足立区の区議が「同性愛者が守られると区が滅ぶ」と発言し,物議をかもしています。謝罪も拒否しており,さあ大変。所属の自民党にも飛び火しているようです。
どういう人かというと,78歳の高齢議員さんみたいですね。高齢者が時代の趨勢に追いつけないというのは常で(そうでない人もいます),意識や価値観には年齢差があります。どういう時代を生きてきたかの違いにもよるので,世代差とも言えるでしょうか。短期間で激しい社会変化を遂げた日本では,こういう差が殊に大きくなっています。若者と高齢者は,容姿だけでなく,抱いている考え方も違うのです。
それは,「**についてどう思うか?」という意識調査のデータで容易に可視化できます。同性愛発言が問題になってますので,「**」に同性愛を入れてみましょうか。2010~17年に実施された『世界価値観調査(第7回)』では,同性愛者をどれほど受け入れられるかを問うています。10段階で評定してもらう形式です(Q182)。
以下は,日本の20代と60歳以上の群の回答分布です。無回答・無効回答は除きます。
対して60歳以上は真ん中の5点が最も多く,その次は最低の1点です。「同性愛,絶対許せん!」です。上記の区議さんも,おそらくこの1点に〇をつけることでしょう。ただ次に多いのはマックスの10点で,高齢層では意識が二極化しているのも面白い。考えが旧態依然の人もいれば,そうでない人もいる。この両群を分かつ要因分析は興味深いですが,それは置いておいて,同性愛への意識には,大きな年齢差があることを押さえましょう。
8月6日の記事では国際比較をしましたが,日本の若者の同性愛への寛容度は欧米より高くなっています。しかし,高齢層になるとガクンと下がります。年齢差が大きいのは,日本の特徴なんです。
しかるに,社会を動かす政治の世界では,若者より高齢者が圧倒的に多いのは誰だって知っています。議会の場では,冒頭の区議の暴言を支持する空気すら漂っているのではないでしょうか。政治の世界では,50歳なんて全然若手。このラインで若年とその他を分かち,性別も絡めた組成図を当てずっぽうで描くと,以下のような感じでしょう。
女性が1割ほどしかいないというのも論外。「こんなんで,ジェンダー平等の政策立案なんてできるのか?」と,海外からの視察者は目を丸くして驚きます。
望ましいのは,右側のように,国民全体の組成に近くなることです。代表者の集団は,全国民の縮図に近いことが望ましい。それは,社会のあらゆる層のニーズを的確に汲み取るためでもあります。意識や価値観には年齢差がありますが,政治へのニーズも同じです。期待される役割が年齢によって違うからです。
内閣府の『国民生活に関する世論調査』(2019年)では,対象者に政府に対する要望を問うています。複数の項目を提示し,いくつでも選んでもらう形式です。今年の8月は,前年同月より自殺者がかなり増えましたが,「自殺対策」という項目を選んだ人の率は,20代で20.3%,70歳以上で7.8%,12.5ポイントもの差があります。「教育振興・青少年育成」の選択率は順に,29.4%,17.6%です(差は11.8ポイント)。
32の項目の選択率を掲げると,以下のようです。
若い政治家が増えれば,こういう問題に力が入れられるようになるでしょう。当事者意識に勝るものはないのです。日本の公的教育費の対GDP比の低さをみても,これらの事項に本腰を入れる余地は大有りです。
議場に若手や女性を増やすには,どうしたらいいか。議員になるには,①選挙に立候補すること,②選ばれること,という2段階のセレクションを経ないといけません。選挙の統計をみると,若手や女性は,立候補者に占める割合でみても,当選確率でみても低くなっています。日本の選挙は長年の地盤がモノをいい,新参者は不利になりがちです。
選挙への立候補を促すには,供託金を下げるなども有効でしょう。当選確率を上げるには,棄権票の利用も考えられます。私は選挙において,意中の候補者がいない場合は,何も考えず女性や若い人に入れることにしています。棄権するよりは,為政者の歪んだ構成を正すのに票を使ったほうがいいからです。
棄権された票を,こういう用途に使うのはどうか。棄権された票はまぎれもなく民意であって,その民意を女性や若手の候補者に上乗せするのです。議員の若手率や女性比率を高めることには,社会的なコンセンサスが得られています。その目的に,行使されなかった民意を充てるのは許されてもいいでしょう。
こういう戦法を駆使して,政策決定を行う代表者の集団を,国民全体の縮図に近くしていきたいものです。日本とフィンランドの閣僚写真の比較が話題になりましたが,オッサンだらけではいかんのです。
コロナ禍で地方移住が促されていますが,地方では議員のなり手も不足しています。若い人は移住して,「我こそは」と地方議会の選挙に打って出るのもよし。社会を変えるには都会でないとダメ,なんてことはありません。変革が容易な小社会からウェーブを起こし,それを全国に波及させていくことだってできるのです。