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2019年10月23日水曜日

ゼロ円借家の増加

 ドイツの首都ベルリンで,賃貸住宅の家賃の引き上げを5年間禁止する法案がまとまったそうです。人口増加により,この10年間で家賃が倍増し,市民から悲鳴が上がっているとのこと。
https://digital.asahi.com/articles/ASMBR12R4MBQUHBI019.html

 人口が増えているのは,日本の首都の東京も一緒です。日本全体の人口は減少の局面に入って久しいですが,東京は増え続けています。それゆえか,賃貸の家賃もアップしています。都内23区の家賃地図を描くと,色が濃くなっており,2018年の都心3区(千代田,中央,港)では,月家賃の中央値が10万円を超えます。収入が減っているのに家賃は増える。キツイことです。

 その一方で家賃激安,いやタダ(0円)の賃貸も増えています。総務省の『住宅土地統計』では,借家に住む世帯の月家賃の分布が分かるのですが,家賃0円の借家に住む世帯は2013年では35万9700世帯でしたが,2018年では40万5600世帯に増えています。

 家賃ゼロ円の借家というのは,①親戚同士のタダ貸し,②別荘のタダ貸し,③空き家の放出(ハウスキーパーの雇用),といった事情が考えられます。①と②は前からあったことと思いますので,近年の増分は主に③ではないかなと推測します。

 堀江貴文さんは著書『疑う力』(宝島社)において,「家賃はいらないから,空き家に住んでハウスキーパーをやってくれ,と懇願される時代がやってくる」と予言されています。家というのは,人が住まないと荒みます。景観が悪くなるばかりじゃなく,倒壊の危険が増したり,犯罪の温床になったりもします。それなら,タダでもいいから人に住んでもらったほうがいい。こう考える家主や自治体が出てきても不思議ではないです。

 借家世帯全体に占めるゼロ円借家の率は,2013年では2.01%,2018年では2.22%となっています(家賃不詳の世帯は分母から除外)。都道府県別に計算すると,もっと高い値も出てきます。2013年と18年のランキングをみていただきましょう。


 3%以上は青色,2%台は水色のマークを付しました。この5年間で,ゼロ円借家が全国的に広がっているのが見て取れます。

 2013年では,岩手・福島・宮城のゼロ円借家率がべらぼうに高くなってますが,東日本大震災の仮設住宅等でしょう。2018年では,熊本と岩手が5%を超え,和歌山・三重・青森は4%台となっています。熊本は16年の震災の影響とみられます。岩手は,大震災の傷跡がまだ癒えてないのでしょうか。

 私の郷里の鹿児島は,18年のゼロ円借家率は3.9%と算出されています。人口減に悩む郡部,とりわけ離島部が空き家を放出しているのではないかと思われます。

 鹿児島は南北に長く,県全体を一括りにするのはナンセンスなんですが,ゼロ円借家率が市町村レベルでも出せます。全国の区市町村のゼロ円借家率を計算したところ,率が高い地域があるわあるわ…。「ホントかよ」と,目を疑う数値も出てきます。以下に掲げるのは,ゼロ円借家の率が10%(1割)を超える自治体です。家賃不詳を除く借家世帯の中でのパーセンテージです。


 セロ円借家の率が1割を超える自治体は47,2割超えは11あります。首位は熊本の益城町で67.9%です。16年の熊本地震の影響とみらます。被害が最も甚大だったエリアです。岩手の山田町,陸前高田市は,東日本大震災の影響がまだ残っているものとみられます。

 こういう特殊事情とは無縁ながらも,ゼロ円借家の率が高い自治体も多し。神奈川県の三浦市が21.0%で上位に位置しています。私が住んでいる横須賀市の隣で,三浦半島の南端に位置します。

 神奈川県内ではダントツの高さです(横須賀市は2.4%)。ここ5年間の伸びが大きいのも注目で,2013年では3.5%だったのが,18年では上述のとおり21.0%にもなっています。

 人口減少に悩み,消滅の危機すら言われている自治体ですが,空き家の大放出などの政策をしているのか。一昨日,三浦市の都市計画課に電話で尋ねたところ,「そういうのは,心当たりがないですね」という回答。「知り合いにタダ貸ししてるんじゃないですか」という推測も聞きましたが,そういうのは以前からあったはず。しかるに,当市のゼロ円借家率の上昇が著しいのは,ここ数年のことです。

 市内の油壷には別荘も多いので,別荘のタダ貸しの増加もあり得ますかね。私としては,借り手のつかない物件ないしは空き家をタダ貸しする不動産屋が増えているのかなと思うのですが,こういうことは役所に聞いても分かりません。地元の大手不動産屋(ウスイホームあたり)に聞くのがいいでしょうか。

 ともあれ,三浦市のゼロ円借家率20%,という統計的事実(fact)を強調しておきましょう。食い物は美味く,海アリ畑アリで風景はきれい,横浜や都内にも京急1本でアクセス可能(始発で座れる)。さらにゼロ円借家も多く,生活の基礎経費も浮く! 移住を募るに際して,こういう点をアピールすればいいのになと感じます。

 「住」は生活の基盤です。この部分のコストが浮くとなったら,若い世帯などはコロッとくるでしょう。高いローンを組んでマイホームを建てても,災害で流されたり潰れたりしたらおしまい。変動の激しい時代に,居を固定する考えは,私にはないです。堀江さんが言うように,タダで家を借りれる時代が本当にくるのではないか。借家住まいを続ける決心をして,色々な地域を移り住むのも面白い。

 高齢化が進む中,家主も「老人には貸せません」なんて言ってられなくなります。ITによる安否確認網で,孤独死リスクも減らせるようになるでしょう。

 住める家(空き家)が大量にある時代です。こういう時代では,ハコを新たに作るのではなく,既存のハコを活かす。それは,社会や環境に対してもやさしいことだと思います。