェンダーの視点で読み解く」というものです。
http://www.jawe2011.jp/welearn

 一般販売のほか,省庁や男女共同参画の実践に取り組む団体等に配布される情報誌です。幅広い読者層ゆえか。私が書いた記事について,個別に問い合わせが来ることがあります。先月の上旬に次のようなメールがきました。

 日本の女性は,大変な思いをしていると思う。女性の「生きづらさ」を可視化するデータはないか?

 うーん,直球できましたね。生きづらさの指標というなら,世論調査等で分かる生活不満率や不幸率とかを思いつきますが,そういう口先の表明よりも,実際の行動の指標のほうがいいでしょう。ズバリ,自殺率です。「生きづらい」という思いを極限の行動に移した者の出現率です。

 自殺率は何回も取り上げてきましたが,ジェンダーの分析は手薄だったように思います。日本の女性の生きづらさの可視化,というリクエストですので,国際比較という視点を据えましょう。

 自殺率(suicide rate)とは,ある年の自殺者数が,国民10万人あたりでみて何人か,という指標です。便利になったもので,OECDの統計ポータルサイトにて,国別の計算済みの数値を呼び出すことができます。
https://stats.oecd.org/

 言わずもがな,自殺率は国民の年齢構成の影響を受けます。自殺率は高齢者で高いので,粗自殺率だと,日本のように高齢化が進んだ国で自殺率は高く出ちゃいます。これはフェアではないということで,年齢調整済の自殺率(standardised rates)も得ることができます。こちらを使いましょう。以下,単に自殺率といいます。

 41か国(OECD加盟36,非加盟5)のデータが出ていますが,最近の年ではデータ欠落の国が多いので,全ての国のデータが得られる2013年のデータを使います。男女の自殺率を高い順に並べたランキング表を見ていただきましょう。主要7国には色をつけました。


 日本の自殺率は,男性が27.2,女性が10.6です。どの社会もそうですが,女性の自殺率は男性よりも低くなっています。

 41国の中での順位はというと,男性は9位なのに対し女性は3位です。色付きの7国でみると,男女の相対順位のギャップは,スウェーデンに次いで大きくなっています。国民全体の自殺率が注目されがちですが,女性の自殺率に限ると日本は上位なんですね。先の質問者が言うように,他国に比して日本の女性は「生きづらい」のかもしれません。

 それは,男性の自殺率との対比からも知られます。ある方がツイッターで,男性の自殺率を1.0としたとき女性の自殺率はいくらか,という数値を計算されてました。「女性/男性」の割り算です。それによると,日本は主要国では高いほうです。
https://twitter.com/nekoacademy0/status/1030826249910771712

 上記の表から,この対男性比を計算すると,10.6/27.2=0.390となります。日本の女性の自殺率は,男性の約4割。海を隔てた大国アメリカは,5.7/21.1=0.270。日本のほうが高くなっています。

 この2つをとった座標上に,上表の41か国を配置したグラフにしてみました。女性の自殺率の水準,および対男性比という,2つの基準からした評価です。


 日本は右上にあり,横軸・縦軸とも,平均値(点線)を上回っています。この布置図で見る限り,日本は,女性が生きづらい社会の部類といえそうです。

 右下には南米や中東の国々がありますが,これらの国の女性が安泰というのでは決してありません。客観的にみれば,女性は抑圧され,性犯罪の発生率もべらぼうに高いのですが,文化的・宗教的要因により,それを空気のように受け入れさせられている面があります。

 自殺率のジェンダーの国際比較をやってみましたが,日本の「よろしくない」現状が露わになってしまいました。

 日本は,女性が生きづらい社会。肌感覚でも頷けます。女性の睡眠時間,男性の家事・育児分担率はワーストで,女性に重い負担がかかっています。また,医科大学の入試で女子の点数操作がのうのうとやってのけられる国です。先ほど性犯罪の話が出ましたが,伊藤詩織さんの事件を引くまでもなく,性犯罪の隠蔽(暗数)も非常に多いと思われます。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/05/post-7673.php

 女性の「生きづらさ」を傍証する材料は,数多くあります。フィーリングでそれらを列挙するのは容易いですが,自殺率の国際比較というデータを添えると,説得力が増しますね。

 ここでは女性全体の自殺率を観察しましたが,期待される役割は年齢によって違います。育児・介護の負担がのしかかる壮年層でみたら,日本が首位だったりして。年齢別の自殺率はWHOのデータベースから出せます。面白い知見が出ましたら,報告します。