ページ

2019年5月11日土曜日

フルタイム就業女性の家事時間

 令和は,女性の社会進出が進展する時代。こう願いたいところですが,当の女性は複雑な思いを禁じ得ないかもしれません。「仕事,家事,育児・介護をトリプルでしろというのか!」と。

 いや,「自分がフルタイム就業となれば,さすがに夫も今より分担してくれるだろう」「いつも口うるさい姑も,手抜きを許容してくれるようになるだろう」と,淡い期待を抱くでしょうか。

 日本の女性の家事時間が長いことは知られていますが,フルタイム就業の女性に限るとどうなんでしょう。ISSPの「家族と性役割の変化に関する調査」(2012年)では,週間の家事時間を尋ねています。既婚女性と,そのうちのフルタイム就業女性を取り出し,回答の分布をとってみましょう。ラフな5つの階級にまとめました。左は日本,右はアメリカのグラフです。

 個票データから,私が独自に集計したデータであることを申し添えます。
http://www.issp.org/data-download/by-year/


 日本の女性はアメリカより家事時間が長いですが,フルタイム就業者の分布は,既婚女性全体とほぼ同じです。フルタイムか否かに関係なく,週20時間以上が6割以上います。

 フルタイム就業女性であっても,主婦と同じくらい,重い家事負担を担っている(担わされている)ことに驚きます。女性の社会進出を促す気流に,懸念を抱く女性が多いのは頷けます。

 対してアメリカでは,フルタイム就業女性になると,家事時間がかなり短くなります。おそらく外注するのでしょう。あるいは,夫の分担度が上がるためか…。

 夫婦というのは,妻と夫のタッグですので,夫の家事時間(分担度)にも目を配らないといけません。上記のISSP調査では,配偶者(パートナー)の週間家事時間も答えてもらっています。既婚女性と既婚フルタイム就業女性が答えた,自分と夫の家事時間を平均してみましょう。

 下表は,主要7か国の結果をまとめたものです。上段は既婚女性,下段は既婚フルタイム就業女性の回答に依拠します。


 日本をみると,妻がフルタイム就業であっても,夫婦の家事時間と夫の分担率は,ほとんど同じではないですか。「自分がフルタイム就業となれば,夫も今より分担してくれるだろう」という期待は,そう簡単には実現しないようです。

 諸外国では,フルタイム就業の妻になると,家事時間がかなり減ります。先ほどみたアメリカやドイツは,減少幅が大きいですね。夫の家事時間は微増であることから,やはり外注に頼るのでしょう。あるいは,家事のレベルを下げると。

 しかし日本ではそういう融通はきかず,フルタイムの妻であっても,主婦と同様の重い家事負担を課されます。こういう状況を考えると,社会進出の進展は,女性にとって地獄と言い得るかもしれません。

 随所で申していますが,日本では家事のレベルが高く,手抜きは悪という風潮が強いのでしょう。「男は仕事,女は家庭」という性役割分業で社会が築かれる中,家事に求められる水準はすっかり高くなってしまっています。専業主婦が手間暇かけて作った料理(一汁三菜)で,疲れて帰宅する夫をねぎらう…。これが高度経済成長期の日々でした。

 しかし時代は変わっています。個人・社会双方の要請から,夫婦の共働き(稼ぎ)が求められる時代です。今こそ「時短」「手抜き」を奨励すべき時。それを可能ならしめるテクノロジーも生まれています。

 あと問題なのは,やはり夫の家事時間の短さです。妻の就業状態に関係なく,夫は週に4時間ほどしか家事をしません。妻との落差が非常に大きい。

 日本の夫は仕事時間がべらぼうに長いからだと思われるでしょうが,夫の仕事時間でグループ分けしても,結果はほぼ同じです。「日本の男性は仕事時間が長いから家事をしない」っていうわけではさなそうです。定時に上がっても,家ではなく酒場に足が向くフラリーマンも多いわけでして…。

 それに,高齢夫婦に限ってみても,日本の夫の家事分担率はすこぶる低くなっています。無職が多い高齢夫婦でもコレです。やはり,仕事時間云々の問題ではないといえそうです。
https://twitter.com/tmaita77/status/1126770989730111494
  
 女性の社会進出を促すのは大賛成ですが,時代にそぐわなくなっている家事労働への考え方を変え,さらに男性の「家庭進出」をも同時に促さないことには,女性にとって地獄絵図のような世になりそうです。