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2020年2月6日木曜日

半ルームの若者

 ツイッターのスレッドにしていることを,ブログで文章化しましょう。2月2日の日経新聞ウェブに「わずか3畳・極狭物件 無駄ない生活 若者に人気」という記事が出ています。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55095980R30C20A1SHB000/

 新たな若者の価値観だ,これから先,こういうコンパクト住居の需要が増すかもしれない…。肯定的なトーンで書かれている記事ですが,私はそうは思いませんでした。こういう部屋しか借りられないだけではないか,最初に抱いた感想はこうです。

 私は前から,借家の家賃のデータをいじりまくっていますからね。上記記事では,東京都世田谷区の3畳物件が取り上げられていますが,統計に出ている,同区の最も狭い借家(5.9畳以下)の平均家賃は5.4万円となっています。2018年の『住宅土地統計』のデータです。

 1ルームの最低家賃がこれなんですが,月収15万の若者がこの家賃の部屋を借りるのは容易ではありません。最近は,連帯保証人は立てなくていいから,家賃保証会社を使ってくれと言われることが多し。私が言われたところによると,家賃保証会社の審査パスの目安は,「家賃/年収」比が25%までだそうです。

 許容家賃が月収の4分の1までとすると,月収15万の場合,家賃3.75万円までの部屋しか借りれません。拝み倒しても4万円くらいまでで,5万円超の部屋は借りれないでしょう。悲しいかな,月収15万円では,都内23区のどこにおいても,1ルームを借りるのも難しいようです(下図)。


 遠距離の通勤地獄は御免と,23区内で1ルームを借りようにも,収入の少ない若者の場合,それはなかなか難しい。しからば「半ルーム」でいい,どうせ寝るだけだし…。こう考える人が出てきてもおかしくありません。

 「月収14万」がツイッターのトレンド入りして話題になりました。若者の貧困化が進んでいます。ブログで月180万円稼いだ女子高生の記事が出ていますが,彼女が言うには,通っている高校で斡旋された求人は,月収12~13万円のものばかりとのこと。驚愕ものです。こういう惨状を目にしたことが,彼女をして,ネットビジネスに入れ込ませたようです。
https://news.livedoor.com/article/detail/17775438/

 統計をみると,この子の高校がイレギュラーでないことがうかがえます。以下の表は,15~19歳の正社員の年間所得分布です。2017年の『就業構造基本調査』のデータによります。


 男子の最頻階級は200万円台前半,女子あっては200万円を割っています。これは税引き前の所得なんで,手取りにすると分布はもっと下方にシフトします。女子にあっては,まさに「月収12~13万円」の世界でしょう。

 ここまで虐げられる(舐められる)とあっては,リアルの職場から逃走し,ネットの世界で稼ごう,という思いを強くしても不思議ではありません。「ネットビジネスなんて胡散臭い,リアルの世界で額に汗して働くべきだ」なんて,誰が責めることができましょうか。

 現実には,多くの若者がこんな超薄給での暮らしを強いられています。ゆえに,1ルームならぬ「半ルーム」への需要が増すと。藤田孝典氏の言い回しを借りると,ウサギ小屋を通り越して鳥かごです。これから半ルーム物件が続々と作られ,お金のない若者に供されるのでしょうか。「鳥かごに住む日本の若者」なんていう見出しが,海外のメディアに踊る日がくるかもしれません。

 日本では高齢化が進んでおり,モノが売れない。おまけに,消費意欲旺盛な(稀少な)若者を鳥かごに押し込めているのだから,ますます始末に負えない…。こんな揶揄も添えられるでしょう。

 3畳なんていう,物理的にも精神的にもゆとりのない部屋で暮らしていたら,心身を害する可能性が大です。そもそも,国が定める住居の基準を下回っていることは明白。貧困ビジネスにもなりかねない,極狭物件の供給なんていう事業は,国として取り締まるべきでしょう。並行して為すべきは,家賃補助等の住居支援です。

 真っ当な「住」を保障することが,若者の離家・婚姻を促し,少子化の歯止めにも寄与します。新たな世帯を構えるのに必要な家電等の消費も増え,景気も刺激されます。山田昌弘教授の『パラサイト・シングルの時代』(1999年)に書かれていることですが,20年を経た今においても事態は変わらず,むしろ悪化の兆しすら見えます。

 日本に行くと,鳥かごに押し込められることになる…。こんな評価が定着してしまうと,海外から若い労働力も来なくなってしまうでしょう。