4月も今日で終わりです。学校は休校,会社もテレワークないしは自宅待機が多くなってますので,新年度の開始っていう気がしませんでした。
今月,私がネット上で把握した教員不祥事報道は31件です。学校が休みということもあってか,例年の同月より少なめという印象です。赤字は注目事案で,実習セクハラ,病気休暇中に風俗でバイトといった事案が見受けられます。
教員が宿題を配るため児童の家を周り,その道中で名簿を無くしてしまった,という事案もあります。ネット環境がない家庭もあるので,一律メール配布というわけにはいかず,教員は涙ぐましいことをしています。PC等のネットインフラが,必須の学用品として認められ,学校教育法19条が定める就学援助の支給品となるのは,いつになるでしょうか。
緊急事態宣言が1か月延長されることになり,外出自粛・経済停止はまだまだ続きそうです。過去70年間のデータで定式化すると,男性の場合,失業率1%アップで自殺者が2500人増です。自粛継続・経済破綻で生じる死者数(多くが若者!)を思うと,スウェーデンのように,適度な解禁のほうがいいような気もします。
http://tmaita77.blogspot.com/2020/03/blog-post_30.html
社会は,こうしたらこうなる。この点を知っている,社会科学の専門家の声にも,為政者は耳を傾けてほしいです。感染症の専門家だけじゃなく。
明日から5月。初夏の季節です。夕刻のウォーキングも,シャツ1枚で大丈夫そう。背景を新緑模様に変えます。
<2020年4月の教員不祥事報道>
・浜松の県立高教諭を逮捕 知人女性にわいせつ容疑
(4/1,産経,静岡,高,男,27)
・米子の養護教諭、窃盗容疑で逮捕 島根・出雲署
(4/2,毎日,鳥取,特,男,31)
・生徒の手蹴り全治2週間けが 中学教諭を減給処分
(4/2,神戸新聞,兵庫,中,男,50代)
・小学校教諭が高校生に暴行 フットサルのプレー巡り
(4/4,神戸新聞,兵庫,小,男,33)
・女児の尻にビデオ向け撮影の疑い 岐阜・瑞穂の小学教諭逮捕
(4/6,中日新聞,岐阜,小,男,59)
・小学校非常勤講師が酒気帯び運転(4/6,NHK,鳥取,小,男,67)
・県立島田高校教諭を逮捕 未成年を誘拐容疑
(4/7,静岡放送,静岡,高,男,30)
・勤務先小学校で教諭が性行為 「スリル感じられる」
(4/9,毎日,大阪,小,男,27)
・中学教諭「飲酒後」に事故 信号柱を倒し放置
(4/9,長野放送,長野,中,男,43)
・教諭を再逮捕 わいせつ行為か(4/10,NHK,長野,中,男,43)
・過失運転致死の教諭を減給処分 県教委 /大分
(4/11,毎日,大分,中,男,58)
・中学教諭を淫行容疑で再逮捕(4/14,NHK,香川,中,男,51)
・デスノート模したデスボード、担任が教室に
(4/14,朝日,宮崎,高,男,20代)
・セクハラなどで高校教諭懲戒処分(4/15,NHK,千葉,高,男39,33)
・中学講師、吸い殻投げ捨て林焼く 岡山・玉野市立中
(4/15,山陽新聞,岡山,中,男)
・タイヤをパンクさせた教諭を逮捕(4/16,NHK,宮城,中,男,56)
・下着盗んだ容疑で県立学校教諭の男逮捕
(4/16,熊本放送,熊本,特,男,32)
・県道を逆走 酒気帯び運転で逮捕された教員を懲戒免職
(4/17,琉球新報,沖縄,小,女,48)
・中学校教諭 体罰で戒告処分(4/17,NHK,福岡,中,男,57)
・発達障害の生徒に不適切指導 佐伯市の中学校、教諭ら3人処分
(4/17,大分合同新聞,大分,中)
・給食事故で教諭2人を懲戒処分(4/17,NHK,大分,特女45,51)
・女子トイレ盗撮で教頭を懲戒免職 福島県教委が処分
(4/18,毎日,福島,小,男,52)
・小学校の教諭が児童名簿紛失 コロナで家庭巡回中に
(4/19,京都新聞,京都,小,女)
・全身不随の生徒を殴るなどした教諭を停職
(4/21,共同通信,神奈川,特,男,34)
・女子中学生にわいせつ容疑で53歳教諭逮捕 青森・弘前
(4/21,産経,青森,小,男,53)
・「ぎゅっとしていいですか」教育実習生にセクハラ
(4/21,カンテレ,小,男,40代)
・忘年会で「失敗クイズ」 後輩にパワハラの教諭を処分
(4/21,毎日,静岡,小,男,39)
・風俗店勤務で小学校教諭を懲戒処分 病気休暇中に副業
(4/22,毎日,広島,小,女,20代)
・「一人なの?送ってくよ」48歳高校教師の男逮捕
(4/24,東海テレビ,愛知,高,男,48)
・駐車場内で酒気帯び物損事故 県立高校教諭
(4/25,岩手放送,岩手,高,男,53)
・14歳の少女を誘拐し、わいせつ行為か 高校教師を起訴
(4/28,静岡朝日放送,静岡,高,男,30)
ページ
▼
2020年4月30日木曜日
2020年4月29日水曜日
強盗か自殺か
コロナの影響で職を失う人が増えたらどうなるか。懸念されるのは自殺の増加です。長期の時系列データで,男性の失業率と自殺率のカーブを描くと,気味が悪いくらいシンクロしています(ニューズウィーク,拙稿)。
関係を定式化すると,男性の場合,失業率1%アップで自殺者が2520人増です。2%アップで5000人,4%アップで1万人自殺者が出ると。各地で雇い止めが起きていることからして,あり得ない事態ではありません。
生活苦のあまり他人の財産を強奪する,自棄になって大量殺人に走るなど,外向的な犯罪の増加も懸念されます。先日,コロナで失職し腹が空いてスーパーに押し入ったという,60代男性のニュースを目にしました。
失業率は自殺率とシンクロしているんですが,強盗事件の発生率とも相関しています。以下に掲げるのは,男性の失業率と強盗発生率の推移です。後者は,人口10万人あたりの強盗事件認知件数をいいます。失業率はお分かりですよね,働く意欲のある労働力人口のうち,職探しをしている失業者が何%かです。
私が生まれた70年代半ばからのトレンドですが,カーブが似ています。90年代の平成不況期に激増し,景気の回復と共に下がるのは,瓜二つの傾向です。1975~2018年の44年間のデータで相関係数を出すと,+0.849にもなります。
「失業⇒強盗」という因果関係を思わせる事実(fact)です。失職して,どうしようもない生活苦に陥った。頼れる人もいない。こういう極限の危機状況に置かれ,非合法の行いをせざるを得ない時,人はどういう行動をとるか。大きく2つのベクトルがあり,自らを殺めるか,他人の財産や権利を侵害してでも生き延びるか,という2つに分かれます。前者は内向型,後者は外向型の逸脱行動です。
日本では前者が多いようで,ちょっと古いですが2013年の統計を引くと,自殺者が2万6080人,強盗認知件数が3324件です。この2つの合算を,極限の危機に遭遇した人の量と仮定すると,その88.7%が自らを殺めることで処理されていることになります。両者の合算に占める,自殺の割合です。
われわれにすれば「そうだろうね」という印象ですが,他国では違うのですよね。日本を含む8か国について,強盗認知件数と自殺者数を収集し,対比してみました。前者はUNODC,後者はWHOサイトのデータベースから得ています。2013年の数値です。
日本と韓国は自殺の方が圧倒的に多いですが,他国は反対です。アメリカは強盗が34万5100件,自殺が4万1149人で,合算に占める自殺の割合は10.7%でしかありません。ブラジルに至っては,たった1%です。裏返すと,99%が強盗で占められています。「自分ではなく,他人をやる」と。
スペインも内向度が低いですね。冒頭でリンクを貼ったニューズウィーク記事では,この国の失業率と自殺率の推移をみたのですが,全く関連していません。失業率が変動しても,自殺率はほぼフラットです。もしかすると,強盗率とは相関しているかもしれません(確認の術はありませんが)。
極限の危機状況に置かれ,社会の規範から外れたことをしないと生きていけない。こういう時,侵害の矛先が外に向くか,それとも内に向くかが,社会によって大きく異なることが知られます。
日本は矛先が内に向く,追い込まれたら自殺してしまう傾向が強い社会のようですが,比較の対象をもっと増やしたらどうなるでしょう。私はUNODC,WHOの統計資料に当たって,66か国の強盗件数と自殺者数を収集し,上表の右端の内向度を計算しました。強盗と自殺の合算に占める,自殺の割位です。
高い順に並べたランキングですが,日本の88.7%は,データが取れる66か国の中では首位となっています。危機状況に置かれた際の対処の仕方が,最も内向的な社会です。
この値が50%を超える,つまり強盗より自殺が多い国は,日本を含めて9あります。韓国,タイ,香港,シンガポールと,アジア諸国が多い印象です。
対して右下は内向度が5%未満,強盗と自殺の内訳のグラフを作ると,ほとんどが強盗で染まってしまう国です。自分を殺めるのではなく,他人の財産や権利を容赦なく侵害する,外向的な国民性の社会です。先ほどみたブラジルをはじめ,中南米の国が多くなっています。
為政者にとって都合がいいのは,どっちのタイプでしょう。社会を混乱させることなく,生活苦の人は自分からフェードアウトして行ってくれる,内向型の国でしょうね。日本はその極地で,この国の政治家は,こういう国民性の上にあぐらをかいているともいえます。決め台詞は「自己責任です」。
しかし時代は変わりつつあります。これまでは,苦境に置かれた人たちは個々バラバラに分断されてましたが,今はSNS等で簡単につながれるようになっています。とくに若年層はそうで,困窮した学生への救済を求める運動が,ネット上で盛り上がっています。昨年の「Me too」運動もですが,これぞ現代型の社会運動です。虫のいいやり方が通用する時代は,もう終わりです。
強盗と自殺の統計から試算した「内向度」,いかがでしたでしょうか。この数値は,高ければいいという価値判断を含むものじゃなく,それぞれの社会で暮らす成員の気質(国民性)を可視化する,一つの指標です。
関係を定式化すると,男性の場合,失業率1%アップで自殺者が2520人増です。2%アップで5000人,4%アップで1万人自殺者が出ると。各地で雇い止めが起きていることからして,あり得ない事態ではありません。
生活苦のあまり他人の財産を強奪する,自棄になって大量殺人に走るなど,外向的な犯罪の増加も懸念されます。先日,コロナで失職し腹が空いてスーパーに押し入ったという,60代男性のニュースを目にしました。
失業率は自殺率とシンクロしているんですが,強盗事件の発生率とも相関しています。以下に掲げるのは,男性の失業率と強盗発生率の推移です。後者は,人口10万人あたりの強盗事件認知件数をいいます。失業率はお分かりですよね,働く意欲のある労働力人口のうち,職探しをしている失業者が何%かです。
私が生まれた70年代半ばからのトレンドですが,カーブが似ています。90年代の平成不況期に激増し,景気の回復と共に下がるのは,瓜二つの傾向です。1975~2018年の44年間のデータで相関係数を出すと,+0.849にもなります。
「失業⇒強盗」という因果関係を思わせる事実(fact)です。失職して,どうしようもない生活苦に陥った。頼れる人もいない。こういう極限の危機状況に置かれ,非合法の行いをせざるを得ない時,人はどういう行動をとるか。大きく2つのベクトルがあり,自らを殺めるか,他人の財産や権利を侵害してでも生き延びるか,という2つに分かれます。前者は内向型,後者は外向型の逸脱行動です。
日本では前者が多いようで,ちょっと古いですが2013年の統計を引くと,自殺者が2万6080人,強盗認知件数が3324件です。この2つの合算を,極限の危機に遭遇した人の量と仮定すると,その88.7%が自らを殺めることで処理されていることになります。両者の合算に占める,自殺の割合です。
われわれにすれば「そうだろうね」という印象ですが,他国では違うのですよね。日本を含む8か国について,強盗認知件数と自殺者数を収集し,対比してみました。前者はUNODC,後者はWHOサイトのデータベースから得ています。2013年の数値です。
