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2018年8月26日日曜日

母子家庭・父子家庭からの非行少年出現率

 子育て年代の離婚率の増加もあって,最近では,18歳未満の子どもの7人に1人が,一人親世帯の子です。

 日本は,一人親世帯に困難が凝縮する社会で,子どもの貧困率は,子ども全体では6人に1人ですが,一人親世帯に限ると半分を超えます。一人親世帯の子どもの貧困率は,世界でトップです。子どもの貧困率の増加は,一人親世帯が増えていることにもよります。

 経済的に苦しい状況に置かれるわけですが,そういう生活条件が,子どもの育ちに影を落とすこともあります。問題行動の頻度とも関連しており,非行との相関については,データではっきりと可視化できます。

 家庭環境と非行というのは,犯罪社会学の古典的テーマで,この分野の入門書を開くと必ず,「家庭環境」というチャプターが設けられているはずです。その関連の仕方というのは,親子関係の有様ののような,情緒的・内面的な部分に注視されがちですが,もっと基底的な家庭の形態面(構造面)に焦点を当てることも必要です。たとえば,親がいるかどうかです。

 昔は,両親がそろってない家庭を欠損家庭といい,一般家庭と比して非行少年の出現率が高いことが,白書等でよく示されていました。現在では「欠損家庭」などという言い方はNGで,このような分析はあまり見かけなくなりましたが,警察庁の原統計では,非行少年の数が親の状態別に集計されています。「両親あり」「父あり母なし」「母あり父なし」「両親なし」,というカテゴリー区分です。
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/sousa/year.html

 2015年の『犯罪統計書』によると,同年中に刑法犯(交通業過除く)で検挙・補導された10代少年は4万7173人です。うち母子世帯の子は1万4851人,父子世帯の子は3030人となっています。非行少年の4割近くが,一人親世帯から出ていることになります。

 同年の『国勢調査』によると,一般世帯の10代少年は1141万3988人で,うち母子世帯の子は140万301人,父子世帯の子は16万6566人です。

 これで分子・分母がそろいましたので,少年全体,母子世帯,父子世帯という3グループについて,非行少年の出現率を計算できます。以下に掲げるのは,割り算の結果です。出現率の単位は‰(千人あたり)であることに注意してください。


 10代少年全体では,非行少年の出現率は4.1‰ですが,母子世帯では10.6‰,父子世帯では18.2‰となっています。母子世帯は全体の2倍,父子世帯は4倍以上です。

 分子の非行者数は,繰り返し捕まった少年を重複してカウントした延べ数であることに要注意ですが,父子家庭からは55人に1人の割合で非行者が出ていることになります。

 これは10代全体のデータですが,上表の分母・分子(a,b)は,細かい1歳ごとに得ることもできます。10~19歳の年齢別に,3つの群の非行少年出現率(b/a)を出し,折れ線のグラフにすると以下のようになります。


 最近の非行率の年齢カーブが,10代半ばに山がある型になっています。戦後初期の頃は18~19歳の年長少年で高かったのですが,時代とともに低年齢化してきています。

 15歳といえば人生初の進路分化が起きる時期で,高校入試による重圧(選り分け)の影響があるのかもしれません。発達面でみても,心が大きく揺れ動く時期です。このダブルの要因の影響は大きい。

 3群のカーブですが,どの年齢でも一定の開きをもって「総数<母子<父子」となっています。父子世帯の15歳少年から非行少年が出る率は29.2‰,34人に1人です。

 一人親世帯の子の非行率が少年全体よりも高いのは想像していましたが,母子世帯と父子世帯の段差がここまで大きいのは驚きです。「総数-母子世帯」と「母子世帯-父子世帯」の落差が同じくらいとは…。

 はて,これはどういう事情によるのか。母子世帯と父子世帯の非行の違いについてどう言われているのか,手元の犯罪学関連の文献に当たりましたが,詳細に言及しているものはありませんでした。

 まあ常識的にいって,離婚で生活が荒れる度合いは,母親より父親のほうが大きいでしょう。壮年男性の自殺率を有配偶者と離別者で比べると,後者のほうが格段に高くなっています(女性は差が小さい)。そうした荒みが,子どもにも伝播するのかもしれません。

 また父親の場合,仕事中心になりがちで,子どもとの接触時間もとれない。家事や育児も妻に任せきりで,妻に去られた一人になると,子どものケアもままならない。それは,年少の子どもにとって痛手になるでしょう。企業も「育児は母親がするもの」という思い込みが強いので,シングルファザーのワーク・ライフ・バランスも阻害されがちです。

 一人親家庭というと脊髄反射的に母子世帯が想起され,シングルファザーの困難は陰に隠れがちです。それは低所得といった経済的事情とは異なる,生活や育児の実相に関係することです。

 今回のデータは,父子世帯への支援の必要性を示唆するもので,「子どもが非行化しやすい」など偏見の文脈で読まないでいただきたいと思います。