私はこれまで,この調査の過去のデータを使って,いろいろな角度から国際比較をしてきました。タイトルに掲げた,同性愛(homosexuality)への寛容度も,そのうちの一つです。最新のデータでは日本はどういう位置になるかと,国別の数値を計算したら「!」という結果が出てきました。ツイッターでバズってますので,計算方法も含め,ブログにも書いておきます。
私は各国の20代の若者を取り出し,同性愛への寛容度を数値化しました。用いたのは,同性愛をどれほど受け入れられるかを,10段階で自己評定してもらった結果です。調査票のQ182です。日本と韓国の20代の回答分布をローデータから明らかにすると,以下のようになります。数値が高いほど,寛容度が高いことを意味します。
日本の有効回答は118人,韓国は220人です。お隣同士で意識が似通った国と言われますが,分布はまるで違ってますね。日本はマックスの10点が最多ですが,韓国は最小の1点を選んだ人が最も多くなってます。
右欄は全体を100とした%分布ですが,両国の違いは一目瞭然。伝統を重んじる韓国では,若者といえど同性愛への目線は厳しいようです。対して日本の若者は寛容で,全体の6割(5人中3人)がマックスの10点に丸をつけてます。
たくさんの国を比較するため,この分布を簡素な代表値にまとめます。最もポピュラーな平均値にしましょう。計算方法はお分かりですよね。日本だと,以下のようにして出します。
{(1点×4人)+(2点×0人)+…(10点×70人)}/118人=8.58点
日本の20代の寛容度は,8.58点という数値で可視化されました。10点満点中ですので,これは高い部類でしょう。韓国は3.84点で,日本の半分未満です。
これは東アジアの2国の結果ですが,世界全体に視野を広げるとどうでしょう。第7回『世界価値観調査』の個票データファイルには,48の国の回答データが入っています。このうち,同性愛への寛容度を明らかにできるのは46か国です。同じやり方で,20代の寛容度平均点を出し,高い順に配列すると以下のようになります。
これがツイッターで発信した表なんですが,驚きですよねえ。エクセルでランク付けしたとき,「うえ?」と声を上げてしまいました。何と何と,日本の若者の寛容度は1位ではないですか。意識が進んでいるといわれる,欧米諸国を差し置いてです。
ツイッターで色々なリプ(コメント)が来ていますが,おおよそ3つにまとめられます。
ア)宗教的戒律がない
イ)アニメ・漫画の影響
ウ)寛容ってことは,無関心の裏返し。人に興味がないんでは?
ア)については,疑い得ない所です。対極の右下(下位)をみると,イスラーム諸国が並んでいます。言わずもがな,同性愛はご法度。厳しい所だと死刑です。キリスト教でも,宗派によってはタブー視されています。
イ)は,日本の強みですよね。絵入りで分かりやすくストーリーを描く漫画は,日本発祥の誇るべき文化。同性愛を主題としたものも出回ってますので,それに影響されている可能性もあります。とくに若者にあっては。
ウ)はちょっと悲しくなりますが,人の嗜好にあれこれ干渉する「自粛警察」のような存在よりはいいと思います。今の若者はボランティア志向なども強く,他人に冷淡ってわけじゃないでしょう。必要なときは関わるが,基本的に多様性を認める。結構なことです。
日本の若者,同性愛への寛容度が主要国の中で最も高し。喜びたくなる結果ですが,その割には,法整備をはじめ,社会全体の同性愛に対する眼差しは,まだまだ冷たいような気がします。法律を決める国会の議場に,若者があまりいないからでしょうね。多くが高齢者です。
では,社会の舵を切る高齢者は,同性愛にどういう眼差しを向けているのでしょう。上記表の左上をみると,日本をはじめ,ドイツ,ニュージーランド,オーストラリア,アメリカといった先進国が並んでいます。これら5か国について,年齢層別の同性愛への寛容度平均点を計算しグラフにすると,日本の残念な現実が露わになります。
10歳刻みの年齢層ごとに最初の表のような分布を出し,平均点を算出し,それらを線でつないだ折れ線です,JPNは日本,USAはアメリカ,DEUはドイツ,AUSはオーストラリア,NZLはニュージーランドです。
高齢層ほど伝統的な考えが強いといいますか,どの社会でも年齢を上がるにつれ,寛容度の平均点は右下がりに落ちていきます。日本はそれが顕著で,50代まで直線的に下がり,60代になると,さらに急降下してしまいます。
両端の日本の位置を比べると,大きな違いですね。20代では5か国の中でトップですが,60歳以上の高齢層だと打って変わって最下位となっています。若者の意識は進んでいるが,高齢者はさにあらず。残念なことに,社会を動かす為政者のマジョリティは後者です。
日本の大きな年齢差。短期間で激しい社会変化を経験した国ですので,同性愛への寛容度に限らず,諸々の意識や価値観の世代差が大きくなっています。それだけに,法律や政治を決める為政者が高齢層に偏ると,社会の分裂の危機が大きくなります。同性愛に関する政策を決める場に,若者と高齢者が同数居合わせたら,ジェネレーションギャップ(衝突)がもろに出るでしょうね。しかし現実は後者が大多数で,後者の意向が通ってしまっています。
言い古されていることですが,若者の政治参画が進めば,社会が変わる可能性は大です。地方では議員のなり手も不足しているようですが,志ある若者は移住して,「我こそは」と名乗りを上げてみるのもいい。地方からの変革です。
若者の投票率が低いのも問題。コロナ渦で,アナログのやり方が随所で綻びを見せ始めています。これを機に,ネット選挙の導入を真剣に検討すべし。私は投票には欠かさず行ってますが,老人ホームかと思うくらい,投票所にいるのは白髪の老人ばかりです。投票所の四角い銀色の箱だけでなく,若者が慣れ親しんでいるスマホからも,民意を吸収できるようにしていただきたい。
日本は老いた社会ですが,新風が吹き込まれ,若返る余地はある。今回のデータを見ると,そういう希望的観測を抑えられません。同性婚のパートナー一シップ条例を,全国で最初に制定した自治体が,若者の街・渋谷区であるのも想起されるべきこと。