日本と韓国は自殺の方が圧倒的に多いですが,他国は反対です。アメリカは強盗が34万5100件,自殺が4万1149人で,合算に占める自殺の割合は10.7%でしかありません。ブラジルに至っては,たった1%です。裏返すと,99%が強盗で占められています。「自分ではなく,他人をやる」と。
スペインも内向度が低いですね。冒頭でリンクを貼ったニューズウィーク記事では,この国の失業率と自殺率の推移をみたのですが,全く関連していません。失業率が変動しても,自殺率はほぼフラットです。もしかすると,強盗率とは相関しているかもしれません(確認の術はありませんが)。
極限の危機状況に置かれ,社会の規範から外れたことをしないと生きていけない。こういう時,侵害の矛先が外に向くか,それとも内に向くかが,社会によって大きく異なることが知られます。
日本は矛先が内に向く,追い込まれたら自殺してしまう傾向が強い社会のようですが,比較の対象をもっと増やしたらどうなるでしょう。私はUNODC,WHOの統計資料に当たって,66か国の強盗件数と自殺者数を収集し,上表の右端の内向度を計算しました。強盗と自殺の合算に占める,自殺の割位です。
高い順に並べたランキングですが,日本の88.7%は,データが取れる66か国の中では首位となっています。危機状況に置かれた際の対処の仕方が,最も内向的な社会です。
この値が50%を超える,つまり強盗より自殺が多い国は,日本を含めて9あります。韓国,タイ,香港,シンガポールと,アジア諸国が多い印象です。
対して右下は内向度が5%未満,強盗と自殺の内訳のグラフを作ると,ほとんどが強盗で染まってしまう国です。自分を殺めるのではなく,他人の財産や権利を容赦なく侵害する,外向的な国民性の社会です。先ほどみたブラジルをはじめ,中南米の国が多くなっています。
為政者にとって都合がいいのは,どっちのタイプでしょう。社会を混乱させることなく,生活苦の人は自分からフェードアウトして行ってくれる,内向型の国でしょうね。日本はその極地で,この国の政治家は,こういう国民性の上にあぐらをかいているともいえます。決め台詞は「自己責任です」。
しかし時代は変わりつつあります。これまでは,苦境に置かれた人たちは個々バラバラに分断されてましたが,今はSNS等で簡単につながれるようになっています。とくに若年層はそうで,困窮した学生への救済を求める運動が,ネット上で盛り上がっています。昨年の「Me too」運動もですが,これぞ現代型の社会運動です。虫のいいやり方が通用する時代は,もう終わりです。
強盗と自殺の統計から試算した「内向度」,いかがでしたでしょうか。この数値は,高ければいいという価値判断を含むものじゃなく,それぞれの社会で暮らす成員の気質(国民性)を可視化する,一つの指標です。
2020年4月26日日曜日
高等教育費の家計負担割合
コロナの影響で,学生の生活が苦しくなっています。保護者の収入が減り,自分のバイトも切られる。1日の生活費が200円,13人に1人が退学を検討しているという,悲痛なニュースも目につきます。
これはマズイと,学費を返還ないしは減免する大学も出てきました。たまたまめぐり合わせた不運で,教育の機会が奪われることがあってはなりません。学生さんは一人で思いつめることなく,大学や学生支援機構に相談してほしいと思います。家計が急変した人には,緊急奨学金も貸してくれるそうです。
感染症によって,学生の生活が脅かされる,退学まで考えないといけないというのは,大学の学費がべらぼうに高い,日本ならでは問題といえるかもしれません。今は国立でも年額50万円超,私立は100万円近くでしょうか。この負担を重いと思っている家庭は多いはずです。
私は10年間,中の下ないしは下の私大で教えましたが,「ホント,授業料高いですよねえ」という学生の声をよく聞きました。このレベルの私大だと,家計に余裕のない学生が多いので,そうだろうなと思っていました。たくさんバイトをし,奨学金もフルに借りて必死で学費を賄っている子が多し。
しかし,聞き捨てならない憶測も耳にしました。「授業料高いの,大学の先生がどっぷり貰っているからじゃないですか?」。
まあ根拠もなく,よくそんなことを言えるもんだと呆れ,「私みたいな非常勤講師は,君らのバイトと同じくらいの時給で働いているのだよ」と思いながら,ちょっと乱暴な口調で,次のように返していました。「ちげーよ,国がカネ出さないからだよ」と。
2016年の統計によると,日本の高等教育費の負担内訳は,公費が30.6%,家計負担費が52.7%となっています(OECD「Education at a Glance 2019」)。公費より私費負担ののほうが多くなっています。これだけだと「国がカネ出さないからだ」という主張の根拠になりませんが,国際比較をするとそれが備わります。以下は,目ぼしい7か国の帯グラフです。
日韓と米英は家計負担型で,仏と北欧は公費負担型となっています。フィンランドでは,家計負担割合がゼロです。この国の大学の学費は原則無償だそうですが,本当みたいですね。北欧は大学進学率が低いので,厚遇が可能なのではと思われるかもしれませんが,そうではありません。この点は後述します。
日本の費用負担の構造が普遍的ではないことが分かります。同時に,日本では家計負担の割合が他国と比して大きいことも知られます。52.7%という数値は,上図の7か国の中ではトップです。
比較の対象を広げるとどうでしょう。OECD加盟の32か国を,家計負担割合が高い順に並べると,以下のようになります。
高等教育費の半分以上が家計負担で賄われているのは,南米の2国と日本だけです。日本の52.7%は,OECD加盟国の中では2位となっています。高等教育の費用負担を家計に押し付ける度合いが高い社会であるのは明らかです。
普段から学生はせっせとバイトをして高い学費を払い,今回のような感染症に見舞われ,稼ぎ先を失うと,一気に生活困窮に陥る。この日本の光景が,数字で裏付けられた感じです。「やっぱりね」と膝を叩ている人も多いでしょう。
なぜこういう事態になっているか。公費負担割合が少ないから,言い換えると,私が学生に言っているように「国がカネ出さないから」です。それは,高等教育への公的支出額の対GDP比で見て取れます。
2016年の日本の値は0.42%となっています(上記のOECD資料)。学費無償のフィンランドは1.52%,日本の3倍以上です。この指標を,先ほど出した家計負担割合と絡めてみると面白い。
以下に掲げるのは,2つの指標のマトリクスに32か国を配置したグラフです。各国の高等教育の学生量も考慮すべく,高等教育進学率をドットの色で表現しました。日本は63.6%で,これよりも低い国を白色にしています。国別の高等教育進学率は,「Global Note」サイトのものを拝借しました。下記リンク先に出ている,2018年の数値です。
https://www.globalnote.jp/post-1465.html
32か国の配置をみると,大よそ右下がりの傾向があります。公的教育費支出の対GDP比が高い国,政府がカネを出す国ほど,家計負担割合が低い傾向です。それが最も色濃いのは右下のノルウェーで,フィンランド,スウェーデンといった北欧国も近辺にあります。
日本はその対極で,国がカネを出さず,家計の負担割合が重い国です。左は家計負担型,右下は公費負担型というように括ることができます。予想はしていましたが,日本が前者の極地であることに失望しますね。
傾向から外れている国もあり,左下のルクセンブルクは「あれ?」と思われるかもしれませんが,この国の高等教育進学率は19.2%と低いので,少ない国費支出でも,高等教育費の大半を「公」で賄うことができるのでしょう。
右下の北欧諸国は,高等教育進学率が高くなっています。ノルウェーは82.0%で,日本(63.6%)よりもずっと高し。量的に多い学生の高等教育費のほぼ全額を公費で賄えるのは,国がカネを出しているからに他なりません(横軸)。
北欧はもの凄く高い税金を取っているからだといわれるでしょうが,そこには立ち入らないことにします。ここで見取ってほしいのは,日本は,国がカネを出さず,家計の負担割合が重い国の極地であることです。
学生さん,自分たちの窮状の要因についてお分かりいただけたでしょうか。声を大にして,負担緩和を国に求める余地は大有り。ただ政府も手をこまねいているのではなく,今年度より高等教育無償化政策が始まり,住民税非課税世帯の大学学費は無償になり,年収380万円未満の世帯の学費は減額されることになっています。消費税アップによる財源が充てられます。
上図は2016年のデータによるグラフですが,直近のデータでは,日本もより右下にシフトしているはずです。どれほど右下の公費負担型に近づけるか。それは,われわれが発する声の大きさによります。まずは,コロナで苦しむ学生の救済に本腰を入れることを求めましょう。
これはマズイと,学費を返還ないしは減免する大学も出てきました。たまたまめぐり合わせた不運で,教育の機会が奪われることがあってはなりません。学生さんは一人で思いつめることなく,大学や学生支援機構に相談してほしいと思います。家計が急変した人には,緊急奨学金も貸してくれるそうです。
感染症によって,学生の生活が脅かされる,退学まで考えないといけないというのは,大学の学費がべらぼうに高い,日本ならでは問題といえるかもしれません。今は国立でも年額50万円超,私立は100万円近くでしょうか。この負担を重いと思っている家庭は多いはずです。
私は10年間,中の下ないしは下の私大で教えましたが,「ホント,授業料高いですよねえ」という学生の声をよく聞きました。このレベルの私大だと,家計に余裕のない学生が多いので,そうだろうなと思っていました。たくさんバイトをし,奨学金もフルに借りて必死で学費を賄っている子が多し。
しかし,聞き捨てならない憶測も耳にしました。「授業料高いの,大学の先生がどっぷり貰っているからじゃないですか?」。
まあ根拠もなく,よくそんなことを言えるもんだと呆れ,「私みたいな非常勤講師は,君らのバイトと同じくらいの時給で働いているのだよ」と思いながら,ちょっと乱暴な口調で,次のように返していました。「ちげーよ,国がカネ出さないからだよ」と。
2016年の統計によると,日本の高等教育費の負担内訳は,公費が30.6%,家計負担費が52.7%となっています(OECD「Education at a Glance 2019」)。公費より私費負担ののほうが多くなっています。これだけだと「国がカネ出さないからだ」という主張の根拠になりませんが,国際比較をするとそれが備わります。以下は,目ぼしい7か国の帯グラフです。
日韓と米英は家計負担型で,仏と北欧は公費負担型となっています。フィンランドでは,家計負担割合がゼロです。この国の大学の学費は原則無償だそうですが,本当みたいですね。北欧は大学進学率が低いので,厚遇が可能なのではと思われるかもしれませんが,そうではありません。この点は後述します。
日本の費用負担の構造が普遍的ではないことが分かります。同時に,日本では家計負担の割合が他国と比して大きいことも知られます。52.7%という数値は,上図の7か国の中ではトップです。
比較の対象を広げるとどうでしょう。OECD加盟の32か国を,家計負担割合が高い順に並べると,以下のようになります。
高等教育費の半分以上が家計負担で賄われているのは,南米の2国と日本だけです。日本の52.7%は,OECD加盟国の中では2位となっています。高等教育の費用負担を家計に押し付ける度合いが高い社会であるのは明らかです。
普段から学生はせっせとバイトをして高い学費を払い,今回のような感染症に見舞われ,稼ぎ先を失うと,一気に生活困窮に陥る。この日本の光景が,数字で裏付けられた感じです。「やっぱりね」と膝を叩ている人も多いでしょう。
