子どもの問題行動が,13~15歳の思春期に多発するのはよく知られています。中学生のステージです。中学校の多くは公立ですが,最近は私立の生徒も増えてきています。東京では,中学生のおよそ4人に1人が私立校の生徒です。
その私立校に関連する,興味深い記事を見かけました。10月23日の京都新聞ウェブ版のもので,「私立校のいじめ対応に不満,どうすれば? 指導機関なく『治外法権』との声も」と題する記事です。
https://this.kiji.is/559542111595529313?c=39546741839462401
中身については後で触れますが,いじめというのは,問題行動の中でも量的な把握が最も難しい。可視性が低く,客観的な基準がありません。学校がいじめの把握にどれほど本腰を入れるか,すなわち認知の姿勢にも影響されます。
ここで問いたいのは,学校の「認知の姿勢」です。中学校の公立と私立を比較し,上記の京都新聞記事の内容と絡め,問題提起をさせていただきましょう。
いじめの基本的な統計は,いじめの認知件数です。文科省『児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査』にて計上されています。また毎年実施される『全国学力・学習状況調査』では,「いじめはどんな理由があってもいけない」という項目への意見を問うています。これに対し,否定的な回答をした生徒の率は,いじめの容認率と読めます。
この2つの数値がどうであるかを,公立と私立で比べてみます。年による変化があるので,ここ数年のデータを確認してみます。
一番上のいじめ認知件数をみると,2018年度では公立が9万3921件,私立が2841件となっています。公立が圧倒的に多いですが,中学校は大半が公立ですので,これは当然とみられるかもしれません。
そこで生徒千人あたりの数にしてみると(中段),公立は31.5件,私立は11.9件となります。生徒数を考慮しても,公立のほうが多いですね。公立は私立の約3倍です。わが子に中学受験をさせようとしている親御さんは,「だから公立には行かせたくないんや」と思われるでしょうか。
しかるに下段のいじめ容認率をみると,公立が4.5%,私立が7.0%で,こちらは私立のほうが高くなっています。2018年度だけでなく,どの年度でも同じです。幼少期からの受験勉強による人格の歪み等,要因はいろいろあり得ますが,それは置いておきます。
いじめの認知件数は公立の方が多いが,生徒のいじめ容認率は私立の方が高い。うーん,私立では統計に表れていない「暗数」が多そうですね。
2018年度の私立中3年生のいじめ容認率は7.0%ですが,この比率を同年度の私立中学生徒数にかけると1万6683人(b)となります。いじめを容認する生徒の推定数です。2018年度の統計に出ている,私立中のいじめ認知件数は2841件(a)。統計上のいじめ認知数は,いじめを容認する生徒数の17.0%でしかありません(a/b)。飛躍を承知で言うと,実際に起きているであろういじめの真数の2割も拾えてないことになります。
公立中学校のデータで同じ値を計算すると70.0%となります。公立では私立に比して,いじめがかなり把握されているようです。その差は4.1倍です。
これは2018年度の試算結果ですが,偶然なんでしょうか。2012年度からの推移をご覧いただきましょう。
統計上のいじめ件数が,いじめを容認する生徒数の何%かという「いじめ把握度」は,どの年度でも私立より公立で高くなっています。その差が広がる傾向にあるのも注目。公立は,17年度から18年度にかけて大幅に増えていますが,教育委員会の指導もあり,いじめの摘発に本腰が入れられるようになっているのでしょう。
私立のいじめ把握度は低いのですが,生徒募集に影響が出るので,学校がいじめ認知に積極的でないことも考えられます。いじめ被害を訴え出ても,なあなあで済ませてしまう,本腰の対応をしない…。
問題のある生徒は退学させてしまえばいいという考えなのか,私立校では,この手の問題への対応に関する研修が,公立に比して不十分だという声もあります。
https://twitter.com/free_andpeace/status/1187753398373892100
冒頭で紹介した京都新聞記事では,私立校のいじめ対応には不満が多いことがいわれています。公立校なら教育委員会が強く指導できるのですが,私立はそうはいきません。指導の権限は,設置者の学校法人にありますが,しょせん内輪の間柄ですので,ちゃんとした対応がとられるかはちょっと怪しい。
そこで私立学校についても,外部の指導機関が必要なのではないか,というのが同記事で言われている提言です。学校法人の自浄作用にだけ期待するのは無理筋というもの,その通りだと思います。
私立校であっても,国が定めた法律や指針を遵守する義務があります。いじめ防止対策推進法第22条では,「当該学校の複数の教職員,心理,福祉等に関する専門的な知識を有する者その他の関係者により構成されるいじめの防止等の対策のための組織」を置くこととされていますが,私立校では,こういう組織がちゃんと設置されているか。いじめ防止対策推進の実態を,公私別に明らかにする調査をしてみる必要もあるでしょう。
わが国の学校では,私立校が結構なシェアを占めます。この部分が「治外法権」であっていいはずはありません。