ページ

2020年2月1日土曜日

転入超過率の年齢グラフの作り方

 兵庫県の明石市が注目を集めています。ロスジェネ採用,養育費取り立て,給食費無償,弁護士職員起用,LGBT専門職員公募…。すごい自治体だなと思います。

 2番目と3番目は,子育てファミリーにとってはうれしい,いや頼もしい限りです。こういう政策を実施することからして,子育て支援にもさぞ力を入れているのでしょう。市のホームページをみても,それはうかがえます。

 しからば子育て年代をさぞ呼び込んでいるのだろうと思いますが,実態はどうなのでしょう。私は意地が悪いので,子育て支援で注目されている自治体のニュースをみると,こういうデータを見てみたくなります。現実を「見える化」すべく,以下のようなグラフを作ることにしています。


 1年間の間に当該地域に越してきた人口(転入者),出て行った人口(転出者),前者から後者を引いた転入超過数,の3つの年齢カーブです。入ってくる人もいれば出ていく人もいますので,人口の吸引力の指標としては,最後の転入超過数に注目するのが一般的です。

 上図は2019年の明石市のグラフですが,なるほど,20代後半から30代の子育て年代を呼び寄せているようですね。転入者が転出者よりも多く,転入超過数はプラスです。悲しいかな,三浦半島南端の三浦市だと転出者のほうが多いんで,緑色のバーがマイナスを向きます。

 明石市は子育て支援に熱心で,それが効果を上げていることが統計からも知られます。今後もこの路線を突き進み,人にやさしい自治体の模範となってほしいと思います。

 「このグラフは政策の検証にいい,自分の自治体のも見てみたい,作ってくれませんか」というリクエストがよく来ますが,私は「ご自分で作ってみてください」と返すことにしています。ソースは,誰でも利用できる『住民基本台帳人口移動報告』のデータですので。

 上記の明石市のグラフをどうやって作ったかを,開陳いたしましょう。まず,政府統計の総合窓口(e-stat)の『住民基本台帳人口移動報告』のページを開きます。以下のような画面が出てきます。


 1年間の人口移動のデータである年報は,基本集計と詳細集計に分かれますが,区市町村レベルの細かいデータは後者になります。詳細集計の「年次」をクリックします。どの年次のデータですかと訊いてきますので,最新の2019年をクリックします。


 こんなふうに統計表の一覧が出てきますが,表番号16-3「年齢(5歳階級),男女別転入超過数-全国,都道府県,市区町村」のDBをクリックします。エクセルファイルを開いてもいいのですが,必要なデータだけを抽出できるDB機能のほうが,目的のデータを得るのは容易です。



 それぞれの変数において,どの項目のデータを表示するかをしています。「項目を選択」をクリックし,以下のボックスにチェックを入れます。

 性別 ⇒ 総数
 年齢 ⇒ 0~4歳,5~9歳,…90歳以上の全ての年齢階層
 都市間移動者数・その他
  ⇒ 転入者数,転出者数,転入超過数の3つ
 国籍 ⇒ 移動者(外国人含む)
 全国・都道府県・市区町村 ⇒ 明石市

 選択し終わったら,レイアウト設定をクリックし,クロス表の体裁を指定します。


 表側に年齢,表頭に都市間移動者数(転入者数,転出者数,転入超過数)を置くといいでしょう。「確定して表示を更新」をクリックすると,お目当てのデータが出てきます。明石市の年齢層別の転入者数,転出者数,転入超過数です。


 子育て年代の転入超過数が多くなっていますね。この統計表を自分のエクセルにコピペし,グラフ化すれば,冒頭でお見せしたようなグラフになります。折れ線グラフにし,転入超過数だけは棒グラフにするといい思います。

 これでおしまい。いたって簡単でしょう。慣れたら,ものの3分くらいで1つの自治体のグラフを作れるようになります。今説明したやり方にそって,ご自分の自治体のグラフを作ってみてください。年次も変えられますので,5年前,10年前の図と比較すれば,近年の子育て政策の効果も検出できるでしょう。

 先ほど,人口吸引力の指標として転入超過数は使えるといいましたが,自治体間の比較をする際は,ベース人口で割った転入超過率にする必要があります。この転入超過率を自治体別に出して一覧表にすれば,「子育てに選ばれる街はどこか?」という問いに答える材料になります。

 東京都内の49区市のデータを作ったので,ご覧にいれましょう。ここでは,0~9歳人口の転入超過率にしています。親年代(20代後半~30代)にすると,子どもがいない単身者等も混じっちゃいますので,子育てファミリーの移動を取り出せません。そこで,子ども人口の転入超過率に注目するわけです。

 私が前に住んでいた多摩市だと,2019年間の0~9歳の転入超過数は122人で,同年1月1日の同年齢人口は1万1274人です。よって転入超過率は,前者を後者で割って1.08%となります。2019年の1年間の社会増によって,0~9歳の子どもが1.08%増えたことを意味します。

 以下の表は,このやり方で出した子ども人口の転入超過率のランキングです。


 東京都内の「子育てに選ばれる街」の指標ですが,いかがでしょう。上位には,西の市部が多いですね。首位は東村山市,2位は稲城市ですか。私が学生時代住んでいた小金井市は13位,30代を過ごした多摩市は14位となっています。自然が豊かで,子育てするにはいい所です。

 都内でみると,出生率は東の区部のほうが高いので,子どもが大きくなったら,広い住宅を求めて郊外に移動するのでしょうか。都心に家を買うなんて容易ではないですしね。

 東村山市の関係者さん,0~9歳の転入超過率という指標では,貴自治体は都内で1位と出ましたよ。子育て支援政策の紹介と絡めて,この点をアピールなさってはどうでしょうか。