なぜこういう事態になっているか。公費負担割合が少ないから,言い換えると,私が学生に言っているように「国がカネ出さないから」です。それは,高等教育への公的支出額の対GDP比で見て取れます。
2016年の日本の値は0.42%となっています(上記のOECD資料)。学費無償のフィンランドは1.52%,日本の3倍以上です。この指標を,先ほど出した家計負担割合と絡めてみると面白い。
以下に掲げるのは,2つの指標のマトリクスに32か国を配置したグラフです。各国の高等教育の学生量も考慮すべく,高等教育進学率をドットの色で表現しました。日本は63.6%で,これよりも低い国を白色にしています。国別の高等教育進学率は,「Global Note」サイトのものを拝借しました。下記リンク先に出ている,2018年の数値です。
https://www.globalnote.jp/post-1465.html
32か国の配置をみると,大よそ右下がりの傾向があります。公的教育費支出の対GDP比が高い国,政府がカネを出す国ほど,家計負担割合が低い傾向です。それが最も色濃いのは右下のノルウェーで,フィンランド,スウェーデンといった北欧国も近辺にあります。
日本はその対極で,国がカネを出さず,家計の負担割合が重い国です。左は家計負担型,右下は公費負担型というように括ることができます。予想はしていましたが,日本が前者の極地であることに失望しますね。
傾向から外れている国もあり,左下のルクセンブルクは「あれ?」と思われるかもしれませんが,この国の高等教育進学率は19.2%と低いので,少ない国費支出でも,高等教育費の大半を「公」で賄うことができるのでしょう。
右下の北欧諸国は,高等教育進学率が高くなっています。ノルウェーは82.0%で,日本(63.6%)よりもずっと高し。量的に多い学生の高等教育費のほぼ全額を公費で賄えるのは,国がカネを出しているからに他なりません(横軸)。
北欧はもの凄く高い税金を取っているからだといわれるでしょうが,そこには立ち入らないことにします。ここで見取ってほしいのは,日本は,国がカネを出さず,家計の負担割合が重い国の極地であることです。
学生さん,自分たちの窮状の要因についてお分かりいただけたでしょうか。声を大にして,負担緩和を国に求める余地は大有り。ただ政府も手をこまねいているのではなく,今年度より高等教育無償化政策が始まり,住民税非課税世帯の大学学費は無償になり,年収380万円未満の世帯の学費は減額されることになっています。消費税アップによる財源が充てられます。
上図は2016年のデータによるグラフですが,直近のデータでは,日本もより右下にシフトしているはずです。どれほど右下の公費負担型に近づけるか。それは,われわれが発する声の大きさによります。まずは,コロナで苦しむ学生の救済に本腰を入れることを求めましょう。
2020年4月20日月曜日
パソコンを使わない生徒の率
コロナの影響で学校が休校になり,児童生徒は家にいるのですが,教員は涙ぐましいことをしています。家を一軒一軒回って,紙の課題を届けているのだそうです。今の時期では,命に関わる危険な行為ともいえます。
IT業界の人にすれば,「学校は昭和の時代を引きずっているのか?」と言いたくなるでしょう。メールで送る,ないしは学校サイトでダウンロードできるようにすればいいこと。しかし,自宅にネット環境がない子もおり不公平になるので,それはできないとのこと。それなら,宅配の対象はそういう家庭に限定すればいいと思うのですが,それは置いておきましょう。
確かに,自宅にネット環境がない子は,日本では多いと思われます。それは,パソコンの使用率(所持率)で見て取れます。OECDの国際学力調査「PISA 2018」では,15歳生徒に「自宅にデスクパソコン,ノートパソコンがあるか,あなたはそれを使うか?」と問うています。回答の選択肢は以下の3つです。
https://www.oecd.org/pisa/
1.家にあり,自分も使う。
2.家にあるが,使わない。
3.家にない。
個票データを用いて,デスクとノートの回答をクロスさせると,以下のようになります。双方に有効回答を寄せた5977人のデータです。比較対象として,アメリカのデータもお見せします。数値は全体に占める%で,トータルで100%となります。
アメリカでは,半分近くの生徒がデスク,ノートとも家にあり,自分も使うと答えています(左上のセル)。しかし日本では,こういう生徒は2割しかいません。
その代わり,「家にあるが,使わない」ないしは「使わない」の回答比率が高くなっています。色をつけた4つのセルは,パソコンを使わない生徒の率と読めます。日本は49.6%,アメリカは18.0%です。
15歳生徒(高1)のデータですが,日本では,家でPCに触れない子が半分もいるのですね。小・中学生ではもっと多いでしょう。なるほど,教員が宿題のポスティングに,家を回らないといけないわけです。
「PISA 2018」のICT調査の対象は50か国ですが,同じ値を計算して,高い順に配列すると以下のようになります。昨晩,ツイッターでも発信した,PCを使わない生徒の率の国際ランキングです。
日本の49.6%は,50か国の中で3位となっています。主要先進国と比して際立って高く,発展途上国のゾーンに位置しています。数値化すると強烈ですねえ。
ICT教育先進国のデンマークでは,パソコンを使わない生徒なんてほとんどいません。庶務連絡や課題提出もネット経由なんで,PCは自ずと必須です。生徒の家に課題を宅配する教員の話なんて聞いたら,仰天するでしょう。
日本は校務のICT化など全然進んでおらず,学校生活を送るに際してPCを使う必要性に迫られることはありません。仲間と交信したり,面白おかしい情報を収集するためのスマホで十分。上記のような惨状になっているのは,PCを使う必要に迫られないことが大きいかと思います。
これと関連し,私は大学で教えていた時のことを思い出しました。3年の調査統計の授業をもった時,エクセルで簡単な棒グラフも作れぬ学生が多く,話を聞いたら「エクセルなんて,1年時の情報処理の授業以来開いたことがない」と言われました。これは,PCを使う課題を出さない大学の責任だな,と思いましたね。2012年の話です。
下の学校でも事情は同じでしょう。小・中・高の総合的な学習(探求)の時間等で,PCを使う課題を出すべきです。課題の指示ややり取りはネット経由でする。PCを必須ならしめる環境を意図的に作るのです。経済的理由でPCを用意できない家庭はどうするのか,と言われるかもしれないですが,今となっては,パソコンは,昔でいう筆記具やノートとと同様,必須の学用品とみなすべきです。それが賄えぬ家庭には,就学援助の範疇で支給(貸与)すればよろしい。
PCに触れない生徒の率が高いことの要因は,①そもそも家にPCがない,②家にあるけど使わない,という2つに分解することができます。最初の表をみると,デスクもノートも家にないという生徒の率は,日本では15.5%となっています(右下の濃い色のセル)。デスクもノートも使わない生徒の率(49.6%)との差が大きくなってます。こうみると,②の要因が大きいように思えてきます。
先ほどはPCを使わない生徒の率を国別に出しましたが,家にPCそのものがない生徒の率を出し,2つの数値を照らし合わせてみましょう。ベタな統計表は見づらいので,横軸に前者,縦軸に後者をとった座標上に各国を配置したグラフにします。
横軸は,先ほどの表と同じです。PCを使わない生徒の率,日本は3位です。しかし,家にPCがない生徒の率(縦軸)は,日本は10位となっています。
日本の特徴は,横軸と縦軸のギャップが大きいことです。それは,斜線の均等線からの距離で見て取れます。PCを使わない生徒は49.6%,PCが家にない生徒は15.5%,30ポイント以上も開いているのは日本だけです。
発展途上国では,貧困ゆえにPCが家にないことが効いていますが,日本では家にあっても使わないことが大きいようです。親は仕事の必要からPCを使うけれど,子どもはそうではないと。このブログで何度も書いてますが,学校が情報化社会から隔離された「陸の孤島」になっているともいえるでしょう。
コロナの襲来により,日本の学校もオンライン授業への梶切りを強いられるようになってます。しかし生徒のPC使用率(所持率)がこうでは,全面実施は躊躇われるというもの。コロナの補償金10万円は,困っている人にだけあげればいい。浮いた分を,子どもがいる困窮家庭へのPC支給に充てたらどうか。非常事態ではありますが,未来を担う子どもたちの教育機会が侵害されるのは,何としても避けねばならないことです。
IT業界の人にすれば,「学校は昭和の時代を引きずっているのか?」と言いたくなるでしょう。メールで送る,ないしは学校サイトでダウンロードできるようにすればいいこと。しかし,自宅にネット環境がない子もおり不公平になるので,それはできないとのこと。それなら,宅配の対象はそういう家庭に限定すればいいと思うのですが,それは置いておきましょう。
確かに,自宅にネット環境がない子は,日本では多いと思われます。それは,パソコンの使用率(所持率)で見て取れます。OECDの国際学力調査「PISA 2018」では,15歳生徒に「自宅にデスクパソコン,ノートパソコンがあるか,あなたはそれを使うか?」と問うています。回答の選択肢は以下の3つです。
https://www.oecd.org/pisa/
1.家にあり,自分も使う。
2.家にあるが,使わない。
3.家にない。
個票データを用いて,デスクとノートの回答をクロスさせると,以下のようになります。双方に有効回答を寄せた5977人のデータです。比較対象として,アメリカのデータもお見せします。数値は全体に占める%で,トータルで100%となります。
アメリカでは,半分近くの生徒がデスク,ノートとも家にあり,自分も使うと答えています(左上のセル)。しかし日本では,こういう生徒は2割しかいません。
その代わり,「家にあるが,使わない」ないしは「使わない」の回答比率が高くなっています。色をつけた4つのセルは,パソコンを使わない生徒の率と読めます。日本は49.6%,アメリカは18.0%です。
15歳生徒(高1)のデータですが,日本では,家でPCに触れない子が半分もいるのですね。小・中学生ではもっと多いでしょう。なるほど,教員が宿題のポスティングに,家を回らないといけないわけです。
「PISA 2018」のICT調査の対象は50か国ですが,同じ値を計算して,高い順に配列すると以下のようになります。昨晩,ツイッターでも発信した,PCを使わない生徒の率の国際ランキングです。
日本の49.6%は,50か国の中で3位となっています。主要先進国と比して際立って高く,発展途上国のゾーンに位置しています。数値化すると強烈ですねえ。
ICT教育先進国のデンマークでは,パソコンを使わない生徒なんてほとんどいません。庶務連絡や課題提出もネット経由なんで,PCは自ずと必須です。生徒の家に課題を宅配する教員の話なんて聞いたら,仰天するでしょう。
日本は校務のICT化など全然進んでおらず,学校生活を送るに際してPCを使う必要性に迫られることはありません。仲間と交信したり,面白おかしい情報を収集するためのスマホで十分。上記のような惨状になっているのは,PCを使う必要に迫られないことが大きいかと思います。
これと関連し,私は大学で教えていた時のことを思い出しました。3年の調査統計の授業をもった時,エクセルで簡単な棒グラフも作れぬ学生が多く,話を聞いたら「エクセルなんて,1年時の情報処理の授業以来開いたことがない」と言われました。これは,PCを使う課題を出さない大学の責任だな,と思いましたね。2012年の話です。
下の学校でも事情は同じでしょう。小・中・高の総合的な学習(探求)の時間等で,PCを使う課題を出すべきです。課題の指示ややり取りはネット経由でする。PCを必須ならしめる環境を意図的に作るのです。経済的理由でPCを用意できない家庭はどうするのか,と言われるかもしれないですが,今となっては,パソコンは,昔でいう筆記具やノートとと同様,必須の学用品とみなすべきです。それが賄えぬ家庭には,就学援助の範疇で支給(貸与)すればよろしい。
PCに触れない生徒の率が高いことの要因は,①そもそも家にPCがない,②家にあるけど使わない,という2つに分解することができます。最初の表をみると,デスクもノートも家にないという生徒の率は,日本では15.5%となっています(右下の濃い色のセル)。デスクもノートも使わない生徒の率(49.6%)との差が大きくなってます。こうみると,②の要因が大きいように思えてきます。
先ほどはPCを使わない生徒の率を国別に出しましたが,家にPCそのものがない生徒の率を出し,2つの数値を照らし合わせてみましょう。ベタな統計表は見づらいので,横軸に前者,縦軸に後者をとった座標上に各国を配置したグラフにします。
横軸は,先ほどの表と同じです。PCを使わない生徒の率,日本は3位です。しかし,家にPCがない生徒の率(縦軸)は,日本は10位となっています。
日本の特徴は,横軸と縦軸のギャップが大きいことです。それは,斜線の均等線からの距離で見て取れます。PCを使わない生徒は49.6%,PCが家にない生徒は15.5%,30ポイント以上も開いているのは日本だけです。
発展途上国では,貧困ゆえにPCが家にないことが効いていますが,日本では家にあっても使わないことが大きいようです。親は仕事の必要からPCを使うけれど,子どもはそうではないと。このブログで何度も書いてますが,学校が情報化社会から隔離された「陸の孤島」になっているともいえるでしょう。
コロナの襲来により,日本の学校もオンライン授業への梶切りを強いられるようになってます。しかし生徒のPC使用率(所持率)がこうでは,全面実施は躊躇われるというもの。コロナの補償金10万円は,困っている人にだけあげればいい。浮いた分を,子どもがいる困窮家庭へのPC支給に充てたらどうか。非常事態ではありますが,未来を担う子どもたちの教育機会が侵害されるのは,何としても避けねばならないことです。
2020年4月19日日曜日
職業別のフリーランス化指数
労働者は,会社に雇われて働いている雇用者と,自分で事業を営んでいる自営業者に分かれます。後者のうち,人を雇わず自分1人で事業を営む人,つまり自分の腕1本で食べている人が,いわゆるフリーランスです。
2015年の『国勢調査』によると,フリーランス(従業地位が「雇人のない業主」の人)は396万人となっています。およそ400万人,私が住んでいる横須賀市の人口の10倍ほどですね。対して,会社等の組織に雇われて働いている雇用者は4654万人。数としては,こちらのほうが圧倒的に多数です。フリーランスの時代とかいわれますが,日本はまだまだ雇われ労働の国です。
雇用者とフリーランスの人に集まってもらい,後者の割合を出すと,396/(4654+396)=0.078となります。勤め人とフリーランスを一緒くたにした集団の中では,後者は13人に1とマイノリティです。
ですがこれは就業者全体の数値で,職業によって全然違います。職業小分類と従業地位のクロス表をもとに,上記の値を細かい職業別に計算してみました。手始めに,目ぼしい6つの職業の結果をご覧いただきましょう。雇用者とフリーランスの合算に占める,後者の割合です。フリーランス化指数ということにします。
以下は図解です。四角形全体は雇用者とフリーランスの合算で,青色は後者の比重を著します。
人文・社会系の研究者(大学教員は含まず)は雇用者が5750人,フリーが60人で,両者の合算に占める後者の率は1%でしかありません。荒木優太さんという人が『在野研究ビギナーズ』という本を出してますが,自分の研究を売って生活しているフリー研究者はごくわずかのようです。この荒木さんとて,清掃のバイトで生計を立てているみたいなので,統計上,フリーランスの研究者には該当しないのかもしれません。
歯医者さんは1割ちょっと。「歯科医師もフリーの時代」という記事を目にしたことがありますが,助手を雇わず個人で医院を開いている人,難易度の高い手術を単発で請け負っている人とかでしょう。
さすがといいますか,著述家はフリーランスの世界です。私も統計上は,この中に含まれます。教育社会学の研究者を名乗ってますが,データ分析の記事を売ったり,公務員試験の対策本や過去問の解説を書いたりして食い扶持を得ています。
デザイナーは会社員のほうが多いのですね。こちらもフリーの世界かと思いましたが,ちょっと意外です。ネット上で「いらすとや」のようなフリー素材が出回り,生き残りが難しいのでしょうか。
家政婦(夫),お手伝いさんはフリーでやっている人のほうが多いですね。派遣会社に雇われている人が多いと思いきや,さにあらず。高齢化の進行で,体が思うように動かない高齢者が増えてきます。ゴミの分別,電球の取り換え,瓶のフタを開ける,排水溝の掃除…。こうした「ちょこっと」需要は,これから爆増するとみられます。これなら,会社にマージンを取られることなく,個人でもできそうです。高齢層から若年層にお金を還流させることにもなり,いいビジネスかと思います。
最後に理容師。床屋さんもフリーが多数なんですね。従業員を雇わず個人でお店をやっている人,雇用契約を結ばず単発で仕事を請け負っている人でしょうか。
以上は適当に抽出した6つの職業ですが,『国勢調査』の原統計から230職業の数値をはじき出すことができます。フリーランス化指数の分布は以下のごとし。各階級に該当する職業の数です。
0.1未満 142
0.1~ 28
0.2~ 18
0.3~ 13
0.4~ 5
0.5~ 11
0.6~ 4
0.7~ 4
0.8~ 3
0.9以上 2
フリー比重が1割にも満たない職業が142と多数派です。このうち値がゼロ,つまりフリーランスが皆無の職業は26となっています。
一方,値が高い職業もあります。上記でみた著述家などはその典型です。皆さんが関心を持たれるのは,フリーランスの比重が高い職業の顔ぶれでしょう。値が0.3を超える42の職業をお見せしましょう。雇われ人とフリーを集めた場合,3人に1人以上が後者である職業です。以下の表は,高い順に並べたランキングです。
会社に属さず,自分の腕で食べていける度合いが高い職業です。首位は個人経営の店主さん。昔,学校帰りに寄った駄菓子屋のおばちゃんとかでしょう。2位は海女さん,3位は美術家,4位は著述家,これはさもありなん。
5位は農業従事者です。農家も個人経営が多いと聞きますが,定年後に,年金の足しに家庭菜園をやっている高齢者等も多いかもしれません。前に,ニューズウィーク記事で書いたことありますが,高齢期の働き方のメインはフリーランスなんです。
大工さんも半数以上がフリーなんですね。一人親方ってやつです。歯科技工士も3人に1人がフリーランス。私は前歯4本がブリッジなんですが,歯科技工士さんに作っていただいたものです。自費負担の高価なもの(40万円ほど)については,腕のいいフリーの技工士さんに頼むのでしょうか。
会社に雇われて働きたくない,自由な働き方をしたい。自分の腕で食べていきたい…。こういう志を持つ若い人,ないしは脱サラを考えている人の参考になったでしょうか。しかしフリーランスで食べていくのは厳しく,年収分布をみると惨憺たる有様です。男性フリーランスの半分,女性に至っては8割が年収200万未満のプアです。
https://twitter.com/tmaita77/status/1251448931751301120
非正規雇用より劣悪な待遇になってます。こなした仕事への対価で暮らすことになりますので,生活も不安定になりがち。就業不能になっても補償はなし(任意保険はありますが)フリーランスとは「不利ーランス」という,ブラックジョークすらあります。
しかし今後,フリーランスの働き方は増えてくるはず。フリーランスの生活保障を考えないといけません。今のところ,コロナで窮地にたったフリーの生活を長期的に支えるのは生活保護しかない,という主張もあります。
https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20200402-00171061/
どうしようもなくなったら,この制度にすがってもいいのですが,それを拒み,餓死という最悪の末路をたどる人もいます。役所が生活保護受給を認めるのを渋るためですが,その戦略として機能しているのが,いわゆる扶養照会です。
「親族に連絡しますが,いいですか?」。専門家や支援者に同行してもらって,強気の姿勢で申請に訪れた困窮者も,この質問を発せられると,空気が抜けた風船のように萎んでしまいます。今の状態を親兄弟に知られるくらいなら死んだほうがマシ…。「恥」の意識につけ込んだ,日本独特の水際作戦です。
扶養照会されて,「はい,面倒見ます」なんて答える人なんているのでしょうか。この悪しき制度は廃止すべし。私は親戚付き合いゼロなんで,「どうぞご自由に」と返しますけど。
2015年の『国勢調査』によると,フリーランス(従業地位が「雇人のない業主」の人)は396万人となっています。およそ400万人,私が住んでいる横須賀市の人口の10倍ほどですね。対して,会社等の組織に雇われて働いている雇用者は4654万人。数としては,こちらのほうが圧倒的に多数です。フリーランスの時代とかいわれますが,日本はまだまだ雇われ労働の国です。
雇用者とフリーランスの人に集まってもらい,後者の割合を出すと,396/(4654+396)=0.078となります。勤め人とフリーランスを一緒くたにした集団の中では,後者は13人に1とマイノリティです。
ですがこれは就業者全体の数値で,職業によって全然違います。職業小分類と従業地位のクロス表をもとに,上記の値を細かい職業別に計算してみました。手始めに,目ぼしい6つの職業の結果をご覧いただきましょう。雇用者とフリーランスの合算に占める,後者の割合です。フリーランス化指数ということにします。
以下は図解です。四角形全体は雇用者とフリーランスの合算で,青色は後者の比重を著します。
人文・社会系の研究者(大学教員は含まず)は雇用者が5750人,フリーが60人で,両者の合算に占める後者の率は1%でしかありません。荒木優太さんという人が『在野研究ビギナーズ』という本を出してますが,自分の研究を売って生活しているフリー研究者はごくわずかのようです。この荒木さんとて,清掃のバイトで生計を立てているみたいなので,統計上,フリーランスの研究者には該当しないのかもしれません。
歯医者さんは1割ちょっと。「歯科医師もフリーの時代」という記事を目にしたことがありますが,助手を雇わず個人で医院を開いている人,難易度の高い手術を単発で請け負っている人とかでしょう。
さすがといいますか,著述家はフリーランスの世界です。私も統計上は,この中に含まれます。教育社会学の研究者を名乗ってますが,データ分析の記事を売ったり,公務員試験の対策本や過去問の解説を書いたりして食い扶持を得ています。
デザイナーは会社員のほうが多いのですね。こちらもフリーの世界かと思いましたが,ちょっと意外です。ネット上で「いらすとや」のようなフリー素材が出回り,生き残りが難しいのでしょうか。
家政婦(夫),お手伝いさんはフリーでやっている人のほうが多いですね。派遣会社に雇われている人が多いと思いきや,さにあらず。高齢化の進行で,体が思うように動かない高齢者が増えてきます。ゴミの分別,電球の取り換え,瓶のフタを開ける,排水溝の掃除…。こうした「ちょこっと」需要は,これから爆増するとみられます。これなら,会社にマージンを取られることなく,個人でもできそうです。高齢層から若年層にお金を還流させることにもなり,いいビジネスかと思います。
最後に理容師。床屋さんもフリーが多数なんですね。従業員を雇わず個人でお店をやっている人,雇用契約を結ばず単発で仕事を請け負っている人でしょうか。
以上は適当に抽出した6つの職業ですが,『国勢調査』の原統計から230職業の数値をはじき出すことができます。フリーランス化指数の分布は以下のごとし。各階級に該当する職業の数です。
0.1未満 142
0.1~ 28
0.2~ 18
0.3~ 13
0.4~ 5
0.5~ 11
0.6~ 4
0.7~ 4
0.8~ 3
0.9以上 2
フリー比重が1割にも満たない職業が142と多数派です。このうち値がゼロ,つまりフリーランスが皆無の職業は26となっています。
一方,値が高い職業もあります。上記でみた著述家などはその典型です。皆さんが関心を持たれるのは,フリーランスの比重が高い職業の顔ぶれでしょう。値が0.3を超える42の職業をお見せしましょう。雇われ人とフリーを集めた場合,3人に1人以上が後者である職業です。以下の表は,高い順に並べたランキングです。
会社に属さず,自分の腕で食べていける度合いが高い職業です。首位は個人経営の店主さん。昔,学校帰りに寄った駄菓子屋のおばちゃんとかでしょう。2位は海女さん,3位は美術家,4位は著述家,これはさもありなん。
5位は農業従事者です。農家も個人経営が多いと聞きますが,定年後に,年金の足しに家庭菜園をやっている高齢者等も多いかもしれません。前に,ニューズウィーク記事で書いたことありますが,高齢期の働き方のメインはフリーランスなんです。
大工さんも半数以上がフリーなんですね。一人親方ってやつです。歯科技工士も3人に1人がフリーランス。私は前歯4本がブリッジなんですが,歯科技工士さんに作っていただいたものです。自費負担の高価なもの(40万円ほど)については,腕のいいフリーの技工士さんに頼むのでしょうか。
会社に雇われて働きたくない,自由な働き方をしたい。自分の腕で食べていきたい…。こういう志を持つ若い人,ないしは脱サラを考えている人の参考になったでしょうか。しかしフリーランスで食べていくのは厳しく,年収分布をみると惨憺たる有様です。男性フリーランスの半分,女性に至っては8割が年収200万未満のプアです。
https://twitter.com/tmaita77/status/1251448931751301120
非正規雇用より劣悪な待遇になってます。こなした仕事への対価で暮らすことになりますので,生活も不安定になりがち。就業不能になっても補償はなし(任意保険はありますが)フリーランスとは「不利ーランス」という,ブラックジョークすらあります。
しかし今後,フリーランスの働き方は増えてくるはず。フリーランスの生活保障を考えないといけません。今のところ,コロナで窮地にたったフリーの生活を長期的に支えるのは生活保護しかない,という主張もあります。
https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20200402-00171061/
どうしようもなくなったら,この制度にすがってもいいのですが,それを拒み,餓死という最悪の末路をたどる人もいます。役所が生活保護受給を認めるのを渋るためですが,その戦略として機能しているのが,いわゆる扶養照会です。
「親族に連絡しますが,いいですか?」。専門家や支援者に同行してもらって,強気の姿勢で申請に訪れた困窮者も,この質問を発せられると,空気が抜けた風船のように萎んでしまいます。今の状態を親兄弟に知られるくらいなら死んだほうがマシ…。「恥」の意識につけ込んだ,日本独特の水際作戦です。
扶養照会されて,「はい,面倒見ます」なんて答える人なんているのでしょうか。この悪しき制度は廃止すべし。私は親戚付き合いゼロなんで,「どうぞご自由に」と返しますけど。
2020年4月15日水曜日
男性の生活の偏り
コロナウィルスの影響により,テレワーク,自宅勤務の動きが広がっています。週末には外出自粛令も出されています。
外は怖いが家の中は安全。為政者はこう思っているのでしょうが,家の中でもよからぬことが起きることが懸念されています。親子とも家に籠ることでストレスが高じ,虐待やDVが起きるのではないか。夫婦間のいざこざも起きているようで,家族と四六時中一緒にいたくない人向けに,居場所の部屋をレンタルする業者も現れています。
普段との生活ギャップが大きいのは,働き盛りのお父さんでしょう。いつも仕事ばかりで,家のこと(家事)はほとんどしない。妻にすれば,何もしない夫がずっと家にいるのは苦痛になる。ツイッター上では,「大きな子どもが1人増えたようだ」という,妻の嘆きも見られます。夫婦間の葛藤の火種は多そうです。
これも,普段における男性の生活が偏っている故のこと。生活は仕事一辺倒,家庭内での仕事の分担もうまくいっていない。その様をデータで可視化するのは容易いことです。
OECDの「Gender data portal 2020 Time use across the world」という資料に,15~64歳の成人男女の生活時間が出ています。各種行動の1日あたりの平均時間です。私は,男性の仕事,家事,女性の家事という3つの数値を拾ってみました。原資料に出ている,2016年の日本の数値は以下のようです。
http://stats.oecd.org/
男性の仕事時間=360分
男性の家事時間=14分
女性の家事時間=148分
仕事時間が360分(6時間)と短いことに違和感を持たれるかもしれませんが,非正規雇用者や無業者も含んだ数値だからです。これをもとに,生活の歪みを可視化する2つの指標を計算できます。
ワークライフバランス指数=14/(360+14)=3.8%
家での妻との家事分担率=14/(14+148)=8.7%
仕事と家事という2つのタスクの構成比をとると,家事の比重は3.8%でしかない。妻との家事分担率は8.7%,1割にも達しません。家事の9割超は妻はしていると。ひどい数値ですが,「さもありなん」ですよね。
「オトコってのはそういうもの。万国共通のこと」。こんなふうに思うなかれ。国際比較をやると,日本の「ひどい」現状が露わになります。以下の表は,同じ数値を33か国について出したものです。
算出された数値(右欄)をみると,2ケタがほとんどですね。男性のWLB指数のマックスはフランスで35.9%,家事分担率はスウェーデンの43.6%です。
フランスでは男性のタスクの3分の1が家事で,スウェーデンでは男性の家事分担率が半分に迫る勢いです。個の生活を重視する国,男女平等が進んでいる国の性格が出ているように思えます。
対して日本の数値(3.8%,8.7%)は,どちらもインドに次いで低くなっています。ワースト2です。数値の絶対水準から生活が著しく歪んでいることが分かるのですが,他国と比べると現状の酷さが際立ちます。
グラフで視覚化しておきましょう。WLB指数と家事分担率のマトリクスに,OECD加盟の30か国を配置します。それだけでは芸がないので,各国の労働生産性(就業者1人あたりのGDP額)をドットの大きさで表しましょう。労働生産性は2016年のもので,『世界の統計 2020』から得ました。
何も言いますまい。日本の無様な位置が「見える化」されています。OECD加盟国の中では,横軸,縦軸とも最も低いからです。
生活に占める家庭の比重が低い,つまりは仕事に生活のほとんどを捧げているためなんですが,労働生産性はさほど高くありません。右上にある,生活のバランスのとれた国のほうが労働生産性に優れています(ドットが大きい)。
家族との生活を大事にするため時間内に集中して課業をすませる(残業は無能の証),仕事のICT化が進んでいるなど,要因はいろいろ考えられます。コロナに見舞われている今では,後者の要因は非常に強みとなります。
コロナの到来により,日本も強制的に自宅勤務型になりつつあるのですが,今回のデータから分かりように,普段とのギャップがあまりにも大きい。家庭内で最も波風が立っているのは,日本かもしれません。
ピンチはチャンス。働き方改革を促す契機と言われていますが,家庭生活の在り方も見直したいものです。女性の社会進出と並行して,男性の家庭進出も進めないといけません。
外は怖いが家の中は安全。為政者はこう思っているのでしょうが,家の中でもよからぬことが起きることが懸念されています。親子とも家に籠ることでストレスが高じ,虐待やDVが起きるのではないか。夫婦間のいざこざも起きているようで,家族と四六時中一緒にいたくない人向けに,居場所の部屋をレンタルする業者も現れています。
普段との生活ギャップが大きいのは,働き盛りのお父さんでしょう。いつも仕事ばかりで,家のこと(家事)はほとんどしない。妻にすれば,何もしない夫がずっと家にいるのは苦痛になる。ツイッター上では,「大きな子どもが1人増えたようだ」という,妻の嘆きも見られます。夫婦間の葛藤の火種は多そうです。
これも,普段における男性の生活が偏っている故のこと。生活は仕事一辺倒,家庭内での仕事の分担もうまくいっていない。その様をデータで可視化するのは容易いことです。
OECDの「Gender data portal 2020 Time use across the world」という資料に,15~64歳の成人男女の生活時間が出ています。各種行動の1日あたりの平均時間です。私は,男性の仕事,家事,女性の家事という3つの数値を拾ってみました。原資料に出ている,2016年の日本の数値は以下のようです。
http://stats.oecd.org/
男性の仕事時間=360分
男性の家事時間=14分
女性の家事時間=148分
仕事時間が360分(6時間)と短いことに違和感を持たれるかもしれませんが,非正規雇用者や無業者も含んだ数値だからです。これをもとに,生活の歪みを可視化する2つの指標を計算できます。
ワークライフバランス指数=14/(360+14)=3.8%
家での妻との家事分担率=14/(14+148)=8.7%
仕事と家事という2つのタスクの構成比をとると,家事の比重は3.8%でしかない。妻との家事分担率は8.7%,1割にも達しません。家事の9割超は妻はしていると。ひどい数値ですが,「さもありなん」ですよね。
「オトコってのはそういうもの。万国共通のこと」。こんなふうに思うなかれ。国際比較をやると,日本の「ひどい」現状が露わになります。以下の表は,同じ数値を33か国について出したものです。
算出された数値(右欄)をみると,2ケタがほとんどですね。男性のWLB指数のマックスはフランスで35.9%,家事分担率はスウェーデンの43.6%です。
フランスでは男性のタスクの3分の1が家事で,スウェーデンでは男性の家事分担率が半分に迫る勢いです。個の生活を重視する国,男女平等が進んでいる国の性格が出ているように思えます。
対して日本の数値(3.8%,8.7%)は,どちらもインドに次いで低くなっています。ワースト2です。数値の絶対水準から生活が著しく歪んでいることが分かるのですが,他国と比べると現状の酷さが際立ちます。
グラフで視覚化しておきましょう。WLB指数と家事分担率のマトリクスに,OECD加盟の30か国を配置します。それだけでは芸がないので,各国の労働生産性(就業者1人あたりのGDP額)をドットの大きさで表しましょう。労働生産性は2016年のもので,『世界の統計 2020』から得ました。
何も言いますまい。日本の無様な位置が「見える化」されています。OECD加盟国の中では,横軸,縦軸とも最も低いからです。
生活に占める家庭の比重が低い,つまりは仕事に生活のほとんどを捧げているためなんですが,労働生産性はさほど高くありません。右上にある,生活のバランスのとれた国のほうが労働生産性に優れています(ドットが大きい)。
家族との生活を大事にするため時間内に集中して課業をすませる(残業は無能の証),仕事のICT化が進んでいるなど,要因はいろいろ考えられます。コロナに見舞われている今では,後者の要因は非常に強みとなります。
コロナの到来により,日本も強制的に自宅勤務型になりつつあるのですが,今回のデータから分かりように,普段とのギャップがあまりにも大きい。家庭内で最も波風が立っているのは,日本かもしれません。
ピンチはチャンス。働き方改革を促す契機と言われていますが,家庭生活の在り方も見直したいものです。女性の社会進出と並行して,男性の家庭進出も進めないといけません。
2020年4月12日日曜日
大学生の存在密度
前回は,コロナウィルス感染者の存在密度を出しました。単位面積あたりでみて,感染者が何人いるかです。怖いのは感染者との接触ですので,これは面白い観点だと,注目を集めています。データというのは,どう見せるかも大事ですね。
分子を変えることで,色々な属性の人の存在密度を出すことができます。タイトルにあるような,大学生の存在密度というのはどうでしょう。各県の大学生数を,可住面積で割ってみる。ツイッターで都道府県ランキングを発信したところ,結構見られていますので,ブログにも載せます。
分子は,2019年5月時点の大学・大学院生数です。県別の数値は大学の所在地によるもので,住所主義ではありません。私が住んでいる神奈川県だと19万675人です(文科省『学校基本調査』)。本県の可住面積は1471㎢。よって,1㎢(1キロ四方)の土地に,大学生が130人いることになります。学生が県内に均等に分布しているわけではないですが,学生の多さの指標とは読めます。
この数値の県別ランキングは以下のごとし。
首位の東京では,1キロ四方の土地に大学生が535人います。東京では「石を投げたら大学生に当たる」とは,よく言ったものです。
大阪,京都,神奈川も3ケタで,2ケタは23件,その他は1ケタとなっています。私の郷里の鹿児島は5人,最下位の秋田は3人です。1ケタの県では,大学生の姿なんて見ないだろうなと思います。これは県全体を均した数値で,鹿児島でいうと,大学がない離島部では,学生の姿なんて目にするはずがありません。
このデータをみて私は,20年前に出した修士論文を思い出しました。「離島における地域社会と高校生の大学進学観に関する実証的研究」と題するものです。
私は「鳥の目」スタイルで,マクロな統計ばかりいじっていますが,それだけでは真相に迫れないと,ミクロな質的研究も手掛けたことがあります。鹿児島は大学進学率が低いのですが,県内でもとくにそうである奄美群島。この地域に的を絞った,インテンシィブ・スタディです。
鹿児島新港から船で1日かけて沖永良部島まで行き,現地の住民や高校生にインタビューをしました。炎天下のなか,島内を原付で走り回り,真っ黒になったのが思い出されます。
親御さんからは「お金がない」「家業の農業を継がせる気なんで,大学など必要ない」といった声が多く聞かれました。これは予想通りです。しかし生徒からは,「大学って,何をする所か分からない」「島で大学ないし,大学生もいないし…」という話がちらほら聞かれました。なるほど,モデルの欠如で,進路選択に大学が入ってこないのだなと感じました。
「親や親戚,ないしは地域の人に大学出た人いるだろ」と思われるかもしれませんが,統計をみるとそうでもないようです。今から10年前の『国勢調査』のデータですが,高校生の親年代(40代前半)の大卒者比率を,東京都内と鹿児島県内の区市町村別に出し,高い順に並べると以下のようになります。
鹿児島の郡部では,住民の大卒者率が低くなっています。私が調査した沖永良部島の和泊町は16.2%,知名町は11.1%です。高校生の親年代の住民で,大学を出た人,大学の雰囲気を肌身で知っている人は1割ほど。
これでは,「大学って何?」という子どもが多くなるのも解せます。
対して東京をみると,数値がべらぼうに高くなっています。50%超の自治体が10,40%台が14です。おまけに大学もたくさんあり,大学生を見かけるなどしょっちゅうですから,多くの子が「とりあえず大学へ」となります。学力レベルに関係なくです。
よく指摘される経済的要因とは違うことが分かったので,鹿児島大の知り合いの先生にこの話をしたところ,興味を持ってくださり,「離島に学生を行かせるか」と言われました。今は,こういう取組をしていると聞きます。島にUターンして,地域の発展に志す意欲のある学生は,学費を減免するなどすれば,なおいいでしょう。
へき地を多く抱える県の国立大学は,こういうことも考えてほしいと思います。ネットの普及で,全国津々浦々に大学の情報なんて届いている,と思われるかもしれませんが,人間は所詮はアナログ動物です。
最初の表をみると,秋田県の大学生存在密度は最下位(1キロ四方に3人)。しかし,本県の子どもの学力は首位。地域の環境条件から,才ある子が,進路選択の枠から大学を外してしまっていないか。こういう子が多いとなると,社会にとっても損失です。
2020年4月9日木曜日
コロナ感染者の存在密度
コロナウィルス感染者の統計が公表されるたびに,人々の間に恐怖が広がっています。4月8日のデータでは,全国で4168人,最も多い東京都で1203人,私が住んでいる神奈川県で279人,郷里の鹿児島県では3人です(厚労省)。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10752.html
感染者が多いのは都市的な都府県ですが,人口量が多いので,当然といえばそうです。統計分析家の本川裕氏は,人口当たりの感染者数を県別に出し,東京より福井のほうが多いことを発見し,注目を集めています。地方への移動は必ずしも安全ではないと。いざとなった時,病院も少ないですしね。
ただ感染者を県別にバラすと,1~2ケタ,多い所で3ケタ(東京は4ケタ)という水準なんで,人口当たりの出現率にするのもどうかなと思います。
各県の危険度を測るなら,感染者が単位面積あたり何人いるかという,存在密度にしたほうがいいかと。怖いのは,感染者と接触してしまうことですので。私が住んでいる横須賀市の面積はちょうど100㎢です。この10キロ四方の土地に感染者が何人いるか? こういう視点を立ててみましょう。
上述のように現時点の神奈川県の感染者は279人で,本県の可住面積は1471㎢です。前者を後者で割って,100㎢,10キロ四方の土地に18.96人の感染者がいることになります。この値を県別に計算し,高い順に並べると以下のごとし。感染者が出ていない岩手,鳥取,島根の3県はゼロです。
県別の感染者存在密度です。一番少ないのは,私の郷里の鹿児島ですか。県全体で3人しかおらず,面積が広いですからね。
上位は大都市都府県で,東京,大阪,神奈川,京都では2ケタです。東京では,10キロ四方の土地に88人の感染者がいるようです。分子は発覚した人の数ですので,潜在量を含めたら3ケタはいるでしょう。100㎢の横須賀市内に,これだけの感染者がいるとしたら,怖い気がします。夕刻のウォーキングに出る気も失せますね…。
ただ10キロ四方の土地というのもだだっ広くて,危険度があまりピンとこないかもしれません。角度を変えて,何キロ四方の土地に1人の感染者がいるかを出してみましょう。神奈川は感染者が279人,可住面積が1471㎢です。今度は後者を前者で割って,5.27㎢の土地に1人の感染者がいるという情報を得ます。この平方根をとって,2.3キロ四方の土地に1人の感染者がいることになります。
危険水準が高い順に47都道府県を並べましょう。感染者ゼロの3県は除きます。
東京では,1キロ四方の土地に感染者が1人いる計算です。徒歩圏内ですね。神奈川も,2.3キロ四方の日常生活圏に1人います。
感染者が多い東京都では,区市町村別の数値も公表されています。上記と同じやり方で,何キロ四方の土地に1人の感染者がいるかを都内23区別に計算すると,以下のようになります。
都全体では1キロ四方に1人という結果ですが,区別にみるともっとスゴイ値が出てきます。港区と新宿区では,480m四方の土地に1人いる計算です。私の家から,行きつけのドラッグストアまでが500mほど,この距離の正方形内に感染者がいる。飛沫が風にのって飛んできちゃいますね。
外出自粛要請を無視し,都心の繁華街に出かけている若者の皆さん,怖さがちょっとは伝わったでしょうか。
現実には感染者は病院やホテル等に隔離されていますが,まだ発覚していない潜在的な感染者が,あなたのすぐ近くにいないとも限りません。1週間後,2週間後には,上表の数値はもっと恐ろしいものになっているはず。気をつけていただきたいと思います。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10752.html
感染者が多いのは都市的な都府県ですが,人口量が多いので,当然といえばそうです。統計分析家の本川裕氏は,人口当たりの感染者数を県別に出し,東京より福井のほうが多いことを発見し,注目を集めています。地方への移動は必ずしも安全ではないと。いざとなった時,病院も少ないですしね。
ただ感染者を県別にバラすと,1~2ケタ,多い所で3ケタ(東京は4ケタ)という水準なんで,人口当たりの出現率にするのもどうかなと思います。
各県の危険度を測るなら,感染者が単位面積あたり何人いるかという,存在密度にしたほうがいいかと。怖いのは,感染者と接触してしまうことですので。私が住んでいる横須賀市の面積はちょうど100㎢です。この10キロ四方の土地に感染者が何人いるか? こういう視点を立ててみましょう。
上述のように現時点の神奈川県の感染者は279人で,本県の可住面積は1471㎢です。前者を後者で割って,100㎢,10キロ四方の土地に18.96人の感染者がいることになります。この値を県別に計算し,高い順に並べると以下のごとし。感染者が出ていない岩手,鳥取,島根の3県はゼロです。
県別の感染者存在密度です。一番少ないのは,私の郷里の鹿児島ですか。県全体で3人しかおらず,面積が広いですからね。
上位は大都市都府県で,東京,大阪,神奈川,京都では2ケタです。東京では,10キロ四方の土地に88人の感染者がいるようです。分子は発覚した人の数ですので,潜在量を含めたら3ケタはいるでしょう。100㎢の横須賀市内に,これだけの感染者がいるとしたら,怖い気がします。夕刻のウォーキングに出る気も失せますね…。
ただ10キロ四方の土地というのもだだっ広くて,危険度があまりピンとこないかもしれません。角度を変えて,何キロ四方の土地に1人の感染者がいるかを出してみましょう。神奈川は感染者が279人,可住面積が1471㎢です。今度は後者を前者で割って,5.27㎢の土地に1人の感染者がいるという情報を得ます。この平方根をとって,2.3キロ四方の土地に1人の感染者がいることになります。
危険水準が高い順に47都道府県を並べましょう。感染者ゼロの3県は除きます。
東京では,1キロ四方の土地に感染者が1人いる計算です。徒歩圏内ですね。神奈川も,2.3キロ四方の日常生活圏に1人います。
感染者が多い東京都では,区市町村別の数値も公表されています。上記と同じやり方で,何キロ四方の土地に1人の感染者がいるかを都内23区別に計算すると,以下のようになります。
都全体では1キロ四方に1人という結果ですが,区別にみるともっとスゴイ値が出てきます。港区と新宿区では,480m四方の土地に1人いる計算です。私の家から,行きつけのドラッグストアまでが500mほど,この距離の正方形内に感染者がいる。飛沫が風にのって飛んできちゃいますね。
外出自粛要請を無視し,都心の繁華街に出かけている若者の皆さん,怖さがちょっとは伝わったでしょうか。
現実には感染者は病院やホテル等に隔離されていますが,まだ発覚していない潜在的な感染者が,あなたのすぐ近くにいないとも限りません。1週間後,2週間後には,上表の数値はもっと恐ろしいものになっているはず。気をつけていただきたいと思います。
2020年4月5日日曜日
性別・地位別・学歴別の所得グラフ
「またか」とお思いでしょうが,工夫を凝らしたグラフを作ってみました。ツイッターで発信したところ,やや注目されているようですので,元データを併せてブログにも載せます。
私は今年で44歳のオトコで,学歴は大学院卒。同じ属性で,正社員として勤務している人は,さぞ稼いでいるだろうなあと思います。見たくもないですが,毎度使う『就業構造基本調査』でデータを出せちゃいます。「年齢 × 性別 × 従業地位 × 学歴 × 所得」のクロス表があるのです。
40代前半の大学院卒の男性正規職員を取り出して,年間所得(税込み)の分布をとると以下のようになります。最新の2017年調査のデータです。
所得が分かる20万2500人の分布です。一番多いのは,1000~1250万円の階級ですね。階級幅が広いとはいえ,最頻階級が1000万越えとは驚きです。下の3つの階級を足すと23.2%,全体の4人に1人が1000万プレーヤーです。
中央値(累積%=50)は700万円台の階級に含まれるようです。按分比例で割り出すと・・・
按分比=(50.0-35.6)/(51.9-50.0)=0.883
中央値=700万円+(100万円 × 0.883)=788.3万円
中央値は788万円と出ました。働き盛り,男性,正社員,そして高学歴という条件が加わると,稼ぎは多いようです。私はというと,この中央値の半分にも及びません。上記の分布表に自分を位置づけてみると,暗い気持ちになります。
これは好条件がそろった属性の稼ぎですが,性別2(男性,女性),従業地位2(正規,非正規),学歴6(中卒,高卒,専門卒,短大・高専卒,大卒,院卒)をかけ合わせて,合計24のグループの所得中央値を出してみると面白い。
私は40代前半の雇用労働者を取り出し,24のグループの年間所得分布表をつくり,それをもとに中央値(median)を計算しました。
同じ40~44歳の勤め人ですが,違うものですね。ジェンダー差,正規・非正規の差,そして学歴差。唖然とさせられます。
今朝ツイッターで発信したグラフは,この表を視覚化したものです。縦軸上の高さで所得の背比べをすると同時に,各グループの量(人数)をバブルの大きさで表現しているのがミソです。ここにて再掲します。
所得の学歴差を主眼においたグラフですが,ツイッターでは,男性と女性の差に注目したリプが多かったです。女性の院卒は男性の大卒,女性の大卒は男性の専門卒,…女性の高卒は男性の中卒以下。女性の場合,男性の一段下とほぼ対応してしまっていると。
同じ年齢の正社員でコレですからね。労働時間や職種といった他の要因もあるでしょうが,学歴別の所得が男女で一段ズレていることは,不当なジェンダー差があると推測させるのに十分です。これは40代前半のデータですが,結婚・出産によるキャリアの中断も響いているのかもしれません。
正規と非正規の差も大きくなっています。正規の場合,学歴が上がるほど所得は多くなりますが,非正規はそれがなくフラットです。男性の大学院卒の場合,正規が788万円,非正規が205万円と,差がべらぼうに大きくなっています。うまく正規職に就けた人と,そうでない人の格差。大学の専任教員と非常勤講師の格差を想起させます。私自身,後者を長く経験した身です。
ドットの大きさから,女性にあっては,正規より非正規の方が多いことが知られます。家計補助のパートをしている既婚女性が多いかもしれないですが,派遣社員で,正社員とほぼ同じ仕事をしているにもかかわらず,正社員との大きな給与差に理不尽を感じている人も多いでしょう。
この4月から,同一労働同一賃金の原則が徹底され,正規と非正規の非合理な待遇差を設けることは禁じられます。同じ仕事にもかかわらず待遇差をつける場合,労働者から求められたら,合理的な説明をする義務が使用者に生じるのだそうです。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html
当然ですよね。そもそも労働者を正規と非正規に分け,待遇に傾斜をつけるのは,日本独特の慣行です。よく「正規・非正規の給与差の国際比較をしてくれ」というリクエストをいただきますが,海外ではそんな区分はないのです。労働時間に依拠して,フルタイム・パートっていう区分があるだけです。異国の人にすれば,「セイキ・ヒセイキって何なんだ?」という思いでしょう。
何ができるかではなく,「何であるか」(属性)によって,待遇に差をつける。この慣行でいい思いをしているのは中高年男性ですが,彼らとて,60歳を越えたら待遇の急落に腰を抜かすことになります。定年後,再任用されたものの,同じ仕事なのに年収が800万円も減らされたのは不当と,会社を相手どって訴訟を起こした男性が注目されています。
私としては,50代の高レベルの賃金を70歳あたりまで維持するのは,現実問題として,企業にとっては不可能かなと思います。機械的な右上がりの年功賃金であるから,ピークを越えた後の急落に戸惑うことになるのです。前に,給与の年齢カーブの国際比較をしたことがありますが,欧米では機械的な年功賃金がない代わりに,定年制もありません。日本のように,60歳を越えたら給与がガタ落ちするなんてことはないのです。
https://tmaita77.blogspot.com/2019/01/blog-post_20.html
機械的な年功賃金も,ピラミッド型の人口構成で,経済成長が望める時代ならいい方向に機能したのでしょうが,今では立ちいかなくなりつつあります。これから変わっていくでしょう。
私は今年で44歳のオトコで,学歴は大学院卒。同じ属性で,正社員として勤務している人は,さぞ稼いでいるだろうなあと思います。見たくもないですが,毎度使う『就業構造基本調査』でデータを出せちゃいます。「年齢 × 性別 × 従業地位 × 学歴 × 所得」のクロス表があるのです。
40代前半の大学院卒の男性正規職員を取り出して,年間所得(税込み)の分布をとると以下のようになります。最新の2017年調査のデータです。
所得が分かる20万2500人の分布です。一番多いのは,1000~1250万円の階級ですね。階級幅が広いとはいえ,最頻階級が1000万越えとは驚きです。下の3つの階級を足すと23.2%,全体の4人に1人が1000万プレーヤーです。
中央値(累積%=50)は700万円台の階級に含まれるようです。按分比例で割り出すと・・・
按分比=(50.0-35.6)/(51.9-50.0)=0.883
中央値=700万円+(100万円 × 0.883)=788.3万円
中央値は788万円と出ました。働き盛り,男性,正社員,そして高学歴という条件が加わると,稼ぎは多いようです。私はというと,この中央値の半分にも及びません。上記の分布表に自分を位置づけてみると,暗い気持ちになります。
これは好条件がそろった属性の稼ぎですが,性別2(男性,女性),従業地位2(正規,非正規),学歴6(中卒,高卒,専門卒,短大・高専卒,大卒,院卒)をかけ合わせて,合計24のグループの所得中央値を出してみると面白い。
私は40代前半の雇用労働者を取り出し,24のグループの年間所得分布表をつくり,それをもとに中央値(median)を計算しました。
同じ40~44歳の勤め人ですが,違うものですね。ジェンダー差,正規・非正規の差,そして学歴差。唖然とさせられます。
今朝ツイッターで発信したグラフは,この表を視覚化したものです。縦軸上の高さで所得の背比べをすると同時に,各グループの量(人数)をバブルの大きさで表現しているのがミソです。ここにて再掲します。
所得の学歴差を主眼においたグラフですが,ツイッターでは,男性と女性の差に注目したリプが多かったです。女性の院卒は男性の大卒,女性の大卒は男性の専門卒,…女性の高卒は男性の中卒以下。女性の場合,男性の一段下とほぼ対応してしまっていると。
同じ年齢の正社員でコレですからね。労働時間や職種といった他の要因もあるでしょうが,学歴別の所得が男女で一段ズレていることは,不当なジェンダー差があると推測させるのに十分です。これは40代前半のデータですが,結婚・出産によるキャリアの中断も響いているのかもしれません。
正規と非正規の差も大きくなっています。正規の場合,学歴が上がるほど所得は多くなりますが,非正規はそれがなくフラットです。男性の大学院卒の場合,正規が788万円,非正規が205万円と,差がべらぼうに大きくなっています。うまく正規職に就けた人と,そうでない人の格差。大学の専任教員と非常勤講師の格差を想起させます。私自身,後者を長く経験した身です。
ドットの大きさから,女性にあっては,正規より非正規の方が多いことが知られます。家計補助のパートをしている既婚女性が多いかもしれないですが,派遣社員で,正社員とほぼ同じ仕事をしているにもかかわらず,正社員との大きな給与差に理不尽を感じている人も多いでしょう。
この4月から,同一労働同一賃金の原則が徹底され,正規と非正規の非合理な待遇差を設けることは禁じられます。同じ仕事にもかかわらず待遇差をつける場合,労働者から求められたら,合理的な説明をする義務が使用者に生じるのだそうです。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html
当然ですよね。そもそも労働者を正規と非正規に分け,待遇に傾斜をつけるのは,日本独特の慣行です。よく「正規・非正規の給与差の国際比較をしてくれ」というリクエストをいただきますが,海外ではそんな区分はないのです。労働時間に依拠して,フルタイム・パートっていう区分があるだけです。異国の人にすれば,「セイキ・ヒセイキって何なんだ?」という思いでしょう。
何ができるかではなく,「何であるか」(属性)によって,待遇に差をつける。この慣行でいい思いをしているのは中高年男性ですが,彼らとて,60歳を越えたら待遇の急落に腰を抜かすことになります。定年後,再任用されたものの,同じ仕事なのに年収が800万円も減らされたのは不当と,会社を相手どって訴訟を起こした男性が注目されています。
私としては,50代の高レベルの賃金を70歳あたりまで維持するのは,現実問題として,企業にとっては不可能かなと思います。機械的な右上がりの年功賃金であるから,ピークを越えた後の急落に戸惑うことになるのです。前に,給与の年齢カーブの国際比較をしたことがありますが,欧米では機械的な年功賃金がない代わりに,定年制もありません。日本のように,60歳を越えたら給与がガタ落ちするなんてことはないのです。
https://tmaita77.blogspot.com/2019/01/blog-post_20.html
機械的な年功賃金も,ピラミッド型の人口構成で,経済成長が望める時代ならいい方向に機能したのでしょうが,今では立ちいかなくなりつつあります。これから変わっていくでしょう。
2020年4月3日金曜日
ジェンダー不平等の自覚度
2019年の日本のジェンダーギャップ指数(GGI)は過去最低の121位だったそうです。GGIは,政治,経済,教育,健康・生存の4つの観点から,各国の男女の平等度を数値化したものです。
日本は男女平等が遅れた国であることは,ちょっと考えれば分かります。政治では国会議員の女性比率が低い,経済では管理職の女性比率が低い,給与の性差が大きい,教育では大学進学率の性差が大きい,医学部に女子を入れまいと点数操作する,健康では睡眠時間や健診受診率等に性差がある…。マイナス材料はいろいろあります。本ブログでも,これらのデータを繰り返し提示してきたところです。
しかし国民の意識をみると,「あれ?」という傾向が出てきます。ISSPが2009年に実施した「社会的不平等に関する意識調査」では,「成功するには,男性であるか女性であるかが重要だ」という項目に対する反応を調べています(Q1k)。選択肢は以下の5つです。
1 Essential
2 Very important
3 Fairly important
4 Not very important
5 Not important at all
1と2の回答比率を拾うと,日本は5.6%,韓国は10.0%,アメリカは10.9%,イギリスは9.5%,ドイツは14.7%,フランスは9.4%,スウェーデンは10.1%,となっています(18歳以上の回答)。自国の男女格差の自覚度ですが,日本は目ぼしい国の中で最も低くなっています。
うーん,客観的にみてば日本は欧米諸国に比して男女格差が大きく,GGIでもはっきり数値化されているのですが,それを自覚している国民の率は相対的に低いようです。
上記の1「Essential」に5点,2に4点,3に3点,4に2点,5に1点を付して,男女格差の自覚度の平均点を出すと,日本は1.82点となります。調査対象40か国についてこの数値を出し,高い順に並べると以下のごとし。
首位は南アフリカ,2位はフィリピン,3位は中国となっています。これらの国では,日常生活において男女不平等が大きいでしょう。中国では女児は歓迎されず,親が出生届を出すのをためらったり,酷いケースでは間引きなんてのもあると聞きます。事実,この国の子ども人口をみると,「女子/男子」比がかなり偏っています。
欧米の主要国がある程度の間隔を置いて散らばり,日本は下から4番目となっています。「成功するには,男性であるか女性であるかが重要だ」という意見への肯定度が,国際的にみて低い社会です。
客観的にて日本は男女格差が大きい国で,GGIの数値でも実証されています。肌感覚に照らしても,それを裏付ける材料はいくらだって出てきます(上述)。にもかかわらず,ジェンダーによるライフチャンスの規定性への意識に乏しい,ジェンダーセンシティブでないのは,どういうことか。
上表は2009年のISSP調査のデータですが,これを同年のGGIと絡めると,現実と意識のギャップが露わになります。後者のGGIは,ウィキペディアに出ているものを使わせてもらいました。
ジェンダー不平等の現実と,それに対する国民の意識(自覚度)のマトリクスに,調査対象の39か国(先ほどの表の台湾を除く)を配置したグラフです。
横軸を見ると,GGIはフィンランド等の北欧諸国で高くなっています(首位はアイスランド)。南アフリカやフィリピンも高いですが,政治家や管理職の女性比が高いなど,政治・経済の面で稼いでいるためです。日常生活の面では男女格差(女性蔑視)が大きく,国民もそれを強く自覚しています(縦軸)。
日本のGGIは下から3番目で,縦軸の男女格差意識も下から3番目。男女格差が大きいにもかかわらず,その自覚度が低い社会。現にある不平等を自覚している点で,お隣の韓国のほうがマシです。
私はニューズウィークの記事にて,「成功するには,裕福な家に生まれることは重要だ」の意識の国際比較をしたことがあります。肯定の回答が低いのは,日本と北欧諸国です。教育費が無償の北欧は,社会移動が開けていると思うので「さもありなん」ですが,日本はどうですかねえ。大学の学費はバカ高ですし…。
記事に載せた,公的教育費支出の対GDP比と絡めたグラフをみると,日本の特異性が見て取れます。政府が教育にカネを使わない(費用負担を家計に押し付ける)にもかかわらず,日本国民は,社会移動の閉鎖性への批判意識が弱い。「がんばれば成功できる」イデオロギーによって,現実をへの目が曇らされている。政府の怠慢が隠蔽されているともいえるでしょう。
ジェンダー不平等の自覚の弱さも,同じ文脈で捉えることができるかもしれません。
ジェンダーについては,学校教育でもっと積極的に取り上げる余地があるかと思います。この言葉は,高校の現代社会(新学習指導要領だと公共)の教科書で初めて出てきますが,小学校の社会科の教科書に載せたっていいでしょう。
私は,ジェンダーという概念を初めて知ったのは,大学のジェンダー論の授業においてです。担当は村松泰子先生で,これまで自分が親や周囲から刷り込まれていた固定観念が大きく揺さぶられました。この「相対化」をもっと早い段階でできたらなと思います。
私が出すジェンダー統計を授業で使いたいと言ってこられる中高の先生が多いですが,大歓迎です。揺るぎないデータで,若き青少年の目を拓き,ジェンダーセンシティブにしてください。日頃目にしている日本の状況は普遍的でも何でもないと。
https://twitter.com/tmaita77/status/1061061710230896640
********************
最初の表(ジェンダー不平等の自覚度ランキング)をツイッターで発信したところ,「弱者がモノを考える気力がなくなっているからではないか」という意見が寄せられました。
「モノを考える気力がない」とは強烈ですが,思い当たる所はあります。日本人の読書は減っており,それは働き盛りの層で顕著です。人手不足で過重労働がまん延しているためでしょうか。
OECDの国際成人力調査「PIAAC 2012」によると,「新しいことを学ぶのは好き」という知的好奇心も低し。各国の30~40代(働き盛り)を取り出し,労働時間と関連付けてみると「!」という事実が出てきます。
長時間労働の国ほど知的好奇心が低い,という傾向です。これをみて,「長時間労働は知的好奇心を枯らすのか」という疑問を持つのは容易い。右下の日本では,現実にあるジェンダー格差に思いを巡らす余裕もなし。左上の社会は,ジェンダー格差にセンシティブな国ばかりです。
これは今から8年前の調査データです。働き方を変え,日本も左上にシフトしないといけません。コロナに見舞われている今は,その絶好の機会ですよね。
頭を使わず,これまで通り惰性に流されるままなら,もっと右下に移行してしまうでしょう。これから労働力人口はどんどん減ってきますので。旧来の人海戦術型と決別し左上に浮上するか,それとも右下に堕ちて行くか。それは,我々次第です。
日本は男女平等が遅れた国であることは,ちょっと考えれば分かります。政治では国会議員の女性比率が低い,経済では管理職の女性比率が低い,給与の性差が大きい,教育では大学進学率の性差が大きい,医学部に女子を入れまいと点数操作する,健康では睡眠時間や健診受診率等に性差がある…。マイナス材料はいろいろあります。本ブログでも,これらのデータを繰り返し提示してきたところです。
しかし国民の意識をみると,「あれ?」という傾向が出てきます。ISSPが2009年に実施した「社会的不平等に関する意識調査」では,「成功するには,男性であるか女性であるかが重要だ」という項目に対する反応を調べています(Q1k)。選択肢は以下の5つです。
1 Essential
2 Very important
3 Fairly important
4 Not very important
5 Not important at all
1と2の回答比率を拾うと,日本は5.6%,韓国は10.0%,アメリカは10.9%,イギリスは9.5%,ドイツは14.7%,フランスは9.4%,スウェーデンは10.1%,となっています(18歳以上の回答)。自国の男女格差の自覚度ですが,日本は目ぼしい国の中で最も低くなっています。
うーん,客観的にみてば日本は欧米諸国に比して男女格差が大きく,GGIでもはっきり数値化されているのですが,それを自覚している国民の率は相対的に低いようです。
上記の1「Essential」に5点,2に4点,3に3点,4に2点,5に1点を付して,男女格差の自覚度の平均点を出すと,日本は1.82点となります。調査対象40か国についてこの数値を出し,高い順に並べると以下のごとし。
首位は南アフリカ,2位はフィリピン,3位は中国となっています。これらの国では,日常生活において男女不平等が大きいでしょう。中国では女児は歓迎されず,親が出生届を出すのをためらったり,酷いケースでは間引きなんてのもあると聞きます。事実,この国の子ども人口をみると,「女子/男子」比がかなり偏っています。
欧米の主要国がある程度の間隔を置いて散らばり,日本は下から4番目となっています。「成功するには,男性であるか女性であるかが重要だ」という意見への肯定度が,国際的にみて低い社会です。
客観的にて日本は男女格差が大きい国で,GGIの数値でも実証されています。肌感覚に照らしても,それを裏付ける材料はいくらだって出てきます(上述)。にもかかわらず,ジェンダーによるライフチャンスの規定性への意識に乏しい,ジェンダーセンシティブでないのは,どういうことか。
上表は2009年のISSP調査のデータですが,これを同年のGGIと絡めると,現実と意識のギャップが露わになります。後者のGGIは,ウィキペディアに出ているものを使わせてもらいました。
ジェンダー不平等の現実と,それに対する国民の意識(自覚度)のマトリクスに,調査対象の39か国(先ほどの表の台湾を除く)を配置したグラフです。
横軸を見ると,GGIはフィンランド等の北欧諸国で高くなっています(首位はアイスランド)。南アフリカやフィリピンも高いですが,政治家や管理職の女性比が高いなど,政治・経済の面で稼いでいるためです。日常生活の面では男女格差(女性蔑視)が大きく,国民もそれを強く自覚しています(縦軸)。
日本のGGIは下から3番目で,縦軸の男女格差意識も下から3番目。男女格差が大きいにもかかわらず,その自覚度が低い社会。現にある不平等を自覚している点で,お隣の韓国のほうがマシです。
私はニューズウィークの記事にて,「成功するには,裕福な家に生まれることは重要だ」の意識の国際比較をしたことがあります。肯定の回答が低いのは,日本と北欧諸国です。教育費が無償の北欧は,社会移動が開けていると思うので「さもありなん」ですが,日本はどうですかねえ。大学の学費はバカ高ですし…。
記事に載せた,公的教育費支出の対GDP比と絡めたグラフをみると,日本の特異性が見て取れます。政府が教育にカネを使わない(費用負担を家計に押し付ける)にもかかわらず,日本国民は,社会移動の閉鎖性への批判意識が弱い。「がんばれば成功できる」イデオロギーによって,現実をへの目が曇らされている。政府の怠慢が隠蔽されているともいえるでしょう。
ジェンダー不平等の自覚の弱さも,同じ文脈で捉えることができるかもしれません。
ジェンダーについては,学校教育でもっと積極的に取り上げる余地があるかと思います。この言葉は,高校の現代社会(新学習指導要領だと公共)の教科書で初めて出てきますが,小学校の社会科の教科書に載せたっていいでしょう。
私は,ジェンダーという概念を初めて知ったのは,大学のジェンダー論の授業においてです。担当は村松泰子先生で,これまで自分が親や周囲から刷り込まれていた固定観念が大きく揺さぶられました。この「相対化」をもっと早い段階でできたらなと思います。
私が出すジェンダー統計を授業で使いたいと言ってこられる中高の先生が多いですが,大歓迎です。揺るぎないデータで,若き青少年の目を拓き,ジェンダーセンシティブにしてください。日頃目にしている日本の状況は普遍的でも何でもないと。
https://twitter.com/tmaita77/status/1061061710230896640
********************
最初の表(ジェンダー不平等の自覚度ランキング)をツイッターで発信したところ,「弱者がモノを考える気力がなくなっているからではないか」という意見が寄せられました。
「モノを考える気力がない」とは強烈ですが,思い当たる所はあります。日本人の読書は減っており,それは働き盛りの層で顕著です。人手不足で過重労働がまん延しているためでしょうか。
OECDの国際成人力調査「PIAAC 2012」によると,「新しいことを学ぶのは好き」という知的好奇心も低し。各国の30~40代(働き盛り)を取り出し,労働時間と関連付けてみると「!」という事実が出てきます。
長時間労働の国ほど知的好奇心が低い,という傾向です。これをみて,「長時間労働は知的好奇心を枯らすのか」という疑問を持つのは容易い。右下の日本では,現実にあるジェンダー格差に思いを巡らす余裕もなし。左上の社会は,ジェンダー格差にセンシティブな国ばかりです。
これは今から8年前の調査データです。働き方を変え,日本も左上にシフトしないといけません。コロナに見舞われている今は,その絶好の機会ですよね。
頭を使わず,これまで通り惰性に流されるままなら,もっと右下に移行してしまうでしょう。これから労働力人口はどんどん減ってきますので。旧来の人海戦術型と決別し左上に浮上するか,それとも右下に堕ちて行くか。それは,我々次第です。